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30.みんなの夢は
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夕飯を食べた後プレイルームに行くと、守と祐介が遊んでいた。
「あ、ハヤトくん。気分は大丈夫?」
「うん、まぁ良くはないけどそんなに悪くもないよ」
斎藤さんが俺に気付いてそう声を掛けてくれた。
気分悪い気分悪いと言ってると本当に悪くなってくる気がするので、なるべく悪くないと言うようにしている。まぁ前回オンコビンを使った時に比べると、かなりマシなのは確かだからな。こうやってプレイルームに遊びに来ようって気が出てくるのは確かだし。
「ハヤトおにいちゃん、あそぼー!」
「ハヤトおにちゃ、あそぶーっ!」
守と祐介がブロックで遊んでいたので、俺もそれに混ざった。
「何作ってたんだ?」
「ぼくね、ひこうき!」
「お、ホントだ。守、上手いなーっ」
「ユウくんはね、おしゅししゃー!」
「へ? おしゅししゃ?」
何を言ってるか分からず、助けを求めて木下さんの方を見ると、苦笑いしながら「お寿司屋さんの事」とおしえてくれた。
「あー、お寿司屋さんか! これカウンター? これが椅子だな、成程!」
「これマグオー!」
「マグロくれんのか。いただきまーす! モグモグモグ……うん、美味い!」
マグロの寿司に見立てたブロックを食べる真似をすると、祐介は目を糸のように細くして笑っている。その顔を見るだけで、俺の心は自然とほっこりした。やっぱりこの二人に夢を聞いておきたい。俺はブロックを適当に組み合わせながら話しかける。
「なぁなぁ、守と祐介は大きくなったら何になるんだ?」
「ぼくね、お医者さんになるー!」
「おお、すごいな、医者かー!!」
守の大きな声に、たまたま通りかかった小林先生が反応してプレイルームを覗きに来た。
「おや、守くんは医者になりたいんですか?」
「うん!!」
「先生達の姿を見て、すっかり憧れちゃって」
少し離れたところから斎藤さんが先生に説明している。小林先生はまんざらでもなさそうにニヤっと笑っていた。
「それは嬉しいですね。じゃあいつか、守くんと一緒に働ける日が来るかもしれませんね」
「うんっ! 先生待っててね!」
「待ってますよ。勉強頑張ってくださいね」
「分かったー!」
入院して医者になりたいって思う子供が本当に居るんだな。俺は入院しててもちっとも医療関係に進みたいとは思わなかった。勿論めちゃくちゃ感謝はしてるけど、俺には注射とか摘便とか出来そうにないしやりたくない。
医者になるって色々大変そうだけど、守には本当に頑張って貰いたいな。
俺は小林先生と顔を合わせてニコニコしている守から、次に祐介へと視線を移した。
「祐介は何になるんだ?」
「えっとねー、ユウくんはねー」
そう言って祐介は少し悩んでから。
「しょうぼうしゃになるーー!」
「しょ、消防車!?」
祐介の答えに、プレイルームはどっと笑い声で満たされた。木下さんだけは恥ずかしそうに顔を隠してたけど。
「消防士、じゃなくてか?」
「しょうぼうしゃー。うーかんかんかんっていうのー」
そりゃあ間違いなく消防車だな。将来の夢は消防車。すげえ斬新だな! 初めて聞いたぞ、そんな夢!!
「そっか、消防車かっこいいもんな!」
「うんっ」
「なれるといいな!」
「うん、ユウくん消防車なるーっ」
うーん、まぁなれないとは思うけど、目指す事は悪くないはずだ! 祐介は将来なんになるのか、めちゃくちゃ楽しみだ。退院しても絶対に連絡を取り続けていこう。
プレイルームの時間が終わると、皆と別れて病室に戻る。するとすぐに看護師の園田さんが入って来た。
「誰も看護師って言ってくれなかったなぁ~」
園田さんは俺の血圧を測りながらそんな事を呟いている。
「園田さんは何で看護師になったんだ?」
「私? 一応建前は、人の役に立ちたくて、だよ?」
「建前? じゃあ本当は……」
「高校の時に見たドラマに影響されて!」
「っぶ! なんだよそれーっ」
ドラマの影響とか、めっちゃ園田さんらしい。ケタケタ笑っていると「颯斗くんは?」と聞かれてしまった。
「え、何が?」
「将来はサッカー選手でしょ? どうしてなりたいと思ったの?」
「どうしてって……」
サッカー選手になりたいと思った理由。そんなのは深く考えた事なかった。
「うーん? 小一の頃からずっとサッカーやってたからなぁ。俺、勉強得意なわけじゃないし、他にやりたい事があるわけじゃないし」
「どうしてサッカー始めたの?」
「ちょうどワールドカップやってたんだよな。テレビ中継見て、それの影響。サッカーやってみたいって言ったら、父さんが少年サッカーのチームに入れるように色々手配してくれたんだ」
「ワールドカップの影響? だからプロサッカー選手を目指してるんだね!」
そう言われると確かに、あれがなかったらサッカー選手を目指してたかどうか分かんないな。
「テレビを見て夢が決まったって、俺も園田さんと変わんなかったな」
「夢なんて、結構単純な理由だったりするものなのかもね」
「かもな!」
単純な理由だったとしても、夢があればいいんだ。ないよりは、きっと。未来が広がる。
「園田さんは夢が叶った時、嬉しかった?」
「そりゃあこの病院に勤務が決まった時は嬉しかったよ~! でも余韻に浸る暇なんてなくて、毎日必死!」
「看護師さんって大変そうだもんなぁ。そういや今日、朝からずっといないっけ?」
「今日はロングだから、朝八時から夜九時までなの」
「っげ、十三時間労働!?」
「あ、勿論ちゃんと休み時間はあるよ!」
「そりゃそうだろ……」
いくら休み時間があっても、長時間拘束って大変そうだ。看護師には夜勤もあるし、本当に大変な仕事だよな。絶対にミスは許されないんだろうし、心も体も強くないと出来ない気がする。
看護師さんって本当に凄いよなぁ。色々世話になってるのもあって、心から尊敬出来る職種だ。
俺は絶対に看護師にはなれないな。まぁなる気もないんだけど。
でも、夢が叶って一生懸命に働いてる園田さんはキラキラして見えた。こんな事を言うとまた真奈美に嫉妬されるかもしれないけど。
やっぱり夢を持って努力する事って大事だよな。俺は夢、叶うかな。いや、絶対叶える!
病気を持っていてもプロで活躍しているスポーツ選手は沢山いるんだ。俺にだってきっと出来るはず。
夢っていうのは、きっと希望だ。
俺たち患者にとっては特に。
闘病中は夢を持って生きた方が良いんだ。大きな事でも、小さな事でもなんでも。
マツバはどんな夢を描いてるんだろう。
俺は気になって気になって、園田さんが出て言った後にスマホのロックを解除した。
「あ、ハヤトくん。気分は大丈夫?」
「うん、まぁ良くはないけどそんなに悪くもないよ」
斎藤さんが俺に気付いてそう声を掛けてくれた。
気分悪い気分悪いと言ってると本当に悪くなってくる気がするので、なるべく悪くないと言うようにしている。まぁ前回オンコビンを使った時に比べると、かなりマシなのは確かだからな。こうやってプレイルームに遊びに来ようって気が出てくるのは確かだし。
「ハヤトおにいちゃん、あそぼー!」
「ハヤトおにちゃ、あそぶーっ!」
守と祐介がブロックで遊んでいたので、俺もそれに混ざった。
「何作ってたんだ?」
「ぼくね、ひこうき!」
「お、ホントだ。守、上手いなーっ」
「ユウくんはね、おしゅししゃー!」
「へ? おしゅししゃ?」
何を言ってるか分からず、助けを求めて木下さんの方を見ると、苦笑いしながら「お寿司屋さんの事」とおしえてくれた。
「あー、お寿司屋さんか! これカウンター? これが椅子だな、成程!」
「これマグオー!」
「マグロくれんのか。いただきまーす! モグモグモグ……うん、美味い!」
マグロの寿司に見立てたブロックを食べる真似をすると、祐介は目を糸のように細くして笑っている。その顔を見るだけで、俺の心は自然とほっこりした。やっぱりこの二人に夢を聞いておきたい。俺はブロックを適当に組み合わせながら話しかける。
「なぁなぁ、守と祐介は大きくなったら何になるんだ?」
「ぼくね、お医者さんになるー!」
「おお、すごいな、医者かー!!」
守の大きな声に、たまたま通りかかった小林先生が反応してプレイルームを覗きに来た。
「おや、守くんは医者になりたいんですか?」
「うん!!」
「先生達の姿を見て、すっかり憧れちゃって」
少し離れたところから斎藤さんが先生に説明している。小林先生はまんざらでもなさそうにニヤっと笑っていた。
「それは嬉しいですね。じゃあいつか、守くんと一緒に働ける日が来るかもしれませんね」
「うんっ! 先生待っててね!」
「待ってますよ。勉強頑張ってくださいね」
「分かったー!」
入院して医者になりたいって思う子供が本当に居るんだな。俺は入院しててもちっとも医療関係に進みたいとは思わなかった。勿論めちゃくちゃ感謝はしてるけど、俺には注射とか摘便とか出来そうにないしやりたくない。
医者になるって色々大変そうだけど、守には本当に頑張って貰いたいな。
俺は小林先生と顔を合わせてニコニコしている守から、次に祐介へと視線を移した。
「祐介は何になるんだ?」
「えっとねー、ユウくんはねー」
そう言って祐介は少し悩んでから。
「しょうぼうしゃになるーー!」
「しょ、消防車!?」
祐介の答えに、プレイルームはどっと笑い声で満たされた。木下さんだけは恥ずかしそうに顔を隠してたけど。
「消防士、じゃなくてか?」
「しょうぼうしゃー。うーかんかんかんっていうのー」
そりゃあ間違いなく消防車だな。将来の夢は消防車。すげえ斬新だな! 初めて聞いたぞ、そんな夢!!
「そっか、消防車かっこいいもんな!」
「うんっ」
「なれるといいな!」
「うん、ユウくん消防車なるーっ」
うーん、まぁなれないとは思うけど、目指す事は悪くないはずだ! 祐介は将来なんになるのか、めちゃくちゃ楽しみだ。退院しても絶対に連絡を取り続けていこう。
プレイルームの時間が終わると、皆と別れて病室に戻る。するとすぐに看護師の園田さんが入って来た。
「誰も看護師って言ってくれなかったなぁ~」
園田さんは俺の血圧を測りながらそんな事を呟いている。
「園田さんは何で看護師になったんだ?」
「私? 一応建前は、人の役に立ちたくて、だよ?」
「建前? じゃあ本当は……」
「高校の時に見たドラマに影響されて!」
「っぶ! なんだよそれーっ」
ドラマの影響とか、めっちゃ園田さんらしい。ケタケタ笑っていると「颯斗くんは?」と聞かれてしまった。
「え、何が?」
「将来はサッカー選手でしょ? どうしてなりたいと思ったの?」
「どうしてって……」
サッカー選手になりたいと思った理由。そんなのは深く考えた事なかった。
「うーん? 小一の頃からずっとサッカーやってたからなぁ。俺、勉強得意なわけじゃないし、他にやりたい事があるわけじゃないし」
「どうしてサッカー始めたの?」
「ちょうどワールドカップやってたんだよな。テレビ中継見て、それの影響。サッカーやってみたいって言ったら、父さんが少年サッカーのチームに入れるように色々手配してくれたんだ」
「ワールドカップの影響? だからプロサッカー選手を目指してるんだね!」
そう言われると確かに、あれがなかったらサッカー選手を目指してたかどうか分かんないな。
「テレビを見て夢が決まったって、俺も園田さんと変わんなかったな」
「夢なんて、結構単純な理由だったりするものなのかもね」
「かもな!」
単純な理由だったとしても、夢があればいいんだ。ないよりは、きっと。未来が広がる。
「園田さんは夢が叶った時、嬉しかった?」
「そりゃあこの病院に勤務が決まった時は嬉しかったよ~! でも余韻に浸る暇なんてなくて、毎日必死!」
「看護師さんって大変そうだもんなぁ。そういや今日、朝からずっといないっけ?」
「今日はロングだから、朝八時から夜九時までなの」
「っげ、十三時間労働!?」
「あ、勿論ちゃんと休み時間はあるよ!」
「そりゃそうだろ……」
いくら休み時間があっても、長時間拘束って大変そうだ。看護師には夜勤もあるし、本当に大変な仕事だよな。絶対にミスは許されないんだろうし、心も体も強くないと出来ない気がする。
看護師さんって本当に凄いよなぁ。色々世話になってるのもあって、心から尊敬出来る職種だ。
俺は絶対に看護師にはなれないな。まぁなる気もないんだけど。
でも、夢が叶って一生懸命に働いてる園田さんはキラキラして見えた。こんな事を言うとまた真奈美に嫉妬されるかもしれないけど。
やっぱり夢を持って努力する事って大事だよな。俺は夢、叶うかな。いや、絶対叶える!
病気を持っていてもプロで活躍しているスポーツ選手は沢山いるんだ。俺にだってきっと出来るはず。
夢っていうのは、きっと希望だ。
俺たち患者にとっては特に。
闘病中は夢を持って生きた方が良いんだ。大きな事でも、小さな事でもなんでも。
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