51 / 92
51.クリスマスケーキ
しおりを挟む
クリスマスっていうと、日本じゃカップルのイベントって感じだよな。
俺は一人ベッドの上でスマホの画面に真奈美の写真を映し出す。
付き合い始めて初めてのクリスマスだっていうのに、真奈美に何もしてやれない申し訳なさが募る。
真奈美も俺に遠慮してか、クリスマスの話はしてこなかった。でも来年は一緒に過ごせるといいな。
そんな事を思いながらスマホの画面を見ていると、看護師の園田さんが入ってきて慌ててスマホを隠す。
ニコニコ顔で入ってきた園田さんは、手に持っていた袋を俺に向かって差し出した。
「メリークリスマース! 颯斗君!」
「あ、それサンタクロースからの!?」
それはさっき守が持っていた袋だった。やっぱりプレゼントを目の前にすると、少し期待してしまう。
「はい、どうぞ!」
「ありがとう!」
ワクワクとしながら開けて……俺はそのまま袋を閉じた。
何だよふざけんなよマジかよッ
何で俺のだけ勉強用のプリントがいっぱい入ってんだよ!!
「どうしたの、颯斗君」
「あのサンタクロース、夢を持ってくるどころか悪夢を持ってきやがったー!」
「どれどれ? あはは、勉強道具ばっかりだね」
園田さんは袋を覗いてそう言ったけど、笑い事じゃない。クリスマスプレゼントがプリントとか、貰って喜ぶ奴なんかいないだろ! まぁもしかしたらいるかもしれないけど、俺は勉強は嫌いなんだってのっ。
「まぁ、あのサンタクロースは山長先生だから仕方ないねぇ」
「やまなが? 誰それ」
「誰それって、院内学級の先生でしょ!」
「院内学級……ええ!! 山チョー先生!?」
「そうそう」
うわー、あのサンタクロース、山チョー先生だったんだ。そうとは知らずにはしゃいじゃって、ちょっと恥ずかしいな。
っていうか、山チョー先生って山長って名前だったんだ。なんだ、山チョーのチョーって、長いって字を音読みしただけか。単純だな。
「まさか山チョー先生だったとはなぁ……どっかのじいさんがサンタクロースになってるのかと思った」
「山長先生は年々メイクも上達してるからね。知らない人が見たら、おじいさんに見えちゃうかもね」
「でもだからって、プレゼントにプリントを作るとかしなくても良いのになぁ」
「颯斗君の事を心配してくれてるんだよ、きっと」
うーん。まぁ確かに俺は、心配されるような成績でしかないけど。
俺はもう一度袋を開いてプリントを見た。手作りのそれは、俺の苦手な部分の強化を図ってくれていることが容易に分かる。
これを山チョー先生は作ってくれたんだもんな……俺のために。
「……勉強、するか……」
「偉い!じゃ、もう一つクリスマスプレゼント!」
「何?これ以上プリントはいらないよ」
「違う違う、これはボランティアさんから!」
そいう言われて差し出された封筒を開けてみる。
中には手書きのカラフルなイラストと、メリークリスマスの文字が書かれていた。差出人は書かれてない。
これ、わざわざ書いてくれた人がいるんだな。
病院でクリスマスを過ごす子供達の為に。少しでもクリスマスが明るいものであるようにって。
その手紙を見るとちょっと胸が熱くなって、無くさないようにきっちりと仕舞った。
「颯斗君は今日、ケーキを作れなかったから残念だったね」
唐突の園田さんの言葉に目を丸める。ケーキを、しかも作るとか。無理だろ。
「誰か、ケーキ作ったのか?」
「うん、マモちゃんとユウ君も作ってたよ」
「え!? どうやって??」
「志保美先生と沙知先生がスポンジと生クリームを持ってきてね。スプーンで生クリームを塗って、上にはアンジェリカやドレンチェリーを乗せてたよ」
うわあ、そんな事やったんだ。いいなぁ俺もちょっとやりたかった。まぁ保育士さんは部屋に入れないから無理だったんだろうけど。そもそもケーキを作っても、俺は食べられないし……ってあれ?
「その作ったケーキはだれが食べたんだ? 守はともかく、裕介はもう生禁だろ?」
生物禁止の時には生クリームはダメだ。裕介も年明けに臍帯血移植を控えてるから、もう生物は食べられないはずだ。
「食べられない子は、親が食べるんだよ。まぁ作らせておいて食べさせないとか、ちょっとかわいそうだけどね」
ああ、裕介はせっかくケーキを飾り付けしたのに、自分で食べられなかったんだなって事が分かった。子供の作ったものを取り上げて食べなきゃいけない木下さんもかわいそうだ。
言っちゃ悪いけど、裕介は守ほど聞き分けがよくないもんな。ケーキを取り上げられて、泣きそうになってる裕介を容易に想像する事ができる。まぁ、仕方ないんだけど。
俺たちはちょっと特殊だから食べられないけど、他の入院してる子供達は喜んだだろうな。
俺も来年は生クリームたっぷりのケーキを食べよう。
もちろん、家族や真奈美と一緒に……な。
俺は一人ベッドの上でスマホの画面に真奈美の写真を映し出す。
付き合い始めて初めてのクリスマスだっていうのに、真奈美に何もしてやれない申し訳なさが募る。
真奈美も俺に遠慮してか、クリスマスの話はしてこなかった。でも来年は一緒に過ごせるといいな。
そんな事を思いながらスマホの画面を見ていると、看護師の園田さんが入ってきて慌ててスマホを隠す。
ニコニコ顔で入ってきた園田さんは、手に持っていた袋を俺に向かって差し出した。
「メリークリスマース! 颯斗君!」
「あ、それサンタクロースからの!?」
それはさっき守が持っていた袋だった。やっぱりプレゼントを目の前にすると、少し期待してしまう。
「はい、どうぞ!」
「ありがとう!」
ワクワクとしながら開けて……俺はそのまま袋を閉じた。
何だよふざけんなよマジかよッ
何で俺のだけ勉強用のプリントがいっぱい入ってんだよ!!
「どうしたの、颯斗君」
「あのサンタクロース、夢を持ってくるどころか悪夢を持ってきやがったー!」
「どれどれ? あはは、勉強道具ばっかりだね」
園田さんは袋を覗いてそう言ったけど、笑い事じゃない。クリスマスプレゼントがプリントとか、貰って喜ぶ奴なんかいないだろ! まぁもしかしたらいるかもしれないけど、俺は勉強は嫌いなんだってのっ。
「まぁ、あのサンタクロースは山長先生だから仕方ないねぇ」
「やまなが? 誰それ」
「誰それって、院内学級の先生でしょ!」
「院内学級……ええ!! 山チョー先生!?」
「そうそう」
うわー、あのサンタクロース、山チョー先生だったんだ。そうとは知らずにはしゃいじゃって、ちょっと恥ずかしいな。
っていうか、山チョー先生って山長って名前だったんだ。なんだ、山チョーのチョーって、長いって字を音読みしただけか。単純だな。
「まさか山チョー先生だったとはなぁ……どっかのじいさんがサンタクロースになってるのかと思った」
「山長先生は年々メイクも上達してるからね。知らない人が見たら、おじいさんに見えちゃうかもね」
「でもだからって、プレゼントにプリントを作るとかしなくても良いのになぁ」
「颯斗君の事を心配してくれてるんだよ、きっと」
うーん。まぁ確かに俺は、心配されるような成績でしかないけど。
俺はもう一度袋を開いてプリントを見た。手作りのそれは、俺の苦手な部分の強化を図ってくれていることが容易に分かる。
これを山チョー先生は作ってくれたんだもんな……俺のために。
「……勉強、するか……」
「偉い!じゃ、もう一つクリスマスプレゼント!」
「何?これ以上プリントはいらないよ」
「違う違う、これはボランティアさんから!」
そいう言われて差し出された封筒を開けてみる。
中には手書きのカラフルなイラストと、メリークリスマスの文字が書かれていた。差出人は書かれてない。
これ、わざわざ書いてくれた人がいるんだな。
病院でクリスマスを過ごす子供達の為に。少しでもクリスマスが明るいものであるようにって。
その手紙を見るとちょっと胸が熱くなって、無くさないようにきっちりと仕舞った。
「颯斗君は今日、ケーキを作れなかったから残念だったね」
唐突の園田さんの言葉に目を丸める。ケーキを、しかも作るとか。無理だろ。
「誰か、ケーキ作ったのか?」
「うん、マモちゃんとユウ君も作ってたよ」
「え!? どうやって??」
「志保美先生と沙知先生がスポンジと生クリームを持ってきてね。スプーンで生クリームを塗って、上にはアンジェリカやドレンチェリーを乗せてたよ」
うわあ、そんな事やったんだ。いいなぁ俺もちょっとやりたかった。まぁ保育士さんは部屋に入れないから無理だったんだろうけど。そもそもケーキを作っても、俺は食べられないし……ってあれ?
「その作ったケーキはだれが食べたんだ? 守はともかく、裕介はもう生禁だろ?」
生物禁止の時には生クリームはダメだ。裕介も年明けに臍帯血移植を控えてるから、もう生物は食べられないはずだ。
「食べられない子は、親が食べるんだよ。まぁ作らせておいて食べさせないとか、ちょっとかわいそうだけどね」
ああ、裕介はせっかくケーキを飾り付けしたのに、自分で食べられなかったんだなって事が分かった。子供の作ったものを取り上げて食べなきゃいけない木下さんもかわいそうだ。
言っちゃ悪いけど、裕介は守ほど聞き分けがよくないもんな。ケーキを取り上げられて、泣きそうになってる裕介を容易に想像する事ができる。まぁ、仕方ないんだけど。
俺たちはちょっと特殊だから食べられないけど、他の入院してる子供達は喜んだだろうな。
俺も来年は生クリームたっぷりのケーキを食べよう。
もちろん、家族や真奈美と一緒に……な。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる