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学院初等部 1学年生
芸術祭2日目 ~ポーションについて~
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「アリス様だわ」
私の呟きに体術倶楽部の先輩が反応した。
「ブレイクリー家の令嬢とあれは……。フェルナー嬢、済まないが私はここで」
「アリス様を?」
「あぁ。放っては行けない」
「お願いいたします」
体術倶楽部の2人が走っていった。
「先輩方もお願いいたします」
「しかし……」
「私共なら大丈夫ですわ。アリス様をお願いいたします」
「かしこまりました」
1人の先輩が走っていった。もう1人の先輩は私達を寮まで送り届けてから加わってくれるという。
「申し訳ございません」
「次世代の華を守るは我らの誇り。そのような事を申されますな」
この先輩、イチイチ口調が時代がかってるんだよね。
「では、感謝いたします」
「ありがとうございます」
「心強いですわ」
みんなに感謝の言葉をかけられた先輩が、顔をほころばせた。
「姫君方に感謝の言葉を賜るとは。不肖の身ではございますが、最後までお役目、果たさせていただきます」
「キャシーちゃん、フショーノミって?」
「劣ってるとか愚かだとか、未熟者って意味だったと思うけど」
女子寮まで送ってもらって、寮母の先生に目撃した事と事情を説明する。
「なんですって?皆様、よく知らせてくださいました」
「詳細は不明ですけれど」
「そういった事実だけでも情報はありがたいのです」
アリス様が戻ってきたのは夕食時だった。ララ様と私が呼ばれて静養室に入ると、アリス様がベッドに寝かされていた。
「アリス様?」
「薬を使われたようです。ブレシングアクアはこの状態では飲ませられませんし」
「解毒ということでしょうか?」
「そうですわね」
解毒魔法は使った事がない。イメージは出来ているけど。ララ様を見るとブンブンと首を振られた。
「解毒魔法は使った事がございません。アリス様に万が一の事がございますと」
「そうですわね。学院に連絡してまいります」
「アリス様の側にいてもよろしいでしょうか?」
「えぇ。付いていておあげなさい」
寮母の先生が出ていくと、ララ様が私に言った。
「キャシーちゃん、使った事はないけど、イメージは出来ているのよね?」
「出来てはいます。でも……」
「そうね。指導はしていただいた方が良いわよね」
せめてと思ってアリス様の手を握る。冷えている指先。よほどの恐怖かストレスに晒されたのだと思う。
30分程してサミュエル先生と救護室の先生が、女子寮に来てくれた。
「解毒魔法か。キャスリーン嬢、イメージは?」
「出来ますけれど」
「珍しく自信なさげだね」
「私だって常時自信満々という訳ではございません」
「そうだけどね。やってみるかい?」
「私は次の機会に。先生にお願いいたします」
「そうだね。次の機会なんて無い方が良いけど」
サミュエル先生がアリス様に手をかざす。光魔法の使い方はその人によって様々で、サミュエル先生は患部に手をかざすし、私は患者様の手を両手で握っている。ララ様は患部に直接触れている。
「解毒は出来たよ。後は任せた」
サミュエル先生が私達に合図をして、静養室から出た。
「気が付いたのはキャシーちゃんだって?」
「私だけではございませんわ。先輩方もいらっしゃいましたし」
「心に効くブレシングアクアがあると良いんだけどね」
「申し訳ございません。イメージが固まらないのです」
「別に責めてはいないよ。光魔法使いの課題って感じだね」
「心に効くって精神的にって事ですよね?」
「ララ様?」
「つまりは癒されれば良いんじゃないですか?」
「まぁ、そうですけど」
「そうなんだけどね。それが難しいんだよ」
ララ様は何かを思い付いたらしい。それが何かは教えてくれなかったけど。
翌日の芸術祭2日目。この日はファッションショーとオークションがメインで学院生は参加自由だ。だからバージェフ先輩とララ様と一緒に精神安定作用のあるブレシングアクアの生成について話し合っていた。サミュエル先生も同席してくれている。
「つまりね、精神的に安定してるって事は、喜怒哀楽の楽の部分が強いって事でしょう?楽しくてルンルンって程じゃないけど、気持ちが凪いで心地良いって」
「そうだね。それは間違ってないと思う」
「それならバージェフ君のポーションに光魔法をかければ良いんじゃないかって思ったの」
「しかしどのポーションに?」
「精神安定の効果のあるハーブティーってあったわよね?」
「ありますけど。え?まさかハーブティーをポーションにって事ですか?」
「そうよ。ハーブティーだと劇的な効果は期待出来ないけど、ポーションにすれば別じゃない?ものすごく大雑把に言うとポーションって効き目を強くしたハーブティーよね?」
「あぁ、うん。ものすごく大雑把に言うとね」
「試してみて損はないと思うの」
「どなたに試すのですか?」
「教会に協力をしてもらおう。一時的でも効くなら、大きな救いになる」
「リバウンド現象が怖いですけど」
「キャシーちゃん、ダイエットじゃないんだし、リバウンドはおかしくない?」
「医療用語ですよ。急に使用を止めた場合、それまで抑えられていた反動から症状が悪化する現象を、リバウンド現象っていうんです」
「へぇぇ。そうなのね」
「えぇっと……」
バージェフ先輩が私をチラチラと見ている。
「キャスリーン嬢は『テンセイシャ』だ。医療関係は詳しい」
サミュエル先生が説明してくれた。
「あ、そうなんだ」
「先輩、ナチュラルトランキライザーは何を使いますか?」
「そうだなぁ。セントランサスかな?少量に抑えるけど」
「副反応が怖いですものね。ヒペリカムでも良いけどヒペリカムも怖いですし」
「だよねぇ」
「先生、2人の言っている事が理解出来ません」
「安心しなさい。私もだよ」
とりあえず思い付いたハーブでポーションを作ってみる事にした。バージェフ先輩の指示でハーブを刻んだり磨り潰したりする。水を加えて加熱しながら魔力を注ぐとポーションの完成だ。
「後はこれを濾して熱を取るんだけど」
「先輩、これってブレシングアクアで作ったらどうなりますか?」
「試した事は無いよ。でもそうだね。試しても良いね。ただしこれじゃなくて他のにしよう」
「試作品ですものね」
濾して粗熱を取ったポーションに光魔法をかける。今回は治癒をかけた物とリラックスをかけた物をそれぞれ10本ずつ作った。どちらも治験扱いで場所を分散して試してもらう。一応味見はしたけど、悪くはなかった。ただし美味しくもない。
「結果が出るまで1ヶ月かな?」
「どうやって運ぶんですか?」
「専用の魔道具があるんだよ。一応資格が要る物なんだけどね」
「そうですか。見たかったですけど残念です」
サミュエル先生が治験用のポーションを仕舞っている間にブレシングアクアで疲労回復ポーションを作ってみる。
「あ、先輩、タラクサクの葉を加える前に湯通しをしていただけませんか?」
「ん?あぁ。何か聞いたの?」
「ガブリエラ様が昨夜調べてくださいました。お塩をひとつまみ入れたお湯で5分茹でて7分程晒すと、苦味がずいぶん抜けるそうです」
「やってみようか」
ポーション作りって、お料理みたいでちょっと楽しい。
「フェルナー嬢は手際が良いね」
「前世ではお料理もしてましたし、そのおかげでしょうか」
「どうだろうね……。ノックス嬢、頑張って」
ミキサーが欲しいと呟いたり、上手く量れないと天秤秤に八つ当たりしてたり、濾す作業をやけに慎重に行うララ様に、バージェフ先輩が生暖かい目を向ける。一応、ララ様の方が先輩なんだけど、バージェフ先輩は顔合わせの初日からこの調子だ。平民だからという訳でもなさそうなんだけど。
私の呟きに体術倶楽部の先輩が反応した。
「ブレイクリー家の令嬢とあれは……。フェルナー嬢、済まないが私はここで」
「アリス様を?」
「あぁ。放っては行けない」
「お願いいたします」
体術倶楽部の2人が走っていった。
「先輩方もお願いいたします」
「しかし……」
「私共なら大丈夫ですわ。アリス様をお願いいたします」
「かしこまりました」
1人の先輩が走っていった。もう1人の先輩は私達を寮まで送り届けてから加わってくれるという。
「申し訳ございません」
「次世代の華を守るは我らの誇り。そのような事を申されますな」
この先輩、イチイチ口調が時代がかってるんだよね。
「では、感謝いたします」
「ありがとうございます」
「心強いですわ」
みんなに感謝の言葉をかけられた先輩が、顔をほころばせた。
「姫君方に感謝の言葉を賜るとは。不肖の身ではございますが、最後までお役目、果たさせていただきます」
「キャシーちゃん、フショーノミって?」
「劣ってるとか愚かだとか、未熟者って意味だったと思うけど」
女子寮まで送ってもらって、寮母の先生に目撃した事と事情を説明する。
「なんですって?皆様、よく知らせてくださいました」
「詳細は不明ですけれど」
「そういった事実だけでも情報はありがたいのです」
アリス様が戻ってきたのは夕食時だった。ララ様と私が呼ばれて静養室に入ると、アリス様がベッドに寝かされていた。
「アリス様?」
「薬を使われたようです。ブレシングアクアはこの状態では飲ませられませんし」
「解毒ということでしょうか?」
「そうですわね」
解毒魔法は使った事がない。イメージは出来ているけど。ララ様を見るとブンブンと首を振られた。
「解毒魔法は使った事がございません。アリス様に万が一の事がございますと」
「そうですわね。学院に連絡してまいります」
「アリス様の側にいてもよろしいでしょうか?」
「えぇ。付いていておあげなさい」
寮母の先生が出ていくと、ララ様が私に言った。
「キャシーちゃん、使った事はないけど、イメージは出来ているのよね?」
「出来てはいます。でも……」
「そうね。指導はしていただいた方が良いわよね」
せめてと思ってアリス様の手を握る。冷えている指先。よほどの恐怖かストレスに晒されたのだと思う。
30分程してサミュエル先生と救護室の先生が、女子寮に来てくれた。
「解毒魔法か。キャスリーン嬢、イメージは?」
「出来ますけれど」
「珍しく自信なさげだね」
「私だって常時自信満々という訳ではございません」
「そうだけどね。やってみるかい?」
「私は次の機会に。先生にお願いいたします」
「そうだね。次の機会なんて無い方が良いけど」
サミュエル先生がアリス様に手をかざす。光魔法の使い方はその人によって様々で、サミュエル先生は患部に手をかざすし、私は患者様の手を両手で握っている。ララ様は患部に直接触れている。
「解毒は出来たよ。後は任せた」
サミュエル先生が私達に合図をして、静養室から出た。
「気が付いたのはキャシーちゃんだって?」
「私だけではございませんわ。先輩方もいらっしゃいましたし」
「心に効くブレシングアクアがあると良いんだけどね」
「申し訳ございません。イメージが固まらないのです」
「別に責めてはいないよ。光魔法使いの課題って感じだね」
「心に効くって精神的にって事ですよね?」
「ララ様?」
「つまりは癒されれば良いんじゃないですか?」
「まぁ、そうですけど」
「そうなんだけどね。それが難しいんだよ」
ララ様は何かを思い付いたらしい。それが何かは教えてくれなかったけど。
翌日の芸術祭2日目。この日はファッションショーとオークションがメインで学院生は参加自由だ。だからバージェフ先輩とララ様と一緒に精神安定作用のあるブレシングアクアの生成について話し合っていた。サミュエル先生も同席してくれている。
「つまりね、精神的に安定してるって事は、喜怒哀楽の楽の部分が強いって事でしょう?楽しくてルンルンって程じゃないけど、気持ちが凪いで心地良いって」
「そうだね。それは間違ってないと思う」
「それならバージェフ君のポーションに光魔法をかければ良いんじゃないかって思ったの」
「しかしどのポーションに?」
「精神安定の効果のあるハーブティーってあったわよね?」
「ありますけど。え?まさかハーブティーをポーションにって事ですか?」
「そうよ。ハーブティーだと劇的な効果は期待出来ないけど、ポーションにすれば別じゃない?ものすごく大雑把に言うとポーションって効き目を強くしたハーブティーよね?」
「あぁ、うん。ものすごく大雑把に言うとね」
「試してみて損はないと思うの」
「どなたに試すのですか?」
「教会に協力をしてもらおう。一時的でも効くなら、大きな救いになる」
「リバウンド現象が怖いですけど」
「キャシーちゃん、ダイエットじゃないんだし、リバウンドはおかしくない?」
「医療用語ですよ。急に使用を止めた場合、それまで抑えられていた反動から症状が悪化する現象を、リバウンド現象っていうんです」
「へぇぇ。そうなのね」
「えぇっと……」
バージェフ先輩が私をチラチラと見ている。
「キャスリーン嬢は『テンセイシャ』だ。医療関係は詳しい」
サミュエル先生が説明してくれた。
「あ、そうなんだ」
「先輩、ナチュラルトランキライザーは何を使いますか?」
「そうだなぁ。セントランサスかな?少量に抑えるけど」
「副反応が怖いですものね。ヒペリカムでも良いけどヒペリカムも怖いですし」
「だよねぇ」
「先生、2人の言っている事が理解出来ません」
「安心しなさい。私もだよ」
とりあえず思い付いたハーブでポーションを作ってみる事にした。バージェフ先輩の指示でハーブを刻んだり磨り潰したりする。水を加えて加熱しながら魔力を注ぐとポーションの完成だ。
「後はこれを濾して熱を取るんだけど」
「先輩、これってブレシングアクアで作ったらどうなりますか?」
「試した事は無いよ。でもそうだね。試しても良いね。ただしこれじゃなくて他のにしよう」
「試作品ですものね」
濾して粗熱を取ったポーションに光魔法をかける。今回は治癒をかけた物とリラックスをかけた物をそれぞれ10本ずつ作った。どちらも治験扱いで場所を分散して試してもらう。一応味見はしたけど、悪くはなかった。ただし美味しくもない。
「結果が出るまで1ヶ月かな?」
「どうやって運ぶんですか?」
「専用の魔道具があるんだよ。一応資格が要る物なんだけどね」
「そうですか。見たかったですけど残念です」
サミュエル先生が治験用のポーションを仕舞っている間にブレシングアクアで疲労回復ポーションを作ってみる。
「あ、先輩、タラクサクの葉を加える前に湯通しをしていただけませんか?」
「ん?あぁ。何か聞いたの?」
「ガブリエラ様が昨夜調べてくださいました。お塩をひとつまみ入れたお湯で5分茹でて7分程晒すと、苦味がずいぶん抜けるそうです」
「やってみようか」
ポーション作りって、お料理みたいでちょっと楽しい。
「フェルナー嬢は手際が良いね」
「前世ではお料理もしてましたし、そのおかげでしょうか」
「どうだろうね……。ノックス嬢、頑張って」
ミキサーが欲しいと呟いたり、上手く量れないと天秤秤に八つ当たりしてたり、濾す作業をやけに慎重に行うララ様に、バージェフ先輩が生暖かい目を向ける。一応、ララ様の方が先輩なんだけど、バージェフ先輩は顔合わせの初日からこの調子だ。平民だからという訳でもなさそうなんだけど。
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