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31.疑問

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 エヴァンダーと部屋で二人っきりになったルナリーは、首を傾げたまま愛する人を見上げた。

「お節介って……もしかして、エヴァン様……?」

 ルナリーが聞いても、エヴァンダーはちょっと困ったようにうっすらと微笑むだけで、なにも言わなかった。
 だけど外風呂に入る時はステルスを使っていなかったので、エヴァンダーならルナリーがいることに気づいていたかもしれない。
 とすると、アルトゥールの気持ちを引き出したのも、それをルナリーに聞かせたのも……そして先に上がらせて告白に持っていかせたのも、すべてエヴァンダーの思い通りということになる。

「どうして?」

 ルナリーの漠然とした疑問に、エヴァンダーはやはり眉を下げながら口を開いた。

「アルは自分から言わないでしょうから、ルナリー様が告白をさせてあげたのでしょう?」
「うん……当たってる」
「ありがとうございます。アルは本当に弟妹思いな男ですから、我慢ばかりしているので……たまには自分の気持ちを優先してほしかったのですよ」

 そう言うエヴァンダーの顔は、長兄を思う末弟のように見えた。
 アルトゥールもきっと、エヴァンダーのことを弟のように思うことがあるのだろう。

 二人は長年付き合ってきた信頼できる相棒であり、最強のコンビであり、互いを思い合う兄弟なのだ。

 アルトゥールは気持ちを伝えてスッキリするタイプだと、エヴァンダーは知り尽くしていた。だから振られるとわかっていて告白させるという、一見して残酷とも思える行動をとったに違いなかった。
 気持ちを伝えさせることが最良だと、エヴァンダーはわかっていたから。
 ルナリーとしても、ちゃんと気持ちを伝えてくれて良かったと思う。これで死後の心配がひとつ消えた。

「でも……アル様の前でキスしにくくなっちゃったわね……」
「今さらですよ。急にしなくなったら、『俺に遠慮するな』『ルーの望むことをしてやれ』と逆に怒られますから」
「でも、嫌な思いさせちゃわないかしら」
「アルはそんな器の小さい男じゃありません」

 言い切ったエヴァンダーにこくんと頷く。そのまま彼を見上げると、唇が降りてきてルナリーは受け入れた。

「今日は……早く寝なきゃよね」

 ぎゅうっとエヴァンダーを抱きしめる。
 いつも満足させてくれているのに、何度でも求めてしまう。一秒たりとも、布一枚たりとも離れていたくない。

「明日に疲れは残せませんから」

 暗に断われて、ルナリーはしゅんと肩を落とした。

「あれだけしたのに、まだ足りませんか?」
「ずっとエヴァン様を感じてたいの……だめ?」

 上目遣いでエヴァンダーを見上げると、うっすらと笑っていた。どこか嬉しそうに見えて、でもさすがにいいとは言ってくれない。

「寝ているときもずっと、抱きしめてキスしますよ」
「うん……もう、どうして人って眠らなきゃいけないのかしら。ずっとエヴァン様のことを想っていられたらいいのに」
「じゃあ、一緒に夢を見ますか?」
「え?」

 エヴァンダーは鞄から、二つの魔石を取り出した。もちろんクズ石ではあるが。

「今晩、ルナリー様と同じ夢を見られるように」

 エヴァンダーが念じると魔石はぽうっと光った後、砕けて消えた。
 もうひとつの魔石を渡されたルナリーも、エヴァンダーと同じ夢をと願う。やはり魔石はぽうっと光ったあと消えていった。

「これで寝ていても、ずっと一緒にいられます」
「こんな使い方、したことなかったわ」
「姉が婚約中に、婚約者とよくやっていたんですよ。私もいつか愛する人と試したいと思っていました。これはクズ石なので、どれだけの効果が出るかはわかりませんが」
「ふふ、でも寝るのが楽しみになったわ」
「私もです」

 キスをされるとそのまま抱き上げられて、ベッドの上に下ろされる。
 エヴァンダーも横になると、腕枕をしてくれて互いの顔を寄せ合った。愛する人の香りに包まれて、ふふっと笑みを漏らす。

「そういえば、アル様も今頃この石を使っているかしら?」
「聖女ゼアの夢は懲りているようなので、使ったのではないでしょうか」
「でもどうして、ゼアさんの夢ばかり見るの? しかも怒られてる夢ばかりって、普通ないわよね」
「そうですね……誰かが魔石を使って、アルに聖女ゼアの夢を見させている……か」
「そんなこと、できるの?」
「中級以上の石なら可能だとは思いますが」
「可能だとしても、一体誰がそんなことを?」

 あの日の記憶を持って巻き戻っているのは、ルナリーとアルトゥールだけだ。
 今の時間軸では、ルナリーたちはルワンティス女帝国に行っていないことになっている。よって、ゼアとアルトゥールが知り合いだったことは、ルナリーたち三人しか知らないはずなのだ。
 もちろんルナリーもエヴァンダーも、魔石を使って彼の夢の中にゼアを出してはいないし、アルトゥール本人も同様だろう。

 一体誰がなぜ、なんの目的でアルトゥールの夢にゼアを出しているというのか。

「ルワンティス軍と共闘した時の巻き戻りの際、最年少のアズリンは亡くなっていて、聖女はゼアだけが残っていたのですよね?」
「ええ。ゼアさんが結界を張ってくれて、巻き戻りの力を使った瞬間に魔女は倒されてたわ」
「ふむ……」
「なにかわかった?」

 エヴァンダーは「私の憶測でしかありませんが」と前置きをした上で自分の考えを話してくれた。

「聖女ゼアの張った結界内で巻き戻りの力を発動したのなら、ゼアを巻き込んでいる可能性もあると思ったのです」
「つまり、今のゼアさんも私たちと同じように、記憶を持って巻き戻ってること?」
「あまり自信はありませんが、聖女ならば似たような力を持っていてもおかしくはありませんし」
「ゼアさんが記憶を持っていたとして、アル様の夢に出てくる理由がわからないわ。もし連絡を取りたいなら、私の夢に出てきてもいいはずでしょう?」
「確かにそうですね。怒っているというのもおかしな話ですし」

 二人でうーんと唸っても答えは出るはずもない。エヴァンダーはルナリーの金髪に指を滑らせ、梳くように髪をかきあげ始めた。

「エヴァン様?」
「考えても今は推測の域を出ませんし、今日は寝ましょうか」

 エヴァンダの言葉に、ルナリーは反応を返さなかった。
 寝てしまえば今日が終わってしまう。だけどずっと起きて抱き合っていたくても、そうはいかない。

「夢の中で会えますよ」
「……ん」

 優しいキスを唇に受けて、包むように抱きしめてくれる。
 途端に疲れが出てきたのか、エヴァンダーの腕の中でルナリーは目を瞑ると、いつの間にか眠っていた。
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