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後編
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それから私は、ペット奴隷としてサマル様に尽くそうって決めた。
殺されるところを救ってくれたサマル様。
温かい食事と寝床と安心感を与えてくれたサマル様。
ペットである私を家族のように思って、愛情を注いでくれているのが私にもわかる。
サマル様は、人にも動物にも優しくできる、素晴らしい人だ。私は本当にいい人に拾われたなぁ。
できれば私も人として見られたかったけど……なんて、贅沢言っちゃだめ。こんな幸せな奴隷は、私くらいのものなんだから。
人として扱われなくても、大切にしてもらえるだけで幸せ。本当なんだから。
「ビビ、おいでぇ」
サマル様が執務仕事をしているときは、その隣に座ってお仕事をしているのを見る。
疲れてくると必ず手を広げられるから、私はその手の中に潜り込むように入っていく。そうしたらサマル様は「元気出たぁ、がんばるよ」と言ってまた書類と格闘してる。
お出かけの時も、非公式のときは連れていってくれた。
城下では色んな人と話してした。貴族はもちろん、一般庶民や奴隷だという人にも平気で話しかけている姿を見て、びっくりする。
執事のクオンさん曰く、王家の人でこんなことをするのはサマル様と、過去にもう一人いたらしい。どっちにしろ珍しい人ってことね。
眠る時は、私を隣に寝かせてくれる。
嬉しそうにふわふわと笑うサマル様は、私の頭を撫でながら、ある夜こんなことを話してくれた。
「僕の叔父さま……つまりお父様の弟なんだけどね。奴隷解放運動をしていて、反対派に殺されちゃったんだって。僕が生まれる何年も前の話だけどね……」
そんなことがあったんだ。
私は新聞なんてここにくるまで見たこともなかったし、読み書きもやっとできる程度だったからわからなかった。
最近は執務の片手間に、サマル様や執事のクオンさんが色々教えてくれるから、学ぶのが楽しいけれど。
「それからお父様は、奴隷制度の廃止を少しずつ、少しずつだけど進めてきたんだ。僕はそれを手伝ってる」
「……どうして、奴隷制度を廃止しようと思うんですか?」
私にはわからなかった。
貴族や王族は、奴隷というタダ働き同然の人間がいた方が良いに決まってる。それを廃止しようとする理由があるなら聞いてみたい。
「じゃぁさぁ……ビビは、奴隷になって嬉しい?」
「いえ、あの……私は、いい生活をさせてもらっているし……」
「でも、奴隷だよねぇ」
奴隷と言われて、その通りなのに胸が苦しくなる。
「嬉しくは……ないです……」
「うん、ごめんねぇ」
サマル様は私を安心させるように、ぎゅうっと抱きしめてくれた。
「ビビも僕も、変わらない人間だよ。ただ、与えられた役割が違うだけなんだと、僕は思ってるんだ。その役割に、奴隷って身分はいらないんじゃないかって、僕は思ってるよ」
そんな風に王族の人が思っているなんて、考えもしなかった。
きっと、おおっぴらにはできないんだろうな。その叔父さんのことがあるから。
そう考えると私はブルっと震えた。もしサマル様が無茶をすれば、サマル様もその叔父さんのように……
「どうしたの、寒い?」
「私……サマル様がいなくなったら、いやです……」
「……いなくならないよぉ?」
柔らかくて優しくて、どこか気の抜けるような口調も……大好き。
ああ、好きだなんて思っちゃいけないのに。私は奴隷で、ペットなんだから。
「心配してくれてるんだねぇ、ビビ……嬉しいよ」
サマル様の胸の中から顔を見上げると、藍色の瞳が優しく煌めいてる。
「奴隷として、僕に縛り付けちゃって、ごめんねぇ……いつか、解放してあげるからね……」
解放。それって、奴隷制度をなくすっていうことだよね……?
そしたら私はどうなっちゃうんだろう。奴隷じゃなくなったら、サマル様のペットではいられないってこと?
じゃあ、もうこんな風に一緒に寝ることもできなくなっちゃう?
「……どうしたの、ビビ?」
サマル様が驚いたように体を起こして、眼鏡を掛けた。
あれ? 私の目から、雫がいくつも転がってる。
「ビビ?」
私もベッドの上に座ってサマル様を見上げた。
人として見てほしいって思ったり、ペットでいたいって思ったり……我ながら矛盾してる。
「ごめ、なさ……なんでも、ないんです……」
「でも、泣いてるよねぇ……」
「これは……」
「僕のせい?」
「ち、違います……っ」
否定したけど、サマル様はすっごく悲しそうな顔をしてる。違うのに、サマル様のせいじゃないのに。
「私……奴隷制度がなくなったら、サマル様のおそばにいられないって思うと……」
「ビビ……?」
「ただの奴隷がこんなことを言える立場じゃないってわかってるんですけど……悲しいんです……っ」
「……そっかぁ」
サマル様はそんな告白をした私の頭を、いつものようになでなでしてくれる。
「そうなったら、僕も寂しいなぁ……ビビといると、僕、すっごく癒されるんだよ」
「ほんと……ですか……」
「うん、ほんとう」
「よかった……」
ペットの役割としての癒しは、ちゃんと与えられていたみたい。
私の方が、こののんびりした口調に癒されている気もするけど。
「そぉかぁ……こうして許可なく触れられるのも、寝室に連れてこられるのも、ビビが奴隷だからだよねぇ……奴隷という立場を利用してるのは、僕だねぇ……ごめんね」
「え、いえ、そんな……! サマル様にはよくしてもらってますから!」
「こうやって触られるの、イヤじゃない?」
「イヤじゃありません。むしろ、その……なでてもらえて嬉しいっていうか、気持ちいいっていうか……もごもご」
「ふぅん、そっかぁ」
ほわっと笑うサマル様。
もうダメです、本当に好きなんです。王子様を好きになるだなんてダメだってわかってるけど、そっと想うくらい、いいですよね?
「本当はねぇ、僕、これ以上のこともしたいんだよ?」
「……えっ?」
これ以上というのは……どれ以上のことでしょうか?!
「でもビビは奴隷だから、拒んじゃダメだって思っちゃうよねぇ。だから、これでも我慢してるんだよ」
顔中をなでなでしてくれるサマル様。
一緒に寝ていても何もしなかったのは、ペットなんかに手を出したくないと思っていたんじゃなかった?
「我慢なんて、しなくて大丈夫です!」
「えぇ? 僕、ビビにキスしたいって思ってるんだよ?」
「はい、問題ありません」
「……無理しなくて、いいんだよ……?」
サマル様の眉尻が下がる。
奴隷相手なのに、奴隷の気持ちを慮ってくれるサマル様が好き。
「無理なんかじゃなくって……私もその……したいんです……っ」
「ほんとにぃ……?!」
サマル様の驚いた声と顔。どこか嬉しそうで、私もえへへと笑いながら頷いた。
「僕はねぇ、ビビのことが好きなんだぁ」
ふわふわと花を散らすように告白をされちゃった。
どきどきもするけど、なんだろう……やっぱり安心感の方が大きい。
「ビビも、僕のこと好きかなぁ……」
そして不安そうな顔もステキ。私、自分の気持ちを言っても……いいのかな?
「はい……私も、サマル様のことが好きです……っ」
「わぁ、うれしいな」
あう! そのペカーッと光る笑顔が眩しいっ! 眩しすぎます!
「僕はねぇ、数年のうちに奴隷制度を廃止させるつもりなんだ。そうしたら、ビビも奴隷っていう身分から解放されるよ。僕という存在からも、自由になれる……」
ああ、そうだ。私は奴隷だから、周りに奴隷だと認識されているから、逆に寝室までも入り込めるんだ。
もし由緒ある貴族の御令嬢なんかだったら、きっと結婚するまで一緒に寝たりなんかできない。
奴隷制度がなくなったとき、私は……
「奴隷じゃなくなっても、ずっと僕のそばにいてくれる?」
「……え、いいんですか?」
「僕が聞いてるんだよぉ、ビビ」
「でも……」
「イヤ?」
ずっと、サマル様のそばに……
そんなこと、できるの?
嬉しいよ。すっごく嬉しいけど……私は奴隷でなくなっても、ただの一般庶民。
一緒にいるっていうのは難しいんじゃないのかなぁ……。
それに、サマル様がどういう意味でそばにいてって言っているのかがわからない。
私のことが好きって、どういう意味でなの?
「なにか思うところがあるなら、話してほしいよ……僕じゃ、ビビの夫にはなれない?」
「お、おっとぉ?!」
「うん」
そばにいてって、本当にそういう意味だったんですか!!
「だめ……かなぁ……」
しょぼんとしないでください、胸が引き裂かれそうになっちゃうんで!
「だ、だめっていうか、無理なのでは……っ! 私は奴隷で、サマル様は王子様ですしっ」
「数年はかかるだろうけど、奴隷ではなくなるよ。奴隷制度を廃止したあとは、それなりの地位を用意してあげることもできると思う。叔母さまに頼んでビビを養女にもらってもらえば、公爵令嬢のできあがりだよぉ? そうすれば、僕と結婚だってできるよねぇ」
「た、確かに……でもそんなうまくいくものですか?」
「大丈夫だよぉ、僕、これでも根回しが上手いんだぁ。みんな僕の味方だし、心配しなくていいよ?」
ふんわりしている割に、結構やり手の王子様だった?!
「でも、どうしてそんなに私のことを……」
「うーん、これっていう大きな理由はないんだよねぇ……」
理由がない。その言葉をきいて、ずんっと胸が重くなる。
それって結婚相手は誰でもいいってことじゃ? 私である意味は、ないよね……
ガクンと肩を落とすと、サマル様が慌てたような声をあげた。
「ごめん! でも僕、ビビと一緒にいると、幸せな気持ちになれるんだよ? 最初はただ助けたいって気持ちだけだったけど……いっぱいご飯を食べて、元気になって笑ってくれるたびに、嬉しくなったんだぁ。一緒に寝るたびに、安心感が湧いてきたよ。ビビの肌に触れたら離したくなくなるくらい、幸せで気持ちよかった……」
そう言いながらサマル様は、私の頬をすべすべすべすべ触っている。
「たぶん、他の子じゃだめなんだ……ううん、ビビじゃなきゃ、イヤなんだ!」
「サマル様……」
「今すぐには無理だけど、必ず奴隷制度を廃止してみせるよ。そうしたら、僕と結婚してくれる?」
サマル様の真剣な言葉に、断る理由なんてなかった。
「はい……私も、サマル様とずっと一緒にいたいです」
「ありがとう、ビビ……好きだよ」
「私もです、サマル様」
「キス、してもいい?」
その問いに、私はこくんと頷くと。
サマル様は嬉しそうに笑って眼鏡を外し、互いの指を交差させるように握った。
ゆっくり迫ってくる、サマル様のキレイな顔。目を閉じた瞬間、唇が触れ合った。
初めての感触に、とくんとくんと胸が高鳴る。
目を開けると、サマル様がふんわりした笑顔を見せて。
「ビビ、愛してるよぉ」
柔らかな口調で、教えてくれた。
fin.
殺されるところを救ってくれたサマル様。
温かい食事と寝床と安心感を与えてくれたサマル様。
ペットである私を家族のように思って、愛情を注いでくれているのが私にもわかる。
サマル様は、人にも動物にも優しくできる、素晴らしい人だ。私は本当にいい人に拾われたなぁ。
できれば私も人として見られたかったけど……なんて、贅沢言っちゃだめ。こんな幸せな奴隷は、私くらいのものなんだから。
人として扱われなくても、大切にしてもらえるだけで幸せ。本当なんだから。
「ビビ、おいでぇ」
サマル様が執務仕事をしているときは、その隣に座ってお仕事をしているのを見る。
疲れてくると必ず手を広げられるから、私はその手の中に潜り込むように入っていく。そうしたらサマル様は「元気出たぁ、がんばるよ」と言ってまた書類と格闘してる。
お出かけの時も、非公式のときは連れていってくれた。
城下では色んな人と話してした。貴族はもちろん、一般庶民や奴隷だという人にも平気で話しかけている姿を見て、びっくりする。
執事のクオンさん曰く、王家の人でこんなことをするのはサマル様と、過去にもう一人いたらしい。どっちにしろ珍しい人ってことね。
眠る時は、私を隣に寝かせてくれる。
嬉しそうにふわふわと笑うサマル様は、私の頭を撫でながら、ある夜こんなことを話してくれた。
「僕の叔父さま……つまりお父様の弟なんだけどね。奴隷解放運動をしていて、反対派に殺されちゃったんだって。僕が生まれる何年も前の話だけどね……」
そんなことがあったんだ。
私は新聞なんてここにくるまで見たこともなかったし、読み書きもやっとできる程度だったからわからなかった。
最近は執務の片手間に、サマル様や執事のクオンさんが色々教えてくれるから、学ぶのが楽しいけれど。
「それからお父様は、奴隷制度の廃止を少しずつ、少しずつだけど進めてきたんだ。僕はそれを手伝ってる」
「……どうして、奴隷制度を廃止しようと思うんですか?」
私にはわからなかった。
貴族や王族は、奴隷というタダ働き同然の人間がいた方が良いに決まってる。それを廃止しようとする理由があるなら聞いてみたい。
「じゃぁさぁ……ビビは、奴隷になって嬉しい?」
「いえ、あの……私は、いい生活をさせてもらっているし……」
「でも、奴隷だよねぇ」
奴隷と言われて、その通りなのに胸が苦しくなる。
「嬉しくは……ないです……」
「うん、ごめんねぇ」
サマル様は私を安心させるように、ぎゅうっと抱きしめてくれた。
「ビビも僕も、変わらない人間だよ。ただ、与えられた役割が違うだけなんだと、僕は思ってるんだ。その役割に、奴隷って身分はいらないんじゃないかって、僕は思ってるよ」
そんな風に王族の人が思っているなんて、考えもしなかった。
きっと、おおっぴらにはできないんだろうな。その叔父さんのことがあるから。
そう考えると私はブルっと震えた。もしサマル様が無茶をすれば、サマル様もその叔父さんのように……
「どうしたの、寒い?」
「私……サマル様がいなくなったら、いやです……」
「……いなくならないよぉ?」
柔らかくて優しくて、どこか気の抜けるような口調も……大好き。
ああ、好きだなんて思っちゃいけないのに。私は奴隷で、ペットなんだから。
「心配してくれてるんだねぇ、ビビ……嬉しいよ」
サマル様の胸の中から顔を見上げると、藍色の瞳が優しく煌めいてる。
「奴隷として、僕に縛り付けちゃって、ごめんねぇ……いつか、解放してあげるからね……」
解放。それって、奴隷制度をなくすっていうことだよね……?
そしたら私はどうなっちゃうんだろう。奴隷じゃなくなったら、サマル様のペットではいられないってこと?
じゃあ、もうこんな風に一緒に寝ることもできなくなっちゃう?
「……どうしたの、ビビ?」
サマル様が驚いたように体を起こして、眼鏡を掛けた。
あれ? 私の目から、雫がいくつも転がってる。
「ビビ?」
私もベッドの上に座ってサマル様を見上げた。
人として見てほしいって思ったり、ペットでいたいって思ったり……我ながら矛盾してる。
「ごめ、なさ……なんでも、ないんです……」
「でも、泣いてるよねぇ……」
「これは……」
「僕のせい?」
「ち、違います……っ」
否定したけど、サマル様はすっごく悲しそうな顔をしてる。違うのに、サマル様のせいじゃないのに。
「私……奴隷制度がなくなったら、サマル様のおそばにいられないって思うと……」
「ビビ……?」
「ただの奴隷がこんなことを言える立場じゃないってわかってるんですけど……悲しいんです……っ」
「……そっかぁ」
サマル様はそんな告白をした私の頭を、いつものようになでなでしてくれる。
「そうなったら、僕も寂しいなぁ……ビビといると、僕、すっごく癒されるんだよ」
「ほんと……ですか……」
「うん、ほんとう」
「よかった……」
ペットの役割としての癒しは、ちゃんと与えられていたみたい。
私の方が、こののんびりした口調に癒されている気もするけど。
「そぉかぁ……こうして許可なく触れられるのも、寝室に連れてこられるのも、ビビが奴隷だからだよねぇ……奴隷という立場を利用してるのは、僕だねぇ……ごめんね」
「え、いえ、そんな……! サマル様にはよくしてもらってますから!」
「こうやって触られるの、イヤじゃない?」
「イヤじゃありません。むしろ、その……なでてもらえて嬉しいっていうか、気持ちいいっていうか……もごもご」
「ふぅん、そっかぁ」
ほわっと笑うサマル様。
もうダメです、本当に好きなんです。王子様を好きになるだなんてダメだってわかってるけど、そっと想うくらい、いいですよね?
「本当はねぇ、僕、これ以上のこともしたいんだよ?」
「……えっ?」
これ以上というのは……どれ以上のことでしょうか?!
「でもビビは奴隷だから、拒んじゃダメだって思っちゃうよねぇ。だから、これでも我慢してるんだよ」
顔中をなでなでしてくれるサマル様。
一緒に寝ていても何もしなかったのは、ペットなんかに手を出したくないと思っていたんじゃなかった?
「我慢なんて、しなくて大丈夫です!」
「えぇ? 僕、ビビにキスしたいって思ってるんだよ?」
「はい、問題ありません」
「……無理しなくて、いいんだよ……?」
サマル様の眉尻が下がる。
奴隷相手なのに、奴隷の気持ちを慮ってくれるサマル様が好き。
「無理なんかじゃなくって……私もその……したいんです……っ」
「ほんとにぃ……?!」
サマル様の驚いた声と顔。どこか嬉しそうで、私もえへへと笑いながら頷いた。
「僕はねぇ、ビビのことが好きなんだぁ」
ふわふわと花を散らすように告白をされちゃった。
どきどきもするけど、なんだろう……やっぱり安心感の方が大きい。
「ビビも、僕のこと好きかなぁ……」
そして不安そうな顔もステキ。私、自分の気持ちを言っても……いいのかな?
「はい……私も、サマル様のことが好きです……っ」
「わぁ、うれしいな」
あう! そのペカーッと光る笑顔が眩しいっ! 眩しすぎます!
「僕はねぇ、数年のうちに奴隷制度を廃止させるつもりなんだ。そうしたら、ビビも奴隷っていう身分から解放されるよ。僕という存在からも、自由になれる……」
ああ、そうだ。私は奴隷だから、周りに奴隷だと認識されているから、逆に寝室までも入り込めるんだ。
もし由緒ある貴族の御令嬢なんかだったら、きっと結婚するまで一緒に寝たりなんかできない。
奴隷制度がなくなったとき、私は……
「奴隷じゃなくなっても、ずっと僕のそばにいてくれる?」
「……え、いいんですか?」
「僕が聞いてるんだよぉ、ビビ」
「でも……」
「イヤ?」
ずっと、サマル様のそばに……
そんなこと、できるの?
嬉しいよ。すっごく嬉しいけど……私は奴隷でなくなっても、ただの一般庶民。
一緒にいるっていうのは難しいんじゃないのかなぁ……。
それに、サマル様がどういう意味でそばにいてって言っているのかがわからない。
私のことが好きって、どういう意味でなの?
「なにか思うところがあるなら、話してほしいよ……僕じゃ、ビビの夫にはなれない?」
「お、おっとぉ?!」
「うん」
そばにいてって、本当にそういう意味だったんですか!!
「だめ……かなぁ……」
しょぼんとしないでください、胸が引き裂かれそうになっちゃうんで!
「だ、だめっていうか、無理なのでは……っ! 私は奴隷で、サマル様は王子様ですしっ」
「数年はかかるだろうけど、奴隷ではなくなるよ。奴隷制度を廃止したあとは、それなりの地位を用意してあげることもできると思う。叔母さまに頼んでビビを養女にもらってもらえば、公爵令嬢のできあがりだよぉ? そうすれば、僕と結婚だってできるよねぇ」
「た、確かに……でもそんなうまくいくものですか?」
「大丈夫だよぉ、僕、これでも根回しが上手いんだぁ。みんな僕の味方だし、心配しなくていいよ?」
ふんわりしている割に、結構やり手の王子様だった?!
「でも、どうしてそんなに私のことを……」
「うーん、これっていう大きな理由はないんだよねぇ……」
理由がない。その言葉をきいて、ずんっと胸が重くなる。
それって結婚相手は誰でもいいってことじゃ? 私である意味は、ないよね……
ガクンと肩を落とすと、サマル様が慌てたような声をあげた。
「ごめん! でも僕、ビビと一緒にいると、幸せな気持ちになれるんだよ? 最初はただ助けたいって気持ちだけだったけど……いっぱいご飯を食べて、元気になって笑ってくれるたびに、嬉しくなったんだぁ。一緒に寝るたびに、安心感が湧いてきたよ。ビビの肌に触れたら離したくなくなるくらい、幸せで気持ちよかった……」
そう言いながらサマル様は、私の頬をすべすべすべすべ触っている。
「たぶん、他の子じゃだめなんだ……ううん、ビビじゃなきゃ、イヤなんだ!」
「サマル様……」
「今すぐには無理だけど、必ず奴隷制度を廃止してみせるよ。そうしたら、僕と結婚してくれる?」
サマル様の真剣な言葉に、断る理由なんてなかった。
「はい……私も、サマル様とずっと一緒にいたいです」
「ありがとう、ビビ……好きだよ」
「私もです、サマル様」
「キス、してもいい?」
その問いに、私はこくんと頷くと。
サマル様は嬉しそうに笑って眼鏡を外し、互いの指を交差させるように握った。
ゆっくり迫ってくる、サマル様のキレイな顔。目を閉じた瞬間、唇が触れ合った。
初めての感触に、とくんとくんと胸が高鳴る。
目を開けると、サマル様がふんわりした笑顔を見せて。
「ビビ、愛してるよぉ」
柔らかな口調で、教えてくれた。
fin.
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素敵なお話ですっ。
ほのぼのしててとっても(^^)
売り飛ばした村長の息子は許せないのでざまぁも見たかったような、ほのぼのだけがいいのでやっぱりなくてよかったような・・・フクザツ
◆りりのさん
わわ、素敵なお話と言ってもらえて、とても嬉しいです!
村長の息子には、きっとこそっと天罰が下っているはずです( *´艸`)
感想ありがとうございましたー!