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おまけ レンドール視点
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「俺と同じ女の子がいる?」
チチチッと窓の向こうから、歌うような声がした。
覗いてみるとそこには青い鳥がいて、彼女は自分をセラフィーナと名乗った。
名前があるということは、ペットとして飼われているのかもしれない。
人間がつける以外、彼ら彼女らに普通名前はないのだから。
そのセラフィーナが、俺と同じように“ 動物の言葉がわかる少女がいる”、と教えてくれた。
当時の俺は十四歳だった。
俺は生まれた時から動物たちの声が聞こえていて、それが普通だと七歳くらいまでは思っていた。
しかし動物たちと話す俺を見る目や、周りの反応はさまざまで。
微笑ましいと見守ってくれる者。
気持ちが悪いと眉を顰める者。
頭がおかしいと陰で嗤う者。
いろんな者たちがいたが、母上に『本当に動物と話せるんだ』と訴えると悲しい顔をされたため、もう人前では動物たちと話さなくなった。
第一王子として生まれたからには、それなりの振る舞いを求められる。そのために必要な対応だった。
だけど、俺と同じ能力者がいる。しかも女の子。
いつかその子に会いたい。
俺の心は、会ったこともないその女の子で満たされていった。
──
「どうしたんですか、レン様。嬉しそうな顔をして」
ヴェシィが不思議そうに、でも嬉しそうに顔を上げた。
ニヤついてしまっていたかもしれないと、俺は顔を整える。
「いや、俺はヴェシィに会えて幸せ者だと思っていただけだ」
俺の言葉に、少し驚いたように目を広げたあと、ヴェシィはにっこりと笑ってくれて。
その笑顔に胸が熱くなる。
《俺もヴェシィに出会えて幸せもんだぞー!》
《ぼくもレンに会えて幸せだー》
一緒におしゃべりしていたネズミたちが、チューチューとヴェシィの手の上で手を上げている。
「ふふっ。私もみんなに出会えて、幸せ者だわ」
その笑顔が俺だけに向けられたものじゃないとわかり、俺は二匹のネズミをヴェシィの手から追い出した。
《ずるいぞー》
《ずるいよー!》
「ずるくない」
俺はそういうと、ヴェシィの唇をそっと奪った。
少し距離を取ると、ヴェシィの顔は薔薇のように赤くなっている。
「誰と出会えて幸せだって?」
俺の問いに、ヴェシィは。
「レン様、です……」
顔を赤らめたまま答えてくれた。
ずるいずるいというネズミたちに向ける、ヴェシィの困った顔。
それもまた、いい。
ヴェシィに出会えて本当に良かった。
もちろん、大切な友人たちにも。
俺は二匹のネズミたちに優しく触れる。
「もう、レン様ったら……動物と戯れる時はとっても甘い顔をしているから、嫉妬してしまいます」
「……そうか?」
「そうです」
少しむくれた顔も可愛くて。
「すまない。だが愛しているのは、ヴェシィ一人だ」
そう言うと、俺はもう一度ヴェシィにキスを施した。
チチチッと窓の向こうから、歌うような声がした。
覗いてみるとそこには青い鳥がいて、彼女は自分をセラフィーナと名乗った。
名前があるということは、ペットとして飼われているのかもしれない。
人間がつける以外、彼ら彼女らに普通名前はないのだから。
そのセラフィーナが、俺と同じように“ 動物の言葉がわかる少女がいる”、と教えてくれた。
当時の俺は十四歳だった。
俺は生まれた時から動物たちの声が聞こえていて、それが普通だと七歳くらいまでは思っていた。
しかし動物たちと話す俺を見る目や、周りの反応はさまざまで。
微笑ましいと見守ってくれる者。
気持ちが悪いと眉を顰める者。
頭がおかしいと陰で嗤う者。
いろんな者たちがいたが、母上に『本当に動物と話せるんだ』と訴えると悲しい顔をされたため、もう人前では動物たちと話さなくなった。
第一王子として生まれたからには、それなりの振る舞いを求められる。そのために必要な対応だった。
だけど、俺と同じ能力者がいる。しかも女の子。
いつかその子に会いたい。
俺の心は、会ったこともないその女の子で満たされていった。
──
「どうしたんですか、レン様。嬉しそうな顔をして」
ヴェシィが不思議そうに、でも嬉しそうに顔を上げた。
ニヤついてしまっていたかもしれないと、俺は顔を整える。
「いや、俺はヴェシィに会えて幸せ者だと思っていただけだ」
俺の言葉に、少し驚いたように目を広げたあと、ヴェシィはにっこりと笑ってくれて。
その笑顔に胸が熱くなる。
《俺もヴェシィに出会えて幸せもんだぞー!》
《ぼくもレンに会えて幸せだー》
一緒におしゃべりしていたネズミたちが、チューチューとヴェシィの手の上で手を上げている。
「ふふっ。私もみんなに出会えて、幸せ者だわ」
その笑顔が俺だけに向けられたものじゃないとわかり、俺は二匹のネズミをヴェシィの手から追い出した。
《ずるいぞー》
《ずるいよー!》
「ずるくない」
俺はそういうと、ヴェシィの唇をそっと奪った。
少し距離を取ると、ヴェシィの顔は薔薇のように赤くなっている。
「誰と出会えて幸せだって?」
俺の問いに、ヴェシィは。
「レン様、です……」
顔を赤らめたまま答えてくれた。
ずるいずるいというネズミたちに向ける、ヴェシィの困った顔。
それもまた、いい。
ヴェシィに出会えて本当に良かった。
もちろん、大切な友人たちにも。
俺は二匹のネズミたちに優しく触れる。
「もう、レン様ったら……動物と戯れる時はとっても甘い顔をしているから、嫉妬してしまいます」
「……そうか?」
「そうです」
少しむくれた顔も可愛くて。
「すまない。だが愛しているのは、ヴェシィ一人だ」
そう言うと、俺はもう一度ヴェシィにキスを施した。
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