3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 4学年生

芸術祭、2日目 ~お喋りサロンと?~

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 ヴィクトリア・マッケンステイン様は噂好きではあるけれど、要、不要の線引きは心得ていると聞いている。

「マッケンステイン様、今日はその確認の為に?」

「まぁ、いいえ。ブレイシー様のお悩みを解決していただいたのが、キャスリーン様だと伺いましたので、そのお礼にと。わたくしには思い付きませんでしたのよ」

 嘘だと思う。ヴィクトリア・マッケンステイン様程の情報通がフィンチー兄弟の婚約の諸々を知らないとは思えない。

若輩の浅はかな考えが、たまたま上手くいっただけですわマッケンステイン様ならもっと良い案を思い付いたでしょうけど?

若輩だなんて。さすがに聡明でいらっしゃると、関心いたしましたのよご謙遜を。それでこそフェルナー家のご令嬢ですわ

今回上手くいったのは、自分だけの力ではございませんのよ家の権力は使っておりませんわよ?

「オホホホホ。ほとんどをおひとりでと聞いておりましてよどこから情報を仕入れられたのかしら?

まぁ。皆様のお考えを纏めただけですのに。お恥ずかしいですわマッケンステイン様がご存知無いとは言わせませんでしてよ。その上で相談させましたのでしょう?

謙虚なお考えですわねさぁ、なんのことやら?

 マッケンステイン様と笑顔で会話本音を隠しての会話をしていると、案内役の男性ウェイターがマッケンステイン様を呼びに来た。

「申し訳ございません。失礼いたしますわ」

「お忙しそうですのね。お気になさらないでください」

 アンバー様がそう言って、マッケンステイン様は離れていった。

「キャシー、お前、どうしたんだ?」

「何がですの?お義兄様」

「マッケンステイン嬢との会話だよ。なんだか不自然っていうか」

「なんでもございませんでしてよ?」

「怖かったですわ。貴族の会話って感じで」

「ガブリエラ様も貴族でしてよ?」

「そ……れはそうですけど……」

 ガブリエラ様は何か裏の会話があった事は分かったらしいけど、内容までは分からなかったらしい。

「それで?何を言っておりましたの?」

 アンバー様が興味津々で聞く。

「お聞きの通りですわよ?」

「お前、それで誤魔化せると思っているのか?」

「誤魔化すも何も、言葉の通りですもの」

「キャシー、兄貴に言いつけるぞ?」

「うふふ。どうぞお言いつけくださいませ。ローレンス様に意味が伝わるとよろしいですわね」

 にっこり笑って、ジッとお義兄様を見る。先に目を逸らしたのはお義兄様だった。

「くそっ、また負けた」

「キャスリーン様とフェルナー様って、特殊なケンカをなさいますのね」

「ケンカじゃございませんでしてよ?」

「ケンカじゃないんですの?」

「キャシーに勝てるのは、兄貴だけだってそれだけ。俺も父上も勝てねぇんだよ。ケンカはしない」

 お義兄様が不貞腐れて言う。勝ち負けじゃないんだけど、お義兄様は昔から私に勝ちたがるんだよね。負けず嫌いというのもあると思うけど。

「フェルナー様ってもしかして負けず嫌いでございますの?」

「もしかしなくてもそうですわ。口で勝てないからと手を出される事は無いのですけれど」

「当然だ。女性は守るもんだ。アンバーのように戦える女性もいるが、それでも手をあげるなんてあり得ない」

「お義兄様らしいですわ」

「フェルナー様はお優しいですわね、エスクーア様」

「えぇ」

 アンバー様が恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに言う。あ、お義兄様がソッポを向いた。こちらも恥ずかしいみたい。

「お義兄様、そのようになされますとアンバー様に誤解されますわよ?」

「知るか」

「うふふ。テレてらっしゃいますのね」

 笑って揶揄からかうと、ますますソッポを向いてしまった。

 お喋りサロン『フォニィ』で美味しいお茶とお菓子をいただいて、ミア・ブレイシー様に挨拶をしてサロンを出た。

「居心地はよかったけど、居心地悪かった」

「申し訳ございませんわ。揶揄からかいすぎました」

「いいさ。楽しかったか?」

「はい。お付き合いいただきありがとうございました」

「これからどうするんだ?」

「どうしましょう。適当に展示でも……」

「ちょうど良い。武術場に付き合え」

 答えあぐねていると、お義兄様が言った。最初からこのつもりだったらしく、武術場のドアを開けて堂々と入っていく。武術場の中には武術場には似つかわしくない色とりどりの布と、白い布を掛けられた3体のトルソーが置かれていた。その横にはパーティションで囲った簡易的な個室がある。非常に嫌な予感がする。

「お義兄様、この状況は?」

「予定が無いみたいだからな。ちょうど良かった」

「答えになっておりませんわよ?お答えください。この状況は何ですか?」

「頼まれたんだよ」

「どなたにですか?」

「もうすぐ来ると思う」

 いやだから、誰になの?予想はつく。付くけど認めたくない。

 数分後、予想していた通りの人物が現れた。サミュエル先生だ。女性を3名引き連れている。

「やあやあ、キャシーちゃん、ご機嫌……斜め?」

「斜めという程ではございませんわ。あちらのトルソーを見て予想は付きましたもの」

「あはは。相変わらず勘が良いね」

「勘など良くなくとも、分かりますわ。お義兄様に頼み事をしてここまでわたくしを連れてこさせるなど、先生が最有力候補ですもの」

「こっちも頼まれているからね。諦めて?」

「ここまで来てごねようとは思いません。ごねても結果は同じでしょうから。ガブリエラ様まで巻き込んで」

 ガブリエラ様とアンバー様は仲良く座って、こちらに手を振っていた。他人事だと思って。

 サミュエル先生が連れてきた女性と共に、簡易個室に入る。簡易個室の奥にもう1つドアがあって、そこが更衣室になっていた。

「では、まずはこちらから」

 運び込まれたトルソーには、ララ様から贈られた白いロングワンピースとケープ。靴も白いショートブーツが用意されていた。

「やっぱりこれですか」

 椅子に座らされて、まずはメイクから。とはいっても薄くメイクはしているから、それに少し色を乗せる程度。ガッツリメイクはしない。同時進行で髪型も変えられた。ケーソンボガン聖国の聖女様の慈悲の施しの際の髪型だそうだ。

 この女性達はサミュエル先生のお家の侍女さん達だそうだ。つまりはブランジット公爵家の侍女で、このお着替えはブランジット公爵夫人もご存知だとのこと。

「もしかして出たら肖像画家が待っているとか?」

「察しがよろしいですわね。その通りでございます。後はアナパレイカメラ技師が待っております」

 ひとりではないんだろうな。サミュエル先生といえど部外者を学院内に入れるには、学院長先生の許可が必要だと思う。それをクリアしてるって事は、少なくとも学院長先生はこの事をご存知だという事で。

 学院長先生に直接お目にかかった事はない。学校行事の際に挨拶をしているのを遠目に見ただけだ。印象は優しくて穏和なおばあさま。素性は現陛下の大伯母君という噂だ。サミュエル先生の血縁者って事よね?真相は分からないけれど。

 更衣室を出ると、絵師が5人にアナパレイカメラ技師が3人居た。この時代のアナパレイカメラってシャッター速度が遅いんだけど、だいたい5分位とウィル爺から聞いている。ウィル爺の使っているアナパレイカメラは少し古い型だから、今はもっと早くなっているとも。

「ひかっ、フェルナー様、申し訳ございませんがこちらにお座りください」

 示された椅子に、示されたポーズで座る。アナパレイカメラ技師が何枚かシャッターを切っている間に、肖像画家はスケッチをしていた。このスケッチを元に肖像画を描くらしい。何枚も何枚もページをめくって描いていく。角度も色々変えている。

 トルソーに用意された3着全ての行程が終わった頃には、外は夕闇が迫っていた。













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