3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 1学年生

救民院

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「ただいま帰ったよ。キャシーちゃんは元気そうだね。体調は?」

「おかえりなさいませ、サミュエル先生、ララ様。体調はもう大丈夫ですわ。ララ様、お疲れのようですわね」

「キャシーちゃぁん」

 ララ様が私に抱き着く。ちゃん呼びにローレンスお義兄様が怒りそうになったけど、首を振って良いと示した。

「サミュエル先生ってドエスよ、ドエス」

わたくしは意味が分かりますけど、そのお言葉はこちらでは通じませんわよ?」

「分かってる、分かってるの。でも言いたいのよぉ」

「それでどうされたんですか?」

「次々に治療させるのよ。初めてだからペースが掴めなくて魔力切れになったら、10分休憩して、また治療。何回繰り返したか」

「しょうがないでしょ?ララちゃんはサボってたからね。手っ取り早く熟練度を上げるのに、有効な手なんだよ?」

「でも、今日だけで10人よ?昨日は40人の治療だったんだから。魔力切れも3回経験しちゃったし」

「大丈夫だったんですか?」

 10人ちょっとで魔力切れ1回か。ララ様、魔力量少なくない?

「救民院ってね、教会がそうなのかな?魔力の戻りが早いの。だからこきつかわれたんだけど」

「そうなのですか?」

 サミュエル先生を見ると頷かれた。

「教会はそういう土地に建てられているんだよ。貴族学院の最終学年の最後の最後に教えられるんだ」

「国家機密扱いとか?」

「それは無いけど出来るなら口外して欲しくないねぇ。利用してって考えるバカも出てきそうだし」

 出てきそうではあるけど、使い所が難しいんじゃないかな?戦争とか起きちゃえば魔力回復スポットになりそうだけど。

「キャシーちゃんは気付いちゃったかな?」

「可能性は。どこの国も同じですか?」

「私はこの国しか知らないね」

「それは表沙汰に出来ませんね」

「キャシー?」

「お義兄様はもうすぐ教わるじゃないですか。その時にお考えください」

「キャシーが冷たい……」

「でもさすがだね。私の妹は聡明だ」

 ローレンスお義兄様が頭を撫でた。

 お医者様が来て、ランベルトお義兄様の診察をしてもらった。私も応急措置の説明の為に同席する。

「ふんふん。完璧だね。ランベルト坊っちゃん、痛みを取る事も出来ますが、どうなさいますか?」

 ランベルトお義兄様が私を見る。

「キャシー、出来る?」

「え?わたくし?」

「キャスリーン様でもよろしいですし、私も痛みを取れますよ。キャスリーン様の方が良いですかな?」

「キャシー、頼める?」

「え?え?どうすれば……」

「どれ、お教えしましょうか。治癒術は出来ますな?」

「はい」

「痛みというのはですな、患部で起きる炎症反応が、刺激として感じられる訳です」

「はい。その伝達を阻害すれば良いですか?」

「その通りです。ただし強く阻害しすぎると、分かりますかな?」

「麻痺してしまう?」

「その通りです。麻痺が長引くと支障が出ますからな」

 強すぎると麻痺してしまうけど弱いと効かない。調整が難しそうだ。

「頑張ります」

「頼んだよ、キャシー」

 ランベルトお義兄様が私に微笑んだ。

 深呼吸をして心を落ち着ける。いつものブレシングアクア聖恵水よりも弱く治癒をかけていく。

「スゴいね、キャシー。痛みが引いてきたよ」

 ランベルトお義兄様の声に治癒を止める。

「ふむ。大丈夫そうですな」

 先生のお墨付きを貰って、ランベルトお義兄様と部屋を出る。

「ありがとうございました」

「いやいや、たいした事がなくて良かったですな。キャスリーン様のお手際も大したものです」

「終わったのかい?」

 ローレンスお義兄様に抱きすくめられた。

「はい。痛みの取り方を教えていただきました」

「そう。良かったね」

「サミュエル先生、教会や救民院に行くのはいつになりそうですか?」

「この休暇中とは考えているけどね。まずはララ嬢のご両親に許可を貰わないとね」

「先生、ウチに行くの?」

「未成年だからね。今回は光魔法の練習という名目で連れてきたけど、本来は事情説明の上で許可を得ないと」

「あんな両親の許可なんて要らないよ。私が悪いっていつだって決めつけてさ。今考えたら本当の事だけど。でもそれを責任転嫁して相手から金を巻き上げるような両親よ?」

 ご両親とは上手くいっていないらしい。それでも殺されかけたりはしてないんだ。

 私とララ様の差って何だろう?記憶の覚醒の時期?

「ララ様、あの時、お話が途中でしたわよね?」

「キャシーちゃん、大丈夫?だって……」

「キャシー、無理はしないんだよ?」

「知りたいんです。お願いします」

 頭を下げたかったけど、ローレンスお義兄様に後ろから抱き締められているから、それが出来ない。

「ララ嬢、頼めるかな?」

「はっ、はいっ」

 ララ様が緊張しながら返事をする。私の部屋に移動して、あの時の話の続きを始めた。

「まず、ララ様はこの世界を乙女ゲームだと思っていたんですよね?」

 愛用のノートに書き込みながら、ララ様に聞く。

「えぇ。『初恋は雪のように』、通称『雪恋』の世界だと思っていたわ。いろいろと違う所もあったけど。まずね、『雪恋』では雪の日に親子喧嘩をして主人公が家を飛び出すの。寒さに耐えきれずに教会に行って、そこで攻略対象の教会長の息子のアルフレッド様に出会うのよ。それが物語が始まる5年前。私の記憶が覚醒したのが15歳だったのよね。よくよく思い出してみたけど、雪の日に親子喧嘩をしたのはしたのよ。でも、家は飛び出してないの」

「そこから齟齬があったと?」

「そごって?」

「意見や事柄の食い違いです」

「そう、確かに食い違ってるわ。でも、都合よく解釈しちゃったのよ。主人公と同じピンクゴールドの髪にララという名前。光魔法の出現。これだけ揃ったら、ねぇ」

「それで、攻略対象が第4王子殿下、宰相の息子のローレンスお義兄様、騎士団長の息子で第4王子殿下の護衛のエルランド様、王家の影であるダニエル様、教会長の息子のアルフレッド様の5名ですか」

「えぇ、そう。貴族学院が舞台だったから、必死で勉強したわ。たいして学力は上がらなかったけど」

「ララ様、学院で何か事件が起きたりします?」

「学院では起きないわ。普通にデートしたりイベントをこなすだけ。一応ファンブックも買ったんだけど、ちょっと待ってね。今、思い出すから」

 うーん、うーんとララ様が考え始めた。私はこの間に情報を整理する。

 乙女ゲームはやった事が無い、と思う。でもなんとなくの想像で「攻略対象と呼ばれる男性との好感度を上げていくゲーム」だというのは分かる。

「あ、卒業する少し前に疫病が流行って、光魔法で終息させるってイベントがあったわ」

「疫病?」

「主人公が仲間の光魔法使と協力して、終息させるの。症状が高熱と酷い咳と呼吸困難、身体中の痛みだったかな?」

「高熱、咳嗽、呼吸困難、身体の節々の痛みって、インフルエンザですね」

「そういわれれば?でもインフルエンザって疫病っていわれる程じゃないわよね?」

「インフルエンザは世界的に流行して、死者も多数というパンデミックを起こした事が何回もありますよ。1918年から1919年のスペイン風邪、1957年から1958年のアジア風邪、1968年の香港風邪が代表的な例です。いずれも全世界で流行して罹患りかん者は1億人を越え、死者は数千人単位です」

「……スゴい。覚えてるの?」

「看護師の知識です。スペイン風邪なんかは歴史で習いませんでした?」

「すみません、覚えてません」

 ララ様がペコリと頭を下げた。





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