3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 4学年生

シェーン様とダニエル様

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 今日は薬草研究会に顔を出す予定だ。薬草研究会に向かっている途中、アルベリク・リトルトンに出会った。

「光の聖女様、今日はどちらへ?」

 警戒したシェーン様が、ギロッとアルベリク・リトルトンを見る。そこまで警戒しなくても、と思うのは、私が甘いのだろうか。

「薬草研究会ですわ。授業外交流の倶楽部に所属しておりますので」

「途中までご一緒しても?」

「それはかまいませんけれど」

「お邪魔いたします」

「邪魔をするなら帰るがいい。フェルナー様はお優しいから許可を出されたが、私は許さない。早々に立ち去れ」

「嫌だなぁ。そんなに邪険にしないでくださいよ」

 警戒心剥き出しのシェーン様と、飄々ひょうひょうと受け流そうとするアルベリク・リトルトン。たかだか数十mの距離なんだけどな。言い合いをしながら並んで歩くシェーン様とアルベリク・リトルトンを引き連れて、薬草研究会に向かう。

「大丈夫かい?」

「精神的に疲れました」

 特別棟の薬草研究会の教室に着いて、ぐったりしていたらバージェフ先輩に気遣われた。薬草研究会の部屋に入る手前でシェーン様は私から離れていった。決して部屋から出ないでくださいって言い残していったから、どこかに行ったんだと思う。

「なぁに?何があったの?」

「なんというか、原因に抗議したい気持ちです」

「原因に抗議?」

「フェルナー嬢はこういう時、絶対に個人名を出さないんだよね」

「個人情報の保護だっけ?」

「どこでどう利用されるか分かりませんから」

 貴族はスキャンダルが命取り。用心に越した事はない。逆恨みなんてごめんだもの。

 魔術研究会の部員もやって来て、いつも通りの授業外交流が始まった。光魔法を使わないポーション水剤の開発は停滞しているらしく、メアリー・ポッター先輩は魔法陣の構築に苦労しているらしい。光魔法の魔法陣は他の魔法と比べて特殊らしく、見た事の無い魔法陣に頭を抱えている。同時に光魔法の行使を要求される事が増えた。良いんですけどね。小さな怪我の治癒はそこまで魔力を使わないし。でも自分で指を切らないでください。どうしてこうも自分で傷付ける事を厭わないんだろう。お願いだから自分を大切にしてください。

「そこまで痛くないのよ?」

「そういう問題じゃありません。こういった事に慣れてしまうと、自分の命まで軽視するんじゃないかと、心配なんです」

「大丈夫だってば。そんな泣きそうな顔をしないで?」

「誰がさせているんですか」

「毒を試す時も致死量には気を付けているし、攻撃魔法もギリギリを狙ってるから大丈夫よ」

「大丈夫な要素が見えません」

 ヨシヨシと頭を撫でられたけど、原因はメアリー様ですからね?

 光魔法を連発していると、ショーン様がサミュエル先生をこっそり手招きしたのが見えた。何だろう?

「うーん。読み解けないのよねぇ」

 メアリー様の呟きが耳に入った。

「読み解けない?」

「文字が重なっちゃってる気がするんだけど。縦線とか横線がいっぱいでね。魔法文字特有なのよね。こういう文字は」

 メアリー様が紙に書き付けた文字を見せてもらう。漢字っぽいのかと思ったけど違う。カクカクした波線だったりエックスの左右に縦線がくっついていたり、私には見ても分からないけどこれが魔法文字なんだそうだ。一文字に意味があるらしくて、文字の組み合わせで大きく魔法効果が変わってくるんだって。

「キャシーちゃん、いいかな?」

 サミュエル先生に呼ばれた。メアリー様の了解を得て中座させてもらう。

「明日からシェーンを護衛から外すよ。代わりにダニエルを寄越すから」

「ダニエル様を?」

「会いたがっていたからね。正式交代はまだだけど。シェーンが嫌がっていてね」

 そこで言葉を切って意味ありげに私を見る。

「まったく、人タラシだね」

わたくしに言われましても。シェーン様はどうかなさったのですか?」

「話を付けに行くそうだよ」

「話を?誰にとは教えてもらえないのですね」

「そうだね。知られたくないだろうしね」

「分かりました」

 薬草研究会で、必死に魔法文字を読み解いているメアリー様の側に戻る。

「用事は済んだ?」

「はい。何かお分かりになりましたか?」

「うん。分かったけど……」

「けど?」

「キャスリーン様の治癒魔法と、バージェフセンパイの治癒魔法の、文字列が違うの」

「そんな事ってあるんですか?」

「無い……はずなんだけどね」

 魔道具に関する本は読んだけれど、魔法媒体である魔鉱石を砕いて溶かした薬液を塗布した金属や、同じく薬液を染み込ませた布に、魔法陣を刻むなり染め付けるなりして、魔力を通す物だったはず。それには一定の魔法陣が必要だし、人によって魔法文字の文字列が違ったら意味がない。

 その魔法陣の文字列が違うってどういう事だろう?魔法発動の際に見える魔法陣は規模の違いはあっても同じらしいし。

 その日はメアリー様と一緒に悩んで終わった。


 次の日、女性寮の前でダニエル様が待っていた。

「おはよう、お嬢ちゃん」

「おはようございます、ダニエル様」

「行こうか」

シェーン様は護衛として少し後ろを付いてきてくれたけど、ダニエル様は横に立って友達のように振る舞っている。それが懐かしかった。

「ふふっ」

「どうしたの?」

「同じ護衛でも、ダニエル様とシェーン様はやっぱり違うなと思いまして」

「まぁね。アイツは融通が利かなかったでしょ?真面目で忠実。護衛対象に特別な感情は抱かずに任務の遂行だけを考える。よく言えば護衛の鏡、悪く言えば護衛傀儡ごえいくぐつってね」

「悪く言いすぎでは?」

「それ位感情が動かなかったんだよ。護衛中に斬り付けられても表情ひとつ変えない。出血に護衛対象が怖じ気付いて交代したって事もあったんだよ」

「そんな事が……」

「だから今回は驚いた。お嬢ちゃんから離れないって言い張ってさ。喧嘩を売られたよ。買わなかったけど」

「買わなかったんですね。良かったです」

「そんな事をしたらサミュエル様にお叱りを受けてしまうしね。ブランジット公爵家にお嬢ちゃんが来たでしょ?その時に密かに護衛に付いたけど、症状はどう?」

紅茶が飲めない事だよね。

「ずいぶん良くなりました。たまに思い出しますけど、マナーの先生に及第点はいただけています」

「そりゃ良かった」

教室に入ると、護衛がダニエル様に変わっている事に驚かれてしまった。

「キャスリーン様、いつもの方は?」

「前の方に戻られましたのね」

「え?」

「え?」

ダニエル様を知っている方と知らない方の認識のズレが、あちこちで起きている気がする。ダニエル様は苦笑していた。

ダニエル様はサミュエル先生からの指示で、教室でも待機するようになっていた。そうすると好奇心旺盛な方が話しかけにいったりする。

「護衛の方ってキャスリーン様とお親しいのですわよね?失礼ですが前の方は話しかけ辛いというかけんもほろろな対応でしたけれど、護衛としてならどちらが理想的なのですか?」

「理想かぁ。一概には言えないけど、一番理想的な護衛は前の奴とオレとを足して2で割った感じかな?オレみたいに馴れ馴れしくしすぎてもダメだし、前の奴みたいに距離を取りすぎてもね。でも一番大切なのは護衛対象との相性だよ」

「相性ですか?」

「キャスリーン嬢のように両方と付き合える人もいるけどさ、やっぱり馴れ馴れしいな、と感じられたり、無愛想だなと思われたりっていうのはあるわけなんだ。護衛中は結構そういうのを感じ取れるんだよね」

「感じ取れちゃうんですか?」

「なんとなくね。こうだから、とは言えないんだけどさ」

教室の中でそんな話をしているから、当然私の耳にも入ってくる。

「ダニエル様は馴れ馴れしい訳ではないと思いますわよ」

ダニエル様に言ったらバツの悪そうな顔をされた。

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