3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 3学年生

芸術祭 ~騒動~

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 薬草研究会の面々には、音楽観賞会と化している芸術祭の日になった。音楽観賞会と化しているのは私達だけじゃなくて、運動倶楽部の方々もだけど。

 毎年恒例となった剣術体術倶楽部の皆さんの護衛付きで、演奏を見る。今年はヴァイオリン部門でリジーちゃんが選出されていて、素晴らしい演奏にスタンディングオベーション総立ちの拍手喝采が贈られていた。

「こんな後ろにいたのか、キャシー。もっと前で見ればいいのに」

「芸術祭を抜け出して剣の素振りをしておられたお義兄様には言われたくありませんわ。アンバー様が心配されておられましたわよ?」

「予想は出来ておりましたけれど」

 アンバー様が控えめに言う。今日のアンバー様は普通のドレス姿だ。どこかに剣は隠し持っているらしいけど。

「ピアノだのヴァイオリンだの聞いてると、眠くなるんだって」

「お義兄様らしいですわね」

 アリス・ブレイクリー様の演奏は、ヴィオラとの2重奏だった。アリス様はピアノ教師のケリー先生の直接指導を受けていて、将来が確実視されている。

「あれ?舞台下に誰かいるな」

 ランベルトお義兄様が怪訝な声をあげた。

「本当ですわね。花束を持っているようですけれど」

 演奏が終わったら渡そうとしている?芸術祭ではそれは禁止されてたはずだけど。

「行ってくる。アンバーも来てくれ」

 ランベルトお義兄様と剣術倶楽部の3人が立っていった。どこに行ったの?

「皆様方、少し騒がしくなるかもしれません」

 体術倶楽部の先輩が言う。アリス様の演奏が終わると同時に舞台下の人物が動いた。階段を駆け上がりアリス様とヴィオラの演奏者をめがけて、一目散に駆け寄る。アリス様とヴィオラの演奏者は動けていない。舞台の灯りの元に出てきたのが男性だというのが分かった。

 ランベルトお義兄様と剣術倶楽部の3人が舞台上に駆け上がった。アンバー様が反対側の舞台袖から現れて、演奏者2人を守るように立つ。舞台下にいた人物の手にキラリと光る物が見えた。

「ナイフ?」

 警備の人達が会場内に駆け込んできた。会場内が騒然となっている。

「1階席の生徒は誘導にしたがって避難を!!2階、3階の生徒はその場から動かないように!!」

 先生の声が聞こえる。舞台上では捕り物が終わったようだ。救護室の先生が動いているのが見える。誰か怪我でもしたんだろうか?

「終わりましたの?」

 一緒にいたガビーちゃんが聞く。誰も答えない。答えられないのが実情だ。状況は当事者以外は掴めていないと思う。ランベルトお義兄様は怪我していないだろうか。アンバー様は無事なの?アリス様は大丈夫?

 元々会場内に警備の人達は居なかった。たぶんだけどランベルトお義兄様達の誰かが知らせたんだと思う。

 しばらくして、先生方から今日の演奏系の芸術祭は中止とすると放送が入った。他の会場では展示が続けられているらしいけど、見に行く人は居ないと思う。

 私達、音楽関係の会場にいた生徒は、各教室に戻された。その前にランベルトお義兄様に会っておきたくて、先生に言ったら許可が出た。シェーン様と一緒という条件は付けられたけど。

「お義兄様!!アンバー様!!」

「キャシー、教室に戻ったんじゃ?」

「お義兄様達が心配で」

「心配かけたな。大丈夫だ」

「何だったんですか?答えられないでしょうけど」

「分かってるじゃないか」

 こういう場合の情報統制は常套手段だよね。

「話せる事を確かめたら、話すから」

「お怪我はございませんか?」

「無い。心配しなくても大丈夫だ」

 ローレンス様より若干乱暴に頭を撫でてくれた。

「教室に戻っていろ」

「はい。お義兄様もお気を付けて。アンバー様も」

 お義兄様とアンバー様がきびすを返すのを見送って、私も教室に戻る。

「お付き合いいただき、ありがとうございました」

「仕事ですから」

 シェーン様はそう言ってくれたけど、「仕事だから」ってセリフは、相手に負担をかけたくない時の言葉だよね。

 申し訳無く思っていたら、シェーン様に微笑まれた。

「そのようなお顔をされないでください。キャスリーン様に申し訳なく思って欲しい訳じゃないんです」

 いつもシェーン様は、私の事を「フェルナー嬢」と呼ぶ。なのに今は「キャスリーン」と呼んだ。

「でもシェーン様はわたくしに、負担に思ってほしいわけでも無いんでしょ?」

「キャスリーン様のお心を煩わせたくないのですよ」

 微笑んだシェーン様と共に教室に戻る。教室ではみんなが不安げにヒソヒソと話をしていた。

「キャスリーン様、お戻りになられましたのね」

 リリス様が私を見付けて小走りでやって来た。

「えぇ。ごめんなさい、心配をかけてしまって。ランベルトお義兄様とアンバー様のご無事を確かめたかったのですの」

「ご無事だったんですよね?」

「えぇ。お怪我も無かったようです」

「良かったですわ。それでお話は聞けました?」

 リリス様の顔に浮かぶのは、好奇心と少しの恐怖。

「聞けていません。こういう時には間違った情報は害になりますから。先生方に言われたんだと思いますよ」

 教室内の空気が「なぁんだ」というものに変わった。

「それでもさ、少しは話したんだろ?フェルナー嬢だし」

わたくしだしという意味は分かりませんけど、ランベルトお義兄様と剣術倶楽部の先輩方はご無事のようですよ。それ以上は聞けていませんし聞き出すつもりもありません」

「何故ですか?フェルナー先輩はどうして素早く動けたのかとか、聞かなかったんですか?」

「2階席の一番前にいましたから、よく見えたんですよ。舞台下に誰かいるのはわたくしでも分かりましたし。ランベルトお義兄様だけじゃなく剣術倶楽部の先輩方や体術倶楽部の先輩方はそういう想定もしていたのかもしれません」

 このクラスには剣術倶楽部の所属も体術倶楽部の所属も、在籍している。

「確かに先輩方は、もし芸術祭の観賞中に何かあればって話はしていたよ。初等部の4学年生以上しか参加してなかったけど」

「体術倶楽部の先輩方もそんな話をしていた。だから会場中に散らばって座るって言っていたな」

 つまりはシュミレーションが出来ていたんだろう。いざという時にどう動くかという。何がきっかけかは分からないけれど。

「席についてください」

 担任の先生が入ってきた。

「先程の芸術祭の会場で起こった事ですが、まだ詳しい事は分かっていません。皆さんも憶測で噂などをしないように。分かりましたね?」

「先生、お怪我をされた方はいなかったのですか?」

「お話しできません」

「誰かが狙われたんですよね?舞台上に居たのはアリス・ブレイクリー様とミレニア・ハッシュラル様でしたけど」

「それもお答えできません」

 だよね。情報統制してるなら、話せない事だらけだろう。

「分かったら話してもらえますか?」

「差し支えない範囲であればですね。この後は、展示物を見て廻ってもよろしいし、寮に帰ってもらうのも自由です。ただし、音楽関係の会場には近付かないように。では、解散」

 絶対に現場に近付いて、先生方に迷惑をかけるのが居るんだろうなぁ。するなと言われるとしたくなるカリギュラ効果が働くだろうし。

「キャシーちゃん、薬草研究会に行かない?」

「そうですわね。行きましょうか」

 リリス様は迷っている感じだった。リリス様は手芸倶楽部に所属している。

「あ……」

 リリス様が何かを言いかけた。

「リリス様?」

「キャスリーン様、シャーマニー語を教えてくださいませんか?」

 意を決したように、リリス様が言った。

わたくしは構いませんけれど……」

「それではわたくしは薬草研究会に行っていますわ。キャシーちゃんはお休みだと伝えます」

 ガビーちゃんが申し出てくれた。

「ありがとう、ガビーちゃん。お願いします」

「ふふっ、リリス様、シャーマニー語、頑張ってくださいませね」

「はいっ」

 リリス様が固くなって頷いた。





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