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ゴツい乙女騎士の俺は傍若無人な冷酷王子に愛されたかっただけなのに

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※少しだけグロ注意。


「ぅわっ!!」

酒場からアルベルトの部屋まで無言で運ばれる俺。
運ばれる最中、街でも王宮内でもたくさんの人たちが漏れなく振り返ってくる。
いつもならその視線が気になるが、今は何も言わないアルベルトが怖くて気にする余裕すらなかった。

部屋に着くや否や、思いきりベッドに放り出される。幸いフカフカのベッドのおかげで怪我はなかったが、いつもと違う乱暴な様子に、酒場でのことを思い出した。
あんなに冷たい声や態度は、初めて会った時以来だ。
俺と知り合ってからは粗暴だという噂も嘘なんじゃないかって思うほど穏やかな日々だったから忘れていた。



「ちょ、ちょっと、おお落ち着けアルベルトっ!!」

「俺は落ち着いてるよ。ね、マルクス、そんなに焦ってどうしたの?」


寝転がった俺に覆い被さるように近づくアルベルトに対し、焦る俺。
いい歳して年下相手に声は震えるし吃るし、情けないったらない。
それでも、さっきとは打って変わっていつもの態度のアルベルトに少し安心する。
多分俺を守ってくれた…んだよな。
探したって言ってたし、やり方は、まああんまり褒められたもんじゃないけど、俺のために行動したってことはわかる。


「その、あー、なんだ、さっきはありがとな。」


今日のことも、今までも、アルベルトは俺をいつも大事にしてくれている。
それは恋じゃないかもしれないが、それでもいいじゃないか。
俺にだけ甘えてくれて、懐いてくれて、いつかは結婚して子供が産まれたって、きっとアルベルトは俺を一番の友達として大事にしてくれるだろう。
これ以上は望んじゃいけない。だって俺は十分幸せ者なんだから。

そりゃあ欲を言えば、恋人にしてほしいし、俺だけを求めてほしい。
でも現実的な話、性別も立場も違うんだから、これ以上を求めるのは不可能だ。


「急にどうしたの、当たり前じゃないか、マルクスは俺の大事なお姫様なんだから。」

「…っ」


そうやっていつも思わせぶりなことを言ってくるから、勘違いしてしまう。
歳だって一回りも違うんだ、ジョークの類に違いない。




「は、はは、アルベルトはいつもそうやって…あー、あの宰相令嬢にも言っているのか?」

「…は?何、誰の話?」


途端に、さっきのような冷たい顔をして不機嫌になるアルベルト。


「だ、誰って…最近いつも一緒にいるだろ、あの可愛らしい、」

「マルクスはああいうタイプが好みなの!?」

「え?い、いや、」

「それともさっき酒場にいたような女!?くそ、やっぱり立てなくなるまでボコボコにしておけばよかった!」

「ア、アルベルト、俺のことじゃなくて、」


そこでどうして俺のタイプの話になるかわからないけれど、質問を誤ったらしいことはわかる。



「どうしてマルクスは俺以外を見るの、どうしたらマルクスは俺のものになるの、こんなに好きなのに伝えてるのにもう我慢も辛いよ、嫌われたくなかったけど、もう我慢の限界、」


俺の話を一切聞かず、捲し立てたアルベルトは、俺のシャツをまるで紙でも破くかのように軽々と引きちぎった。
急にあらわになった胸は女性のような柔らかさなど全くない、平らなもので。
華奢でもなければ色白でもない。加えて元々体毛が多く、ただでさえ人に見せられるような身体じゃないのに好きな人に見られるなんて。
恥ずかしいし仕事終わりだから体臭も気になるし、何よりなんでこんな状態になったのか皆目分からず混乱して声も出ない。

というか、好きって言ったのか?
俺のこと?
そういう意味で好きってことで、いいのか?


「はあ、なんてえっちな身体なんだ、いつも俺がどんな気持ちでこの身体を見てきたかわかる?」


そんなことを言われながら上半身を舐めるように見つめられ、興奮と恥ずかしさで身体が震える。
逃げようにも、アルベルトが上から馬乗りのように乗っているし、隠そうにも服はボロボロにちぎられたため、アルベルトが許すまで身体を晒し続けるしかない。


ずっと夢見てきた。
好きな人が、俺を求めてくれること。
まさか本当に叶うなんて。


「お、俺も、すきだ…」

「!!本当…?」

「嘘なんて、つかない。」

「…って言ったのに…」

「え、何、んんっ!!」


小さい声で呟かれた声は俺の耳まで届かず、代わりにアルベルトの唇が俺の唇と重なる。
ぬるりと侵入してきた舌は熱く、初めての感触と好きな人とキスしているという事実に、俺の脳みそはキャパオーバー。
何度も呼ばれる俺の名前を聞きながら、いつの間にか意識が遠くなるのを感じていた。



***


身体が揺れる感覚で目が覚める。
目の前にはアルベルトが座っていて、どうやら馬車の中にいるようだった。



「おはよう、マルクス。よく眠れたかな?」


その言葉に、瞬時に昨日のことを思い出す。
そうだ、昨日俺、アルベルトとキスしたんだ。
しかも実は両想いだったなんて。だめだ、顔がニヤける。
でも確か昨日はいつも以上にいろんなことを考えていたし、キスしたことでもう何が何だか訳がわからなくなって、それで…


あれ?




「ア、アルベルト…?なんで俺たち、馬車にいるんだ?どこに向かっている?」

「えー、第一声がそれ?俺との熱いキスの感想は?良すぎて気失っちゃったくらいなのに。」

「っ!!」

「せっかくお互いの想いが通じ合ったっていうのに。まあこれから時間はたっぷりあるから、続きは今後ゆっくりとね。」

「つ、続きって…!」

「はは、マルクスは本当にかわいいね。ああそうだ、これ、荷物まとめておいたよ。行き先は俺も実はわからないんだ、できるだけ遠くとしか伝えてないから。」



そう言って上機嫌で俺の荷物を渡してくる。
…どういうことだ?
俺はまだ寝ぼけているのか?


「あー、えっと、何の冗談だ?今日も仕事があるし、お前も公務があるだろう?それとも、急ぎで行かなきゃいけないところなのか?」



そうだとしても、俺が一緒に行かなくてはいけないことなんてないだろうし、そもそもできるだけ遠くなんて、まるで逃げてるような…



「ああ、俺ね、殺してきちゃったの。」


「……え?」



一瞬、何を言われたのか理解ができなかった。


「ベタベタひっついてきたよくわかんない女も、マルクスに嫌がらせしてたやつらも、みーんな殺しちゃった。俺、こんなに好き勝手やってきたのに、兄貴がボンクラなせいで王になっちゃうかもしれなくて。厳重な監視の下、王にって言われた時、思わず笑っちゃった。そんな飼い殺しされるくらいなら、王座なんていらないし。」



こういうの、駆け落ちって言うんだよね、なんて楽しそうに笑っているアルベルトを見ながら、俺は事態を把握しきれなかった。
殺してきた?あの令嬢や、俺に嫌がらせしてきていた騎士たちを?
それで王座を蹴って俺と逃げるって?
何を言ってるんだ?


確かに昨日のアルベルトは恐ろしかった。
でも俺の前ではいつも優しいし、昨日も少し暴力はあったが、あれくらいの喧嘩はアルベルトの噂を聞いていればかわいいものだ。
それがいきなり、殺したって…何で、どうして。


「一番ひっついてきた女は、マルクスと喋ってたから許せなくて。目玉までくり抜いちゃったんだった。ポケットに入れて忘れてた。」

「っ!!!」



ほら、と言いながら手のひらに転がる血まみれの球体を見た瞬間、一気に寒気と吐き気が起こる。


ああ、だめだ、昨日からいろんなことが起こりすぎてまた意識が飛びそうだ。
そんなの。


「や、やってくれなんて頼んでない…」

「…何?」

「だ、だから…やってくれなんて、頼んでない。」


昨日想いを確認して、キスをして、俺のことをちゃんと恋愛として好きでいてくれていると感じた。
お互い好きと言っても、身分や性別の問題もある。
それでも、周りからは認められない関係でも、名前のつかない関係でも、うまくいくんじゃないかと思ったのに。

アルベルトという男が急にわからなくなったことがひたすらに怖い。


「マルクスは優しいね、いいんだよ、俺がしたくてやったことだから。マルクスが心を痛める必要なんかない。」

「ち、ちがう、」


他に方法がいくらでもあったはずなのに。
さっきまでは幸せの絶頂だったのに。
冷酷で残忍な彼と、俺に見せる懐っこい彼。
どちらが本物の彼なのだろうか。


「そんなことするアルベルトとは、い、一緒にいられない、」


好きな気持ちは確かにある。
だが、信頼したい気持ちと、今後彼の何を信じればいいかわからない気持ちで頭がぐちゃぐちゃだ。



「だめだよ、マルクス。」


静かで、それでいて有無を言わさない声に冷や汗が流れる。
ゆっくり俺の腕を掴み、引き寄せる様子が、どこか他人事のように見える。
あれだけ強く願っていた抱擁も、今はただ恐ろしいだけだ。
これが昨日までの俺だったらどんなに嬉しかったか、俺はただ、お前が一番だと言って人並みに愛してもらえればそれでよかったのに。


「放っておいてって言ったのにね。あの日俺を助けたマルクスが悪いんだよ?」



そう言って力強く抱きしめられ、もう何も考ることのできない俺は再び意識を手放した。

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