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しおりを挟む波の働いている研究所に視察に行ってから、一週間が経った。
その日の夜に送ったメッセージに既読がついて以来、波からのアクションはない。
誘いを断られることは何度もあったけど、ちゃんと毎回返信はしてくれていた。
それが、今回に限っては違う。
既読がついた後何時間待っても返信は来ず、寝落ちでもしたのかと思って次の日も何通か送ったのだが、今度は全て未読。
その上、いつ電話をしても電源が入ってないことを伝える機械音しか流れなかった。
きっとあの日、俺のメッセージを見た後、何かが波の身に起きたんだ。
そう思った俺は、渚の研究所に再び足を運んだ。
「…で?渚の居場所を教えろってことですか?アポもなしにお偉いさんが来たから何事かと思えば…」
「突然の訪問になり大変申し訳ありません…ですが、緊急なんです!一週間前から連絡が取れなくて…こちらにも出勤してないですよね?」
この男には見覚えがある。
あの日、俺に所内の案内をした男だ。確か、直前まで波と一緒にいたよな。
以前波から話に聞いていた面倒見のいい先輩とは、多分この男のことだろう。
「…あいつは異動になったんですよ。だから事件とか事故じゃない。これでいいですか?後は個人情報なんで、俺の口からはちょっと。」
大量の資料を抱えながら、俺と一切目を合わせず淡々と話す男。
異動?冗談じゃない。
「ただの異動なら、なんで連絡がつかないんですか。」
「知りませんよ、嫌われてるんじゃないんですか?」
「なっ…!そ、それでも!今まで連絡が返ってこないことはなかった!電話の電源も入ってないみたいだし…仮に異動だったとしてもそっちでトラブルがあったのかもしれない、だから、」
「だから調べろって?こっちも何かと多忙でね、異動処理も正常、何かあったら今の管轄の研究所が動くだろ。もうここでできることは何もないんだよ。わかったら帰ってくれ。」
「……!!」
なんなんだ、この男は。
慕ってくれていた後輩がトラブルに巻き込まれているのかもしれないんだぞ。
心配するどころか、重いんでもう行っていいですかねーなんて言いながら、面倒くさそうな顔を隠しもしない。
「…あんた、浜、だっけ、波の先輩だろ…」
「…だったらなんですか。」
「っ!あんたの後輩に!連絡が取れないって言っているんだよ!!少しは心配にならないのかよ!!」
「……。」
「あいつは言ってたよ、あんたのこと、憧れだって、理想の先輩だって!気にかけてたんだろ、可愛がってたんだろ、あいつのこと!そんなに慕ってくれてた後輩が!!なんで心配じゃないんだよ!!」
ダンッ!!!
男が持っていた資料を机に思い切り置く。
何枚か紙が散らばる様がスローモーションのように見えた。
しばしの沈黙の後、男がゆっくりと口を開く。
「言っただろ、もうできることは何もないんだ、お前にも、俺にもな。」
こちらをじっと見据えたその目に、光はなかった。
「何もかも、手遅れだ。」
***
「波、そろそろご飯にしようか。」
愛しい彼が俺に話しかけるが、俺はそれどころじゃなかった。
「ぅああ、あ、ああ、あ“あ“あ“あ“っ!!!」
最早絶叫に近い声で果てる。
ベッドに繋がれ、アナルと尿道にそれぞれバイブを入れられ、所長が満足するまで快楽だけを与えられる。
それが俺の毎日。
相変わらず部屋は俺の写真だらけで、自分に見守られながらイキまくる様は異様としか言いようがないだろう。
もう何日経ったのかわからない。
初めは所長の変わりようにひどく怯えた。
あんなに俺に厳しかった所長が、毎日俺に微笑み、宝物のように俺をこの家に閉じ込める。
何か企みがあるように思えて仕方なかった。
基本的にずっと手錠をつけられているため、ご飯は所長が食べさせてくれないと食べられず、トイレやお風呂も所長が助けてくれないとままならない。
毎日情けなさと恥ずかしさで死にたくなった。
一週間ほど経った頃に泣いて謝った。
何を考えてるかわからないがここから出してほしい、最悪出さなくてもいいからせめて自分のことは自分でやりたい、そう伝えた。
すると、今まで浮かべていた所長の笑顔が消え、部屋の物を壊し始めた。
椅子を持ち上げて壁に投げつけ、キッチンにあった皿をどんどん床に叩きつけていく。
観葉植物は折れ、カーテンは破れ、次はいつ自分がああなるんじゃないかって恐ろしくて身体を縮こまらせた。
「波、波、波はいい子だよねえ。」
暴れ尽くした所長が俺の顔を覗き込む。
「今までずっと自由にしてあげてたんだから、これからは俺の言うこと聞けるよね?」
その問いかけに弱々しく頷くと、満面の笑みで俺を抱きしめる所長。
仕事も何一つまともにこなせない俺が、所長に失望されまくってた俺が、所長を笑顔にしている。
そうか、俺が言うことを聞けば、所長はずっと笑ってくれるんだ。
その日から、所長の言う全てを受け入れた。
服はいらないから全裸。
トイレはペットシートを敷いて、目の前で排泄。
ご飯は所長の口移しで、お風呂などその他の事も、もう手錠がなくても自分でやろうと思わなくなった。
しばらくすると、快楽を与えられるようになった。
毎日所長のことを考えてオナニーしていた俺を、所長自ら慰めてくれる。
怖くて自分ではできなかったアナルも、細いバイブから丁寧に拡張し、今では所長のサイズのバイブまで入れられるようになった。
尿道バイブを入れられた時は流石に少し焦ったが、すぐに快感でどうでも良くなった。
所長は仕事の合間に何度か家に帰ってきては、バイブを抜いて排泄を観察したり、俺のバイタルチェックをして再び仕事に戻る。
家にいる間は寂しくないようにと、ずっとバイブで快感を与えられ続けている。
「今日は合計で6回イッたね、昨日より少ないけど、あまり体調が良くないかな?」
イキ果てて脱力している俺のバイブを抜きながら、話しかける所長。
指一本も動かせない俺を見てにっこり笑う。
「それとも、そろそろバイブじゃ物足りなくなっちゃった?」
そう言って俺の手を取り、自分の下腹部を触らせる。
そこは今にもはち切れそうなほど主張していて、もう何も出せないはずの俺のちんぽがぴくりと反応する。
「あは、可愛い波、本当にいやらしくて最高だよ。」
体液まみれの俺の身体を抱きしめ、耳元に唇を寄せる所長。
そういえば、と耳元で囁く。
「この前研究所に波の同級生が来たらしいよ。」
一瞬、渚の笑顔が頭をよぎった。
俺の唯一の親友で、底抜けに性格が良くて、こんな俺にもったいないくらい、本当にいい友達。
だが、答えは決まっている。
「…どうでも、いい、です…。」
叫びすぎたため掠れた声しか出なかったが、しっかり伝わったようだ。
途端に抱きしめる腕に力が籠る。
「そうだよね、波には俺だけいればいいもんね。愛してるよ、波。」
所長が喜ぶなら、俺は別に何もいらない。
家族も、友達も、同僚も、何もかも。
好きな人が自分だけを見てくれる、この幸せを手放さないためなら、俺の持っているもの全部あげる。
渚ならなんて言うかな。
そんなの本当の愛じゃないって言うかな。
でもそれなら。
「おれ、も、あいしてます、 美海さん…」
本当の愛なんていらない。
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