男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

長岡更紗

文字の大きさ
上 下
53 / 90
フロー編③

48.今宵、ふたりは

しおりを挟む
 翌日のために、フローリアンとラルスはそうそうに休むことにする。
 フローリアンはベッドの上で眠り、ラルスは椅子を扉の前に置いて座っていた。そこで眠るつもりだ。

 ラルスの寝顔、見てみたいな……。

 そんな風に思いながら彼を見ていたが、ありえないくらいに疲れた体は、容赦なく眠気を連れてきた。

「おやすみなさい、フローリアン様」

 優しい顔と声を最後に、フローリアンはぷつんと意識を途切れさせた。


 翌朝、気がつくとラルスに背負われて、ものすごい速さで山を飛ぶように降りていた。
 ふもとまで来ると、近くの町で軽い朝食をとってから、馬車に乗せられて帰ってくる。王城に着いたときはギリギリだったが、なんとか仕事に穴を空けずに済んでほっとした。

 そして暇を見て、エルネスティーネとシャインに、ラルスを相手に選びたいということを告げた。ただし、断られたときは無理強いしたくはないとも付け足して。
 エルネスティーネとシャインはそれに納得してくれた。

 すべてを終わらせるともう夜で、寝室に行くとツェツィーリアが待っていた。

「今日も大変でしたわね、フロー様。大丈夫ですか?」
「ありがとうツェツィー、大丈夫だよ。それより、聞いてほしいことがあるんだ」
「わたくしも聞きたいことがたぁっくさんありますのよ? 昨晩は、ラルス様とふたりっきりでお過ごしになったのでしょう」

 うふふと口元を隠しながら、楽しそうに笑っているツェツィーリア。もちろん、ちゃんと報告するつもりである。
 少し恥ずかしかったが、フローリアンはもごもごと口を動かした。

「う、うん……実はね……僕、ラルスに告白されたんだ。あ、愛してるって」
「まぁ!! それはよかったですわ! フロー様!!」

 ツェツィーリアは飛び上がるようにして喜んで、抱きついてくる。

「フロー様も、相思相愛だったのではありませんか!」
「そう、だったみたい」

 ツェツィーリアに報告するのは照れたが、自分のこと以上に喜んでくれている姿を見ると、より喜びが込み上げてくる。

「あら? けれど、ラルス様にはフロー様が女であることを言ってましたの?」
「言ってないよ。まだ僕が女だって知らないと思う」
「……男色家ですの?」
「わからない……だとしたら僕が女だと知らせたら、興味なくなっちゃうのかな……」

 その可能性を考えてなかったフローリアンは、さぁっと血の気が引いていった。

「大丈夫ですわ! きっとどっちもいけるクチですわよ、きっと!」
「そ、そうだよね……?」
「ということは、フロー様は、ラルス様に女である事実をお伝えするつもりなのですわね?」
「うん……それとね」

 さっき引いたはずの血の気が、一気に顔に集まってくる。

「僕……に、妊娠、しなきゃいけなくて……」

 いくら大親友のツェツィーリアでも、こんなことを話すのは恥ずかしい。けれど彼女は、優しい女神のような笑みを讃えたまま、こっくりと頷いてくれている。

「今夜、ラルスにお願いするつもりなんだ……っ」

 そう告げた瞬間、ツェツィーリアの両手がふわりとフローリアンに巻きついた。優しい香りが鼻孔をくすぐり、その温かさにほっとする。

「よかった……本当によかったですわ、フロー様……」
「ま、まだわからないよ。断られるかもしれないし……」
「ラルス様なら、きっと大丈夫。フロー様のすべてを愛してくださいますわ」

 抱擁を解いたツェツィーリアは、感極まったのかその目が潤んでいた。

「うん……ツェツィーも、長く待たせちゃったね。イグナーツとのこと」

 そう言うと、ツェツィーリアの頬はほんのりと桃色づく。イグナーツが王城に来て、いつでも会えるようになったとは言っても、フローリアンの相手が決まるまではと二人の仲はまだ清いままだ。

「僕が先に妊娠して、ツェツィーリアには妊娠したフリをしてもらうこともできる。けどそれだと、またツェツィーを待たせてしまうことになるから……」

 少しくらいなら平気だが、時期がずれると誤魔化しが難しくなる。だから。

「今夜、ツェツィーもイグナーツのところに行っておいでよ」
「フロー様……」
「そしてイグナーツに事情を全部話してほしい。僕が本当は女だということも、ツェツィーと同時期に子どもを産みたいということも」
「わたくしが言わなくてはいけないのですか? 恥ずかしすぎますわ!」

 いつもは取り乱したりしないツェツィーリアも、さすがに顔を赤らめて頬を押さえてしまった。気持ちはもちろん、よくわかる。

「頼むよ、ツェツィー。もうすぐラルスが来る。僕がイグナーツのところにいって説明している暇はないんだ」

 フローリアンは、そっとツェツィーリアの手を握った。

「行っておいで。そして、イグナーツと結ばれておいで」

 しばらくじっとフローリアンの目を見つめてくれていたツェツィーリアは、コクリと頷いて。

「フロー様も、だいすきな殿方と結ばれてくださいませ」

 にっこりと微笑み、そして扉から出て行った。
 フローリアンはひとり、部屋で胸を高鳴らせながら愛する人を待つのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

処理中です...