再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜

長岡更紗

文字の大きさ
上 下
78 / 92

78.念願の海

しおりを挟む
「うえーー、あっつぃーー」

 ギラギラした太陽が照りつけてくる中、俺と真奈美は今、海近市のビーチにいる。
 真奈美は、真奈美の水着姿は……うん、最高だな!! 来て良かった!!

「ちょっと颯斗、じろじろ見過ぎっ」

 真奈美は少し怒ったようにして、自分の体を隠している。ビキニではないけど、セパレートタイプで……なんていうんだろ、タンキニ?
 よく分かんないけど、ヘソが見えててスカートも可愛くて、すんげー似合ってる。

「もう、だからそんなに見ないのっ!」
「え? 俺に見せるために着たんだろ?」
「泳ぐために着てるんだってば! もう、早く海に入ろう!」

 真奈美は真っ赤になりながら、俺を後ろから押し始めた。
 その水着、絶対俺のために選んだに決まってるのに、素直じゃないよなー。
 そういう俺は、残念ながら真奈美の為には選んでない。日焼けは絶対ダメだって言われてるから、紫外線カットの長袖長ズボンの水着だ……オバちゃんみたいですげーヤダ。顔も毎日日焼け止めを塗りまくってるからモヤシみたいに白いし。
 せっかく夏の海デートなのに、カッコつかねーなぁ。

「颯斗、ちゃんと日焼け止め塗った?」
「塗ったよ」
「手の甲も、足の先にもだよ!?」
「塗ったって!」

 たまに真奈美は、母さんみたいに口うるさくなるから面倒臭いけど。

「よし、じゃあいっぱい泳ごうね!」

 ……可愛いから、許す。
 俺と真奈美は我先にと海へ飛び込んで、泳ぎまくった。

 俺が退院してから五ヶ月。
 体力も回復したし、髪の毛もちゃんと生えてきた。今は赤ちゃんみたいな柔らかい髪の毛だけど、一回切っちゃえば多分元に戻るだろう。
 マスクもそこまで几帳面にしなくても良くなったし、今んところ再発もなし。順調だ。
 大学病院も、一週間に一回の通院が、一ヶ月に一回になった。
 塚狭先生の言った通り、体は動かすたびに元に戻ってきて、今では入院前と殆ど変わりなく過ごせている。
 サッカーは、中学最後の大会に少し出させて貰えたけど、全国へは行けなかった。でもこれが最後って訳じゃないし、また高校で頑張るつもりだ。

 海で目一杯遊び終えると、ザッとシャワーを浴びて着替える。
 今日の夜は、このビーチで夏祭りがあるんだ。既に沢山の屋台が準備を始めている。

「なぁ真奈美。『うさぎ』に寄って良いか?」
「うさぎ? ああ、パン屋さんね。良いよ、またメロンパン買うの?」
「いや、今日はカレーパン」
「へぇ?」

 真奈美は『珍しい』とでも言いたげな目で俺を見上げた。もちろん、カレーパンを選ぶのには理由がある。
 俺が住んでいる山中市からは、バスでたった三十分ちょいの海近市だけど、中々来る機会がなかったからな。
 俺たちはプールバッグを持ったまま、うさぎの絵を描いた看板を見つけて、入り口をまたぐ。

「こんちゃーっす!」
「いらっしゃ……あら、ハヤトくん!」

 店のレジ前にいた池畑さんが、俺を見て嬉しそうに口角を上げてくれた。

「池畑さん、久しぶり!」
「本当に来てくれたのねー! ちょっと待ってね、リナもいるのよ。リナー、リナ!! ハヤトくんが来てくれたわよー!!」

 状況が飲み込めていない真奈美に、病院にいた頃の仲間だと教えてやる。中から出てきたのが小学二年の小さな女の子だと知って、ちょっとホッとしていた。

「ハヤトお兄ちゃん!!」
「おー、リナ、大きくなったなぁ!! 体は大丈夫か?」
「うん!! お兄ちゃんは?!」
「俺も元気元気!」

 飛びつくようにやってきたリナの頭を撫でてやると、リナは嬉しそうに目を細めて笑った。うん、本当に元気そうだ。

「友達出来たか? 虐められてないだろうな?」
「うん、大丈夫だよ! リナ、今お友達たっくさーんいるんだから!」
「そっかぁ、良かったなあっ!!」

 以前、小学校に行きたくないと嘆いていた女の子はここには居ない。
 髪も伸びて、どうにかこうにかツインテールにしている姿は、どこからどう見ても元気な女の子にしか見えなかった。

「おおー、ハヤト! 来てたのか!」

 そう言って、調理場の方からコックコートで出てきたのは拓真兄ちゃんだ。調理用の白衣が、でかい体に意外と似合う。

「拓真兄ちゃん!! こっちに帰って来てたのかー!」
「ああ、今は夏休み中だし、今日は夏祭りで店も忙しいしな」
「拓真兄ちゃんは夏祭りは行かないのか?」
「夜にはリナを連れて行ってくるよ。ってかお前は彼女とか! くっそー、見せびらかしやがって!」

 拓真兄ちゃんがウリウリと肘で俺を押してくる。あーもー、真奈美が恥ずかしそうにしてるじゃないか。俺の彼女を照れさせんな、可愛いから!!

「拓真兄ちゃんも、園田さんを連れてくれば良かったじゃんか」
「へ? なんで園田さん?」

 ぽかんとしている拓真兄ちゃん。
 実は拓真兄ちゃんは、この春から園田さんが住んでいるアパートの隣に住んでいるらしい。けどこの様子じゃ、何の進展もしてないな。

「……園田さん、祭り好きそうだしさ、拓真兄ちゃんが誘ってやったら喜んで来るんじゃないの?」
「ハハッ、鳥白市からは遠過ぎるから来ないだろー! って、何で叩くんだよハヤト!?」
「何となく!!」

 鈍感男め。あんまり腹が立ったから、つい手が出ちゃったよ。
 園田さんは奥手なんだから、気付いてやれよなーもーー!

「まぁいいや、ハヤト何か買ってくか? サービスしとくぞ!」

 まぁいいやで終わらされた園田さんを気の毒に感じながらも、俺はカレーパンとジュースを選んだ。タダでいいという池畑さん家族だったけど、ちゃんとお金を払ったら、俺の好きなメロンパンをサービスで付けてくれた。

「じゃーな、ハヤト! 送り狼になるんじゃないぞ!」
「うっせ!!」
「じゃーね、ハヤトお兄ちゃん! また来てね!!」
「わざわざ来てくれてありがとうね、ハヤトくん!」

 池畑家の皆に送られて俺たちは『うさぎ』を出る。
 日は少し傾いて、空がオレンジ色に差し代わってきていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

処理中です...