3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 3学年生

困り事

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「キャシー、調子はどうだい?」

 午後からという言葉の通り、昼食後に休憩している私達の元に、ローレンス様とエドワード様がやって来た。

「ローレンス様、調子は良いですよ。エドワード様、昨日はご迷惑をお掛け致しました」

「迷惑だなんて思っていないから、気にしないで。もっと迷惑な令嬢もいるし」

「あぁ、ですか」

 ん?

「教会にドレスで来て、救民院での奉仕を願いながら、平民相手は嫌だとごねまくり、重症者には暴言を吐き軽症者には貴族である自分に感謝なさいと見下し、何をしに来たのか分からない貴族令嬢ワガママ娘達だよ」

 えぇっと、奉仕活動に来たのよね?奉仕活動は学院で推奨されている。卒業時に有利に働くと、下位貴族は長期休暇にボランティアをする事も多い。

「そういう令嬢の証明書には、事実をきちんと書いているよ」

 ボランティアをすると責任者が証明書を発行してくれる。私は遠慮しているけど、証明書目当ての貴族令嬢も居るんだよね。

「失礼いたします。フェルナー侯爵令嬢様、ご学友がお出でになっておられます」

「学友?どなたですか?」

「イザベラ・ウォーリィ様とリリス・シーケリア様でございます」

「お2人でいらしたのかしら?」

 席を立つと、ローレンス様が当然のように付いてきてくれた。

「キャシーちゃん、久しぶり」

「キャスリーン様、お久しぶりでございます」

「お久しぶりですわ。お2人でお揃いでお越しくださるなんて、珍しいですわね」

わたくしは付き添いよ。リリス様がご用なんですって」

「あの、わたくしも、医師試験を受ける事にいたしましたの」

「そうなんですの?」

「それでご挨拶をと」

「挨拶なんて……。嬉しいですわ。でもどうなさいましたの?」

兄嫁様お義姉様がご病気で、今は静養してらっしゃるのですけど」

「良くないのですか?」

「吐き気と食欲不振が続いているのですって」

「……もしかして、微熱もございません?」

「はい。寝込むほどではないけど、熱っぽいと」

「確信は持てませんが、至急お医者様に診ていただいた方がよろしいですわ」

「そんなに悪いのですか?」

「反対です。おめでたかもしれません」

「えぇぇぇっ」

 リリス様が急いで走っていった。イザベラ様が慌てて後を追いかけていった。リリス様は、イザベラ様の馬車に乗せてきてもらってきたんだって。

「スゴいね、キャシーは。聞いただけで答えられるなんて」

「お医者様なら同じ事が出来ますよ。わりと有名ですから」

「それでもだよ。シーケリア嬢は結局どうするんだろうね?」

「分かりませんわ。リリス様の自由ですもの」

 貴族令嬢は、政略の道具に使われる事が多い。もちろん大半は娘の幸福を祈っての縁組みだけど、業務提携とか資金援助の見返りだとかの政略結婚も多いのだ。

 ローレンス様と教会内に戻ろうとすると、教会前に立派な金ぴか馬車が停まった。こういう場合はさっさと隠れるに限ると経験上知っている。

「キャシー、先に戻っておいで」

「はい。ローレンス様もお早くお戻りになれますよう」

「なるべく早く戻るよ」

 ローレンス様が苦笑しながら言った。厄介事の臭いがプンプンしますもんね、あの馬車。

 幸い、馬車の停まった所から教会の入口までは少し距離がある。日本の寺社仏閣の参道程は無いけど、100メートル位かなぁ?

 小走りで聖堂内に入ると、シスター達が来てくれた。

「光の聖女様?」

「教会の前に金ぴかの馬車が停まったから、逃げてきちゃいました」

「あらまぁ。それは大変ですね」

 キャワキャワ言いながら、私を聖堂奥に隠してくれる。教会の執務空間一般信者立入禁止区域に入れば安心のはずなんだけど、例外はあるんだよね。王族とか公侯爵クラスの貴族とか。あの金ぴか馬車が誰かは知らないけど、立入禁止区域に立ち入れる人じゃないと良いなぁ。

 休憩場所に戻ってさっき見た馬車について話していると、ララ様にお呼びだしがかかった。

「ララ様?」

「ノボリッチ伯爵でしょ、どうせ。嫁に迎えてやるとか遊びに来いとか、色々と口実をつけて取り込もうとしてるのよ。キャシーちゃんの話の金ぴか馬車はノボリッチ伯爵の馬車でしょうね」

 大きなため息を吐いて、ララ様が立ち上がる。

「心配しなくても大丈夫よ、キャシーちゃん。キャシーちゃんの事はローレンス様がガッチリ守ってくださるから」

「ララ様が心配なんです」

「もぅっ!!本当に良い子なんだから。みんな、キャシーちゃんは絶対に表に出さないで。キャシーちゃんはアイツのストライクゾーンど真ん中だから」

 ストライクゾーンど真ん中って……。えぇっと……。

「ノボリッチ伯爵様は小さい女性がお好きなんだって、聞いた事があります」

「小さいって、身長が?」

「年齢が、です。違法奴隷の少女を集めてたという噂もあって」

 わぁぁ、ロリコンさんですか?そりゃあ、私はストライクゾーンど真ん中だ。低年齢層で身長も平均より低いし。違法奴隷の少女を何の為に集めてたのかは分からない。そもそも噂が本当かも分からないけど。

「キャシー、この後はミリアディス様のお手伝いをしてもらえるかな?」

「はい」

 ローレンス様が若干疲れた顔で休憩場所にやって来た。ノボリッチ伯爵のお相手でもしていたんだろうか。

「ローレンス様、お疲れですね」

「キャシーにはすぐにバレてしまうね」

 何があったかは言ってくれない。元々ローレンス様は自分だけで自己完結出来る方だ。ちょっとした難題でも、周りに頼らず解決できてしまう。

「ローレンス様、お座りください。軽く光魔法をおかけします」

「キャシーの光魔法は気持ちいいから好きなんだよね」

「それは良かったです」

 光魔法を軽くかけると、どうやら疲れが取れるようだから、ローレンス様にはしょっちゅう使っている。

 休憩後にミリアディス様の執務室に行くと、エドワード様もいらっしゃった。

「お邪魔してしまいましたか?」

「いいや。居座っていたのはこっちだから。フェルナー嬢に手伝ってほしいのはこれなんだけど」

「居座っていたというか、わたくしに仕事を割り振る為に待っておられたんですよね?」

 じとっとした目を向けると、エドワード様が目を逸らした。

「これって予算書じゃないですか。計算ですか?」

「うん。確かめなんだけど、頼めるかな?ノックス嬢は得意じゃないみたいでね」

「かしこまりました」

 空いている机に座って計算を確かめる。ひっ算で確かめていくと、エドワード様がそれを覗き込んでいた。

「エドワード様、お戻りにならないんですか?」

「戻るよ。戻るけど、早いね、フェルナー嬢」

「そうですか?」

「そういえばローレンスに聞いたけど、シャーマニー語の勉強もしてるんだって?」

「医師資格に必要ですので。単語だけより文章を読めた方が良いじゃないですか」

「シャーマニー語ですって?わたくしはヨケハ語はやりましたけど、シャーマニー語は独特な言い回しが多くございませんでした?覚えようとして混乱しましたもの」

「多いですね。そういう物だと割り切って覚えるしかないです」

「キャスリーン様、本当にご無理はなさらないでくださいね」

 話していても計算は出来る。多少スピードは落ちるけど。「戻る」と言いながら部屋を出ていかないエドワード様に、少し呆れながら検算していく。

 ローレンス様がエドワード様を探しに来て、エドワード様の襟首を掴むという乱暴な手法で連れ帰っていった。それを呆然と見送る私。

「心配はございませんわ」

「通常運転ですか」

「えぇ。いつもの事です」

 良いのかなぁ?





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