3歳で捨てられた件

玲羅

文字の大きさ
上 下
111 / 296
学院初等部 4学年生

訓練と実践?

しおりを挟む
「皆様、ありがとうございます。訓練にお戻りください。お邪魔をしたいわけではないのです」

 私が言うと、みんなは戻ってくれた。ダニエル様とシェーン様は残っているけど。

「ダニエル様、シェーン様もお戻りになってください。お邪魔をしてしまって申し訳ございません」

「邪魔などと。キャスリーン様を邪魔者扱いする者はこの場には居りませんよ」

「お嬢ちゃんを邪魔者扱いする奴は、消えてもらっても良いよね?」

「ダニエル様、我が家の私兵を消さないでくださいませ?」

 冗談と分かりながら笑って言うと、ダニエル様が私の頭に手を伸ばした。それをシェーン様が素早く阻止する。

「何の真似だ?」

「こっちのセリフだ」

「軽々しくキャスリーン様に触れるな」

「これ位は許されたり……、しねぇかな?」

 目線が私を通過した。どうやらフランに聞いたらしい。

「キャスリーン様にはローレンス様という婚約者がいらっしゃいます。そのような真似をなさいますと要らぬ噂の種になります。お控えください」

「確かにお嬢ちゃんが困る状況に、なっちまうよなぁ」

「分かったらキャスリーン様から離れろ。困っておられるだろう?」

「はいはい。訓練に戻りますか。お嬢ちゃん、またね」

「頑張ってくださいまし。お怪我にだけはお気を付けくださいね」

「そりゃあ無理な相談だな」

「そうですね。真剣に相手と打ち合えば、必ずどちらかが怪我をします」

 そこを気を付けてって言っているんだけど。それに2人してバチバチに睨み合ってませんか?

 私兵達に交ざって剣を打ち合う2人の速度と強さが、早く強くなっていく。最初は見ているだけだった私兵達が距離を取って、場所を開け始めた。

「お嬢様、放っておいて良いのでしょうか?」

「確実にどっちかは怪我をするわよね」

 あぁっ、ダニエル様が吹っ飛ばされた。ズザザザザッと地面を滑ったダニエル様は素早く起き上がると、シェーン様に斬りかかる。今度はシェーン様がダニエル様にお腹を蹴られた。膝を付いて着地したシェーン様も即座に起き上がって一気にダニエル様との距離を詰める。

「フラン……」

「お嬢様、見ているのがお辛いなら、立ち去ってもよろしいのですよ?」

「そうしたいのはやまやまなんだけど、なんだか見届けないといけない気がするの」

 私の様子に気がついたらしいランベルトお義兄様が、気遣わしげな視線を寄越した。大丈夫だという意味を込めて笑顔を浮かべる。

 もはや殴り合いに発展しているダニエル様とシェーン様を見守る。私兵達がジリジリとその回りを囲んでいる。大丈夫だと合図を送ったはずのお義兄様が側に来てくれた。

「キャシー、大丈夫か?」

「大丈夫だと合図をいたしましたのに」

「合図はな。大丈夫だという顔ではないから来たんだ」

「お2人はどうなさってしまわれたのでしょう」

「あの2人は、元々キャシーを守るという点でしか相容れないようだから、想定内ではあったんだが。まさかキャシーの見ている前でおっ始めるとは」

「想定内でしたの?」

「一応な。隊長達とも話しはしていた。父上には報告しないとな」

「あのお2人をどうなさるおつもりですか?」

「我が家にあの2人をどうこうする権限は無い。キャシーだけがあの2人の行く先に口出し出来る。キャシーはどうしたい?」

「どうしたいと言われましても」

 2人共地面に倒れ付して立てなくなった。

「決着が付いたかな?」

「お怪我を治さないと」

「その必要はないよ。怪我も自業自得だろう?」

「必要はございます。怪我をそのままにするといろんな弊害を引き起こす可能性がございます」

「出血部は洗浄して、骨折部位は固定するんだっけ?」

「治癒魔法を使わせないおつもりですか?」

 私兵達が担架でダニエル様とシェーン様を運び出す。

「元気になって、同じ事を繰り返されても、我が家も迷惑だからね」

「かといって……」

 担架で運ばれていく2人を見ていると、少し乱暴にワシャワシャを頭を撫でられた。フランが即座に髪を整えてくれる。

「まぁ、訓練の一貫で怪我をしたわけだし?訓練場から出ているし?その後は俺達は関与出来ないし?キャシーが何をしているかは、俺達は把握しきれないし?」

「ありがとうございます、お義兄様」

 暗に「好きなようにすれば?治癒魔法を使おうがそれはキャシーの自由だ」と、そう言われた事が分かった。聞いていたフランには「結構露骨でしたよ?」と言われてしまったけど。

 これって私は治癒魔法を使っても良いけど、2度と同じ事を繰り返させないようにって、2人を説得する役目も委ねられたよね?

 2人の運び決まれた部屋を確認して、いったん部屋に戻り、メイクを直してもらって2人が寝ている部屋に行く。

「おや、お嬢様」

「お2人の怪我はいかがですか?」

「そうですな。お嬢様が診ればすぐにお分かりになると思いますが、両人とも殴打による打撲傷多数、黒髪の、えぇっとシェーンさんでしたか。彼は左の肋骨にヒビが入っておりますな。その他は骨に異状は無いかと。もうひとりの赤茶髪のダニエルさんは左鎖骨の骨折。動かした所為せいでしょうが位置がずれておりました。こちらも同じく他の骨に異状は無いかと思われます。治癒魔法を使われるのですか?」

「はい。それとお説教を少々」

「お説教ですか。お嬢様のお説教はあの2人にはよく効くでしょうな」

 声を潜めてフッフッフっと笑うお医者様は、気の良いお爺ちゃんにしか思えない。

 部屋に入ると2人は並んで横たわっていた。

「怪我の程度は同等ですが、より急いで治癒を施したいのはダニエルさんの方でしょうな」

「分かりました」

 お医者様の言葉に頷いて、ダニエル様の手を握る。

「お、嬢ちゃん……」

「黙ってください」

 何かを言いかけたダニエル様を黙らせて、治癒魔法を使う。幸いにも損傷部はすべて綺麗に洗浄されていた。お医者様付きのメイドさんがやってくれたらしい。

 擦過傷スリキズ、打撲傷、石によると思われる切傷キリキズなど、数えてはいないけど全身の傷を治していく。

「ダニエル様は終わりです。もう少しそこに居てくださいね?」

 にっこり笑って言うと、黙って起き上がって服装を整え始めた。

「シェーン様、お待たせいたしました」

「キャスリーン様、申し訳ご……」

「それは後でお聞きします」

 こちらも言葉は封じておいて、治癒魔法を使う。ダニエル様と同じように全身に擦過傷スリキズ、打撲傷、石によると思われる切傷キリキズなどがみられた。

 すべての治癒が終わると、お医者様がみんなを連れて出ていった。室内に私とフラン、ダニエル様とシェーン様が残される。

「お2人共、わたくしが何を言いたいかお分かりですか?」

 何故か正座をしている2人を見て言う。

わたくし、言いましたわよね?お怪我にだけはお気をつけくださいませと。あの本気の殴り合いはなんですか?お義兄様に伺いましたが、あのような状況になるのは初めてではないそうですわね?」

「お嬢ちゃん、落ち着いて?」

「落ち着いております。訓練であると言うなら、わたくしはこのような事は申しません。ですが先程は訓練の範疇を越えておりましたわよね?お2人がわたくしを守ってくださるのはとても嬉しいですが、その為にお怪我を負われると、わたくしは悲しく、辛くなります」

 ここで空涙そらなみだを一粒。

「ただでさえお2人を危険にさらしているのではと、心苦しいのです。お願いいたします。このような事は2度となさらないでくださいませ」

 ポロポロと泣きながら訴える。当然ウソ泣きだけど、騙されてくれるかな?

「お嬢ちゃん、悪かった」

「もう2度といたしません」

 2人の言葉をマルっと信じられはしないけど、謝ってくれたしお説教はここまでにしておく。フランもハンカチを差し出してくれながら、十分でしょうと言っているし。



しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】

倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。  時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから! 再投稿です。ご迷惑おかけします。 この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」 学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。 そこに聖女であるアメリアがやってくる。 フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。 彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。 短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。

許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。 そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。 ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。 それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。 わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。 伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。 そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。 え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか? ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

キーノ
恋愛
 わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。  ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。  だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。  こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。 ※さくっと読める悪役令嬢モノです。 2月14~15日に全話、投稿完了。 感想、誤字、脱字など受け付けます。  沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です! 恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

頭の中が少々お花畑の子爵令嬢が朝から茶番を始めたようです

恋愛
ある日、伯爵令嬢のグレイスは頭の中が少しだけお花畑の子爵令嬢の茶番に付き合わされることになる。 グレイスを糾弾しているはずが、巻き込まれて過去を掘り返されていくクラスメイトたち……。 そこへグレイスの婚約者のリカルド殿下がきて……? ※10,000文字以下の短編です

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?

しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。 王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!! ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。 この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。 孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。 なんちゃって異世界のお話です。 時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。 HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24) 数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。 *国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。

処理中です...