76 / 92
76.学校
しおりを挟む
少し緊張しながら教室に入ると、中にいた全員が俺に注目してきた。
「颯斗ーーーーッ」
真っ先に飛びついてきたのは、親友の智樹だ。朝練が終わった後のせいか、ちょっと汗臭い。ハグすんな。
「お前、汗くせーよ!!」
「教室に来て、第一声がそれかよ!?」
「相変わらず声もデカイしッ」
俺が小突くと、智樹はやっぱり大きな声でアハハハと笑っていた。
「颯斗くん、おかえり!」
クラスの女子が、俺に目を向けてそう言ってくれたのを皮切りに、全員が俺の周りに集まり始める。
「颯斗、おかえり!」
「島田くん、おかえりなさい!」
「よくぞ帰ってきたー」
「本当に良かった!!」
次々に浴びせられる温かな言葉。
俺の見た目は今までと違っているにも関わらず、今までと変わらずに接してくれている事が嬉しい。
「みんな、ありがとな! 大地賛頌を歌ってくれた時、めっちゃ嬉しかった!!」
あの時、みんなが歌いに来ていなければ。
もしかしたら俺は、本当に骨髄移植を拒否してしまっていたかもしれない。
だから、みんなが俺の命の恩人だ。後でちゃんとサッカー部と合唱部にもお礼に行かないとな。
久々の学校は、嬉しくて楽しくて。
ようやく日常に戻れた事を実感できた。
友達とくだらない事でバカ笑いできるって、幸せだよな。
その放課後、サッカー部に顔を出そうと思っていたんだけど、担任の西岡先生に呼び出されてしまった。
何故か母さんも呼び出されたようで、いきなり三者面談が始まる。
西岡先生は、俺の現在の病状を母さんから色々聞き出して、やれる事、やってはいけない事などを細かくノートに記入している。
ひとしきり俺の病気の話をした後、西岡先生はこんな事を言い出した。
「颯斗くんの進級の事なんですが」
……進級?
今はもう三月で、四月からは三年生になる。はずだ。
だよな?
俺が首を捻らせていると、西岡先生は真面目な顔で話を続けた。
「島田くんは、中学二年の授業をほとんど受けていません。今後、学力不足で三年の授業についていけない事も考えられます」
まぁ俺は頭の良い方じゃないしね。それは確かに俺も不安がある。
「本人やご家族の意向次第では、原級留置という措置も取れます」
「げん……え、何?」
耳慣れない言葉にさらに首を傾げると、西岡先生は真っ直ぐに俺を見て言った。
「要は、留年の事だよ。もう一度、中学二年生をやって良いって事だ」
中学二年生をもう一度やる。その事を考えて、俺は顔を顰めてしまった。
確かに学力をしっかり身につけるなら、そうすべきかもしれない。修学旅行にだって行けるだろう。
でも。それは智樹や真奈美と一緒に行くんじゃない。一つ年下の、今まであまり関わりのない奴らと行かなきゃ行けないって事だ。
俺は出来れば……皆と一緒に卒業したい。俺を温かく迎え入れてくれた、今の学年の奴らと一緒に。
「先生、俺、留年はしたくない。勉強は、病院でも頑張ってやってきたし大丈夫!」
山チョー先生の鬼のようなプリントを、ずっとこなして来たんだ。そりゃあ、毎日ちゃんと出来てたわけじゃないけど。何もしてこなかったわけじゃない。
「そうか……まぁ学校としては原級留置を取る手続きが大変なので、それでいいなら良いんですが……どうでしょう、お母さん?」
西岡先生が母さんの方を見ると、母さんは晴れやかな顔をしている。
「颯斗が望む事をさせてあげたいと思っています」
「そうですか。では、そのようにさせていただきます」
母さんが俺の希望を聞いてくれてホッとする。母さんの事だから、もう一回二年生で勉強しろって言うかと思ったけど。
先生に礼を言って教室を出てから、「ありがとう」と母さんに礼を言った。すると母さんは意地悪に笑って、「どうせ留年しても部活ばかりして、勉強に身は入らないでしょ」と言われた。
失礼だな。まぁ確かにそうなる可能性の方が高いけど。
「じゃ、俺、サッカー部に顔出してくから」
「言うと思った。あんまり無茶しないで、適当に帰ってくるのよ」
「うん、分かってる」
母さんとは玄関で別れて、俺はサッカー部の更衣室に向かった。既に皆はグラウンドにいるから、誰もいない。相変わらず汗と泥臭い部室で、自分のロッカーを開けて着替えた。
なんか、ドキドキする。ただのジャージに着替えただけなのに。
久しぶりにサッカーができる。
そう思うだけで、もうワクワクが止まらなかった。
「颯斗ーーーーッ」
真っ先に飛びついてきたのは、親友の智樹だ。朝練が終わった後のせいか、ちょっと汗臭い。ハグすんな。
「お前、汗くせーよ!!」
「教室に来て、第一声がそれかよ!?」
「相変わらず声もデカイしッ」
俺が小突くと、智樹はやっぱり大きな声でアハハハと笑っていた。
「颯斗くん、おかえり!」
クラスの女子が、俺に目を向けてそう言ってくれたのを皮切りに、全員が俺の周りに集まり始める。
「颯斗、おかえり!」
「島田くん、おかえりなさい!」
「よくぞ帰ってきたー」
「本当に良かった!!」
次々に浴びせられる温かな言葉。
俺の見た目は今までと違っているにも関わらず、今までと変わらずに接してくれている事が嬉しい。
「みんな、ありがとな! 大地賛頌を歌ってくれた時、めっちゃ嬉しかった!!」
あの時、みんなが歌いに来ていなければ。
もしかしたら俺は、本当に骨髄移植を拒否してしまっていたかもしれない。
だから、みんなが俺の命の恩人だ。後でちゃんとサッカー部と合唱部にもお礼に行かないとな。
久々の学校は、嬉しくて楽しくて。
ようやく日常に戻れた事を実感できた。
友達とくだらない事でバカ笑いできるって、幸せだよな。
その放課後、サッカー部に顔を出そうと思っていたんだけど、担任の西岡先生に呼び出されてしまった。
何故か母さんも呼び出されたようで、いきなり三者面談が始まる。
西岡先生は、俺の現在の病状を母さんから色々聞き出して、やれる事、やってはいけない事などを細かくノートに記入している。
ひとしきり俺の病気の話をした後、西岡先生はこんな事を言い出した。
「颯斗くんの進級の事なんですが」
……進級?
今はもう三月で、四月からは三年生になる。はずだ。
だよな?
俺が首を捻らせていると、西岡先生は真面目な顔で話を続けた。
「島田くんは、中学二年の授業をほとんど受けていません。今後、学力不足で三年の授業についていけない事も考えられます」
まぁ俺は頭の良い方じゃないしね。それは確かに俺も不安がある。
「本人やご家族の意向次第では、原級留置という措置も取れます」
「げん……え、何?」
耳慣れない言葉にさらに首を傾げると、西岡先生は真っ直ぐに俺を見て言った。
「要は、留年の事だよ。もう一度、中学二年生をやって良いって事だ」
中学二年生をもう一度やる。その事を考えて、俺は顔を顰めてしまった。
確かに学力をしっかり身につけるなら、そうすべきかもしれない。修学旅行にだって行けるだろう。
でも。それは智樹や真奈美と一緒に行くんじゃない。一つ年下の、今まであまり関わりのない奴らと行かなきゃ行けないって事だ。
俺は出来れば……皆と一緒に卒業したい。俺を温かく迎え入れてくれた、今の学年の奴らと一緒に。
「先生、俺、留年はしたくない。勉強は、病院でも頑張ってやってきたし大丈夫!」
山チョー先生の鬼のようなプリントを、ずっとこなして来たんだ。そりゃあ、毎日ちゃんと出来てたわけじゃないけど。何もしてこなかったわけじゃない。
「そうか……まぁ学校としては原級留置を取る手続きが大変なので、それでいいなら良いんですが……どうでしょう、お母さん?」
西岡先生が母さんの方を見ると、母さんは晴れやかな顔をしている。
「颯斗が望む事をさせてあげたいと思っています」
「そうですか。では、そのようにさせていただきます」
母さんが俺の希望を聞いてくれてホッとする。母さんの事だから、もう一回二年生で勉強しろって言うかと思ったけど。
先生に礼を言って教室を出てから、「ありがとう」と母さんに礼を言った。すると母さんは意地悪に笑って、「どうせ留年しても部活ばかりして、勉強に身は入らないでしょ」と言われた。
失礼だな。まぁ確かにそうなる可能性の方が高いけど。
「じゃ、俺、サッカー部に顔出してくから」
「言うと思った。あんまり無茶しないで、適当に帰ってくるのよ」
「うん、分かってる」
母さんとは玄関で別れて、俺はサッカー部の更衣室に向かった。既に皆はグラウンドにいるから、誰もいない。相変わらず汗と泥臭い部室で、自分のロッカーを開けて着替えた。
なんか、ドキドキする。ただのジャージに着替えただけなのに。
久しぶりにサッカーができる。
そう思うだけで、もうワクワクが止まらなかった。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作



久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…


虚弱なヤクザの駆け込み寺
菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。
「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」
「脅してる場合ですか?」
ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。
※なろう、カクヨムでも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる