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受けを壊してでも手に入れたいヤンデレの鑑
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しおりを挟む僕はいつだって親の言いなりだ。
親の望む通りに動く人形であり、決して逆らわない下僕。
父親は皇帝、母親は皇后、つまり僕は皇太子な訳で。
将来国を背負わなくてはいけない立場にあった。
僕には何の才能もなかった。
父は厳格で、僕に勉強、剣術、ありとあらゆる知識や技術を詰め込んだ。
しかし僕には何一つ秀でるものがなく、だからといって地位を捨ててまで他にやりたいことや確固たる信念なんてものもなく、ただただ言われるがままに父の敷いたレールの上を歩き続けていた。
幼い頃は毎日が辛かった。
宮中は国中で一番煌びやかな場所のはずだが、僕の記憶の中では常に澱んだ空気が流れていた。
父を筆頭にみんなピリピリとした雰囲気だったし、次期皇帝としての教育ばかりで年の近い子と遊ぶ機会もない。
起きてから眠りにつくまで、父の怒号や暴力に耐えるしかなかった。
父はいつだって怒っていて、笑顔を見たことは一度もない。
常に監視され、折檻されていたため、父の顔を見るたびに身体が強張り、頭痛が止まらなかった。
母や宮中の人たちみんな、僕と同じように常に緊張状態だったように思う。
しかし、一番緊張しているように見えたのは、他でもない父だった。
父はいつからか何かに怯えていてて、幾度も僕を責めるたび、『お前のためなんだ、あいつに渡すわけにはいかないんだ』と苦しそうに言っていたが、理由も、あいつというのが誰のことかさえ聞くことは許されなかった。
父さえいなくなれば幸せになれるような気がしていたのに、なぜかそうなるともっと酷いことが起こるような気もしていた。
10年か、20年か。何もできない自分が18歳になってすんなり皇位を継承できるとは思えない。
夜寝るたびに、このまま一生目が覚めなければいいのにと願い、朝起きるたびに、こんな時間が後どのくらい続くのだろうと絶望していた。
終わりは思ったよりも早く訪れた。
「叔父さん!」
「やあノア、元気にしていた?...すまないね、こんなことになって。君はただ巻き込まれただけなのに。」
「ううん、僕は皇太子になりたかったわけじゃないから…むしろ気持ちが楽に、って、これはお父様には内緒ね。」
「わかっているさ。支度は済んだのかい?」
「うん、元々荷物も少ないし。」
「そうか…困ったことがあったらいつでも知らせなさい。私は君の家族なんだから。」
「叔父さん…これから皇帝になる人に気軽に頼むわけにはいかないよ。でも、ありがとう。」
父の皇位が剥奪されてすぐ、異母兄弟の叔父さんが引き継ぐことになったと聞いた。
敷地に建物なんかいくらでもあるし、そこに移動して慎ましく暮らすことになるのかと思っていたが、父の猛反対により、僕だけは留学という形で隣国へと引っ越すことになった。
まあ元皇太子なわけだし、今更国内のどこにいても噂されるのは目に見えている。
僕としては父から離れられるのであれば、どこでもよかった。
この頃には、父と叔父さんがあまり仲が良くないことは何となくわかっていた。
今回のことだけでなく、まあ立場上仲良くなるわけはないとは思うけど、特に父が異常なほどに叔父さんを避けているのは子供の僕でもわかった。
だから何となく、父の前で叔父さんの話は避けてきたし、ましてや会いに行くなんて言えるわけがなかったから、会う時はいつも人目を忍んで会いに行っていた。
叔父さんは僕が唯一心を許せる存在だった。
いつも優しくて、話も上手で、本当に兄と兄弟なのか疑うほどだった。
まあ異母兄弟なわけだし、色々複雑だよね~なんて言って笑い飛ばしていた時もあったっけ。
同じように緊張状態の宮中の人たちに相談もできず、友達のいない僕にとって、叔父さんの存在が唯一の心の拠り所だった。
「叔父さんの子だったらよかったのに。」
「はは、私も息子がこんないい子だったらどんなにいいか。」
叔父さんの息子は僕より3歳年下で、とてもやんちゃな男の子だと聞いている。
叔父さんはこう言ってくれるが、何の才能もなく言いなりの僕よりも、自分のやりたいことや信念があって、そこにひたすら突き進む方が、何だか格好良く思える。
機会が作れず会ったことはないけれど密かに憧れていて、できることならこの国にいるうちに友達になりたかった。
「…じゃあ、行ってくるね。今度会うときまでに、皇帝陛下って呼ぶ練習しておかなきゃ。」
「そんな寂しいことを言わないでくれと言ったじゃないか…本当に行くのかい?」
「うん、お父様の命令だから。」
もう父は皇帝なわけじゃないけれど、父に逆らえないのは今後も同じようだ。
本当は、叔父さんと一緒にいたかったけれど。
さっきのように冗談めかして伝えるのが僕には精一杯だ。
最低限の衣服を詰め込んだ小さなカバンを手に取り、僕は14年住んだ国を後にした。
結論から言うと、僕の学生生活は上手くいかなかった。
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