3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 5学年生

武術魔法披露会の裏では

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 武術魔法披露会の開催日がやって来た。学院以外での出来事が多すぎて、準備にはまったく関われなかったけど、今年もお義兄様とアンバー様は出場する。私は救護室にもポーション水剤配布にも携われないと言われてしまった。

「どうしてですか?」

「光の聖女様と噂されているキャシーちゃんが居たら、どうなるか分かってる?」

「分かってるというか、想像は付きますけど。でも私もお役に立ちたいんです」

「うんうん。気持ちだけ受けとるよ」

 私の説得を任されたらしいサミュエル先生に、こんこんと説得された。

「少しのお休み期間だと思われたら、およろしいのでは?」

 武術魔法披露会なのにおしゃべりサロンを開催していた、ヴィクトリア・マッケンステイン様に愚痴を聞いてもらっていた。ご招待されたんだよね。武術魔法披露会の当日に?って驚いちゃった。

「そうですわ。フェルナー様ったら、中等部に入ってからお忙しすぎですわ。少し休息なさいませ」

 ミア・ブレイシー様も言う。

「良いのでしょうか?」

「「働きすぎですわ」」

「お2人でお声を揃えなくとも」

「フェルナー様。フェルナー様は学生ですのよ?分かっておられますわよね?」

「分かっておりますわ」

「分かっておられませんわ。フェルナー様は学生だというのに働きすぎですわ」

 マッケンステイン様はどこまで知っているんだろう?

 おしゃべりサロンといっても、いつものカフェじゃない。授業外交流棟の一室だ。武術魔法披露会の結果は逐次マッケンステイン様の所に集まってきている。男女学院生が交代でマッケンステイン様に結果を知らせに来ている。

 その中に薬草研究会のメンバーが居た。あちらは気付いてなかったと思う。マッケンステイン様が上手く隠してくれているから。マッケンステイン様には「叱らないでやってくださいませね?」と言われたけど、その辺りは個人の自由だから、何も言いません。ちょっとモヤモヤするけど。

 たぶん今回も、武術魔法披露会の結果だけじゃないんだろうな。

「あら?フェルナー様、少し気分転換をしませんこと?」

 その中の一人の報告に、マッケンステイン様が急に私を誘った。

「気分転換ですか?」

「えぇ。わたくしも一緒にまいりますわ」

 どこに行こうというんだろう?マッケンステイン様と私の2人でお喋りサロンを出る。もちろんシェーン様も一緒だ。

 マッケンステイン様が向かったのは、第2サロン。今日は誰も使っていないサロンだ。ここは重要な話をする時に使われる。第2サロンにはサミュエル先生とダニエル様が待っていた。

「早いね、マッケンステイン嬢。キャシーちゃん、マルムグヴィスト嬢に会いたいかい?」

「はい」

 即答する。あの後の身体の調子も知りたいし、もう少しお話ししたかった。

「それじゃあ、冬季休暇に来るかい?」

「どこにですか?」

ブランジット公爵邸ウチ

「はい?」

「別邸だけどね。他言無用の制約は付けさせてもらうけど」

「当然ですわね。ブランジット公爵邸に入れるだけでも名誉な事ですもの」

 え?そうなの?

「フェルナー様はご存じありませんの?ブランジット公爵邸といえば女性貴族の憧れですのよ。ブランジット公爵夫人は広く女性の意見を取り入れ、身分関係なく交流していらっしゃいますの。それに最近では次期様と……」

「はい、そこまで。喋りすぎだよ、マッケンステイン嬢」

 私はポカンとするしかない。

「先生、リーサさんの事は知られてもよろしいのですか?」

「別に内密にって訳じゃないからね。スタヴィリス国がマルムグヴィスト嬢を保護したというのは事実だし、シャスマネー国にも通告してあるよ」

「それならよろしいのですけれど」

「それにマッケンステイン嬢は、言って良い事と悪い事の区別がしっかり付いているからね」

「当然ですわ」

「マッケンステイン様を信用していない訳では、ないのですけれど」

 私が神経質になりすぎなんだろうか?なんとなく転生者の事とか秘密にしておきたいって気がする。転生者は他にもいてオープンにしている人も多い。私も医療面では自重していない。任される事は多くないけど、救民院のお医者様も信用してくれていると思う。

「キャシーちゃん、フェルナー侯爵には私から言っておくよ」

「ありがとうございます」

 これってローレンス様が拗ねそうだな。さすがに自分も一緒にとは言わないだろうけど。一緒にいる時間が少なくなっているし。

「フェルナー様、どうなさいましたの?」

「申し訳ございません。少し考え事を」

「マルムグヴィスト様と仰ると、マルムグヴィスト博士の血縁の方ですの?」

「そうだよ。スタヴィリス国に来られていてね。キャシーちゃんも知り合いだし、2人の気分転換をと思ってね」

「フェルナー様もお忙しいですものね。今日もお手伝いをさせてもらえないと嘆いておられましたし」

「もうね、武術魔法披露会なのに、光の聖女様を見たい、話したいって人が多くてさ。学院長がお怒りだったよ。王宮に抗議するってさ」

「ご迷惑を……」

「ご迷惑をかけてるのは王宮の勧誘者スカウト達だよ。キャシーちゃんは気にしなくて良いよ。それに今日は外部の人間が多いからね。キャシーちゃんが危険になる気がする」

「あぁ、光の聖女様を手に入れたいという、狂った考えの方達ですわね。フェルナー様の御身を手に入れるなど、許せませんわ。フェルナー様、お気を付けなさいませ」

 えっと?

「誘拐計画の通報だけで6件。実際に捜査の手が入ったのが3件。噂もあるんだろうけど、1番の原因はあれだね。芸術祭」

「あの時はわたくし共、親衛隊全員が動きましたわ」

「マッケンステイン嬢も隊員だったね。1年前から」

「うふふふふ」

 和やかに笑うサミュエル先生とマッケンステイン様だけど、私はその前の私の誘拐計画の方が気になっていた。

「サミュエル先生、もしかして今日わたくしを出さなかったのは、その計画の所為せいですか?」

「まぁね。外部が入り込む以上、警備を万全には出来ない。キャシーちゃんには悪いけど、キャシーちゃんを隠しておくのが1番の有効手段だったんだ。説得している時は本当の理由は言えないし、諦めてもらう為に色々言っちゃったけど」

わたくし、何も知らなくて。もしかして今日、お喋りサロンを開いていたのは……?」

「学院長もお怒りだったからね。誰に託すかを考えた時に隔絶された空間に居てもおかしくない状況が必要だったから。許可が降りたんだよ」

「マッケンステイン様、ありがとうございます」

 どこかに行っていたダニエル様が戻ってきた。サミュエル先生に耳打ちする。

「ランベルト君は次に決勝だって。エスクーア嬢も決勝に進出してるね」

「あのお2人、婚約してらっしゃいますわよね?」

「はい。この夏発表予定だったのですけれど、お2人共派手な婚約発表はしたくないと仰って、お義兄様は領地で、アンバー様はタウンハウス王都のエスクーア邸で小規模なパーティーを開催されたのみだそうです。アンバー様の方にはわたくしは出席出来なくて」

 お義父様は出席されたのよね。お義兄様もフェルナー領から帰った後だったから、文句を言いながら連れていかれていた。ご自分の婚約発表なのに。

「キャシーちゃん、どうする?ランベルト君の試合、見たいかい?」

「見たいですけど、無理ですよね?騒ぎになってしまうんでしょう?」

「手が無い事はないけどね。借りは作りたくないんだよね」

「あの、無理なら良いんです」

 考えていたサミュエル先生が顔をあげた。

「うーん。ダニエル、交渉よろしく」

「自分っすかぁ?」

「ダニエルは気に入られているからさ」

「後が面倒なんすけど。良いっすよ。少しだけ時間をくださいね」




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