1 / 4
わたくしの愛する人(王子妃視点)
しおりを挟む
「君を愛することはない」
オリバー様が、彼女に向かって申し訳なさそうにおっしゃった。
事実、心の底は自責の念にかられているのだろう。
この国の第一王子であるオリバー様は、人の心のわかる優しいお方だから。
公爵令嬢であるわたくしは、オリバー様とは又従兄妹の関係。
わたくしよりも三歳年上のオリバー様のことは、物心ついた時から知っている。
勉強も遊びもいつも一緒で。周りが呆れるくらいに仲が良く、わたくしもオリバー様も毎日楽しく笑って過ごしていた。
わたくしが十歳、オリバー様が十三歳になった年に、わたくしたちは婚約した。
厳しい王子妃教育を受け、心身共に成長していくわたくしが抱える、ひとつの不安。
わたくしは── 月のものが乱れていた。
そもそも始まったのも遅く、十六を迎える年にようやく始まって。
それからは月に二回来る時もあれば、三ヶ月空いたりすることもあった。
一度王妃様に相談したけれど、「始まったすぐはそんなものよ」と慰めてくださって。
婚約破棄もあり得るかもしれないと覚悟して言ったから、その優しさにどれだけ救われたかしれない。
だけど十八歳でオリバー様と結婚し、落ち着くかと思っていた月のものの乱れはさらに酷くなった。
王子妃として、そしていつかは立派な王妃にならなければいけないという重圧が、体にさらに負担をかけたのかもしれない。
王妃様には伝えられなかった。王宮に入って、酷くなったなどと。ストレスのせいだなんて失礼なことは、口が裂けても言えなかった。
だけれど、結婚してから三年が経ったある日のことだった。
「すまない、ジュリア……俺は側室を迎えることになった……」
オリバー様が拳を握りしめながら、そうおっしゃった。
「そく……しつ……?」
その意味を知らないわけではない。けれどわたくしは、頭が真っ白になって理解するのが遅れる。
「母上や家臣が決めたことだ。俺の意思じゃない、わかってほしい……!」
オリバー様は、こんなことで嘘をついたりしない。だからきっと本当のことなのだろう。
わかっているのに、涙が溢れてくる。
だってオリバー様は血を絶やさないために、その方を抱かなければいけない。
わたくし以外の人を、オリバー様は抱いてしまう……わたくしの体が、こんなばかりに……!!
「ジュリア……ジュリア、心配するな……! 俺は側室のところにはいかない。ジュリアだけを愛しているのに、そんなことできるわけがないだろう……!!」
「オリバー様……違うんです、わたくしは……わたくしの体は……!」
もちろん、オリバー様に他の女性を抱いてほしくなんてない。
けれど、私の体に原因があることは明らかで。
いつか落ち着けば不順も治るかもしれないと思っていたけれど、これ以上は隠しておけない。
「オリバー様、わたくし……っ」
そう口を開いた瞬間、ノックの音が聞こえた。
入ってこられたのは王妃様で、わたくしは体がこわばる。
「母上、ちょうどいいところに……! 今、抗議に行こうと思っていたんです!」
「側室の件ね……わたくしもその話をしたくてやってきたの」
王妃様はそう言うと、わたくしの前まで来て、そっと抱擁をしてくださった。
「王妃様……!?」
「許してね、ジュリア……あなたたちが幼少の頃より、慈しみあっていることはわかっているの。でも、それと後継者問題は別の話……」
「……はい……」
生まれた時から知ってくださっている王妃様は厳しい時もあるけれど、誰よりも愛情をかけてくださっていたこともわかっている。
だから伝わってくる。側室の決定は、王妃様とて本意ではないということが。
「……ずっと、乱れているのでしょう……?」
王妃様の言葉に、私は嘘をつけるはずもなく頷いた。
その言葉を聞いたオリバー様が、驚いたように目を広げている。
王妃様は気づいていたのに、ずっと見守ってくれていたのだとわかり、涙があふれそうになった。
でももう、王妃様では庇い切れなくなってしまったのだろう。
世継ぎは誰からも、今か今かと待ち望まれているのだから。
「側室を迎えてしまうこと……許してね……」
「お気遣いを、ありがとう……ございます、王妃様……っ」
王妃様は最後にぎゅっと私を抱きしめてから、部屋を出て行かれた。
部屋に残されたわたくしとオリバー様は、抱き合って泣き濡れた。
オリバー様は子を成さねばならないお方。王家の血を、直系を、途絶えさせるわけにはいかない。
「今まで……月のものが不順であることを黙っていて、申し訳ありません……っ」
「俺の方こそ気づいてやれなくてすまない……つらかっただろう……!」
ぎゅうっと強く抱きしめてくれるオリバー様。
ああ、どうしてわたくしたちは一般庶民として生まれてこなかったのだろう。
そうすれば側室など迎えることもなく、子ができずとも二人で仲睦まじく暮らしていけたというのに。
でも、わたくしは王子妃という身。
個人的な感情で、側室のところには行かないで……なんて言えるわけがない。
むしろ、わたくしのためを思って側室のところには行かないであろうオリバー様に、ちゃんと子作りをなさってきてと促さなければならない立場にある。
いやだ……苦しい……言いたくない。
めらめらと醜い、嫉妬の炎が渦巻いているのがわかる。
それでも、とわたくしはなんとか口を開いた。
「オリバー様……どうか、わたくしのこと、は……お気に……なさらず……っ」
「ジュリア」
不本意ながらも覚悟を決めて伝えようとした言葉が、オリバー様によって遮られる。
「俺は、君以外を抱いたりしない。心配しなくていい」
愛する人からの、優しい言葉。
そんなわけにはいかないって、わかっている。だけど、その気持ちがなにより嬉しい。
「ジュリア、信用してないな?」
「そういう、わけでは……」
「……おいで」
そう言って、オリバー様はわたくしを連れ出した。
長い廊下の先にある部屋。そこにいたのは、オリバー様の側室なる人物。
伯爵令嬢のセリーナさんは、わたくしと同じ二十一歳らしいけれど、それはもうかわいらしくて妖精のような方だった。
簡単な挨拶を済ませると、オリバー様はまず謝罪をしていた。
王宮まで連れてきてしまってすまない、と。それからオリバー様は続けた。
「一年の間、時間がほしい。俺たちは子が授かるよう足掻きたいんだ。授かった時には、元の生活に戻れるよう、全力で支援させてもらう」
それでも授からない場合は、きっとオリバー様は王族の務めを果たすために彼女を──。
「だから申し訳ないが君を愛することはない。俺の愛はジュリアだけのものなんだ」
側室として王宮に上がらせておいて寵愛を受けられないとは、セリーナさんも思っていなかっただろう。
できれば今すぐにでも帰らせてあげたいけれど、わたくしにそんな権限はない。それに一年以内にわたくしたちに子ができなければ、いつかオリバー様は彼女の元に行かなければならなくなる。
しばらくは無意味な生活を送らせてしまうことに、わたくしは頭を下げた。
「セリーナさん、わたくしに子どもができないせいでごめんなさい……」
「ジュリア、君のせいじゃない」
「オリバー様……」
あまりにもセリーナさんに申し訳なくて。わたくしは彼女の顔をまともに見られず、オリバー様の胸で顔を隠す。
セリーナさんは泣くでも怒るでもなく、穏やかな笑みで「わかりました、お気になさらないでください」と明るくわたくしたちを送り出してくれた。
なんて素敵な女性なの。何故だか満足そうな顔をしているようにすら見えたわ。
今、彼の気持ちがわたくしに向いていても、あんな素晴らしい性格をしたかわいらしい妖精が側室なら、いつオリバー様が愛情を持ってもおかしくはない。
「素敵な……女性でしたわね……」
つい、そんな言葉が漏れる。
「俺は君以外の女性に興味なんてない」
「でも……でもわたくしに子どもができなければ、オリバー様はあの方のところに……っ」
「ジュリア!」
唇をオリバー様の唇で塞がれる。
愛してくれているのはわかってる。こんなに愛されて、わたくしはなんて幸せなんだろうって思ってる。
なのに、なぜか涙が溢れて止まらない。
愛されているのに。愛しているのに。想いは通じ合っているのに。
悲しくてたまらない。
「ジュリア……子どもを作ろう」
「ですがこの三年間、できる気配が……」
「月のものの周期が乱れているだけだろう? ならば……」
「ならば……?」
「これからは、毎日すればいい」
わたくしは、そのままベッドに押し倒された。
それからのオリバー様は、宣言通り毎日わたくしを愛してくれた。
公務が忙しく、夜遅くに帰ってきた日も。
今日はやめておいた方がと断っても、チャンスはいつ転がっているかわからないからと。
決して作業にはならず、毎日丁寧にわたくしを慈しんでくれる。
そんなオリバー様が、本当に本当に愛おしくて。
オリバー様との赤ちゃんが欲しい。
わたくしが産みたい。他の誰にも、オリバー様の子どもを産ませたくはない。
どうしてわたくしのところには来てくれないの。
世の中には、何人も産んでいる人がいるというのに。
やっぱりわたくしのせいなの? それともオリバー様?
まさか、わたくしたちの相性が悪いの?
原因がわからなくても、子どもができなければ、結局は……。
何ヶ月か経ったけれど、わたくしたちに子どもはできなかった。
そしてとうとう……。
「すまない、ジュリア……俺は明日、側室のところへ行かなくてはならなくなった……王命だ」
その言葉に目眩を覚える。
オリバー様に負担をかけてはいけない。笑って送り出さなければと思うけれど、全身が拒否をしている。
体がほてり、ふらふらして吐き気が込み上げてきた。
「すまない……だが俺が愛しているのは、ジュリアただ一人だ! それだけはわかって……ジュリア!」
わかっていたことなのに。
わたくしは悲しみの渦に巻き込まれるように、その場に倒れてしまった。
オリバー様が、彼女に向かって申し訳なさそうにおっしゃった。
事実、心の底は自責の念にかられているのだろう。
この国の第一王子であるオリバー様は、人の心のわかる優しいお方だから。
公爵令嬢であるわたくしは、オリバー様とは又従兄妹の関係。
わたくしよりも三歳年上のオリバー様のことは、物心ついた時から知っている。
勉強も遊びもいつも一緒で。周りが呆れるくらいに仲が良く、わたくしもオリバー様も毎日楽しく笑って過ごしていた。
わたくしが十歳、オリバー様が十三歳になった年に、わたくしたちは婚約した。
厳しい王子妃教育を受け、心身共に成長していくわたくしが抱える、ひとつの不安。
わたくしは── 月のものが乱れていた。
そもそも始まったのも遅く、十六を迎える年にようやく始まって。
それからは月に二回来る時もあれば、三ヶ月空いたりすることもあった。
一度王妃様に相談したけれど、「始まったすぐはそんなものよ」と慰めてくださって。
婚約破棄もあり得るかもしれないと覚悟して言ったから、その優しさにどれだけ救われたかしれない。
だけど十八歳でオリバー様と結婚し、落ち着くかと思っていた月のものの乱れはさらに酷くなった。
王子妃として、そしていつかは立派な王妃にならなければいけないという重圧が、体にさらに負担をかけたのかもしれない。
王妃様には伝えられなかった。王宮に入って、酷くなったなどと。ストレスのせいだなんて失礼なことは、口が裂けても言えなかった。
だけれど、結婚してから三年が経ったある日のことだった。
「すまない、ジュリア……俺は側室を迎えることになった……」
オリバー様が拳を握りしめながら、そうおっしゃった。
「そく……しつ……?」
その意味を知らないわけではない。けれどわたくしは、頭が真っ白になって理解するのが遅れる。
「母上や家臣が決めたことだ。俺の意思じゃない、わかってほしい……!」
オリバー様は、こんなことで嘘をついたりしない。だからきっと本当のことなのだろう。
わかっているのに、涙が溢れてくる。
だってオリバー様は血を絶やさないために、その方を抱かなければいけない。
わたくし以外の人を、オリバー様は抱いてしまう……わたくしの体が、こんなばかりに……!!
「ジュリア……ジュリア、心配するな……! 俺は側室のところにはいかない。ジュリアだけを愛しているのに、そんなことできるわけがないだろう……!!」
「オリバー様……違うんです、わたくしは……わたくしの体は……!」
もちろん、オリバー様に他の女性を抱いてほしくなんてない。
けれど、私の体に原因があることは明らかで。
いつか落ち着けば不順も治るかもしれないと思っていたけれど、これ以上は隠しておけない。
「オリバー様、わたくし……っ」
そう口を開いた瞬間、ノックの音が聞こえた。
入ってこられたのは王妃様で、わたくしは体がこわばる。
「母上、ちょうどいいところに……! 今、抗議に行こうと思っていたんです!」
「側室の件ね……わたくしもその話をしたくてやってきたの」
王妃様はそう言うと、わたくしの前まで来て、そっと抱擁をしてくださった。
「王妃様……!?」
「許してね、ジュリア……あなたたちが幼少の頃より、慈しみあっていることはわかっているの。でも、それと後継者問題は別の話……」
「……はい……」
生まれた時から知ってくださっている王妃様は厳しい時もあるけれど、誰よりも愛情をかけてくださっていたこともわかっている。
だから伝わってくる。側室の決定は、王妃様とて本意ではないということが。
「……ずっと、乱れているのでしょう……?」
王妃様の言葉に、私は嘘をつけるはずもなく頷いた。
その言葉を聞いたオリバー様が、驚いたように目を広げている。
王妃様は気づいていたのに、ずっと見守ってくれていたのだとわかり、涙があふれそうになった。
でももう、王妃様では庇い切れなくなってしまったのだろう。
世継ぎは誰からも、今か今かと待ち望まれているのだから。
「側室を迎えてしまうこと……許してね……」
「お気遣いを、ありがとう……ございます、王妃様……っ」
王妃様は最後にぎゅっと私を抱きしめてから、部屋を出て行かれた。
部屋に残されたわたくしとオリバー様は、抱き合って泣き濡れた。
オリバー様は子を成さねばならないお方。王家の血を、直系を、途絶えさせるわけにはいかない。
「今まで……月のものが不順であることを黙っていて、申し訳ありません……っ」
「俺の方こそ気づいてやれなくてすまない……つらかっただろう……!」
ぎゅうっと強く抱きしめてくれるオリバー様。
ああ、どうしてわたくしたちは一般庶民として生まれてこなかったのだろう。
そうすれば側室など迎えることもなく、子ができずとも二人で仲睦まじく暮らしていけたというのに。
でも、わたくしは王子妃という身。
個人的な感情で、側室のところには行かないで……なんて言えるわけがない。
むしろ、わたくしのためを思って側室のところには行かないであろうオリバー様に、ちゃんと子作りをなさってきてと促さなければならない立場にある。
いやだ……苦しい……言いたくない。
めらめらと醜い、嫉妬の炎が渦巻いているのがわかる。
それでも、とわたくしはなんとか口を開いた。
「オリバー様……どうか、わたくしのこと、は……お気に……なさらず……っ」
「ジュリア」
不本意ながらも覚悟を決めて伝えようとした言葉が、オリバー様によって遮られる。
「俺は、君以外を抱いたりしない。心配しなくていい」
愛する人からの、優しい言葉。
そんなわけにはいかないって、わかっている。だけど、その気持ちがなにより嬉しい。
「ジュリア、信用してないな?」
「そういう、わけでは……」
「……おいで」
そう言って、オリバー様はわたくしを連れ出した。
長い廊下の先にある部屋。そこにいたのは、オリバー様の側室なる人物。
伯爵令嬢のセリーナさんは、わたくしと同じ二十一歳らしいけれど、それはもうかわいらしくて妖精のような方だった。
簡単な挨拶を済ませると、オリバー様はまず謝罪をしていた。
王宮まで連れてきてしまってすまない、と。それからオリバー様は続けた。
「一年の間、時間がほしい。俺たちは子が授かるよう足掻きたいんだ。授かった時には、元の生活に戻れるよう、全力で支援させてもらう」
それでも授からない場合は、きっとオリバー様は王族の務めを果たすために彼女を──。
「だから申し訳ないが君を愛することはない。俺の愛はジュリアだけのものなんだ」
側室として王宮に上がらせておいて寵愛を受けられないとは、セリーナさんも思っていなかっただろう。
できれば今すぐにでも帰らせてあげたいけれど、わたくしにそんな権限はない。それに一年以内にわたくしたちに子ができなければ、いつかオリバー様は彼女の元に行かなければならなくなる。
しばらくは無意味な生活を送らせてしまうことに、わたくしは頭を下げた。
「セリーナさん、わたくしに子どもができないせいでごめんなさい……」
「ジュリア、君のせいじゃない」
「オリバー様……」
あまりにもセリーナさんに申し訳なくて。わたくしは彼女の顔をまともに見られず、オリバー様の胸で顔を隠す。
セリーナさんは泣くでも怒るでもなく、穏やかな笑みで「わかりました、お気になさらないでください」と明るくわたくしたちを送り出してくれた。
なんて素敵な女性なの。何故だか満足そうな顔をしているようにすら見えたわ。
今、彼の気持ちがわたくしに向いていても、あんな素晴らしい性格をしたかわいらしい妖精が側室なら、いつオリバー様が愛情を持ってもおかしくはない。
「素敵な……女性でしたわね……」
つい、そんな言葉が漏れる。
「俺は君以外の女性に興味なんてない」
「でも……でもわたくしに子どもができなければ、オリバー様はあの方のところに……っ」
「ジュリア!」
唇をオリバー様の唇で塞がれる。
愛してくれているのはわかってる。こんなに愛されて、わたくしはなんて幸せなんだろうって思ってる。
なのに、なぜか涙が溢れて止まらない。
愛されているのに。愛しているのに。想いは通じ合っているのに。
悲しくてたまらない。
「ジュリア……子どもを作ろう」
「ですがこの三年間、できる気配が……」
「月のものの周期が乱れているだけだろう? ならば……」
「ならば……?」
「これからは、毎日すればいい」
わたくしは、そのままベッドに押し倒された。
それからのオリバー様は、宣言通り毎日わたくしを愛してくれた。
公務が忙しく、夜遅くに帰ってきた日も。
今日はやめておいた方がと断っても、チャンスはいつ転がっているかわからないからと。
決して作業にはならず、毎日丁寧にわたくしを慈しんでくれる。
そんなオリバー様が、本当に本当に愛おしくて。
オリバー様との赤ちゃんが欲しい。
わたくしが産みたい。他の誰にも、オリバー様の子どもを産ませたくはない。
どうしてわたくしのところには来てくれないの。
世の中には、何人も産んでいる人がいるというのに。
やっぱりわたくしのせいなの? それともオリバー様?
まさか、わたくしたちの相性が悪いの?
原因がわからなくても、子どもができなければ、結局は……。
何ヶ月か経ったけれど、わたくしたちに子どもはできなかった。
そしてとうとう……。
「すまない、ジュリア……俺は明日、側室のところへ行かなくてはならなくなった……王命だ」
その言葉に目眩を覚える。
オリバー様に負担をかけてはいけない。笑って送り出さなければと思うけれど、全身が拒否をしている。
体がほてり、ふらふらして吐き気が込み上げてきた。
「すまない……だが俺が愛しているのは、ジュリアただ一人だ! それだけはわかって……ジュリア!」
わかっていたことなのに。
わたくしは悲しみの渦に巻き込まれるように、その場に倒れてしまった。
58
お気に入りに追加
293
あなたにおすすめの小説
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子と十歳で婚約した。
仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちて婚約破棄されてしまう。
一般人となったユリアーナは、四十歳になっても、まだ独身だった。
そんな時、あるお客がユリアーナの働く宿屋へとやってきて……
これは、王都を追放されたユリアーナが、王妃となる夢を叶えて幸せになる物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もふもふクマさん彼氏は獣人国の王子様?! 婚約破棄って、それ冗談ですよね。
長岡更紗
恋愛
ユーミラの憧れのベアモンドは、騎士団に所属する強くて優しい人。
ある日、二人っきりになれた時に告白すると、彼の頭にクマ耳が生えてきて?!
ベアモンドがクマ獣人だと知ったユーミラだったが、恋心は変わらない。
彼も実はユーミラのことが好きで二人は無事付き合い始めるのだが……。
そんな幸せも束の間。
実はベアモンドは獣人国の王子ということが発覚し、獣人国に帰らなければいけないことに!
獣人国にはすでにベアモンドの婚約者も用意されていて……
どうする、ユーミラ!
小説家になろう、他サイトでも公開しています。
ケダモノ王子との婚約を強制された令嬢の身代わりにされましたが、彼に溺愛されて私は幸せです。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ミーア=キャッツレイ。そなたを我が息子、シルヴィニアス王子の婚約者とする!」
王城で開かれたパーティに参加していたミーアは、国王によって婚約を一方的に決められてしまう。
その婚約者は神獣の血を引く者、シルヴィニアス。
彼は第二王子にもかかわらず、次期国王となる運命にあった。
一夜にして王妃候補となったミーアは、他の令嬢たちから羨望の眼差しを向けられる。
しかし当のミーアは、王太子との婚約を拒んでしまう。なぜならば、彼女にはすでに別の婚約者がいたのだ。
それでも国王はミーアの恋を許さず、婚約を破棄してしまう。
娘を嫁に出したくない侯爵。
幼馴染に想いを寄せる令嬢。
親に捨てられ、救われた少女。
家族の愛に飢えた、呪われた王子。
そして玉座を狙う者たち……。
それぞれの思いや企みが交錯する中で、神獣の力を持つ王子と身代わりの少女は真実の愛を見つけることができるのか――!?
表紙イラスト/イトノコ(@misokooekaki)様より
巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~
アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
婚約者が肉食系女子にロックオンされています
キムラましゅろう
恋愛
縁故採用で魔法省の事務員として勤めるアミカ(19)
彼女には同じく魔法省の職員であるウォルトという婚約者がいる。
幼い頃に結ばれた婚約で、まるで兄妹のように成長してきた二人。
そんな二人の間に波風を立てる女性が現れる。
最近ウォルトのバディになったロマーヌという女性職員だ。
最近流行りの自由恋愛主義者である彼女はどうやら次の恋のお相手にウォルトをロックオンしたらしく……。
結婚間近の婚約者を狙う女に戦々恐々とするアミカの奮闘物語。
一話完結の読み切りです。
従っていつも以上にご都合主義です。
誤字脱字が点在すると思われますが、そっとオブラートに包み込んでお知らせ頂けますと助かります。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜
悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜
嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。
陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。
無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。
夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。
怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる