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12.決断

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「ああ……う……あああああ……っ」
「力は発動するな……落ち着け、ルー……!」
「でも……エヴァン様が……エヴァン様がぁ………っ!!」
「悪い……俺が、イーヴァを殺した……俺も……もう長くはもたない……聞いてくれ……」

 もたないという言葉にハッとして振り返る。
 彼は右目の負傷だけではなく、よく見ると左腕が今にもちぎれ落ちそうになっている。

「アル様……! 治癒を……」
「いい、聞いてくれ……」

 アルトゥールはぜぇぜぇと息を切らし、苦しそうに顔を歪めていた。

「魔女は、そろそろ討伐できそうだ……見てみろ……」

 アルトゥールに言われて目を向ければ、ふらつく魔女を相手に、ルワンティスの騎士たちが応戦している姿があった。
 周りにはイシリア国民とルワンティス軍の死体の山が築かれていて、目を覆いたくなるような光景ではあったが。

「国王陛下と王妃殿下は無事だ……魔女を討伐したあと、魅了解除すれば目的は達成となる……」

 目的、達成。
 その言葉を聞いて、ルナリーは愕然とした。
 一体、どれだけの被害を出してしまったのだろう。

 王都民はもちろん、近隣の町や村の人たちもほぼ全員が死んだ。もしかしたらルナリーの両親や、二人の家族も死体の山に埋もれているかもしれない。
 ルワンティス帝国の軍人も、かなりの数が亡くなっている。
 エヴァンダーはすでに生き絶え、このままでは遠からずアルトゥールも死んでしまうのだ。

「アズリン!!」
「アズリン様ぁああ!!」

 ゼアと騎士たちの声が響く。
 ハッと見ると、アズリンの胸が貫かれていた。
 魔女リリスは結界の中にいながら、今にも倒れそうだというのに次々と騎士たちを葬り去っている。

「これが成功だと言えるの……魔女を討ち取ることができれば、すべてそれでいいの……?!」

 討伐できそうな時には時間を巻き戻さないと約束はした。だけど、状況が酷すぎる。
 エヴァンダーはもういない。アルトゥールはいなくなる。
 そんな未来など……耐えられない。
 女帝国の聖女アズリンまでもが死に、本当に多くの人々が命を散らした。

「ルー……」
「私はいや……こんな未来は……こんな未来を望んだんじゃないわ!!」
「まっ、て、くれ……!」

 巻き戻りの力を発動させようとするルナリーに、アルトゥールは声を振り絞って止めてくる。

「アル様……どうして」
「いや……ルーの思う通りにすればいい……だが、巻き戻ったところで……同じことの繰り返しだ……」

 ぜぇぜぇと肩を揺らすアルトゥール。もう長くないということが、ルナリーにもわかった。

「アル様、記憶を持って戻るなら、早くしないと……」
「ルー……二回、巻き戻る気がないなら、今の未来を選べ……」
「……二回……?」

 残り十九年の寿命だ。二回巻き戻れば、十八年縮むことになる。つまり、残りは一年のみ。
 寿命が一気になくなることに恐れなはない。
 二回巻き戻ることで、エヴァンダーとアルトゥールの命が助かり魔女を討伐できるなら、それが一番いいのだから。

「平気よ……二回なら、私の寿命は持つわ」
「ルーなら……そう言うと思った……じゃあ、よく聞いてくれ……」

 ルナリーが首肯すると、息をするのもしんどそうなアルトゥールが、振り絞るように声を出す。

「今巻き戻ると……七月十日に戻る……そこで、十日のうちに……イーヴァには、自殺して……もらう……」
「……っ、なにを……」
「聞け……起点は……七月十日・・・・だ……ひとつ前の七月十日に、戻る……じゃあ、七月十日のうちに巻き戻れば……」
「もしかして、去年の七月十日まで戻れるってこと……?」
「ああ……あいつが……イーヴァが十日に、こだわって……たのは、きっと……」

 たしかに、エヴァンダーはいつもの懐中時計を見て時間を気にしていた。
 〝時間がもったいない〟〝タイムオーバー〟だと言っていたのは、七月十日のうちに自殺してさらに一年巻き戻るためだったのかもしれない。
 二回巻き戻るということは、エヴァンダーを死なせなければならないということ。
 自分の寿命が縮まるだけならいくらでも使うのにと、ルナリーは唇を噛み締める。

「覚悟……決めろ、ルー……三周目と……同じ会話をすれば、あいつは……きっと自ら命を絶つ……」

 また、エヴァンダーに苦しい思いをさせなければいけない。
 それは本当に正しい選択なのだろうか。

「ルー……優しいな……」

 片目しかないアルトゥールの目が、今にも瞑りそうになっていた。
 やっぱり……今の未来では納得いかない。
 このまま時を進めるのがベターなのかもしれないが、ルナリーにとってこんな残酷な結末はない。

「巻き戻るわ。一緒に飛びましょう、アル様!」

 ルナリーはアルトゥールの手をぎゅっと握ると。
 祈りを捧げ、巻き戻りの力を発動した。

 発光する視界の遠くで、魔女の断末魔が聞こえた気がした。

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