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10.真奈美に電話
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トゥルルル、と五度ほど鳴った後、『はいっ』と元気な声がした。
「もしもし、真奈美?」
『颯斗くん!?』
さすがは真奈美、すぐに俺だと分かってくれた。オレオレ詐偽だと勘違いした母さんとは大違いだ。
『どど、どうしたの!? スマホ、買ったの!?』
「うん、さっき父さんが買ってくれたんだ」
『そうなんだ、良かったね! 私も連絡できるの嬉しいっ!』
相変わらず元気で通りの良い声が心地いい。耳から入った真奈美の言葉が、脳に伝って優しく刺激してくれる。
『遠いからお見舞いにも行けなくて……ごめんね』
「いいよいいよ、部活だってあるだろ」
『でも今度、お見舞い行くからっ』
「うーん、でも来て貰っても会えないかも。中学生以下は小児病棟に入っちゃいけないし、俺もいつ小児病棟から出られなくなるか分からないし」
『……っ、そう、なんだ……』
明らかに真奈美の声のテンションが落ちた。
申し訳ないなって思うと同時に、そんなに俺に会いたかったのかって分かって、可愛いさが増した。
病気になってなければ、一緒に海とか行ってたかもしれない。せっかく付き合い始めて初めての夏休みだっていうのに、夏祭りとかも一緒に行けなくて寂しいだろうな。
「ごめんな、真奈美」
『ううん、それより体調はどうなの?』
「それほど悪くないよ」
『治るん……だよね?』
「大丈夫、治すから! 昔ほど死亡率って高くないんだってさ。今はいい薬とか治療法があるって言ってた」
『そっかぁ、良かった! 白血病で検索したら色々出て来たから怖くなっちゃって……』
「心配するなよ! まぁ、今年は無理だけど、さ……」
『え、何?』
「その……来年は、一緒に海行ったり祭り行ったりしような!」
うわ、照れる。何か恥ずい。
電話の向こうの真奈美は一瞬息を詰まらせた後。
『うん! 絶対、絶対、約束だよ!』
「絶対、約束する」
『ありがとう……颯斗くん、大好き……っあ、言っちゃった!』
照れながら慌てる様子が脳ですぐさま再生できる。
俺の彼女、可愛すぎるんですけど!?
「うん、知ってる。告白された時に聞いたから」
でもそんな事は言えず、つい素っ気なく返してしまう俺。
『……颯斗くんは?』
「え?」
『颯斗くんは、私の事……好き?』
うわ、こういう質問って本当にされるんだ!
そう言えば、俺もずっと好きだったのに言った事なかったな。
「お、俺も……」
やばい、声が掠れる。心臓ばくばく。
すでに両想いでも、初めて気持ちを伝える時って緊張するんだな。真奈美はどれだけ緊張して、俺に想いを伝えてくれたんだろう。俺も、ちゃんと真奈美に伝えておかないと。
「俺も真奈美の事が好……」
ふと現れる二つの影。
スマホを耳につけたまま見上げると、そこには二人の看護師さんの姿が……
二人は俺の方を見て、ニヤッと笑った。
「ちょっ!!」
「あら~、お邪魔しちゃった?」
「ノックしろよっ!!」
「したわよ。気付かなかった?」
気付かなかった!! ぜんっぜん気付かなかったっ!!
俺は慌ててスマホに向かって叫ぶ。
「ごめん、真奈美っ! 今看護師さんが来て……っ」
『ええ??』
「また今度かける!! じゃあなっ」
俺はそのままピッと通話を切った。
「えー、そのまま続けてくれて良かったのに~。点滴交換とお熱と血圧と酸素を測りに来ただけだったんだから~」
「続けられるかーっ!」
「『真奈美、俺もお前の事が……』」
「うわーーーーーーーーッ」
ヤメテッ!! マジでやめてくれぇぇぇええええッ!!
俺の気も知らず、二人の女看護師はクスクス笑っている。
「やだ、青春ーっ」
「なになに、彼女~?」
「そ、そうだよっ」
「わー、リア充だ! 羨ましい~!」
「爆ぜちゃえー!」
「あ、お熱と血圧は落ち着いてからにする? すごい数字出ちゃうと困るし」
「だ、大丈夫だってっ」
俺は体温計を奪い取って脇に挟み、酸素飽和度を測るサチュレーションを指に挟まれた。腕はシュコーシュコープシューという音と共に血圧が測られる。
「あーやっぱり血圧がちょっと高ーい。もうちょっと後で、また測りに来るからねー」
「それまでに落ち着いておいてね~?」
くっそう、何も言えねぇ。
二人の看護師はニヤニヤ笑いながら病室を出て行った。
また後でくる……いつくらいだろう。俺はスマホを見て溜め息を吐いた。
真奈美にちゃんと好きだって言ってやれなかったな。またいつ誰が入ってくるかも分からないし、今日の電話は終わりにしておこう。
俺はベッドに寝転がってスマホをいじり始めた。また徐々に喜びが湧いてくる。
ようやく! 憧れの! スマホ!!
これひとつあれば、本当にパソコンとか要らないよな。これで何でも調べられるし。
俺はゲームの攻略サイトでも見ようかと、検索画面で手を止める。
確か……真奈美は白血病の事を調べたって言っていた。どんな事が書かれてるのか、気になる。
俺の指はいつの間にか『白血病』と打っていた。
そこで知ったのは、白血病というのは不治の病だったという事だ。昔は一〇〇パーセント、死亡する病気だったらしい。
それが骨髄移植という治療法が出来てマシになった。でも骨髄移植というのはHLAっていう型が合わないとダメらしい。兄弟間での一致は四分の一、それ以外での一致は数万分の一。
つまり昔は骨髄バンクに登録している人も少なかったために、骨髄移植という治療法があっても生存率が急激に上がるようなものではなかった。兄弟間で一致しなければ、絶望的な病気だった事に違いはない。
その後、末梢血造血幹細胞移植や臍帯血移植という方法も確立。
白血病に効く抗がん剤や飲み薬も開発され、生存率が伸びて今に至る。
生存率ほぼゼロだった病気が、ここ三十年くらいで六十パーセントにまで伸びていた。
もちろん白血病にも色々と種類があるし、発症した年齢によってもっと低かったり高かったりする。
でもゼロだったのが六十パーセント。それってすごい。今の時代に生まれていて良かった。三十年前に生まれてたら治療法が無かったんだと思うとゾッとする。
百パーセントじゃないっていうのは不安だけど、それでも。俺は生きられる気がした。何の根拠もないけど。
だって、三十年で六十パーセントにまで伸びてるって事は、あと十年もすればもっと良い薬が出来て百パーセントになってるかもしれないじゃないか。とりあえず今という峠さえ越せれば、きっと爺さんになるまで生きられる。そんな気がする。
俺は次に、自分が疾患している『急性骨髄性白血病』と検索した。するとある人のブログが目に止まり、ポチッと開いてみる。
「ハンドルネーム『マツバ』、高校生……急性骨髄性白血病撃退記」
俺はそれを最初から夢中で読んだ。高校生二年生『マツバ』の闘病記が生々しく、しかもリアルタイムで書かれている。まさに今、闘病している人だ。
俺は思わずその人の最新記事のコメント欄に打ち込んだ。
『初めまして。中学生二年生のハヤトです。俺も同じ急性骨髄性白血病になって病院で過ごす事になりました』
たったそれだけの一文だったけど、すぐにレスがつく。
『ハヤトくん、一緒に頑張ろうな!』
最初はたったそれだけのやりとりだったけど、すっごく嬉しかった。
どんな治療にも前向きなマツバの姿勢に俺は力を貰えた気がして、それからは毎日更新される彼のブログをチェックするのが日課となっていった。
「もしもし、真奈美?」
『颯斗くん!?』
さすがは真奈美、すぐに俺だと分かってくれた。オレオレ詐偽だと勘違いした母さんとは大違いだ。
『どど、どうしたの!? スマホ、買ったの!?』
「うん、さっき父さんが買ってくれたんだ」
『そうなんだ、良かったね! 私も連絡できるの嬉しいっ!』
相変わらず元気で通りの良い声が心地いい。耳から入った真奈美の言葉が、脳に伝って優しく刺激してくれる。
『遠いからお見舞いにも行けなくて……ごめんね』
「いいよいいよ、部活だってあるだろ」
『でも今度、お見舞い行くからっ』
「うーん、でも来て貰っても会えないかも。中学生以下は小児病棟に入っちゃいけないし、俺もいつ小児病棟から出られなくなるか分からないし」
『……っ、そう、なんだ……』
明らかに真奈美の声のテンションが落ちた。
申し訳ないなって思うと同時に、そんなに俺に会いたかったのかって分かって、可愛いさが増した。
病気になってなければ、一緒に海とか行ってたかもしれない。せっかく付き合い始めて初めての夏休みだっていうのに、夏祭りとかも一緒に行けなくて寂しいだろうな。
「ごめんな、真奈美」
『ううん、それより体調はどうなの?』
「それほど悪くないよ」
『治るん……だよね?』
「大丈夫、治すから! 昔ほど死亡率って高くないんだってさ。今はいい薬とか治療法があるって言ってた」
『そっかぁ、良かった! 白血病で検索したら色々出て来たから怖くなっちゃって……』
「心配するなよ! まぁ、今年は無理だけど、さ……」
『え、何?』
「その……来年は、一緒に海行ったり祭り行ったりしような!」
うわ、照れる。何か恥ずい。
電話の向こうの真奈美は一瞬息を詰まらせた後。
『うん! 絶対、絶対、約束だよ!』
「絶対、約束する」
『ありがとう……颯斗くん、大好き……っあ、言っちゃった!』
照れながら慌てる様子が脳ですぐさま再生できる。
俺の彼女、可愛すぎるんですけど!?
「うん、知ってる。告白された時に聞いたから」
でもそんな事は言えず、つい素っ気なく返してしまう俺。
『……颯斗くんは?』
「え?」
『颯斗くんは、私の事……好き?』
うわ、こういう質問って本当にされるんだ!
そう言えば、俺もずっと好きだったのに言った事なかったな。
「お、俺も……」
やばい、声が掠れる。心臓ばくばく。
すでに両想いでも、初めて気持ちを伝える時って緊張するんだな。真奈美はどれだけ緊張して、俺に想いを伝えてくれたんだろう。俺も、ちゃんと真奈美に伝えておかないと。
「俺も真奈美の事が好……」
ふと現れる二つの影。
スマホを耳につけたまま見上げると、そこには二人の看護師さんの姿が……
二人は俺の方を見て、ニヤッと笑った。
「ちょっ!!」
「あら~、お邪魔しちゃった?」
「ノックしろよっ!!」
「したわよ。気付かなかった?」
気付かなかった!! ぜんっぜん気付かなかったっ!!
俺は慌ててスマホに向かって叫ぶ。
「ごめん、真奈美っ! 今看護師さんが来て……っ」
『ええ??』
「また今度かける!! じゃあなっ」
俺はそのままピッと通話を切った。
「えー、そのまま続けてくれて良かったのに~。点滴交換とお熱と血圧と酸素を測りに来ただけだったんだから~」
「続けられるかーっ!」
「『真奈美、俺もお前の事が……』」
「うわーーーーーーーーッ」
ヤメテッ!! マジでやめてくれぇぇぇええええッ!!
俺の気も知らず、二人の女看護師はクスクス笑っている。
「やだ、青春ーっ」
「なになに、彼女~?」
「そ、そうだよっ」
「わー、リア充だ! 羨ましい~!」
「爆ぜちゃえー!」
「あ、お熱と血圧は落ち着いてからにする? すごい数字出ちゃうと困るし」
「だ、大丈夫だってっ」
俺は体温計を奪い取って脇に挟み、酸素飽和度を測るサチュレーションを指に挟まれた。腕はシュコーシュコープシューという音と共に血圧が測られる。
「あーやっぱり血圧がちょっと高ーい。もうちょっと後で、また測りに来るからねー」
「それまでに落ち着いておいてね~?」
くっそう、何も言えねぇ。
二人の看護師はニヤニヤ笑いながら病室を出て行った。
また後でくる……いつくらいだろう。俺はスマホを見て溜め息を吐いた。
真奈美にちゃんと好きだって言ってやれなかったな。またいつ誰が入ってくるかも分からないし、今日の電話は終わりにしておこう。
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これひとつあれば、本当にパソコンとか要らないよな。これで何でも調べられるし。
俺はゲームの攻略サイトでも見ようかと、検索画面で手を止める。
確か……真奈美は白血病の事を調べたって言っていた。どんな事が書かれてるのか、気になる。
俺の指はいつの間にか『白血病』と打っていた。
そこで知ったのは、白血病というのは不治の病だったという事だ。昔は一〇〇パーセント、死亡する病気だったらしい。
それが骨髄移植という治療法が出来てマシになった。でも骨髄移植というのはHLAっていう型が合わないとダメらしい。兄弟間での一致は四分の一、それ以外での一致は数万分の一。
つまり昔は骨髄バンクに登録している人も少なかったために、骨髄移植という治療法があっても生存率が急激に上がるようなものではなかった。兄弟間で一致しなければ、絶望的な病気だった事に違いはない。
その後、末梢血造血幹細胞移植や臍帯血移植という方法も確立。
白血病に効く抗がん剤や飲み薬も開発され、生存率が伸びて今に至る。
生存率ほぼゼロだった病気が、ここ三十年くらいで六十パーセントにまで伸びていた。
もちろん白血病にも色々と種類があるし、発症した年齢によってもっと低かったり高かったりする。
でもゼロだったのが六十パーセント。それってすごい。今の時代に生まれていて良かった。三十年前に生まれてたら治療法が無かったんだと思うとゾッとする。
百パーセントじゃないっていうのは不安だけど、それでも。俺は生きられる気がした。何の根拠もないけど。
だって、三十年で六十パーセントにまで伸びてるって事は、あと十年もすればもっと良い薬が出来て百パーセントになってるかもしれないじゃないか。とりあえず今という峠さえ越せれば、きっと爺さんになるまで生きられる。そんな気がする。
俺は次に、自分が疾患している『急性骨髄性白血病』と検索した。するとある人のブログが目に止まり、ポチッと開いてみる。
「ハンドルネーム『マツバ』、高校生……急性骨髄性白血病撃退記」
俺はそれを最初から夢中で読んだ。高校生二年生『マツバ』の闘病記が生々しく、しかもリアルタイムで書かれている。まさに今、闘病している人だ。
俺は思わずその人の最新記事のコメント欄に打ち込んだ。
『初めまして。中学生二年生のハヤトです。俺も同じ急性骨髄性白血病になって病院で過ごす事になりました』
たったそれだけの一文だったけど、すぐにレスがつく。
『ハヤトくん、一緒に頑張ろうな!』
最初はたったそれだけのやりとりだったけど、すっごく嬉しかった。
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