3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 1学年生

光魔法と呪いのアクセサリー

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 ブーランシュ先生は学院での私の成績を褒めてくださり、課題を見てくださった。その際にララ様について相談する。

「平民の方ですか?」

「はい」

「難しいかもしれませんわね。わたくしは良いのですけれど、どうしてもお金がかかる事ですから」

「ですよね」

「夏期長期休暇中、侯爵家に滞在されるのですか?」

「決まってないです。光魔法の授業というか練習の為にとしか」

「光魔法ですか。それなら王家も関与していますわよね?」

「はい、たぶん。光魔法の先生は、ブランジット公爵家の方ですから」

「ブランジット公爵家の。そう」

「ブーランシュ先生?」

「侯爵様と相談してみますわ」

「申し訳ありません」

 ブーランシュ先生はその日は私の課題を見て、帰っていった。


 翌日、サミュエル先生とララ様が到着された。

「お、お邪魔いたしますぅ」

 サミュエル先生はいつものように堂々と奥に入っていって、ララ様はオドオドしていた。

「ララ様、いらっしゃいませ」

 私が出迎えると、ホッとしたように強張った顔がほころんだ。私の後ろに立つローレンスお義兄様を見て、少し引きつっていたけど。

「本当に来るとは思わなかった」

「え?」

「お義兄様ったら。ララ様、お部屋にご案内いたしますわ」

 メイドと一緒に部屋に案内する。客間の広さに驚いていたララ様は、その日の夕食の席でお義父様に告げられた一言に固まった。

「ララ・ノックス、もう一度魔法属性の判定を受けなさい」

「え?」

 その一言で固まってしまったララ様に、サミュエル先生が楽しそうに補足する。

「光魔法だけなのか、他の魔法属性もあるのか、その確認だよ」

「ララ様、大丈夫ですか?」

「もう一度?」

 あ、再起動した。

「キャスリーンは10歳になったらだな」

わたくしもですか?」

「王家から報告を受けたのだよ。『テンセイシャ』は10歳位でもう一属性覚醒する事が多いと」

「分かりました」

「キャシーちっ……様」

「必要な事ですから。お義父様、ララ様の判定の時に、わたくしも一緒に行っても良いですか?」

「教会に行きたいのかい?」

「はい。教会の雰囲気も好きですし、救民院が見たいのです。どのような所か」

「ふむ。それなら私も一緒に行こう」

「お義父様も?」

「名目は救民院の視察。何か思うところがあれば言いなさい」

「はい」

「父上、私も一緒にお願いします」

「ローレンスもか?」

「職場となるかもしれない場所です」

「考えておく」

 そういえばミリアディス様の補佐の仕事を受けるか受けないか、返事がまだだった。どうしよう。夕食を終えて、自室で悩む。

 私個人としては受けたい。でも受けてしまうとお義兄様達の道も決まっちゃうのよね。

 考えていると目の前にグラスが置かれた。

「お嬢様、冷たいハーブティーでございます」

「ありがとう。綺麗な色ね」

「ローズティーです。美肌成分の豊富なハーブを使っております」

 一口含むと酸味が感じられるけど、冷たくて飲みやすい。

「最近の奥様のお気に入りなんですのよ」

「お義母様はいつまでもお若くてお綺麗だから」

「さようでございますね」

 考え過ぎた頭が冷えた気がして、その夜は寝てしまう事にした。

 翌日、ララ様と一緒にサミュエル先生の光魔法の授業を受ける。その結果分かったのは、使えるのは治癒魔法のみだという事。

「雑だねぇ」

「だって、治れーってやってたら、たいてい治っちゃったし。あ、治ってしまいましたし」

「言葉遣いも雑だね。キャシーちゃんを見習おうよ」

「キャシー様は侯爵令嬢でしょ?比べる方が間違ってるって」

「あら、わたくし、養女でしてよ?」

「ようじょ?サミュエル先生?幻聴が聞こえた。あ、そっか。幼女ね。でも8歳よね?もう幼女って年じゃなくない?」

「養女です。3歳の頃に侯爵様と養子縁組をしました」

「え?えぇぇぇぇ!!」

「ほら、集中。その光の玉を一定強度で維持して。魔法の基礎だよ」

「ビックリしたら集中なんて乱れるって」

「その辺もキャシーちゃんを見習ってよ」

「無理無理無理。キャシー様が落ち着きすぎなんだって」

「言葉遣い、戻ってるよ?」

「うぅぅ……」

 私も、光の玉を一定強度で維持する基礎を一緒にやっているんだけど、ララ様は賑やかだなぁ。その相手をしているサミュエル先生も楽しそうだ。

「キャシー、頑張ってるね」

「ローレンスお義兄様」

「あちらは賑やかだね」

「楽しそうです」

「キャシーは優秀だね。少し位なら手を抜いて良いんだよ」

「基礎訓練で手を抜くのは難しくないですか?」

「そうだね」

 ローレンスお義兄様が魔法訓練施設にやって来て、褒めてくれた。

「手伝おうか?」

「光魔法をですか?」

「そう。こういうのを解いてみるとか」

 お義兄様が、氷に閉じ込められた禍々しい何かを取り出した。見た目はネックレス。

「何ですか?これ。スゴく禍々しいんですけど」

「いわゆる呪いのアクセサリー。氷も少しの間なら呪いを遮断できるし」

「そんな物、どこからっ」

「教会に持ち込まれたらしい。どうやらハイレント侯爵令嬢を狙ったみたいだね。今朝こちらに持ち込まれた。教会所属の光魔法使いでは太刀打ち出来なかったって」

 話を聞き付けたらしいサミュエル先生が飛んできた。

ディスペル呪いの浄化かぁ。キャシーちゃん、やってみる?かなり難しいけど。無理だったら私がやるよ」

 ディスペル呪いの浄化は今までやった事がない。

「やってみます」

 私が言うとサミュエル先生がいとも容易く光魔法で結界を張った。

「結界の中には私も居る。思ったようにやってみなさい」

 お義兄様が結界の中に呪いのアクセサリーを入れた。氷に包まれたブレスレットはどす黒い紫の鎖が幾重にも絡み付いているように見える。

 氷を溶かしてブレスレットをむき出しにする。ブレスレットを持った手が気持ち悪い。何かが浸潤するような感じがする。少しずつ絡み付いた鎖をほどいていく。幾重にも重なって絡み付いた鎖。最後は鎖がコブのようになっていたり絡まって強固な塊になったりしていた。

 ポタリと汗が落ちた。呪いの鎖がその汗に触れて蠢く。

「先生、ブレシングアクア聖恵水を使っても良いですか?」

 視線をブレスレットに固定したまま聞く。

「良いけどいつものじゃ……」

「浄化を込めたブレシングアクア聖恵水です」

「あぁ、うん。それなら……。え?浄化を込めたブレシングアクア聖恵水?」

 手の中にブレシングアクア聖恵水の水球を産み出す。呪いのアクセサリーが水球の中に浮かんだ。浄化を強める。蠢いていた鎖のような呪いにヒビが入って砕け散った。

「出来……ま……した……」

 意識が朦朧とする。魔力を使いすぎて気持ちが悪い。立っていられない。

 誰かに支えられた。そのまま運ばれる。

「よくやってくれた。やっぱりキャシーは自慢の最愛の妹だよ」

 額に柔らかい何かが触れた。その後、冷たい布で顔を拭われる。

「少し休むといい。側に付いているからね」

 そのまま意識が闇に沈んでいった。


 気が付くと自分の部屋のベッドで寝ていた。室内は暗い。ドアが少し開いているようで、そこから薄暗い光の帯が差し込んでいる。手が何かに包まれている気がする。ボーっとしていた意識が徐々に覚醒した。

 頭を動かしてベッド脇を見ると、ローレンスお義兄様のハニーゴールドの髪の毛が見えた。と、すると、ローレンスお義兄様が私の手を握っているんだろうか。

「お義兄様」

 お義兄様がハッと顔を上げる。

「起きたかい?キャシー」

「うん。今、何時頃?」

「今は……、夜の10時頃かな?まだ呼ばれてないから」

「私……」

「例のブレスレットを解呪して、そのまま倒れたんだ。汗だくでね。相当集中して、魔力も使ったんだろうからってサミュエル先生が仰って。ここに運んで寝かせた」

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