3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 5学年生

謝罪

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「すまなかった」

 なんと陛下が私に頭を下げた。王妃様も王太子殿下もそれに倣う。

「お止めください。わたくしなどに頭など下げられずとも」

「しかし不快になったのであろう?」

「今はそう思っておりません。それにあの時のあの言葉は、王家総意ではなかったと理解いたしましたから」

「聖金貨は不要であったか?」

「そうですね」

 ひと言いえば3人が項垂れる。お願いだから最後まで聞いてほしい。

「聖金貨はわたくしには分不相応でございます。わたくしは聖金貨を授けられるような事はしておりません」

「しかし、学生の身のフェルナー嬢を派遣したは王家だ。危険だと分かっている所に光魔法使いであるならと、ほぼ強制のような形を取った」

「あの時お命じになられませんでしたら、わたくしはサミュエル先生に掛け合って、命ぜられずとも向かっていたと思います」

「何故?危険なのよ?」

「これはわたくしの前世が関わってまいります、わたくしは前世で災害救助現場で命を落としました。あの現場に居た要救助者が全員助かったかどうか、それは分かりません。でも、痛みや苦しみに耐えながら助けを待っている人が居るなら、ひとりでも多く助けたいのです」

「そうなの……」

 眼下に見える武術場では、表彰式が終わったらしい。

「そろそろキャシーちゃんを戻してやって良いかな?」

「あぁ。フェルナー嬢……。いや、やめておこう。ではな」

「はい。御前ごぜん失礼いたします」

 シェーン様に送ってもらった。途中で学院長先生に連れられたお義兄様とアンバー様に会った。

「キャシー?お前、どこから……」

「お義兄様、優勝おめでとうございます」

「ありがとう」

「アンバー様、準優勝おめでとうございます」

「ありがとうございます、キャスリーン様」

「アンバー様、わたくしは何時までキャスリーンなのですか?わたくしはアンバー様の義妹いもうと……あれ?義姉あね?とにかく家族になるのですわよね?」

「無茶をいうな。今練習中だ」

「そうでしたの?」

「寮に戻ってろ。こんな所でフラフラしてるんじゃない」

「はい、失礼します」

 挨拶をして寮に戻った。



 ~~~サミュエル~~~


は本当に13歳か?」

 キャシーちゃんが部屋を出てたっぷり1分程経って、陛下が口を開いた。

「言ったでしょ?あの子を子供だと思っていたら痛い目を見るって。今回は陛下達の要望を入れて事を仕組んだけど、次もあると思わないで。元々王家に興味が無い娘なんだ。女の幸せは王家に嫁ぐ事だなんて微塵も思っちゃいない。むしろ王家に関わるのは厄介事だとさえ思っている。王家に対して何か思う事があるとかじゃないよ?ただ、王家は権謀術数の渦巻く中心だから、近寄りたくないんだってさ」

「権謀術数の渦巻く中心……」

「王家に関わるのは厄介事…」

「女の幸せは王家に嫁ぐ事ではない……」

「ちなみにこれを言ったの、あの子が5歳の時だからね?」

「5歳の子がそう言ったと?」

「ちゃんと報告したよ?陛下は本気にしてなかったけど。きちんと理解してたのはエドワード位だね。ジェームズは全く理解してないね。子供だからなんとでも丸め込めると思っているんじゃないかな?」

「しかし、堂々としておったな。王家に来てもらえたらさぞかし才を発揮したであろうに」

「1番嫌がる事だよ、それは」

「分かった。諦めよう。妃らもそれで良いな?」

「ああまで言われたら強制は出来ませんからね」

「話し相手になって欲しかったですわ」

「キャシーちゃんは卒業後、聖国に向かう。その前に婚姻式を済ませておきたいから、フェルナー侯爵が持ってきたら、すぐにサインしてあげて」

「婚姻を急ぐのは何故?」

「枷だよ。キャシーちゃん自身が言っていたでしょ?婚約が枷になっているって。あの子はそれを利用するつもりなんだ。婚約者じゃ弱いけど、結婚してて配偶者が居るってなったら、あちらも無理は言えないでしょ?」

「無理?」

「聖国が聖国人と婚姻させて、取り込む事も考えられるからね。光の聖女、もしくは聖人で、聖国に居住しなかった者は、ごく少数だ。私でさえ聖国に留め置かれる所だったんだ。あちらであからさまにハニートラップを仕掛けられたりしたよ。キャシーちゃんは従順で流されやすそうな雰囲気だろう?よく知らない人なら反発はしないだろうって思うんじゃないかな?」

「まさかそこまで考えておるのか?あの娘は」

「自分で考えて自分で決めていたよ。その上で私に言いに来た。キャシーちゃんの卒業までには言うつもりだったけどさ。それからシェーンが、影を辞めてキャシーちゃんに付いていこうとしている」

「は?」

「あらあら」

「惚れた?」

「どっちかというとたらしこまれた感じかな。キャシーちゃんは自覚してないけどね。他人の為に一生懸命になって、それを負担に感じていない。相手を救えた事を一緒に喜んでいる。下心無くね。感謝から始まって、役に立ちたいってなって、その内立派な信者の出来上がり。学院にも一定数いるよ」

「恐ろしいな」

「だから敵対してほしくないんだよね。出来れば友好を保ってほしい」

「あの子次第だな」

「キャシーちゃんは根に持たないよ。今も悪印象は抱いてない。警戒はしてるけどね」

「サミュエル、フェルナー嬢のを勝ち取るように」

「難しい事を言うね。普段通り接する事しか出来ないけど。ご命令とあらば成し遂げて見せましょう」

 陛下に慇懃に礼を取り、ロイヤルボックス特別貴賓室を出る。キャシーちゃんには悪いけど、状況を分かっていない陛下達に分からせる為に利用させてもらった。あそこまでの騒ぎになるのは予想外だったけど、芸術祭のあの衣装でキャシーちゃんを目立たせ、今日は表に出さない事で上手く陛下達と対面させられた。

 対面さえしてしまえば陛下達も、キャシーちゃんを諦めるだろう。ヘンリーにそれとなく疑問に思うだろう事を、手紙で知らせておいて良かった。

 これで信用も失くしたかな?

 自分で画策したとはいえ、少し落ち込む。キャシーちゃんは聡い子だ。さっきのやり取りが計画された物だと気付くのも、そう遠くはないはずだ。

 最初は見た目に騙されたけど、キャシーちゃんとの会話は楽しい。キャシーちゃんから信用されなくなるのは辛いなぁ。

「そんなに落ち込むなら、やらなきゃ良かったのに」

「ダニエル、いつからそこに?」

「サミュエル様に付いて出たよ。一応今は、サミュエル様の護衛でしょ?使いっ走りともいうけど」

「この為に色々と言い付けたしね」

「別に嫌じゃなかったよ。王宮の警備を欺くのも楽しかったし」

「おかげでこちらに皺寄せが来たけどね」

「そこは自業自得でしょ?」

「別に王宮警備を欺けとは言ってなかったんだけどね」

「でもさ、隙だらけだったし。強化されたんだから良いでしょ?」

「良くないよ?」

 翌日、キャシーちゃんが執務室にやって来た。ブレシングアクア聖恵水作成の為だ。今やあっという間に10本を作り終えるキャシーちゃんは、作成後、ジッと私を見て言った。

「昨日はご満足いただけましたか?」

「やっぱりバレてた?」

「帰ってから考えると、色々とおかしな事に思い至りましたので」

「陛下達は満足されて帰られたよ」

「そうではなく、サミュエル先生はご満足されましたか?」

「何の事かな?」

「王妃様の『似合いすぎて狙われるなんて』というお言葉。昨日の事は芸術祭から計画されていたという事でしょう?それに王太子殿下が急に『迷惑だったか?』とご下問された事も不自然でした」

 キャシーちゃんの言葉に思わず黙り込む。別に詰問はされていないんだけど、イタズラがバレた子供のような気分だ。もういい。潔く謝ってしまおう。

「はい。満足しました。ごめんなさい」







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