風変わり公爵令嬢は、溺愛王子とほのぼの王宮ライフを楽しむようです 〜大好きなお兄さんは婚約者!?〜

長岡更紗

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02.大好きなお兄さん

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 あの日から、私とエリオス様の交流は始まったの。
 と言っても、エリオス様は王子で忙しい人。
 一ヶ月に一度会えればいい方で、半年くらい間が空くなんてこともあった。
 それでも忙しい合間にやってきてくれたエリオス様に、私は精一杯おもてなししたわ。

 そう、騎士ごっことか。
 ブランコやシーソーもさせたし。
 おままごとにも付き合わせて、「はい、あーん」とか言いながら泥団子を食べさせようとしたり。
 石蹴り遊びやかくれんぼ、砂遊びも嫌がらず……ううん、むしろ嬉しそうに付き合ってくれた。
 厩舎番のおじいちゃんから教えてもらった、庶民の遊び。だーれも付き合ってくれなかったけど、エリオス様だけは嫌がらず一緒に遊んでくれた。
 となると当然、毎日でも会いたくなっちゃったのよね。

「エリオス様と、毎日会いたいの!!」

 そんな私のわがままを聞いても、エリオス様はやっぱり太陽のように微笑んで。

「わかった。じゃあ毎日会える方法がないか、考えてみるよ」

 そう言ってくれたのが、私が十歳、エリオス様が十七歳の時のこと。
 すると一週間もしないうちに私は王宮へと呼ばれて、なんと行儀見習いとして王宮に仕えることになったってわけ。

「今までのように遊んでばかりは無理だけど、フィオーナが十五歳のデビュタントに向けて頑張ってくれたなら、絶対に毎日会いに来るから」

 そんなほんわかした嬉しそうな笑顔で言われたらもう、頑張るしかないじゃないの!
 エリオス様に毎日会えるように、私は頑張った。
 社交の場で必要な、舞踏会での振る舞いや礼儀作法。
 王宮の公式行事や儀式の準備も積極的に手伝ったし。
 対人関係もしっかり頭に叩き込んで、家庭教師が来る日は真面目に勉強も頑張った。
 休みの日には、エリオス様を巻き込んで外に飛び出したけど。


 あれは確か、私十一歳、エリオス様十八歳の時のこと。

「エリオス様、この町には湖畔とボートがあるんですって! 私、漕いでみたいわ!」
「フィオーナはなんにでも意欲的だなぁ。僕も乗っていいのかい?」
「もちろんよ、一緒に乗らなきゃ面白くないもの!」

 そう言って一緒に乗ったけれど、私が漕ぐとなぜかボートはくるくると回るだけで進まなくて。

「貸してごらん、フィオ」

 優しく名前を呼ばれて、危うく櫂を落としてしまいそうになった。

「フィオーナは、右手の力が強いから進まないんだよ。両方同じ強さで漕げば……ほら、進む」

 目を細められると、胸がむず痒くてたまらなくて。

「もう一回、私が漕ぐわ!」
「わお。今立っちゃ危ないよ。ほら、こっち座って。一緒に漕ごう」

 グラグラ揺れるボートの上で、私は言われるがまま、エリオス様と同じ方向を向いて座った。
 すぐ後ろの私の頭の上で、エリオス様の息遣いが聞こえて。櫂を握る私の手の上に、エリオス様の手が乗せられる。

「ほら、こうして水をしっかり捉えて、左手も意識しながらグッと引くんだ」

 こんなにも男の人と密着したのは、初めてで。
 私は、心臓がおかしくなるんじゃないかって思った。
 けど、エリオス様はなんにも感じてないんだろうなと思うと、心臓がぎゅうっと押し潰されたように感じて。

「どうかした? フィオ」
「ううん! エリオス様、一緒に漕いでくれてありがとう!」

 一生懸命なんでもないふりをして笑うと、エリオス様はふわっと柔らかい眼差しを向けてくれていた。


 それからも、私たちは王宮で毎日会い続けた。
 二年が過ぎ、三年が過ぎ、お互いに忙しくなっても、一日の終わりには必ず顔を見るって約束を守って。

「今日もよく頑張ったね、フィオ。父上も兄上も、フィオーナのことを褒めてくださっていたよ」

 まるで自分のことのように喜んでくれることが嬉しくて、私はえへへと顔を熱くさせた。

「偉い偉い。よしよし」

 頭をふわふわと撫でられて、私の口角は自然に上がっていく。

「かわいいなぁ、フィオは」

 何度も何度も言ってくれる言葉。
 目と目が合えば、必ずお互いふにゃっと笑って。
 幸せしか、感じなくて。

「王宮仕えは大変だろう? やることもどんどん増えてきてるし」
「私は大丈夫よ。エリオス様が会いに来てくれるなら、いくらでも頑張れるもの!」
「わお。さすがだね、僕のフィオ」

 そう言ってもらえると、胸がきゅうきゅう音を立てそうなほど締め付けられていく。
 頭をよしよしと撫でてくれる手が、この上なく心地いい。

「けど、無理はしなくていいからね。帰りたくなったら、いつでも公爵家に帰る手続きはしてあげるから」
「大丈夫よ。私、ずっとエリオス様のそばにいたいの!」
「そっか」

 私の言葉に嬉しそうに目を細めてくれたけど。
 〝僕もだよ〟とは、言ってくれなかった。
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