3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 1学年生

お義兄様の悩み事

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 ランベルトお義兄様は優勝出来なかった。5位だったらしいけど、6学年生で5位というのは快挙らしい。

 それでもランベルトお義兄様にとっては反省点がたくさんあったようで、剣術倶楽部で毎日特訓を受けているらしい。

「ずっとあんな調子じゃ身体を壊してしまう。フェルナーの姫君、彼を止められないでしょうか?」

 バージェフ先輩のご友人の先輩が薬草研究会に来て、そう懇願していった。疲労回復ポーション水剤を飲みながらだけど。

わたくしが言って聞きますかどうか」

「エスクーア嬢は姫に頼んだ方がいいと」

「姫って言われるたびにムズムズするんですけど。ランベルトお義兄様と1度話してみます」

 先輩と一緒に剣術倶楽部に行ってみた。剣術倶楽部ではエスクーア様も鍛練しておられた。長い髪をポニーテールに結い上げて木剣を一心不乱に振っている。

「エスクーア様、カッコいい」

 ポツリと呟くと、先輩が私を見た。

「姫様は彼女のああいった姿を否定されないのですね」

「否定する方もいらっしゃるんですか?」

「いますよ。女なのにはしたないとか。今や軍部にも女性がいる時代です。それなのに女だからと彼女を傷付ける事を言っていくんですよ」

「いますよね、そんな方」

 学院にまで居るっていうのが驚きだけど。

「キャシー?どうしたんだ?」

 こっそり眺めていたら、ランベルトお義兄様に見付かった。休憩しろと言われたらしく、汗を拭って私のいる方に歩いてきた。

「お義兄様、焦りは禁物ですわよ」

「キャシー?何を吹き込まれた?」

「吹き込まれてはおりません。とりあえずこちらをお飲みくださいませ」

 経口補水液にリラックス緊張緩和をかけた物を渡す。

「旨い」

「改良しましたのよ。お砂糖を減らしてハチミツを増やして。甘すぎないギリギリを狙いましたけど、いかがですか?」

「いいと思う。オレには良いけど、他はどう言うだろう?」

「ですから試飲していただきたくて。男性だけでなく女性の意見も伺いたいのですけど」

「そんなの、キャシーが一言声をかければ、みんな集まると思うけどな」

 同じ様に休憩に来た剣術倶楽部の先輩方に、普通の経口補水液を渡して飲んでもらう。おおむね高評価をもらえた。

「美味しいですわぁ」

 エスクーア様が一緒に渡した薬草入りのハーブクッキーを嬉しそうに食べている。

「キャスリーン様、剣術倶楽部だけですの?」

「体術倶楽部の方にも試飲と試食を頼みに行ってます。わたくしは剣術倶楽部担当なんです」

 今回の試飲と試食はサミュエル先生が急遽思い付いたものだ。薬草ハーブクッキーは以前ララ様の「成分抽出後のハーブって、有効利用出来ないのかな?」の言葉で作ってみた物。成分解析装置では薬効が検出されたから、薬草研究会の趣旨には合っているとしておいた。

 出がらしのハーブを風魔法で乾燥させて磨り潰して、クッキーを作るのは案外楽しかった。

「うふふふふ。キャスリーン様、お兄様の説得は出来ましたかしら?」

「しておりません。焦りは禁物だとは言っておきましたが」

「それでも十分だと思いますわよ。わたくしの言葉は、聞いてもいただけませんでしたもの」

「エスクーア様……」

 こそこそと話をしていると、体術倶楽部に行っていた薬草研究会のみんなが戻ってきた。

「それでは失礼いたしますわ」

「送ろう」

 ランベルトお義兄様がそう言って許可をもらって薬草研究会の部室まで送ってくれた。

「お義兄様、何か焦っておられます?」

「焦ってはないけどな。焦っているように見えたか?」

「焦っているというよりは、もどかしいという感じでしょうか。理想があって道筋も分かっているのに、行動に反映されなくて。それが結果的に焦っていると見えたのだと思います」

「相変わらず鋭いな」

「目標が何かはお尋ねいたしませんが、どのような目標も一歩ずつですわよ?一足飛びだと見逃してしまう物があるやもしれません」

「見逃してしまう物か」

「道端に咲く名も無き花、頬を撫でる風の柔らかさ、木々の香り。そういった何でもない物も、後に大きな意味を持つかもしれないんです。お義兄様、努力は裏切りません。ですが無理をなさると、全てがゼロになってしまう事もございます」

「あぁ、分かってる」

「時には休む事も大切でしてよ」

「ありがとう」

 くしゃくしゃっと私の髪を乱暴に撫でて、部室まで送り届けてくれたランベルトお義兄様は、サミュエル先生に挨拶をして帰っていった。

「お悩み相談、終了?」

 サミュエル先生が興味津々で聞く。先生だけでなく部室内のみんなが、さりげなく聞き耳を立てているのが分かった。

「解決したとは申せませんが、わたくしの考えは伝えました」

「何を言ったの?」

「簡単に申しますと、少しずつでも前に進めば良いといった意味合いですね。特に運動関係は無理をしたあげく全てが壊れてしまう事が多いので」

「確かにね。特に剣術や体術は、壊れるのが自分の身体だったりするからね」

「そういった方ほど無理をなさるのですわ」

「なんだか実感がこもっているねぇ」

「そういった方はたくさん見てきましたから」

 ストレスで身体を壊した方や、仕事や家族を優先して自分の不調を後回しにした方、無理をしたという自覚無しの大量の仕事を抱え込んだ方々ブラック企業の従業員救急救命室ER室で何人も見てきた。気付いてあげられなかったと悔やむ家族や患者の友人の姿も。助けられた命もあったし助けられなかった命もあった。八つ当たりもされた。どうして助けてくれなかったのかと。

 前世を思い出して少し落ち込む。ララ様が私の肩に手を置いた。

「大丈夫?」

「大丈夫です。ご心配をお掛けしました」

「クッキー、食べる?」

「これはララ様のでは?お友達に渡すと言っておられた物ですよね?」

「彼女達には別のでも良いもの。それより今はキャシーちゃんよ」

「キャスリーン様、ハーブティーをお淹れしましたわ」

「よく分かんないけど、元気出して」

「皆様、ありがとうございます」

 倶楽部が終わってから、サミュエル先生に呼び出された。

「キャシーちゃん、前世って辛い事ばかりだったの?」

「いいえ。楽しい事もありましたよ。少し辛かった事を思い出しただけです」

「それなら良いけどね」

「細かい事は忘れてきているのに、前世の仕事に関する事は忘れられないんです」

「仕事って?」

「看護師でした。救急救命室ER室勤務で、最期の時は災害救助派遣されていたはずです」

「カンゴシって医師のような?」

「医師の介助や患者の手助けや、傷病者の簡単な手当てを行う役職です」

「それで分かったよ。救民院に行った時、やけに手際が良いと思ったんだよね。キャシーちゃん、中等部に入ったら医師資格を取りなさい」

「医師資格って6学年生から取れますの?」

「受験資格はあるよ。たいていは何年も落ち続けて、学院卒業時に合格ってパターンが多いかな」

「最年少合格者は?」

「……9学年生」

「それ以降に合格するようにがんばります」

「一発合格でも良いんだよ?」

「目立つじゃないですか」

「今もよく似たものでしょ?学年成績は常にトップ10に入ってるんだから」

「調整はしてませんからね?」

「手は抜いてないんだ?」

「抜いてません。それは真剣に試験に取り組む他の方々に失礼です」

「とにかく4学年生になったら特別授業を受けるように」

「決定ですか?」

「決定だよ。ハイレント侯爵令嬢の為にもなるしね」

「私の教会所属も決定ですか?」

「あれ?了承してくれたと聞いたけど?」

「ミリアディス様に頼んだわよ?ね?ね?って念を押されただけです」

「ハイレント侯爵令嬢とエドワードが、引き受けてくれたって喜んでいたけど?」

「ミリアディス様ったら」

 こうなったら今からの辞退は無理なんだろうな。



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