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27.良い報告は
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俺はスマホ片手に、更新されたコメント欄を確認した。
『ハヤトは大丈夫か?』
マツバに心配のコメントを寄せると、逆に心配されてしまっていたのだ。
四クール目が始まって一週間。気分は……当然良く無い。
『吐きそうだし、また摘便の世話になりそうだ。でも前回よりは大分マシだよ』
『そうか、良かったな』
『マツバはどうなんだよ?』
『こっちは……相変わらずだ』
相変わらず、という事は、今も下痢が続いているんだろう。
ちょっと長過ぎないか? 一体いつになったら落ち着くんだろう。ずっと下痢って辛いだろうな……。
俺はどうなるんだろう。リナみたいに順調に回復出来ればいいけど。いや、そもそも、俺に提供者《ドナー》が見つかるかが問題なんだよな。
そんな事を考えていると、トントンとノックの音がした。
「颯斗くん、具合はどうですか」
そう言いながらカーテンを開けて入ってきたのは小林先生だ。
「うん、まぁ……悪いけど、酷くは無い、かな。今んところ」
「そうですか。まぁ顔色も前回ほど悪くはないし、このまま続けていきましょう」
気分悪い、最悪だって言っても、どうせこのまま続けるくせにな。まぁ思ったほど酷くならなかったのは助かった。気分が悪いのはやっぱり辛いけど、前回よりはよっぽどマシだ。
「今日はひとつ良い報告がありますよ」
「え、何?」
「颯斗くんのドナーが決まりました」
小林先生の言葉に、俺は目を丸めた。
ドナー。骨髄を提供してくれるドナーが見つかった。いや、見つかったって言葉はおかしいかもしれない。何人かの候補がいたようで、そのうちの一人が最終同意してくれたって事なんだから。
でもこれで、ようやく……ようやく……!!
「小林先生、ホントに!?」
「本当ですよ。既に検査も済ませて、提供に問題はないという事も分かっています」
体の奥からぐわっと熱いものが込み上げてくる。
良かった……本当に良かった。提供してくれる人に、本当に感謝だ!
「誰、どこに住んでる人!?」
「詳しいことは教えられないんですよ。ああ、でも一つだけ教えられる事が」
「何?!」
「その方は、男性ですよ」
ドナーは俺と同じ男らしい。それを聞いてちょっと安心した。血液情報だけ女になるっていうのが、無意識のうちに拒否してたのかもしれない。
もしもドナーが女の人だったとしても、嬉しいには違いないんだけど。
「あ、ありがとうございますっ!!」
「お礼はドナーになってくれる人にね」
「え? でも誰かは教えて貰えないんじゃ」
「コーディネーター経由で二回だけ手紙のやりとりが出来ますから」
「書く!! 今すぐ書く!!」
「ちょっと待って。色々手順があるんで、まずは颯斗くんとご両親、それに僕と移植コーディネーターさんとで話さないといけませんから。その時に直接コーディネーターさんに聞いてみてください」
「分かった!!」
男だって事以外は何も分からない相手だけど、それでもこの感謝の気持ちを伝えられるっていうのが嬉しかった。出来れば直に会ってありがとうって言いたいところだ。なのになんで相手の情報を教えてくれないのかが不思議だった。
小林先生が出てった後、俺は「よっしゃーーーー!!」と両拳を高く突き上げる。
ホッとした。心底ホッとした。
骨髄移植さえ出来れば、もう治療は終盤だ。
ドナーが現れたんだ。絶対上手くいく。俺は元気に退院出来る。
そう思うと居ても立っても居られなくて、すぐさま母さんに電話を掛けた。
「母さん!! ドナー、見つかったよ! 俺に提供してくれる人、いたよ!!」
通話が開始されるなり、叫ぶように伝える。
ずっと怖かったんだ。骨髄バンクに登録した人達には、実はその意思がないんじゃないのかって。
どんな事をするのか知らずに登録して、知った途端に拒否する人が多いんじゃないかって。
だから俺は、ドナーになるって決意をしてくれた人に、心から感謝した。
『ドナーが……本当に!?』
「本当だって! 今度詳しく説明あるみたいだから、父さんと母さんがそろって病院に来て欲しいって言ってた!」
『そう、分かった……良かったねぇ、颯斗……本当に良かった……』
携帯の向こうから、母さんの鼻をすする音が聞こえた。
母さんも俺と同じで不安だったのかもしれない。これでようやくひとつ安心する事が出来た。
ーーそう、思っていた。
『ハヤトは大丈夫か?』
マツバに心配のコメントを寄せると、逆に心配されてしまっていたのだ。
四クール目が始まって一週間。気分は……当然良く無い。
『吐きそうだし、また摘便の世話になりそうだ。でも前回よりは大分マシだよ』
『そうか、良かったな』
『マツバはどうなんだよ?』
『こっちは……相変わらずだ』
相変わらず、という事は、今も下痢が続いているんだろう。
ちょっと長過ぎないか? 一体いつになったら落ち着くんだろう。ずっと下痢って辛いだろうな……。
俺はどうなるんだろう。リナみたいに順調に回復出来ればいいけど。いや、そもそも、俺に提供者《ドナー》が見つかるかが問題なんだよな。
そんな事を考えていると、トントンとノックの音がした。
「颯斗くん、具合はどうですか」
そう言いながらカーテンを開けて入ってきたのは小林先生だ。
「うん、まぁ……悪いけど、酷くは無い、かな。今んところ」
「そうですか。まぁ顔色も前回ほど悪くはないし、このまま続けていきましょう」
気分悪い、最悪だって言っても、どうせこのまま続けるくせにな。まぁ思ったほど酷くならなかったのは助かった。気分が悪いのはやっぱり辛いけど、前回よりはよっぽどマシだ。
「今日はひとつ良い報告がありますよ」
「え、何?」
「颯斗くんのドナーが決まりました」
小林先生の言葉に、俺は目を丸めた。
ドナー。骨髄を提供してくれるドナーが見つかった。いや、見つかったって言葉はおかしいかもしれない。何人かの候補がいたようで、そのうちの一人が最終同意してくれたって事なんだから。
でもこれで、ようやく……ようやく……!!
「小林先生、ホントに!?」
「本当ですよ。既に検査も済ませて、提供に問題はないという事も分かっています」
体の奥からぐわっと熱いものが込み上げてくる。
良かった……本当に良かった。提供してくれる人に、本当に感謝だ!
「誰、どこに住んでる人!?」
「詳しいことは教えられないんですよ。ああ、でも一つだけ教えられる事が」
「何?!」
「その方は、男性ですよ」
ドナーは俺と同じ男らしい。それを聞いてちょっと安心した。血液情報だけ女になるっていうのが、無意識のうちに拒否してたのかもしれない。
もしもドナーが女の人だったとしても、嬉しいには違いないんだけど。
「あ、ありがとうございますっ!!」
「お礼はドナーになってくれる人にね」
「え? でも誰かは教えて貰えないんじゃ」
「コーディネーター経由で二回だけ手紙のやりとりが出来ますから」
「書く!! 今すぐ書く!!」
「ちょっと待って。色々手順があるんで、まずは颯斗くんとご両親、それに僕と移植コーディネーターさんとで話さないといけませんから。その時に直接コーディネーターさんに聞いてみてください」
「分かった!!」
男だって事以外は何も分からない相手だけど、それでもこの感謝の気持ちを伝えられるっていうのが嬉しかった。出来れば直に会ってありがとうって言いたいところだ。なのになんで相手の情報を教えてくれないのかが不思議だった。
小林先生が出てった後、俺は「よっしゃーーーー!!」と両拳を高く突き上げる。
ホッとした。心底ホッとした。
骨髄移植さえ出来れば、もう治療は終盤だ。
ドナーが現れたんだ。絶対上手くいく。俺は元気に退院出来る。
そう思うと居ても立っても居られなくて、すぐさま母さんに電話を掛けた。
「母さん!! ドナー、見つかったよ! 俺に提供してくれる人、いたよ!!」
通話が開始されるなり、叫ぶように伝える。
ずっと怖かったんだ。骨髄バンクに登録した人達には、実はその意思がないんじゃないのかって。
どんな事をするのか知らずに登録して、知った途端に拒否する人が多いんじゃないかって。
だから俺は、ドナーになるって決意をしてくれた人に、心から感謝した。
『ドナーが……本当に!?』
「本当だって! 今度詳しく説明あるみたいだから、父さんと母さんがそろって病院に来て欲しいって言ってた!」
『そう、分かった……良かったねぇ、颯斗……本当に良かった……』
携帯の向こうから、母さんの鼻をすする音が聞こえた。
母さんも俺と同じで不安だったのかもしれない。これでようやくひとつ安心する事が出来た。
ーーそう、思っていた。
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