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03.病院の中の施設
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昨日の夜はグダグダ考えてたけど、気付いたらいつの間にか眠ってた。
結構図太いんだな、俺。まだあんまり実感がないっていうのが本音だけど。
「おはよう、颯斗君。お熱と血圧計らせてね。あと胸の音も聞くからー」
入って来たのは俺の担当の看護師だっていう園田さん。背が低いけど、テキパキしてそうな女の人だ。
「どこか痛い所とか変な所とかなーい?」
「うん、別に……多分大丈夫だと思う」
「何かあったらすぐに呼んでね。今日はカテーテル通す処置と、採精があるから」
「さいせい?」
「精子を採ってもらう事。不妊外来が空いた時間に声かけるね」
若い看護師さんに精子とか言われて、カアッと顔が熱くなる。看護師さんは精子とかいうの慣れてるんだろうけど、言われるのは恥ずかしいっ。
「今日は忙しくなるかもしれないから、朝のうちにお風呂入っといてもらえる?」
その問いに俺がコクっと頷くと、「じゃあ九時になったらナースステーションに順番取りに来て」と言われた。
九時少し前にナースステーションに行くも、担当の園田さんがいない。キョロキョロとしていると、男の看護師さんが俺に気付いて声を掛けてくれた。若いイケメンの看護師だ。
「何かな?」
「えーと、お風呂の順番を取りに来たんですけど」
「ああ、ちょっと待ってね。うん、どの時間でも空いてるよ。何時にする?」
「じゃあ、今からで」
「ここのお風呂使うの初めてだっけ?」
「はい」
「じゃあ説明しとくよ」
そう言ってイケメン看護師は風呂場まで連れて行ってくれた。
使うときは『使用中』に札を切り替えるだけで、内側から鍵は掛けない事。時間は一人二十分厳守。湯船にお湯は張らない。使うのは衛生上シャワーのみだ。
「今日、カテーテル通した後はその部分を保護しなきゃいけないからね、お風呂に入る十分前には看護師を呼ぶようにしてくれる?」
「分かりました」
俺は素早く服を脱いでシャワーを浴びた。シャワーだけっていうのは何か味気ない。お風呂にゆっくり浸かりたい。
浴槽に入れないのが八ヶ月続くとか考えただけで、ちょっとゲソっとするな。
風呂を出て、部屋で何をしようかと悩んでいると、担当の園田さんが現れた。
「あ、ごめんね、もうお風呂に入ったんだってね。仲本君に聞いた」
「仲本……? ああ、あのイケメンの?」
「そうそう。どう、スッキリした?」
「うん、さっぱりした」
「良かった。カテーテルの処置まで時間あるから、それまで補助師さんに院内を案内して貰うように頼んだから。あ、来た来た」
今度は濃い緑色の制服を着たオバちゃんが現れた。おばあちゃん一歩手前と言った感じの人だ。俺はペコリと頭を下げる。
「颯斗君、宜しくね。今からざっと中を案内するから付いて来て」
言われるがまま、俺はオバちゃんの後に付いて歩いた。オバちゃんはナースステーションの近くの広い部屋の前で止まる。
「ここがプレイルーム。誰でも使っていいけど、時間帯は決められてるからちゃんと守ってね」
中では小さな子供達がオモチャをひっくり返して遊んでいる。ブロックやプラレールや、ままごとのセットやらたくさんオモチャがあるようだった。本棚にも沢山の絵本や小説が並んでいるみたいで、俺と同い年くらいの子は本を読んでいたりボードゲームなんかをしていた。
「こっちには洗濯機と乾燥機が置いてあるから、利用して。テレビカードで使用できるから」
「テレビカードって、どこに売ってるんですか?」
「それはこっち」
オバちゃんは小児病棟の出入口に向かった。透明なガラスの扉があって、その手前の左壁の上にあるボタンを指差す。
「出る時はここを長押しね。鍵が開くから。小さな子供達が勝手に出て行かないよう気をつけるのと、不審者が入って来ないようにすぐ締める事」
「はい」
扉が閉まると、勝手に鍵がカチャッと締まった。
「戻る時はインターホンがあるから、そこで自分の名前を言うと開けて貰えるようになってるの。いちいち面倒だけど、お願いね」
そう言って指差された小児科のインターホン前には、大きな注意書きがしてある。
『院内感染予防のため、小児病棟での面会は高校生以上の血縁者のみとさせていただいています。十五歳以下の面会はご遠慮ください』
十五歳以下の面会はだめ?!
って事は俺、香苗に会えないのか?!
「オバちゃ……じゃなくて、えーと」
「あはは、オバちゃんでいいよ。何?」
「俺、小学生の妹が居るんだけど、会っちゃダメって事?」
「ああ」
オバちゃんは俺の視線の先が注意書きに行っているのに気付いて、ニコッと笑った。
「面談室っていうところがあるからそれを利用するか、ここでも会えるよ」
小児病棟を出たすぐに椅子や机の置かれた大きなスペースがあった。そっか、俺がここに出て来て会えば良いだけか。俺はホッと胸を撫で下ろす。
「ここはデイルームね。自動販売機もあるし、テレビカードも売ってあるから。こっちには電子レンジ、これは熱湯が出るからカップラーメン作れるよ。ゴミはここね。カン・ビン、ちゃんと分別お願いね」
デイルームを出ると今度はエレベーターに乗り、五階まで降りる。
少し歩くと、今度は扉にごちゃごちゃと色んな装飾がされた所に辿り着いた。そこには大きく『院内学級』と書かれている。院内学級って、小児病棟の中にあるんじゃないんだな。
「ここがね、院内学級。多分小林先生が、体調の良い時は通いなさいって言ってくれると思うよ。ちょっと挨拶だけしてこようか」
俺が何かを答える前に、オバちゃんは扉をノックして「失礼しまーす」と入って行った。俺も慌てて後に続く。
何かこういう学校系って無駄に緊張するのは俺だけかな。
「お、こんにちは! 新顔だな、何て名前?」
中からは結構ガタイの良い男の先生が気さくに話しかけてくる。生徒の人数は十人も居らず、全員好き勝手にガヤガヤやっている雰囲気があった。
「島田颯斗です」
「ハヤトな! 俺は山チョー先生だ! よろしくな!」
何かテンション高い先生だ。うっれしそうにニカニカやって来たと思ったら、俺の手をギュギューっと握ってくる。はっきり言って暑苦しい。
「教科書は? 今日は見学だけか?」
「今日は処置があるらしくって、案内しただけなのよ。山チョー先生、またよろしくお願いしますね」
「そうか、じゃあハヤト、また来いよ!」
オバちゃんの説明に山チョー先生は俺の頭をガシガシと撫でて、大きな声で笑った。ちょっと鬱陶しそうな先生だけど、悪い人じゃなさそうだ。
その後俺は、一階にある売店の場所を教えて貰ってから小児病棟に戻って来た。
「これで大体必要なところは教えられたかな? あ、そうそう、そこの清潔室には先生の指示がない限り、絶対に開けたり入ったりしないでね」
「分かった。オバちゃん、ありがとう」
「また分からない事があったらなんでも聞いて」
オバちゃんは最後にウインクをして去って行った。
すごく丁寧で良いオバちゃんだったけど、最後のウインクだけは余計だったかな……。
病室に戻ると、母さんが来ていた。部屋の中の荷物を綺麗にあれこれと片付けている。
「母さん、早かったね」
「あ、颯斗。調子はどう?」
「うん、大丈夫。それより母さん、院内学級って所で勉強しなきゃいけないんだってさ。今度教科書持って来て」
「もう持って来たわよ」
そう言うと、母さんはどでんと俺の教科書とノートを椅子の上に置いた。
「……用意良いね……」
「当然でしょう? ちゃんと勉強しなさいよ!」
「ふぇーい」
一人で勉強なんてできる気はしないから、山チョー先生の所に通うか。あの人どっちかって言うと俺と同じ体育会系の匂いがするんだけど、ちゃんと勉強教てくれんのかな。
「一応必要そうな物は全部持って来たんだけど……」
「足りなかったらまたその時に言うよ」
そんな事を話していると、コンコンとノックがして園田さんが入って来る。
「颯斗君、処置室行こうか。あ、颯斗君のお母さん、いらっしゃったんですね。今から颯斗君のカテーテルの処置が始まりますから、処置室前で待っていてもらえますか?」
ああ、考えないようにしてたけど、また何かするんだよな。仕方ない、腹括るか……。
俺は重い足取りで母さんと一緒に処置室に向かった。
結構図太いんだな、俺。まだあんまり実感がないっていうのが本音だけど。
「おはよう、颯斗君。お熱と血圧計らせてね。あと胸の音も聞くからー」
入って来たのは俺の担当の看護師だっていう園田さん。背が低いけど、テキパキしてそうな女の人だ。
「どこか痛い所とか変な所とかなーい?」
「うん、別に……多分大丈夫だと思う」
「何かあったらすぐに呼んでね。今日はカテーテル通す処置と、採精があるから」
「さいせい?」
「精子を採ってもらう事。不妊外来が空いた時間に声かけるね」
若い看護師さんに精子とか言われて、カアッと顔が熱くなる。看護師さんは精子とかいうの慣れてるんだろうけど、言われるのは恥ずかしいっ。
「今日は忙しくなるかもしれないから、朝のうちにお風呂入っといてもらえる?」
その問いに俺がコクっと頷くと、「じゃあ九時になったらナースステーションに順番取りに来て」と言われた。
九時少し前にナースステーションに行くも、担当の園田さんがいない。キョロキョロとしていると、男の看護師さんが俺に気付いて声を掛けてくれた。若いイケメンの看護師だ。
「何かな?」
「えーと、お風呂の順番を取りに来たんですけど」
「ああ、ちょっと待ってね。うん、どの時間でも空いてるよ。何時にする?」
「じゃあ、今からで」
「ここのお風呂使うの初めてだっけ?」
「はい」
「じゃあ説明しとくよ」
そう言ってイケメン看護師は風呂場まで連れて行ってくれた。
使うときは『使用中』に札を切り替えるだけで、内側から鍵は掛けない事。時間は一人二十分厳守。湯船にお湯は張らない。使うのは衛生上シャワーのみだ。
「今日、カテーテル通した後はその部分を保護しなきゃいけないからね、お風呂に入る十分前には看護師を呼ぶようにしてくれる?」
「分かりました」
俺は素早く服を脱いでシャワーを浴びた。シャワーだけっていうのは何か味気ない。お風呂にゆっくり浸かりたい。
浴槽に入れないのが八ヶ月続くとか考えただけで、ちょっとゲソっとするな。
風呂を出て、部屋で何をしようかと悩んでいると、担当の園田さんが現れた。
「あ、ごめんね、もうお風呂に入ったんだってね。仲本君に聞いた」
「仲本……? ああ、あのイケメンの?」
「そうそう。どう、スッキリした?」
「うん、さっぱりした」
「良かった。カテーテルの処置まで時間あるから、それまで補助師さんに院内を案内して貰うように頼んだから。あ、来た来た」
今度は濃い緑色の制服を着たオバちゃんが現れた。おばあちゃん一歩手前と言った感じの人だ。俺はペコリと頭を下げる。
「颯斗君、宜しくね。今からざっと中を案内するから付いて来て」
言われるがまま、俺はオバちゃんの後に付いて歩いた。オバちゃんはナースステーションの近くの広い部屋の前で止まる。
「ここがプレイルーム。誰でも使っていいけど、時間帯は決められてるからちゃんと守ってね」
中では小さな子供達がオモチャをひっくり返して遊んでいる。ブロックやプラレールや、ままごとのセットやらたくさんオモチャがあるようだった。本棚にも沢山の絵本や小説が並んでいるみたいで、俺と同い年くらいの子は本を読んでいたりボードゲームなんかをしていた。
「こっちには洗濯機と乾燥機が置いてあるから、利用して。テレビカードで使用できるから」
「テレビカードって、どこに売ってるんですか?」
「それはこっち」
オバちゃんは小児病棟の出入口に向かった。透明なガラスの扉があって、その手前の左壁の上にあるボタンを指差す。
「出る時はここを長押しね。鍵が開くから。小さな子供達が勝手に出て行かないよう気をつけるのと、不審者が入って来ないようにすぐ締める事」
「はい」
扉が閉まると、勝手に鍵がカチャッと締まった。
「戻る時はインターホンがあるから、そこで自分の名前を言うと開けて貰えるようになってるの。いちいち面倒だけど、お願いね」
そう言って指差された小児科のインターホン前には、大きな注意書きがしてある。
『院内感染予防のため、小児病棟での面会は高校生以上の血縁者のみとさせていただいています。十五歳以下の面会はご遠慮ください』
十五歳以下の面会はだめ?!
って事は俺、香苗に会えないのか?!
「オバちゃ……じゃなくて、えーと」
「あはは、オバちゃんでいいよ。何?」
「俺、小学生の妹が居るんだけど、会っちゃダメって事?」
「ああ」
オバちゃんは俺の視線の先が注意書きに行っているのに気付いて、ニコッと笑った。
「面談室っていうところがあるからそれを利用するか、ここでも会えるよ」
小児病棟を出たすぐに椅子や机の置かれた大きなスペースがあった。そっか、俺がここに出て来て会えば良いだけか。俺はホッと胸を撫で下ろす。
「ここはデイルームね。自動販売機もあるし、テレビカードも売ってあるから。こっちには電子レンジ、これは熱湯が出るからカップラーメン作れるよ。ゴミはここね。カン・ビン、ちゃんと分別お願いね」
デイルームを出ると今度はエレベーターに乗り、五階まで降りる。
少し歩くと、今度は扉にごちゃごちゃと色んな装飾がされた所に辿り着いた。そこには大きく『院内学級』と書かれている。院内学級って、小児病棟の中にあるんじゃないんだな。
「ここがね、院内学級。多分小林先生が、体調の良い時は通いなさいって言ってくれると思うよ。ちょっと挨拶だけしてこようか」
俺が何かを答える前に、オバちゃんは扉をノックして「失礼しまーす」と入って行った。俺も慌てて後に続く。
何かこういう学校系って無駄に緊張するのは俺だけかな。
「お、こんにちは! 新顔だな、何て名前?」
中からは結構ガタイの良い男の先生が気さくに話しかけてくる。生徒の人数は十人も居らず、全員好き勝手にガヤガヤやっている雰囲気があった。
「島田颯斗です」
「ハヤトな! 俺は山チョー先生だ! よろしくな!」
何かテンション高い先生だ。うっれしそうにニカニカやって来たと思ったら、俺の手をギュギューっと握ってくる。はっきり言って暑苦しい。
「教科書は? 今日は見学だけか?」
「今日は処置があるらしくって、案内しただけなのよ。山チョー先生、またよろしくお願いしますね」
「そうか、じゃあハヤト、また来いよ!」
オバちゃんの説明に山チョー先生は俺の頭をガシガシと撫でて、大きな声で笑った。ちょっと鬱陶しそうな先生だけど、悪い人じゃなさそうだ。
その後俺は、一階にある売店の場所を教えて貰ってから小児病棟に戻って来た。
「これで大体必要なところは教えられたかな? あ、そうそう、そこの清潔室には先生の指示がない限り、絶対に開けたり入ったりしないでね」
「分かった。オバちゃん、ありがとう」
「また分からない事があったらなんでも聞いて」
オバちゃんは最後にウインクをして去って行った。
すごく丁寧で良いオバちゃんだったけど、最後のウインクだけは余計だったかな……。
病室に戻ると、母さんが来ていた。部屋の中の荷物を綺麗にあれこれと片付けている。
「母さん、早かったね」
「あ、颯斗。調子はどう?」
「うん、大丈夫。それより母さん、院内学級って所で勉強しなきゃいけないんだってさ。今度教科書持って来て」
「もう持って来たわよ」
そう言うと、母さんはどでんと俺の教科書とノートを椅子の上に置いた。
「……用意良いね……」
「当然でしょう? ちゃんと勉強しなさいよ!」
「ふぇーい」
一人で勉強なんてできる気はしないから、山チョー先生の所に通うか。あの人どっちかって言うと俺と同じ体育会系の匂いがするんだけど、ちゃんと勉強教てくれんのかな。
「一応必要そうな物は全部持って来たんだけど……」
「足りなかったらまたその時に言うよ」
そんな事を話していると、コンコンとノックがして園田さんが入って来る。
「颯斗君、処置室行こうか。あ、颯斗君のお母さん、いらっしゃったんですね。今から颯斗君のカテーテルの処置が始まりますから、処置室前で待っていてもらえますか?」
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