3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 1学年生

プレ社交会

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 プレ社交会の日を迎えた。ダンスが苦手だと言っていた全員が、ダンス倶楽部の先輩方に一定の合格ラインだとお墨付きをもらった。

 私はローレンスお義兄様のエスコートでプレ社交会に出席した。

「キャシー、最初と最後のダンスは私とだからね」

「分かっておりますわ、お義兄様」

 プレ社交会のファーストダンスは、主催である学院の先生が務めるけど、個人的なファーストダンスとラストダンスは、ペアの相手と踊るのが礼儀だと、ローレンスお義兄様に教えていただいた。

 私の今日のドレスはサファイアブルーのプリンセスライン。お誕生日祝いにとお義父様、お義母様からいただいたドレスだ。フンワリとした生地が何枚にも重ねてあって、動く度に軽やかに揺れる。髪のリボンはハニーゴールド。上品なベルベットで、ヘアメイクを担当してくれた先輩が、可愛らしく纏めてくれた。

 プレ社交会の会場に入る。

 会場の中は真ん中が大きく開けられ、壁際に軽食とスイーツが並んでいた。飲み物も置かれていて休憩できるようにテーブルが設置してある。

「座りたかったら椅子を用意してくれるから、腕章を付けたスタッフ役に声をかけるんだよ」

「分かりました。みんな知ってるのかしら?」

「一応初等部1学年生同士のペアには、説明するように指示してるけどね」

 学院長様の開会宣言に続いて、先生方のダンスが終わった。

「キャシー、行くよ」

 近くで戸惑っていた1学年生同士のペアが、私とお義兄様の動きを見て一緒にダンスホールに進み出た。

 お義兄様とは冬季休暇中に、ほぼ毎日練習していたから踊りやすい。他の人とはどうか分からないけど、お義兄様からは大丈夫だとお墨付きをもらっている。

 お義兄様とだけ踊るわけにいかないから、知っている人から誘われたら、受けて踊ってみた。5曲目にアイザック・クロフォード伯爵令息様に誘われた。真っ赤になりながら教わった通りにダンスを申し込んでくれた。緊張してるのかちっともスマートではなかったけど。

「フェルナー嬢、一曲お相手を頼みましゅ」

 あ、かんだ。

「お義兄様、行ってきても良いですか?」

「行っておいで。私は執行部の所に居るから」

「はい。クロフォード様、お願いいたします」

 苦笑しているお義兄様に見送られて、フロアに出る。といっても端っこの方だけど。

「ごめんね。ローレンス様に比べたら、全然巧く出来ないと思う」

「比べなくても良いのですよ。お義兄様はお義兄様。クロフォード様はクロフォード様でしょう?堂々となさいませ。間違ったらなど考えずにまずは楽しみましょう」

「うん。だけど……」

「練習通りですわ」

 やけに自信なさげなクロフォード様と、なんとか躍り終えた。元の場所に戻ると上級生から誘われたけど、疲れてしまってお断りした。

「クロフォード様?まだ緊張なさってますか?」

 手を離してくれないんだよね。

「ごめん」

「よろしいですけど、休憩なさいます?」

「うん。座れる所は無いのかな?」

 クロフォード様のペアの女性は入場だけだったようで、他の男性と話している。こちらにチラリと視線を投げたので、会釈をしておいた。

「お相手は上級生ですか?」

「幼馴染みなんだ。2学年上なんだよ」

 本来のペアと違うお相手と一緒に行動してもマナー違反にはならない。ならないけど礼を失すると思ったから、腕章を付けたスタッフ役に頼んでクロフォード様の本来のペアの女性に声をかけてもらった。

「ようやくお誘い出来たのに、相変わらずねぇ」

 見た目とのギャップがある先輩だなぁ。淑女然としているのに話し方が豪快だ。

わたくし、キャスリーン・フェルナーと申します」

「私はマリアンヌ・ロードリー。フェルナー嬢の事はアイザックがずっと話してたから初対面な気がしないね。あぁ、侯爵令嬢に失礼な口を」

 すでに手遅れです。でも不愉快じゃない。話しやすくて好感が持てる。

「あれ?ローレンス様は?」

「執行部の方に行かれました。ロードリー様、座ってお話ししませんか?クロフォード様が緊張で倒れそうで」

「相変わらず軟弱な。ほらっ、シャキッとしな」

 席を用意してもらって座らせてもらう。

「ロードリー様は武術を嗜んでおられますか?」

「えっと、バレてる?」

「体さばきというか雰囲気とか動きが義兄あにに似ている気がしまして」

「ランベルト様に?嬉しいね。あの方は憧れなんだよ。お相手のエスクーア様と並ぶと本当にお似合いで」

 うっとりと見ている。隣に居るから分かるけど、遠目で見たらランベルトお義兄様を見ていると思われるんだろうなぁ。

「フェルナー嬢、ごめん、落ち着いた」

 やっとクロフォード様が手を離してくれた。

「大丈夫ですか?ご無理はなさらない方が」

「大丈夫。飲み物を取ってくるよ」

「よく気は付くんだけどねぇ。肝心な事には意気地無しというか、本当にもぅ……。焦れったいねぇ」

 クロフォード様の姿を見送って、ロードリー様が独り言ひとりごちた。

「ロードリー様はクロフォード様の幼馴染みと伺いましたが」

「フェルナー様、どうぞマリアンヌとお呼びください。えぇ。私は子爵家の出なんですが、クロフォード伯爵家は領地が隣なんです。両親が互いに親しくて、お互いによく行き来してたので、自然と遊ぶようになりました。私は小さい頃からお転婆で木登りとか泥遊びとか平気だったんですけどね、アイザックは昔は部屋の中で本を読んでいるような子だったんですよ。ウチの兄達に鍛えられて剣術と体術は見られるようになりましたけどね」

「ではわたくしもキャスリーンと。マリアンヌ様は武術を嗜んでおられると先程お聞きしましたが、お得意なのは?」

「私は槍術そうじゅつを」

槍術そうじゅつの倶楽部があるんですか?」

「いいえ。剣術倶楽部と合同です。というか、剣術倶楽部に間借りさせてもらってるというか」

 剣術倶楽部と合同?剣術倶楽部に居たっけ?槍術そうじゅつの人。

「冬季休暇前に剣術倶楽部にお伺いしましたけど、槍術そうじゅつの方を見てない気がするのですが」

「え?冬季休暇前?」

 詳しく聞いてみると、槍術そうじゅつだけでは認められないらしく、たいていは複数の武術を練習するんだとか。私が行った日は杖術じょうじゅつを練習してたんだって。

「ランベルト様も剣術と体術でしょう?」

「そう……なのですか?」

「そうなのですよ」

 クロフォード様が戻ってきた。サービングカートを押したスタッフが後に続いている。

「フェルナー嬢、お茶と軽食です」

「ありがとうございます」

 スタッフ役の人にも会釈をすると、紅茶を淹れてくれた後、微笑んでくれた。

 軽食と紅茶でしばらく歓談した後、ローレンスお義兄様が隣に立った。

「そろそろラストワルツの時間だよ」

「はい」

 ローレンスお義兄様にエスコートされて、フロアに出る。ゆったりとしたワルツが流れ始めた。

「話が弾んでいたね」

「マリアンヌ様のお話は、わたくしの知らない事ばかりで。引き込まれてしまいました」

「それは良かった。疲れてないかい?」

「今はあまり感じません。興奮しているのでしょうか?」

「この後は女子寮まで送るからね。ゆっくり休むといい」

「ありがとうございます」

プレ社交会が終わって、ローレンスお義兄様に女子寮まで送ってもらう。フェルナー家お抱えの絵師さんに頼まれて、スケッチをされていたから少し遅くなってしまった。

「じゃあね、キャシー、素敵な時間だったよ」

「こちらこそ。素敵な時間でした」

軽くハグして、ローレンスお義兄様は戻っていった。


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