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04.結婚したい
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エリオス様にエスコートしてもらってから、二週間が経った。
社交界デビューを終えたということは、成人はまだだけど一人の女性とみなされるということでもある。
つまり、子ども扱いされなくなるはず、なんだけど。
「……」
けど私は王宮に与えられた自室で勉強をしながら、窓の外を見ていた。
空は青くて明るいけど、私の心はどこか晴れない。
エリオス様は、今年で二十二歳になった。私との年齢差は、相変わらず七つあるままで。
とっくの昔に第一王子が立太子として承認されているためか、第二王子であるエリオス様に婚約者の話は出てこない。
けど……
「モテるわよね……」
ファーストダンスが済むと、ダンスはエスコート役以外の人と踊らなければいけなくなる。社交を広げる機会とされているから、当然なんだけど。
あの後エリオス様は、多くの令嬢に囲まれていた。
そうなるとわかっていたのに。エリオス様は嫌な顔ひとつせずに、令嬢たちに微笑みを振りまいていて。
私だけの笑顔じゃない。当たり前のことだったのに、どうして自分が特別だなんて思ってしまったんだろう。
エリオス様が、急に遠く感じられた。
「エリオス様……いつか、誰かと結婚するの……?」
小さな頃から大好きな大好きな、お兄さん。
私のことを妹のようにかわいがってくれていたのに。
毎日会いたいってわがままも、エスコート役も、私の願いならすべて叶えてくれた。
もしエリオス様が誰かと結婚したら、もう私なんか見向きもされなくなっちゃう……!
「ふ、ふえぇええ……っ」
情けない嗚咽が漏れて、私は無理やり唇を噛むと声を殺す。
結婚なんてしないで、なんて。
ずっと私のお兄さんでいて、なんて。
さすがの私も、そんなわがままは言えない。
きっとエリオス様を困らせるから。
初めて嫌な顔を向けられるかもしれないと思うと、怖くて言えるわけがない。
心臓に爪を立てられたように苦しくて。
だけど、今のままいられないこともわかってる。
いつかエリオス様も、誰かと結婚して──
「……それ、私じゃだめかな……」
ふと思い至って、いつの間にか俯いていた顔を上げた。
変と言われてはいるけど、これでも私は公爵令嬢。十分に第二王子であるエリオス様と釣り合う家柄だもの。お父様に感謝だわ。
私はエリオス様が大好きだし、結婚できる。ううん、結婚したい。
ずっとずっと、エリオス様のそばにいたい。あの柔らかく優しい眼差しを、見続けていたい!
「結婚、してもらおう……っ!」
私は立ち上がると部屋を出た。
了承が出るとは限らない。どんな願いも叶えてくれたエリオス様でも、こればっかりは王家の意向もあるし、いつものように簡単に『いいよ』とは言ってくれないだろうけど。
でも、自分の気持ちを伝えるのよ……!
私は小さい頃からお兄さんが大好きで……
今ではエリオス様が大大大好きで、生涯一緒にいたいんだってことを!
廊下に出てエリオス様の部屋へと急いでいると、途中のホールにエリオス様の姿がちらりと見えた。
「エリ……」
声をかけようとして、私は言葉を引っ込ませる。
エリオス様は、令嬢らしき人物に……豪華なエメラルドの首飾りをつけてあげていた。
「ありがとう。これ欲しかったのよね」
「気に入ってもらえたならよかったよ。誕生日おめでとう」
エリオス様が……女性への誕生日プレゼントに、首飾りを……。
だけど私は女性を見て納得した。相手は美しい大人の女性。そんな相手にぬいぐるみをプレゼントなんて、するわけがない。
「で、婚約者との結婚はどうするの?」
「僕は、ちゃんと結婚したいと考えてるよ」
「本当に?」
「本当だ」
「じゃあ、楽しみに待ってるわね!」
彼女は嬉しそうにエメラルドのネックレスを煌めかせながら言った。
社交界デビューを終えたということは、成人はまだだけど一人の女性とみなされるということでもある。
つまり、子ども扱いされなくなるはず、なんだけど。
「……」
けど私は王宮に与えられた自室で勉強をしながら、窓の外を見ていた。
空は青くて明るいけど、私の心はどこか晴れない。
エリオス様は、今年で二十二歳になった。私との年齢差は、相変わらず七つあるままで。
とっくの昔に第一王子が立太子として承認されているためか、第二王子であるエリオス様に婚約者の話は出てこない。
けど……
「モテるわよね……」
ファーストダンスが済むと、ダンスはエスコート役以外の人と踊らなければいけなくなる。社交を広げる機会とされているから、当然なんだけど。
あの後エリオス様は、多くの令嬢に囲まれていた。
そうなるとわかっていたのに。エリオス様は嫌な顔ひとつせずに、令嬢たちに微笑みを振りまいていて。
私だけの笑顔じゃない。当たり前のことだったのに、どうして自分が特別だなんて思ってしまったんだろう。
エリオス様が、急に遠く感じられた。
「エリオス様……いつか、誰かと結婚するの……?」
小さな頃から大好きな大好きな、お兄さん。
私のことを妹のようにかわいがってくれていたのに。
毎日会いたいってわがままも、エスコート役も、私の願いならすべて叶えてくれた。
もしエリオス様が誰かと結婚したら、もう私なんか見向きもされなくなっちゃう……!
「ふ、ふえぇええ……っ」
情けない嗚咽が漏れて、私は無理やり唇を噛むと声を殺す。
結婚なんてしないで、なんて。
ずっと私のお兄さんでいて、なんて。
さすがの私も、そんなわがままは言えない。
きっとエリオス様を困らせるから。
初めて嫌な顔を向けられるかもしれないと思うと、怖くて言えるわけがない。
心臓に爪を立てられたように苦しくて。
だけど、今のままいられないこともわかってる。
いつかエリオス様も、誰かと結婚して──
「……それ、私じゃだめかな……」
ふと思い至って、いつの間にか俯いていた顔を上げた。
変と言われてはいるけど、これでも私は公爵令嬢。十分に第二王子であるエリオス様と釣り合う家柄だもの。お父様に感謝だわ。
私はエリオス様が大好きだし、結婚できる。ううん、結婚したい。
ずっとずっと、エリオス様のそばにいたい。あの柔らかく優しい眼差しを、見続けていたい!
「結婚、してもらおう……っ!」
私は立ち上がると部屋を出た。
了承が出るとは限らない。どんな願いも叶えてくれたエリオス様でも、こればっかりは王家の意向もあるし、いつものように簡単に『いいよ』とは言ってくれないだろうけど。
でも、自分の気持ちを伝えるのよ……!
私は小さい頃からお兄さんが大好きで……
今ではエリオス様が大大大好きで、生涯一緒にいたいんだってことを!
廊下に出てエリオス様の部屋へと急いでいると、途中のホールにエリオス様の姿がちらりと見えた。
「エリ……」
声をかけようとして、私は言葉を引っ込ませる。
エリオス様は、令嬢らしき人物に……豪華なエメラルドの首飾りをつけてあげていた。
「ありがとう。これ欲しかったのよね」
「気に入ってもらえたならよかったよ。誕生日おめでとう」
エリオス様が……女性への誕生日プレゼントに、首飾りを……。
だけど私は女性を見て納得した。相手は美しい大人の女性。そんな相手にぬいぐるみをプレゼントなんて、するわけがない。
「で、婚約者との結婚はどうするの?」
「僕は、ちゃんと結婚したいと考えてるよ」
「本当に?」
「本当だ」
「じゃあ、楽しみに待ってるわね!」
彼女は嬉しそうにエメラルドのネックレスを煌めかせながら言った。
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