3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 2学年生

中途入部者

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 しばらく逡巡していたフランシス・エンヴィーオが顔をあげた。

「私には何も言う資格がありません。確かにこの3人と馬鹿な事をしたし、3人の中ではリーダーのような役割でした。フェルナー嬢に迷惑をかけた時も、一緒に居てくれた。でもオレは3人のリーダーじゃない。3人が入りたいと言っている、それを肯定も否定も出来ないんです」

「なるほどね。フェルナー嬢は?」

「正直に言うと、少し怖いです。でも3人のやる気は削ぎたくありません。ポーション水剤について知りたいと言う、3人を信じたいとは思います。思いますけど……」

「キャシー、無理はしないようにね」

「大丈夫です。ありがとうございます、お義兄様」

「反対でも賛成でもない、か。どうしたものかな」

 3人は何も言わずに、私とフランシス・エンヴィーオの言葉を聞いていた。

「3人はポーション水剤のどんな事を知りたいのかな?」

 サミュエル先生が聞いた。

ポーション水剤とは何か、ポーション水剤で出来る事、後は薬草の可能性です。ボクは植物魔法しか使えません。だから植物については本能的に分かります」

「本能的に?」

「はい。どんな用途に使えるかとか、毒の有る無しとかです」

 ガタッとナレッジャー先生が立ち上がった。

「それが本能的に分かる?植物魔法ではそこまで分からないはずだが」

「小さい頃からなんとなく分かりましたけど」

 ナレッジャー先生の勢いにタジタジとなりながらも、3人の1人、アッシュ・クレイヴンが答えた。そんな事が分かるなら、薬草研究会にはうってつけだと思う。

「オレ達はそこまで分かりません。魔法も火と土だし。でも、薬草研究会が以前、薬草クッキーを配ってましたよね?あれの作り方を知りたいんです」

「知ってどうするんだい?」

「孤児院のみんなと売ろうかと」

「はい?」

「オレ達は男爵家の出です。とても貧しくて、だから孤児もいるんです。何か出来ないかって思ってて、その……」

 沈黙が落ちた。正直に言うと、目的は崇高だと思う。孤児達の事を気にかけていて、素晴らしいと思う。それが本当なら。

「結論は出せないね。3人共、戻りなさい。バージェフ、エンヴィーオ、フェルナーは残りなさい。それから、付いてきた君達もね。誰か薬草研究会のみんなを呼んでもらえるかな?」

 ナレッジャー先生の指示でみんなが出ていく。

「キャシー、無理はしないようにね。大丈夫。オレはキャシーの味方だから」

「ありがとうございます」

 軽くハグして、ランベルトお義兄様も出ていった。

「さてと、忌憚ない意見を聞かせてもらえるかな?まずはバージェフ、どうだい?」

「私の意見は言った通りです。あぁ、フェルナー嬢の意見とおおむね同じですね。やりたいという、知りたいというやる気を削ぎたくない。ただ、他のみんなの心の内は分かりません。エンヴィーオを入れる時だってあれだけ慎重になったんです」

「エンヴィーオは?」

「あの1件でアイツらは居場所を失いました。主に私の所為せいですが。そんなアイツらに居場所を作ってやりたいとは思います。でも……」

「2人共どちらとも言えないか。フェルナーはどうだい?」

「先程申し上げた通りですよ。怖いのは少し怖いです。でも3人のやる気は削ぎたくありません。それにポーション水剤について知りたいと言う、3人を信じたいと思います」

「他のみんなはどうかな?あぁ、来たみたいだね」

 みんながそぉっと入ってきた。

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。みんなの意見を聞きたいんだ」

 サミュエル先生の言葉に、デイジー先輩が口を開いた。

「あちらでも話していたんです。わたくし達は基本的に反対です。でも、機会は与えても良いと思っています」

「機会?」

「体験入部的な?期間を区切って仮入部という扱いにするのですわ。ララ様からの意見ですけれど」

「1度間違ったからって、それですべてがダメって、なんだか違う気がして」

「なるほどね」

 サミュエル先生とナレッジャー先生が頷いた。

「ところでこの中に植物魔法の使い手はいるかな?」

 ガビーちゃんと2人の先輩が手をあげた。

「植物魔法で植物の事は分かる?用途とか有毒無毒とか」

「有毒無毒はなんとなく分かります」

わたくしは分かりませんけど、わたくしの師は分かると言っておられました。植物学者のリネット氏ですけど」

わたくしは大雑把になら分かります」

「大雑把?」

「体調が悪い時にはこれ、とか。それだけしか分からないから、独自に調べるようになったんです。リネット氏の植物図鑑も持ってます。すごく詳しくて、何度も読み返しました。読み返しすぎて3冊購入してもらいました」

「ガビーちゃん、落ち着いて?」

 ガビーちゃんが頬を紅潮させてうっとりと語り出したから、慌てて止めた。ガビーちゃんって植物というか、薬草や薬用樹木について語り出すと止まらないんだもの。

「失礼しました」

 私の声にハッとして恥ずかしそうに頭を下げた後、両手で頬を抑えた。やだ、可愛い。

「いやいや、グクラン嬢の知識にはいつも助かっているよ」

わたくし達は、調合処方本レシピ通りにしか作れませんもの。いつも感心しておりますのよ?」

 私は成分は分かっても、元の薬草や薬用樹木が分からない。だからお役には立てないんだけど、ガビーちゃんは目的を話すと、「○○と△△」とかささっと答えてくれる。

「さっきの3人の内の1人、アッシュ・クレイヴンは植物については、本能的に分かるんだそうだ。どんな用途に使えるかとか、有毒無毒とか」

「それは是非ともと言いたいわね。でもねぇ……」

「エンヴィーオと居て、良い方向に向かう可能性もあるけど、悪くなる可能性も捨てきれないんだよな」

 フランシス・エンヴィーオが俯いた。

「でも、エンヴィーオ君も今は真面目に取り組んでるよ。それは認めても良いんじゃない?」

「認めているよ。それでもさ、男って一緒に居るとバカをやっちゃうんだよ。1人になると我に返るんだけどさ。気が大きくなったりとか。そこまで仲が良くなくても、他がやろうって言っているのに、反対出来なかったりとか」

 同調圧力って事かなぁ?小規模だけど間違ってないと思う。

「それでもさ。認められる所は認めないと。いつまでも偏見で見るって相手にも失礼だろ?」

「だから認めてるって言ってるじゃないか」

「はいはい。落ち着こうか、2人共。今はそういう事を話していないでしょ?」

 言い合いをしていた2人が黙った。

「賛成の人……は居ないみたいだね」

「賛成でも反対でもない人がほとんどだと思いますよ。だからお試し入部をって話してたんです。その間の3人の態度とか姿勢を見て、決めれば良いんじゃないかと。意見は誰だって変わりますよね?」

「そうだね。じゃあ、3人にはお試し入部で話をするよ。バージェフ君、一緒によろしく」

 サミュエル先生がそう言ってまとめた。


5日後、3人のお試し入部が始まった。3人共お試しでの入部という事は納得していて、教えられた事を真面目にこなしている。分からない事は自分達で相談しあい、最終的に人に聞くという方法をとっている。フランシス・エンヴィーオは1人だったから教えられた事をひたすらメモを取っていた。メモを見ても分からなければ聞いていた。

3人もメモは取っている。それでも3人という事でどこか安心しているのか、リンゲルマン効果社会的手抜きが働いているのか、相談している回数が多い。

武術魔法披露会の時に、誰かが3人に注意したらしい。翌日から土魔法使いのアロガン・ソイルが来なくなった。
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