3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 3学年生

シャーマニー語の寓話

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 翌日、サフィア様とナレッジャー先輩の付き添いで、図書館に特別閲覧申請を提出しに行った。

「フェルナー嬢、後ろのあの人って?」

「護衛ですわ。2度とあのような事がないようにと、サミュエル先生が付けてくださいました」

「サミュエル先生が……。じゃあ、彼って……」

「それ以上は秘密ですわ」

「ねぇ、ナレッジャー様?サミュエル先生がって何ですの?」

「秘密だよ。知らなければ知らない方がいい」

 シェーン様は聞こえていると思う。でも、話しかけては来ない。

 図書館に着くと、司書職員に特別閲覧申請の申し込みをする。最初は司書職員による面接から。貴族のみの初等部だから本の破損は無いだろうけど、一応という事らしい。

「失礼ですが、閲覧目的をお聞かせいただいても?」

「医師資格取得の勉強の為です。初等部区画にはシャーマニー語の本はございませんもの」

「そちらのリリス様も同様でしょうか?」

「はい」

 ナレッジャー先輩とサフィア様とショーン様は、後ろで見ている。

「かしこまりました。それではこちらの用紙に必要事項をご記入ください」

 氏名と年齢と目的を記入する。

「はい。それではこちらは受理させていただきます」

 魔道具にセットされた申請用紙が、吸い込まれていって、1分程で金属プレートになって出てきた。

「こちらが特別閲覧許可証になります。図書館の入口で機械に読み込ませてください」

「今からでも使ってみてよろしいでしょうか?」

「はい。たいていの方はすぐに向かわれますからね。使い方はお分かりですか?」

わたくし達がお教えいたします」

「分かりました。お願いいたします」

 サフィア様に教えていただいて、読み取り機にプレートをかざす。ピーっと音がした。

「これで中等部区画に入れますわ」

「ありがとうございます。ついでにおすすめの本を教えていただけますか?」

「もちろんでしてよ。こちらですわ」

 連れていかれたのは、児童書の各国語コーナー。残念ながら図書館以外持ち出し禁止だけど、閲覧コーナーがあるし持ち出せなくても困らない。その中でもサフィア様が選んでくださったのは、シャーマニー語で書かれた『セパオン寓話集』。イソップ童話のような教訓的な内容を絡めた子供向けの童話集だ。

「子供向けだから読みやすいし、かといって子供っぽくは無いの。シャーマニー語の習得にはおすすめですわよ。書写は出来ますけれど、汚さないようにだけお気を付けくださいませ。再生紙で良ければ司書様に用意していただけますわ」

「色々と教えてくださってありがとうございます」

わたくしも先輩に教えていただきましたのよ。ですからお2人も後輩が出来てその方が望まれましたら、お教えになってくださいませ」

「はい」

 さっそく司書職員から再生紙を購入する。セパオン寓話をのそれぞれ違う話をリリス様と相談しながら書き写していった。1文字1文字確認しながら書き写しているから時間がかかる。私は半分位意味が分かったけど、正確な話が分からないから、初等部コーナーのセパオン寓話のヴィリス語版を借りてきた。こちらは持ち出し可だから私が借りて、リリス様とセパオン寓話の翻訳を隣に書いていく事にした。

「こうして単語と訳語を書いていくと、文章の単語の順番というか、構成が分かりやすいですわね」

「大きくは異なりませんのね」

 ここ、スタヴィリス国と国境を接している国は3ヶ国。その内ヴィリス語が通じるのは2ヶ国。ヴィリス語を母語としているのはスタヴィリス国とキプァ国とゴーヴィリス国。残りのヨハケーネ国はヨケハ語を母語としている。だから第2言語として私達が習っているのはヨケハ語だ。幸いにしてヴィリス語は周辺国で通じる言語だから、外交官にならない限り、ヴィリス語とヨケハ語を覚えておけば貴族としては面目は保たれる恥をかかなくて済む

 留学生であるスペンサー・フィッツシモンズとトバイア・ポールソンの国籍は、ゴーヴィリス国だ。だから言葉で苦労はしなかったと笑っていた。

 セパオン寓話には転生者に馴染み深い話も載っている。『正直者の泉』というタイトル題名で、地球で言うと『金の斧』だったかな?『欲張って嘘を吐くと、代償が大きい』という教訓を含んだお話だ。他にも『ウサギとカメ』的な『野うさぎとスネイルカタツムリ』という油断大敵という教訓を含んだ話や、タイトル題名は違うけど内容は知っている話が載っていた。

「『野うさぎとスネイルカタツムリ』は読んだ事がございますわ」

「そうですの?」

「どこのご家庭でも読まれると思います。他のお話も」

 私は読んだ記憶が無い。フェルナー家に来てからは情報収集がてら書庫では政治事例や歴史書を読み漁っていたし、それに飽きたら薬草事典にいっちゃったし。

 前世での記憶も医療方面以外は薄れかけているけれど、かろうじて童話や寓話の内容は思い出せた。

「そういえば?」

細かい内容は思い出せないからすっとぼけておいたけど、リリス様に不審に思われる事は無かったと思う。

セパオン寓話を書写し、ヴィリス語に翻訳した物を書いていく作業は、リリス様と協力して2ヶ月かかった。

「出来ましたわね」

「シャーマニー語もずいぶん覚えました」

わたくしは原語版が読めて嬉しいですわ」

「お2人と一緒に居ましたら、わたくしもシャーマニー語を少し覚えてしまいましたわ」

いつも一緒に、私達の作業を見ていてくれたガビーちゃんが言う。刺繍の手を止めずに談話スペースで見ていてくれたんだよね。

「ガブリエラ様、ありがとうございました」

「いいえ、うふふ。わたくしも楽しかったですわ。医師資格取得も大変ですわね」

「自身の未来の為ですもの」

「ガビーちゃんはどうなさいますの?」

「夏期休暇にお母様とタウンハウス王都の辺境伯邸で過ごしたのですが、薬師を目指そうと思いまして。植物魔法を持っておりますからうってつけではないかと。辺境は常に医師、薬師不足ですもの」

「ガビーちゃんならなれますわ」

ガビーちゃんには年の離れたお兄様が2人いらっしゃる。ガビーちゃんの入学前に学院を卒業してしまって、私はお顔を見た事がない。

「下のお義姉様兄嫁が応援してくださいましたの」

「あら?ご結婚なされましたの?」

タウンハウス王都の辺境伯邸で住み込みの花嫁修行中ですわ。婚姻式はまだですわよ」

つまりは同棲状態って事ね。

「下のお兄様は王宮で魔晶の森関係の仕事をしておりますから、薬草についてもお詳しいのですわ」

「何のお仕事ですの?」

「魔道具の管理とお聞きしましたけど」

王宮の魔道具の管理は、魔法陣と魔術文字に高いレベルで精通していなければならない。世間一般にはエリート職として知られている。魔道保全師とかいう職業らしい。

一般庶民にも魔道保全師を生業なりわいとする人は居て、たいていは魔道具師のお店で働いていたりするらしい。お店は魔道具師が経営してたり魔道保全師が経営してたり、お店によって様々だ。共同経営が多いって聞いたことがある。

何を隠そう、私の元の生家、セジャン家は元々は魔道保全師が開いたお店だったらしい。客の要望で品物を増やしていって大きな商会になったんだと、ローレンス様に教えてもらった。

セジャン家は実父の代で私の虐待以外にも罪を犯していて、その為に刑が重くなったんだって。この辺りは実兄に手紙で教えてもらった。

そう。実兄のアレクさんとはたまに手紙のやり取りをしている。ローレンス様の手紙に同封されて送られてきて、たぶん検閲されてると思う。封筒に入っていないからね。たぶんじゃなくて確信している。

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