3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 2学年生

監禁と仲間割れ

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「すみません。言い聞かせたんですが」

 火魔法使いのイグニレス・ゲイツが言う。

「ずっとフランシスはズルいって言ってて、今はそんな事を言っている場合じゃない。見極められているんだって言っても無駄で」

「自分達は甘えがあったのかもしれないって言ったら、フランシスはすんなり入部したじゃないかって」

 植物魔法使いのアッシュ・クレイヴンが、ため息を吐いて言った。

「君達は?どうするんだ?」

「もちろん続けます。薬草についても色々と教えてもらって、楽しくなってきたし」

「身近な所にも薬草があるって分かって、領地に帰ったら教えてやれる事が増えたし」

「使い方は分かっても下処理とか薬効に合った刻み方とか、その辺りは分からなかったから、勉強になります」

 イグニレス・ゲイツとアッシュ・クレイヴンは、真面目に掃除や後片付けなどの雑用もこなしていて、みんなの危惧した事態にはならなかった。フランシス・エンヴィーオとも良好な関係のようだ。

「フェルナー嬢、ちょっと良いかな?」

 お試し期間もそろそろ終わろうかという頃、アッシュ・クレイヴンに話しかけられた。話しかけてきたのはアッシュ・クレイヴンだけど、イグニレス・ゲイツとフランシス・エンヴィーオも側にいる。

「何でしょう?」

「アロガンなんだけど、フェルナー嬢に対して何かを企んでいるみたいだ。内容は分からないけど」

「警戒した方がいいという事ですか?」

「警戒はした方が良いだろうね。サミュエル先生を呼んできて」

 バージェフ先輩が話に入ってきた。サミュエル先生が呼ばれて、イグニレス・ゲイツが事情を説明する。

「なるほどね。キャシーちゃん、しばらくダニエルを付けるよ」

「すみません。お世話をお掛けします」

「それからフェルナー兄弟にも知らせるからね」

「えっ?」

「当然でしょ?」

 当然って……。ローレンスお義兄様の暴走が怖いんですが。

「フェルナー家に知らせてもいいけど、学院には入れないからね。一時的な滞在は許されるけど」

「そうですよね」

 そんな話をしていたのを思い出したのは、中等部のどこかの物置っぽい所に閉じ込められてからだった。

 その日、ピアノ倶楽部の先輩の呼び出しを受けて、中等部を訪れた。もちろんダニエル様も一緒だ。目に見える護衛という事で学院には許可してもらってるし、警戒はしていたはずなんだけど。

「ダニエル様、申し訳ありません。ブランジット先生がお呼びです」

「サミュエル様が?」

「はい。大至急呼んでくれと」

「おかしいな、護衛中だって知っているはずなのに」

 ぶつぶつ言いながらダニエル様が席を外した。2分位して事務の女性がお茶を入れ換えてくれた。

 そこから記憶がない。気が付いたら埃っぽい部屋に居た。手足を縛られていて立てない。

「ここ、どこ?」

 頭がボーッとする。妙な頭痛が残っていた。

「誰かっ!!誰か居ませんかっ!?」

 何度か大声で叫んでみたけど全く人の気配がない。シィンとした空間に私の声が吸い込まれていく感覚に陥る。

 とりあえず手足を自由にしないと。後ろ手に縛られていて転がされているから、血行不良で手が痺れている。制服だけ着ている状態で暖房装置は無いようだから、身体が冷えてくる。簡単には縛めは解けてくれなくて、声を出しながら足掻いていた。

「誰か居ませんっ……ゴホッゴホッ」

 喉が痛くなってきた。叫びすぎたんだとは思うけど、ここで止める訳にいかない。

 どの位の時間が経っただろう?室内はすっかり暗くなっていた。ガタッと音がしたかと思うと、ドアが開いて何かが乱暴に投げ込まれた。その時に外が見えた。木立が見えて、校舎内じゃないのが分かった。

「助けてっ!!」

 声を限りに叫んだけど、何かを投げ込んだ誰かはこっちを見る事なく去っていった。ガチャっと鍵が閉まる音がしたから、助けるつもりは無いんだろう。

 いったい何が投げ込まれたんだろう?光魔法で光源を出して見た。

「人?」

 見覚えの無い男性だ。制服は着ているから学院生だとは思う。あちこち怪我をしていて意識を失っている。

「大丈夫ですか?」

 頑張って座り直して、男性に声をかけた。答えは無い。怪我を治そうと思っても両手が自由に出来ないから手を握れなくて、治癒がかけにくい。対象の男性に意識を集中して治癒をかけ続ける。

 治癒と同時に光源を出す事が出来ないから、うまくいっているかが分からない。残っている妙な頭痛の所為せいで集中力が途切れそうになる。

「ぅぅ……」

 男性から声が漏れた。

「お気が付かれましたか?」

「君……は……?フェルナー嬢?」

「はい。あなた様は?」

「中等部6学年生のシド・アルウィン。ランベルトのクラスメートだよ」

「ランベルトお義兄様の?お友達ですか?」

「お友達、ねぇ。剣術では負けてばかりだよ。学術試験では勝たせてもらっているけど。フェルナー嬢はなぜここに?」

「分かりません。気が付いたらここに居ました」

「ここ、どこだろうね?」

「それも……」

 首を振る私をシド・アルウィンが困ったように見ていた。

「鍵がかかっているんだよね?」

 シド・アルウィンがドアを確かめた。

「フェルナー嬢、もしかして立てないのかい?」

「手足が縛られておりますので」

「触れてもいいかい?」

 コクンと頷くとシド・アルウィンが私の後ろに回った。しばらく手首を触られた後、手が自由になる。

「足はどうする?私が解いても良いかな?」

「お願いします」

 今世でお義兄様以外に、男性にこんなに近くに近寄られた事はない。手や足を触られた事もない。だから少し怖い。でも手は痺れていてすぐに動かせない。

「フェルナー嬢、熱があるんじゃないか?」

 足首の縄をほどきながらシド・アルウィンが言った。

「寒い、です」

「火は出せるが火事になりそうだな」

 私の手足のいましめを解放してくれたシド・アルウィンが、ゴソゴソと室内をあさりはじめる。寒さが増してきた私は身体を縮込ませて腕を擦った。

「少し埃っぽいけどシーツを見付けた。無いより少しマシだと思うから、羽織っていると良い」

 畳まれたシーツを渡される。

「ありがとうございます」

 シーツを受け取って羽織る。寒さに震えたのは捨てられた時以来だ。あの時は誰も居なかった。今はシド・アルウィンが居る。

 状況はとてつもなく悪い。特に密室に男女2人きりというこの状況は、名誉的には最悪だ。何もなかったと2人で言ってもそれを証明出来ない。私の年齢を考慮したとしても、面白おかしく噂されるだろうし、シド・アルウィンの評判にも関わる。

 光源を出して室内を照らす。

「フェルナー嬢は光魔法使いだったのか」

「はい。申し訳ありません、光源が安定しなくて」

 寒さに震えながら謝ると、フッと笑われた。

「そんな事は気にしなくて良い。役に立っていないのはむしろ私の方だ」

 ドンッと大きな音がした。ドアがガタガタと揺れる。シド・アルウィンが私を守るように私の前に立った。

「誰か居るのか?」

 ダニエル様の声だ。

「ダニエル様……」

 声が震える。シド・アルウィンが私を見た。

「知り合いか?」

「はい。サミュエル先生の部下の方です」

「キャシーちゃん、ドアから離れていてっ」

 ガンッ、ガンッとドアから音がする。体当たりか蹴破ろうとしているらしい。

 集中力が切れて光源が維持出来なくなってきた。光の強さが保てない。

「フェルナー嬢!!」

「他に誰か居るのか?」

「シド・アルウィンだ。急いでくれ。フェルナー嬢の意識がっ」

 その言葉と同時にドアが蹴破られた。意識が朦朧としてきた。光源が消える。

「フェルナー嬢っ!!」

 シド・アルウィンの声がした。私が覚えているのはそこまで。発熱と魔力の使いすぎで意識を失ってしまったらしい。











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