男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

長岡更紗

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フロー編③

48.今宵、ふたりは

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 翌日のために、フローリアンとラルスはそうそうに休むことにする。
 フローリアンはベッドの上で眠り、ラルスは椅子を扉の前に置いて座っていた。そこで眠るつもりだ。

 ラルスの寝顔、見てみたいな……。

 そんな風に思いながら彼を見ていたが、ありえないくらいに疲れた体は、容赦なく眠気を連れてきた。

「おやすみなさい、フローリアン様」

 優しい顔と声を最後に、フローリアンはぷつんと意識を途切れさせた。


 翌朝、気がつくとラルスに背負われて、ものすごい速さで山を飛ぶように降りていた。
 ふもとまで来ると、近くの町で軽い朝食をとってから、馬車に乗せられて帰ってくる。王城に着いたときはギリギリだったが、なんとか仕事に穴を空けずに済んでほっとした。

 そして暇を見て、エルネスティーネとシャインに、ラルスを相手に選びたいということを告げた。ただし、断られたときは無理強いしたくはないとも付け足して。
 エルネスティーネとシャインはそれに納得してくれた。

 すべてを終わらせるともう夜で、寝室に行くとツェツィーリアが待っていた。

「今日も大変でしたわね、フロー様。大丈夫ですか?」
「ありがとうツェツィー、大丈夫だよ。それより、聞いてほしいことがあるんだ」
「わたくしも聞きたいことがたぁっくさんありますのよ? 昨晩は、ラルス様とふたりっきりでお過ごしになったのでしょう」

 うふふと口元を隠しながら、楽しそうに笑っているツェツィーリア。もちろん、ちゃんと報告するつもりである。
 少し恥ずかしかったが、フローリアンはもごもごと口を動かした。

「う、うん……実はね……僕、ラルスに告白されたんだ。あ、愛してるって」
「まぁ!! それはよかったですわ! フロー様!!」

 ツェツィーリアは飛び上がるようにして喜んで、抱きついてくる。

「フロー様も、相思相愛だったのではありませんか!」
「そう、だったみたい」

 ツェツィーリアに報告するのは照れたが、自分のこと以上に喜んでくれている姿を見ると、より喜びが込み上げてくる。

「あら? けれど、ラルス様にはフロー様が女であることを言ってましたの?」
「言ってないよ。まだ僕が女だって知らないと思う」
「……男色家ですの?」
「わからない……だとしたら僕が女だと知らせたら、興味なくなっちゃうのかな……」

 その可能性を考えてなかったフローリアンは、さぁっと血の気が引いていった。

「大丈夫ですわ! きっとどっちもいけるクチですわよ、きっと!」
「そ、そうだよね……?」
「ということは、フロー様は、ラルス様に女である事実をお伝えするつもりなのですわね?」
「うん……それとね」

 さっき引いたはずの血の気が、一気に顔に集まってくる。

「僕……に、妊娠、しなきゃいけなくて……」

 いくら大親友のツェツィーリアでも、こんなことを話すのは恥ずかしい。けれど彼女は、優しい女神のような笑みを讃えたまま、こっくりと頷いてくれている。

「今夜、ラルスにお願いするつもりなんだ……っ」

 そう告げた瞬間、ツェツィーリアの両手がふわりとフローリアンに巻きついた。優しい香りが鼻孔をくすぐり、その温かさにほっとする。

「よかった……本当によかったですわ、フロー様……」
「ま、まだわからないよ。断られるかもしれないし……」
「ラルス様なら、きっと大丈夫。フロー様のすべてを愛してくださいますわ」

 抱擁を解いたツェツィーリアは、感極まったのかその目が潤んでいた。

「うん……ツェツィーも、長く待たせちゃったね。イグナーツとのこと」

 そう言うと、ツェツィーリアの頬はほんのりと桃色づく。イグナーツが王城に来て、いつでも会えるようになったとは言っても、フローリアンの相手が決まるまではと二人の仲はまだ清いままだ。

「僕が先に妊娠して、ツェツィーリアには妊娠したフリをしてもらうこともできる。けどそれだと、またツェツィーを待たせてしまうことになるから……」

 少しくらいなら平気だが、時期がずれると誤魔化しが難しくなる。だから。

「今夜、ツェツィーもイグナーツのところに行っておいでよ」
「フロー様……」
「そしてイグナーツに事情を全部話してほしい。僕が本当は女だということも、ツェツィーと同時期に子どもを産みたいということも」
「わたくしが言わなくてはいけないのですか? 恥ずかしすぎますわ!」

 いつもは取り乱したりしないツェツィーリアも、さすがに顔を赤らめて頬を押さえてしまった。気持ちはもちろん、よくわかる。

「頼むよ、ツェツィー。もうすぐラルスが来る。僕がイグナーツのところにいって説明している暇はないんだ」

 フローリアンは、そっとツェツィーリアの手を握った。

「行っておいで。そして、イグナーツと結ばれておいで」

 しばらくじっとフローリアンの目を見つめてくれていたツェツィーリアは、コクリと頷いて。

「フロー様も、だいすきな殿方と結ばれてくださいませ」

 にっこりと微笑み、そして扉から出て行った。
 フローリアンはひとり、部屋で胸を高鳴らせながら愛する人を待つのだった。
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