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泣き顔に興奮する男に囲われたショタの話

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服の裾を握りしめ俯いた目の前の少年は、その仕草がどれほど男を煽るのか知らないのだろう。
少年の足下にある割れたグラスはお気に入りのもので、彼の貰っている給料では到底買うことのできない代物だ。


破片が、キラキラと光る。
その上に、小さな雫が一滴、二滴、


「っご、ぐすっごめ、なさっひぐっ」


嗚咽を漏らす彼。
顔は見えないが、きっと涙や鼻水でぐしょぐしょだろう。


できるならば舐めとりたい。流れてくる液体に舌を這わせ、そのままあの小さな口に捩じ込みたい。
彼の唾液を吸いつくし、代わりに自分の唾液を飲ませたい。



「っひ、っひぐ、ごめ、ごめ、なさぃっぅうっ」


ひたすらぼろぼろと涙を落としてゆく彼。
あぁ、私だったらこんなことすぐに許してやるのに。いや、もう少し泣いている彼を楽しむのも悪くないか?


「新井。」

「はい。」

「この使用人クビ。」

「今月で何回目ですか?」

「仕方ないじゃない。こいつ全然役に立たないし、まさかお気に入りのグラス壊されるなんて思わなかった。」

「そうですか。では。」

「代わりの使用人雇っておいてねー」

「かしこまりました。」


主人から離れ、彼の肩にそっと手を置く。びくりと震える小さな身体。
恐る恐る上げた顔は、やはりぐしょぐしょに濡れていて、無意識に喉が鳴った。


「さぁ、行きますよ?」


何か言いたそうな彼の背中を優しく押し、部屋から出るよう促す。


これからどうしようか。
まずは私の部屋に連れて行こう。優しく慰め、私のために働くように諭し、そして……。


廊下で彼と向き合い、顎を指で掬って不安そうな顔を上に向かせる。

まずは涙を舐め取ってやろう。
そんなことを思いながら、小さな唇に口づけた。


***


「新井、この前クビにしたやつ、どうしたの?あの一番小さかったやつ。」


この主人は時々勘が鋭くて困る。


「この前、屋敷から追い出しましたが?」

「ふーん。」


細くて白い指が菓子をつまみ、口に運ぶ。
これが彼ならば、その動作だけで理性が揺らぐというのに。


「あいつさぁ、連れ戻してよ。」


紅茶を注ぐ動きを一瞬止めてしまったが、主人は菓子に夢中で気づかなかったようだ。


「やはりまた雇いますか?」


冷静に、冷静に。
再び紅茶を注ぎ始める。


「私の結婚相手、いるでしょ?あの人最近男にハマったらしくて」


主人は近々政略結婚をする。互いの家の存続のために、愛などない戸籍のみの繋がり。

主人は同性愛者だ。
恋人は、主人には及ばないが可愛らしい顔立ちで。
とても慎ましく、それでいて芯の通った方だと覚えている。


お互い同性愛者なら、なおさらこの結婚は意味がないものに思える。
主人は恋人を愛しているから、恋人がどれだけ身を引こうと家のためとはいえ決してほかの人間と繋がろうとはしないだろう。


「この前見かけたときに気に入ったんだって。もし辞めさせたのなら是非こちらに、なんて言ってたから。」

「ふふっそうですか。」


あぁ、いけない。
笑みが溢れてしまう。


「楽しそうね?」

「いいえ、なにも。それよりも、おかわりいかがですか?」

「じゃあ貰おうかしら。」


もしかしたら主人にはすべてお見通しかもしれない。
余計に頬が緩んで仕方ない。



***


扉を開けると、嗚咽が聞こえる。
若干急ぎ足で彼のもとへ。


「っひ、ごめっなさ、ぁっ落とし、ちゃっひぐっ」


足元には皿、だった破片が散らばっている。

あぁ、そんなに泣かないでくれ。これでも必死に我慢してるというのに。


「大丈夫。怒ってないよ。怪我はないかい。」

「っけ、けが、は、っひぅ、ないで、す、」


破片を片付けたあと、優しく、ゆっくりと、彼の頭を撫でる。
柔らかい髪の感触が気持ちいい。
彼も撫でられるのが好きなのか、涙は流すものの目を細めて微かに笑う。


「今日、君を欲しいという人の話を聞いたんだけどね」


瞬間、彼の身体が強張る。
今まで柔らかかった表情は、不安で固くなった。


「君が望むなら、ここから出ていってもいいよ?」


頭を撫でていた手を外す。
その瞬間、絶望に染まる彼の表情。

だめだな、顔が緩みそうだ。
堪えろ。
もう少し、もう少しの辛抱。


「どうする?」


彼の答えなど決まっているのに。


「……ぼ、ぼくっ…ぼくはっふ、ぅっ」


またぼろぼろと涙を流し、服の裾を掴む。
力が入りすぎて、普段は白い指先が真っ赤になっていく。


「ゆっくりでいいよ」

「ぅぐっ…っひぐ、ぅ、」


彼の指先に触れる。

もう少し待ちたい。
彼の泣き顔を堪能したい。


しかし、その思いとは裏腹にそろそろ理性が限界なのも確かだ。



「私は、君にここにいてほしいんだ。」


覗きこんだ彼の目は、涙でキラキラと輝いている。


「っひ、ほ、ほんとっ……?」

「あぁ……だめかな?君はここにいたくない?」


彼の目元に指を這わせ、涙を掬いとる。
そのまま自分の指ごと舐めると、情事を思い出したのか、彼の頬が赤くなる。


「ぁ、ぼく、ぼく、こ、ここにいたぃっずっと、ここにいたいよぉっ……!」

「……そうか」


その言葉に満足し、彼の身体を抱きしめる。

そんなこと、わかっているよ。だって、君がどこにも行かないようにしたのは、他でもない私自身なんだ。
精神的にも、肉体的にもね。

彼の太ももに、ゆるく勃ち上がったものを擦りつける。
勢いよく上を向いた彼の顔は真っ赤で、涙に濡れていて。


「ずっと、一緒だよ?」


月並みな言葉だが、彼には十分だ。


「っは、はい!」



笑顔で返事をする彼。
こんな言葉ひとつで喜ぶのなら、これからいくらでも言ってあげるよ。


君はいつまでも私のそばで、私のためだけに涙を流していればいいんだ。
他の人間になんか、渡すわけがない。
彼を誰の目にも映したくないし、彼の目に他の人間を映す必要もない。


彼のためにも、主人のためにも、できるだけ早急にあの婚約者をどうにかする算段を立てるとしよう。


彼の白い指が私の服の裾を掴む。
その仕草に、更に興奮した。

今日はどんなふうに泣かせようか。



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