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47.食べたい料理
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「おおお……お好み焼きだ……」
「颯斗君、お好み焼き嫌いだった?」
「ううん、めっちゃ大好き!!」
初めてのこってり食は、なんとお好み焼きだった。
満月のような綺麗な丸いお好み焼きの上で、鰹節が踊っている。ホカホカだ。うん、今すぐかぶりつこう!!
俺はすぐにお好み焼きをお箸でひっつかんで口に入れる。ソースの濃い味とキャペツのたっぷり入った生地が合わさって、まさにお好み焼きの味だった。
「どう?」
「うん、美味しいっ」
もしかしたらまた味がおかしくなってるんじゃないかと思ったけど、濃いソースのおかげか、ちゃんとお好み焼きの味がした。
そりゃ、いつもの味覚と比べればちょっと物足りない感じはするけど、いつもの薄味の病院食と比べたら、十分に食べられる。本当に良かった。こってり食を提案してくれた園田さんに感謝だな。
それからもチャーハンやラーメンだったり、カツ丼、オムライス、カレー……今までに出てこなかったメニューがどんどん出てきた。俺はいつもの和風な病院食も嫌いじゃない。けど、こういう味のついたご飯を食べるのは久しぶりで嬉しかった。
まぁ毎日こんな感じだと飽きそうだけどな。飽きる前に味覚障害が治ってくれればいいけど。
けど、俺が食欲を取り戻したのも束の間……
今度はそのこってり食を残す事態に陥ってしまった。
「口、開けてみて」
小林先生にそう言われて、俺は口を『あ』の字に開く。
「うわぁ、いっぱい出来てますね。すごく大きいのもある。これは痛いですねぇ」
そう言いながらも少し口の端が上がっているドS先生。
ああーー、痛い。
俺の口の中は、これでもかというほど口内炎が出来てしまったのだ。こんなにたくさん一気に、しかも中には一センチくらいありそうなデカい口内炎もある。
たかが口内炎程度で大袈裟な、と言われるかもしれないけど、何を食べても染みるし歯が当たって痛いしで泣きそうだ。
「まぁ抗がん剤に放射線治療に骨髄移植と色々やってますからね。こういう影響は出て来ますよ。塗り薬を出しておくんで、食後に塗っておいてくださいね」
「え、塗るって……口ん中に?」
「そうですよ」
うわぁ、口の中に薬を塗るとか……初めての体験だ。やだなぁ。気持ち悪そう。
「あと、口の中は清潔に保って下さいね。痛いからと言って歯磨きをさぼるのは厳禁ですよ」
指摘する小林先生の言葉にうなだれる。痛いんだよ、歯磨きすると……ブラシが口内炎に当たって、飛び上がるくらいに。
「これ、いつ治る?」
「大丈夫、そのうち治りますよ」
だからそのうちっていつだよーーっ
早く治ってくれ……ようやくこってり食でご飯を残さず食べられるようになったのに、振り出しに戻ってしまった。
もう退院したい。家に帰って、母さんの手料理をお腹いっぱい食べたい。
……もうちょっとの辛抱だ。頑張れ、俺。
小林先生が出て行ってから、俺は母さんに電話を掛けた。
母さんは、弱音を吐いてもいいって言ってくれてたんだ。黙って我慢するより吐き出してしまった方が楽になれるって事に、ようやく気付いた。
これを言う事で母さんの心に負担を掛けちゃうんじゃないかとも思ったんだけど。何も言わない方が、母さんに心配を掛けてる気もして。
呼び出し音が数度鳴ると、『はいっ』と言う声が耳に飛び込んでくる。
「もしもし、母さん?」
『どうしたの、颯斗。何かあった!?』
母さんの驚いた声。あんまり俺から電話かけないもんな。
「大した事じゃないんだけど……いっぱい口内炎出来ちゃってさ。今、痛くて食事があんまり取れないんだ」
俺が正直にそい告げると、母さんは一度大きく息を吸い込んだ音がして。
『大した事あるじゃないの!! 強がらなくていいの!! 口内炎!? 酷いの!?』
怒涛の勢いで問われ、思わず電話越しにコクコク頷く。
「う、うん。五箇所くらい出来て、一センチくらいにデカいのもあるよ」
『ああ……可哀想に……それは痛いわね……よしよし』
言葉だけで実際に撫でられてるわけじゃないんだけど、何となくそんな気配を感じてクスっと笑ってしまった。こうやって気持ちを分かってもらえるだけで、心は随分と軽くなる。
「それで……なんか、母さんの料理が恋しくなっちゃってさ……」
ちょっと照れたけど、俺は本心を伝えた。前回の外泊以来、母さんの料理を食べていない。こんなに長い間食べていないのは、初めての事だ。
別に母さんは料理上手ってわけじゃない。あれこれ家事をしながら料理を作ってるせいか、焦げてる事もよくある。
でも俺は、そんな母さんの料理が食べたくて仕方なかった。
『分かった! 何食べたい? 颯斗の食べたい物、退院したら何だって作ってあげる!』
「うん。じゃあ具沢山の豚汁と、牛すじの土手煮。あと肉じゃがとタコの酢味噌和えとー」
『相変わらず和食が好きねぇ』
呆れたような声と同時に笑い声が上がった。
別に、ハンバーグとかシチューとかカレーが嫌いなわけじゃない。けど母さんの手料理と言われると、どうしても和食ばかりが浮かんでくる。
「今言ったの、全部作ってよ」
『分かった分かった! 退院したら絶対作るから、ちゃんと全部食べるのよ?』
「うん、勿論!」
味覚障害でも口内炎が出来ていても、今母さんの料理を出されたら、完食出来そうな気がするな。
早く食べたい。母さんの、手料理。
想像すると唾が湧いてきて、今日の晩ご飯はいつもより多く食べられそうだなって思った。
「颯斗君、お好み焼き嫌いだった?」
「ううん、めっちゃ大好き!!」
初めてのこってり食は、なんとお好み焼きだった。
満月のような綺麗な丸いお好み焼きの上で、鰹節が踊っている。ホカホカだ。うん、今すぐかぶりつこう!!
俺はすぐにお好み焼きをお箸でひっつかんで口に入れる。ソースの濃い味とキャペツのたっぷり入った生地が合わさって、まさにお好み焼きの味だった。
「どう?」
「うん、美味しいっ」
もしかしたらまた味がおかしくなってるんじゃないかと思ったけど、濃いソースのおかげか、ちゃんとお好み焼きの味がした。
そりゃ、いつもの味覚と比べればちょっと物足りない感じはするけど、いつもの薄味の病院食と比べたら、十分に食べられる。本当に良かった。こってり食を提案してくれた園田さんに感謝だな。
それからもチャーハンやラーメンだったり、カツ丼、オムライス、カレー……今までに出てこなかったメニューがどんどん出てきた。俺はいつもの和風な病院食も嫌いじゃない。けど、こういう味のついたご飯を食べるのは久しぶりで嬉しかった。
まぁ毎日こんな感じだと飽きそうだけどな。飽きる前に味覚障害が治ってくれればいいけど。
けど、俺が食欲を取り戻したのも束の間……
今度はそのこってり食を残す事態に陥ってしまった。
「口、開けてみて」
小林先生にそう言われて、俺は口を『あ』の字に開く。
「うわぁ、いっぱい出来てますね。すごく大きいのもある。これは痛いですねぇ」
そう言いながらも少し口の端が上がっているドS先生。
ああーー、痛い。
俺の口の中は、これでもかというほど口内炎が出来てしまったのだ。こんなにたくさん一気に、しかも中には一センチくらいありそうなデカい口内炎もある。
たかが口内炎程度で大袈裟な、と言われるかもしれないけど、何を食べても染みるし歯が当たって痛いしで泣きそうだ。
「まぁ抗がん剤に放射線治療に骨髄移植と色々やってますからね。こういう影響は出て来ますよ。塗り薬を出しておくんで、食後に塗っておいてくださいね」
「え、塗るって……口ん中に?」
「そうですよ」
うわぁ、口の中に薬を塗るとか……初めての体験だ。やだなぁ。気持ち悪そう。
「あと、口の中は清潔に保って下さいね。痛いからと言って歯磨きをさぼるのは厳禁ですよ」
指摘する小林先生の言葉にうなだれる。痛いんだよ、歯磨きすると……ブラシが口内炎に当たって、飛び上がるくらいに。
「これ、いつ治る?」
「大丈夫、そのうち治りますよ」
だからそのうちっていつだよーーっ
早く治ってくれ……ようやくこってり食でご飯を残さず食べられるようになったのに、振り出しに戻ってしまった。
もう退院したい。家に帰って、母さんの手料理をお腹いっぱい食べたい。
……もうちょっとの辛抱だ。頑張れ、俺。
小林先生が出て行ってから、俺は母さんに電話を掛けた。
母さんは、弱音を吐いてもいいって言ってくれてたんだ。黙って我慢するより吐き出してしまった方が楽になれるって事に、ようやく気付いた。
これを言う事で母さんの心に負担を掛けちゃうんじゃないかとも思ったんだけど。何も言わない方が、母さんに心配を掛けてる気もして。
呼び出し音が数度鳴ると、『はいっ』と言う声が耳に飛び込んでくる。
「もしもし、母さん?」
『どうしたの、颯斗。何かあった!?』
母さんの驚いた声。あんまり俺から電話かけないもんな。
「大した事じゃないんだけど……いっぱい口内炎出来ちゃってさ。今、痛くて食事があんまり取れないんだ」
俺が正直にそい告げると、母さんは一度大きく息を吸い込んだ音がして。
『大した事あるじゃないの!! 強がらなくていいの!! 口内炎!? 酷いの!?』
怒涛の勢いで問われ、思わず電話越しにコクコク頷く。
「う、うん。五箇所くらい出来て、一センチくらいにデカいのもあるよ」
『ああ……可哀想に……それは痛いわね……よしよし』
言葉だけで実際に撫でられてるわけじゃないんだけど、何となくそんな気配を感じてクスっと笑ってしまった。こうやって気持ちを分かってもらえるだけで、心は随分と軽くなる。
「それで……なんか、母さんの料理が恋しくなっちゃってさ……」
ちょっと照れたけど、俺は本心を伝えた。前回の外泊以来、母さんの料理を食べていない。こんなに長い間食べていないのは、初めての事だ。
別に母さんは料理上手ってわけじゃない。あれこれ家事をしながら料理を作ってるせいか、焦げてる事もよくある。
でも俺は、そんな母さんの料理が食べたくて仕方なかった。
『分かった! 何食べたい? 颯斗の食べたい物、退院したら何だって作ってあげる!』
「うん。じゃあ具沢山の豚汁と、牛すじの土手煮。あと肉じゃがとタコの酢味噌和えとー」
『相変わらず和食が好きねぇ』
呆れたような声と同時に笑い声が上がった。
別に、ハンバーグとかシチューとかカレーが嫌いなわけじゃない。けど母さんの手料理と言われると、どうしても和食ばかりが浮かんでくる。
「今言ったの、全部作ってよ」
『分かった分かった! 退院したら絶対作るから、ちゃんと全部食べるのよ?』
「うん、勿論!」
味覚障害でも口内炎が出来ていても、今母さんの料理を出されたら、完食出来そうな気がするな。
早く食べたい。母さんの、手料理。
想像すると唾が湧いてきて、今日の晩ご飯はいつもより多く食べられそうだなって思った。
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