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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
1.婚約破棄
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「エレシア・ニンフリバー 、貴様とは婚約破棄する!」
ざわつく周囲。俺はエレシアを見下し、隣にいるレイラを抱き寄せた。
エレシアは泣きそうな顔をして、それでも俺の婚約破棄を受け入れると去っていった。
俺がそんな婚約破棄劇をおこなったのは、二ヶ月も前のこと。
ノヴェリア王国の第一王子であった俺は、すべてにおいて驕っていた。
婚約破棄後の俺は、散々だった。
聖女である侯爵令嬢エレシアとの婚約。それを勝手に破棄した俺は、父上の怒りを買って王位継承権を剥奪された。
それだけでは済まず、危険な紛争地帯への出征を命じられてしまう始末。
しかも、王族としての指揮官ではない、末端の騎士としてだ。
ここで功績を上げなければ、王籍を抜くとまで言われてしまった。
ただの一騎士が、どうやって功績を上げろというんだよ?
レイラはその条件を聞いて俺の前から消えたかと思うと、翌週には別の男との婚約を発表をしていた。
たしかにレイラと俺とは正式な婚約をしていなかったが……酷すぎないか?
他に良い人が現れたからと、真実の愛を見つけたからと、この俺を簡単に捨てるとは……!
……いや、俺も同じか。
真実の愛を見つけたつもりで婚約を一方的に破棄し、エレシアを傷つけた。
傷ついた顔……していたな。
エレシアは体の発育が悪かったのか、十六歳にしてはかなり小柄で、女らしく強調する部分が圧倒的に欠けていた。
俺たちが婚約したのは、エレシアが十歳、俺が十五歳の時だ。
ガキだと思った。
頭が良く、聖女の力が使えるだけの、生意気なガキ。
俺のこなす仕事に、「ここが間違っております」と修正を言い渡されるたびに苛立った。
ああ、エレシアは頭がよかったんだ。俺がどれだけ頑張っても、彼女には遠く及ばない。そんなこと、わかっている。
バカな王子だと陰で噂されているのも知っている。
剣を習っても、どれだけ勉強しても、できる奴には追いつけなかった。
無能王子。きっとエレシアもそんな目で俺を見ている……。
そう思うと、我慢ならなかった。
なんでも簡単にできる奴らに、俺の気持ちはわかるまい。
どれだけ努力してもポカをやらかし、その度にエレシアが後始末をしてくれたのだ。この上ない、屈辱だった。
俺だって本当はポンコツなんかじゃなく、万能になりたかったんだ。
家臣に尊敬され、婚約者に愛され、すべての問題を鮮やかに解決し、国を平和に導ける偉大な指導者に。
だが現実はどうだ。
俺の苦しみがわかると言ってくれた女に、簡単に溺れてしまった。
愛されているんだと、こんな俺でも受け入れてくれる人がいるのかと、心の底から喜んでしまった自分を殴りたい。
俺を受け入れてくれる者など、ありはしないんだ。
血の繋がった父上ですら、危険な紛争地帯に俺を寄越すくらいだもんな。
功績を望むどころか、死んでいなくなってほしいと願っているのかもしれない。
ポンコツ息子がいなくなれば、危惧することがひとつ減る。その方が、都合がいいんだろう。
俺は、誰にも必要とされていない。
そう思うと涙が滲んできた。
俺はもうここで、死ぬだけの運命。死んで喜ぶ者がいても、悲しんでくれる人は誰もいない。
生きていても虚しいだけだとわかっているのに、それでも生きたいと願ってしまう情けなさ。
潔く死ぬこともできず、戦場で仲間たちと共に、必死に戦うだけ。
ただ死にたくない。死ぬのは怖かった。
「よ、クラッティ! なーにふさぎ込んでんだ!」
「グレゴリー」
まだ一応王族である俺の名前を気軽に呼ぶのは、同じ平騎士のグレゴリーだ。
いや、本当の名前はメディオクラテスなんだが。長ったらしいからと、勝手に略された。
「今日は敵を退けたんだ、祝杯だぜ!」
「一部を後退させただけだろ」
「そう言うなって! 俺たち騎士はいつ死んでもおかしくねぇんだから、いつだって少しでもいいことがあった時は、祝杯をあげるのさ!」
「干し肉とお湯でか?」
「それもオツだろ?」
「……戦場が、これほどまでに酷い状況で戦っているなんて、来てみるまで知らなかったよ……」
……いや、本当は知っていた。
幾度も戦場からの要請があった。その度に対処はしていたはずだったが、全然行き届いてなかったんだ。
エレシアが「これでは物資が足りないのでは?」と言うたびに、俺の決定に文句をつけるのか、国庫はいくらでも出てくる魔法の金庫ではない、たかだか紛争ごときのために金は出せないと意見を退けていた。
その結果が戦場で戦う者の士気を下げ、ずるずると長く厳しい戦闘が続くこととなってしまっている。
こんなに酷い状況だと知っていたら、俺だって……。
俺は戦場に来て、初めて手紙を書いた。
干し肉片手に、仲間と湯で祝杯をあげながら。
父上は読んでくれるだろうか。
愚息のいうことなど、聞いてくれないかもしれない。むしろ俺を殺すために、補給を断たれてしまうかもしれない。
エレシアが恋しくなった。
エレシアなら、きっと戦場にいる者たちに思いを馳せて、どうにかしてくれたはずだと。
彼女は今、どうしているだろうか。
手紙を書くと早馬で届けてもらい、二週間後には炊事軍隊が派兵されてきた。
まさか父上がここまでしてくれるとは思っていなかった俺は、激しく驚嘆した。
「これをメディオクラテス様にと」
派兵の一人に渡された、王家からの手紙。それを開いた瞬間、俺は胸が締め付けられるように苦しくなる。
文面は、俺の要請に応え、炊事部隊を編成したことを伝えるだけの内容だった。
だけど、この字を忘れるわけはない。
エレシアの書いた、美しく丁寧な文字。
俺に婚約破棄された彼女は、もう王城にいないのではないかと思っていた。
弟である第二王子の婚約者にでもなって、そのまま居座っていたのだろうか。
戦場では、なんの情報も伝わってこないからわからない。だから俺の醜聞も伝わらずに、仲間達は俺を受け入れてくれているわけだが。
早速料理を作り始めた炊事部隊を見る。いい匂いを嗅ぐと、途端にお腹がすいた。
エレシアがこの部隊を編成してくれたのかと思うと、ぎゅっと胸が詰まるような苦しさを覚えた。
そうだ、彼女はずっと炊事部隊の派兵を提案していた気がする。
当時は俺からも父上からも許可は出なかったはずだが。押し通してくれたのか。
まさか、俺のため……ではないだろう。
彼女は誰からの要請でも、真摯に対応していたのだから。反対ばかりする鬱陶しい男がいなくなって、さぞ仕事がしやすくなったことだろう。
補給路はしっかりと確保されていて、食材も今までとは比べ物にならないくらいに入ってくる。
炊事部隊の作る軍食は美味しくどこか懐かしく、否が応でも騎士たちの士気は上がっていった。
苦戦することも多かった戦いが、拮抗し始めた。
一進一退ではあったが、食事をとると『明日こそやってやろう』と皆で決起した。
俺はことあるごとにエレシアを思い出す。
なにしているだろうかと考えると、胸を掻きむしりたくなるような衝動に襲われた。
会いたい。会って一言謝罪したい。
命の危険に晒されながら戦い続けて、ようやくエレシアの偉大さに気づいた。
十歳で聖女の力に目覚め、たった一人で王城に連れてこられて教育を施されて。彼女はどれだけ心細かっただろう。
婚約者であるはずの俺にはガキだと蔑まれ、疎まれて。どれだけ悔しかっただろう。
そんな中でもエレシアは、驚異的な頭脳ですべてを学び終えると国政に携わり、人々のためにと動き始めた。
権力と戦いながら。
彼女が一番味方になって欲しかった人物は、おそらく俺だったはずだ。
なのに俺は、エレシアの敵でしかなかった。くだらないプライドで自分だけを守り、戦場で戦う者を危険にさらしたんだ。
それだけじゃない。
氾濫の恐れのある河川の拡幅事業を提案されたときも、そんなものは必要ないと無視した。
貴族だけでなく庶民にも教育の場を作って、国全体の知的成長と教養向上を促進すべきだと言われた時も。国民など、馬鹿でいいのだと一蹴した。王家のいうことを従わせるなら、無駄に知識などつけさせない方がいいと、真剣に思っていた。
でも、あれもこれも間違っていたんだろう……今はそう思う。
この騎士隊でも字を書けるのは、上官である貴族出身の者だけだ。
他の者は愛する家族に手紙を送りたくても書けないでいる。何度か頼まれて代筆したが、結局は家族に字の読める者がいないから意味がないという者がほとんどだった。
俺はエレシアから送られた手紙を見る。
いや、手紙とも言えない、ただの書類上の紙。
まだ二ヶ月半しか経っていないのに、やたら懐かしく感じた。
「エレシア……」
その紙を見ながら名前を呼んだ瞬間、なぜか書類が薄ぼんやりと光ってすぐに消える。
……なんだ? なにか聖女の力か?
もう一度書類に目を落とすと、さっきまでなかった文字が浮かび上がっていた。そこには──
メディオクラテス様、死なないで
と──。
俺はその文字を見た瞬間、男泣きに泣いてしまった。
どうしてエレシアはこんな言葉を書いて送ってくれたのだろう。
わからないが、俺はただ無性に嬉しかった。
グレゴリーが、「恋人からか!」と笑いながら背中を叩いてくれていた。
ざわつく周囲。俺はエレシアを見下し、隣にいるレイラを抱き寄せた。
エレシアは泣きそうな顔をして、それでも俺の婚約破棄を受け入れると去っていった。
俺がそんな婚約破棄劇をおこなったのは、二ヶ月も前のこと。
ノヴェリア王国の第一王子であった俺は、すべてにおいて驕っていた。
婚約破棄後の俺は、散々だった。
聖女である侯爵令嬢エレシアとの婚約。それを勝手に破棄した俺は、父上の怒りを買って王位継承権を剥奪された。
それだけでは済まず、危険な紛争地帯への出征を命じられてしまう始末。
しかも、王族としての指揮官ではない、末端の騎士としてだ。
ここで功績を上げなければ、王籍を抜くとまで言われてしまった。
ただの一騎士が、どうやって功績を上げろというんだよ?
レイラはその条件を聞いて俺の前から消えたかと思うと、翌週には別の男との婚約を発表をしていた。
たしかにレイラと俺とは正式な婚約をしていなかったが……酷すぎないか?
他に良い人が現れたからと、真実の愛を見つけたからと、この俺を簡単に捨てるとは……!
……いや、俺も同じか。
真実の愛を見つけたつもりで婚約を一方的に破棄し、エレシアを傷つけた。
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エレシアは体の発育が悪かったのか、十六歳にしてはかなり小柄で、女らしく強調する部分が圧倒的に欠けていた。
俺たちが婚約したのは、エレシアが十歳、俺が十五歳の時だ。
ガキだと思った。
頭が良く、聖女の力が使えるだけの、生意気なガキ。
俺のこなす仕事に、「ここが間違っております」と修正を言い渡されるたびに苛立った。
ああ、エレシアは頭がよかったんだ。俺がどれだけ頑張っても、彼女には遠く及ばない。そんなこと、わかっている。
バカな王子だと陰で噂されているのも知っている。
剣を習っても、どれだけ勉強しても、できる奴には追いつけなかった。
無能王子。きっとエレシアもそんな目で俺を見ている……。
そう思うと、我慢ならなかった。
なんでも簡単にできる奴らに、俺の気持ちはわかるまい。
どれだけ努力してもポカをやらかし、その度にエレシアが後始末をしてくれたのだ。この上ない、屈辱だった。
俺だって本当はポンコツなんかじゃなく、万能になりたかったんだ。
家臣に尊敬され、婚約者に愛され、すべての問題を鮮やかに解決し、国を平和に導ける偉大な指導者に。
だが現実はどうだ。
俺の苦しみがわかると言ってくれた女に、簡単に溺れてしまった。
愛されているんだと、こんな俺でも受け入れてくれる人がいるのかと、心の底から喜んでしまった自分を殴りたい。
俺を受け入れてくれる者など、ありはしないんだ。
血の繋がった父上ですら、危険な紛争地帯に俺を寄越すくらいだもんな。
功績を望むどころか、死んでいなくなってほしいと願っているのかもしれない。
ポンコツ息子がいなくなれば、危惧することがひとつ減る。その方が、都合がいいんだろう。
俺は、誰にも必要とされていない。
そう思うと涙が滲んできた。
俺はもうここで、死ぬだけの運命。死んで喜ぶ者がいても、悲しんでくれる人は誰もいない。
生きていても虚しいだけだとわかっているのに、それでも生きたいと願ってしまう情けなさ。
潔く死ぬこともできず、戦場で仲間たちと共に、必死に戦うだけ。
ただ死にたくない。死ぬのは怖かった。
「よ、クラッティ! なーにふさぎ込んでんだ!」
「グレゴリー」
まだ一応王族である俺の名前を気軽に呼ぶのは、同じ平騎士のグレゴリーだ。
いや、本当の名前はメディオクラテスなんだが。長ったらしいからと、勝手に略された。
「今日は敵を退けたんだ、祝杯だぜ!」
「一部を後退させただけだろ」
「そう言うなって! 俺たち騎士はいつ死んでもおかしくねぇんだから、いつだって少しでもいいことがあった時は、祝杯をあげるのさ!」
「干し肉とお湯でか?」
「それもオツだろ?」
「……戦場が、これほどまでに酷い状況で戦っているなんて、来てみるまで知らなかったよ……」
……いや、本当は知っていた。
幾度も戦場からの要請があった。その度に対処はしていたはずだったが、全然行き届いてなかったんだ。
エレシアが「これでは物資が足りないのでは?」と言うたびに、俺の決定に文句をつけるのか、国庫はいくらでも出てくる魔法の金庫ではない、たかだか紛争ごときのために金は出せないと意見を退けていた。
その結果が戦場で戦う者の士気を下げ、ずるずると長く厳しい戦闘が続くこととなってしまっている。
こんなに酷い状況だと知っていたら、俺だって……。
俺は戦場に来て、初めて手紙を書いた。
干し肉片手に、仲間と湯で祝杯をあげながら。
父上は読んでくれるだろうか。
愚息のいうことなど、聞いてくれないかもしれない。むしろ俺を殺すために、補給を断たれてしまうかもしれない。
エレシアが恋しくなった。
エレシアなら、きっと戦場にいる者たちに思いを馳せて、どうにかしてくれたはずだと。
彼女は今、どうしているだろうか。
手紙を書くと早馬で届けてもらい、二週間後には炊事軍隊が派兵されてきた。
まさか父上がここまでしてくれるとは思っていなかった俺は、激しく驚嘆した。
「これをメディオクラテス様にと」
派兵の一人に渡された、王家からの手紙。それを開いた瞬間、俺は胸が締め付けられるように苦しくなる。
文面は、俺の要請に応え、炊事部隊を編成したことを伝えるだけの内容だった。
だけど、この字を忘れるわけはない。
エレシアの書いた、美しく丁寧な文字。
俺に婚約破棄された彼女は、もう王城にいないのではないかと思っていた。
弟である第二王子の婚約者にでもなって、そのまま居座っていたのだろうか。
戦場では、なんの情報も伝わってこないからわからない。だから俺の醜聞も伝わらずに、仲間達は俺を受け入れてくれているわけだが。
早速料理を作り始めた炊事部隊を見る。いい匂いを嗅ぐと、途端にお腹がすいた。
エレシアがこの部隊を編成してくれたのかと思うと、ぎゅっと胸が詰まるような苦しさを覚えた。
そうだ、彼女はずっと炊事部隊の派兵を提案していた気がする。
当時は俺からも父上からも許可は出なかったはずだが。押し通してくれたのか。
まさか、俺のため……ではないだろう。
彼女は誰からの要請でも、真摯に対応していたのだから。反対ばかりする鬱陶しい男がいなくなって、さぞ仕事がしやすくなったことだろう。
補給路はしっかりと確保されていて、食材も今までとは比べ物にならないくらいに入ってくる。
炊事部隊の作る軍食は美味しくどこか懐かしく、否が応でも騎士たちの士気は上がっていった。
苦戦することも多かった戦いが、拮抗し始めた。
一進一退ではあったが、食事をとると『明日こそやってやろう』と皆で決起した。
俺はことあるごとにエレシアを思い出す。
なにしているだろうかと考えると、胸を掻きむしりたくなるような衝動に襲われた。
会いたい。会って一言謝罪したい。
命の危険に晒されながら戦い続けて、ようやくエレシアの偉大さに気づいた。
十歳で聖女の力に目覚め、たった一人で王城に連れてこられて教育を施されて。彼女はどれだけ心細かっただろう。
婚約者であるはずの俺にはガキだと蔑まれ、疎まれて。どれだけ悔しかっただろう。
そんな中でもエレシアは、驚異的な頭脳ですべてを学び終えると国政に携わり、人々のためにと動き始めた。
権力と戦いながら。
彼女が一番味方になって欲しかった人物は、おそらく俺だったはずだ。
なのに俺は、エレシアの敵でしかなかった。くだらないプライドで自分だけを守り、戦場で戦う者を危険にさらしたんだ。
それだけじゃない。
氾濫の恐れのある河川の拡幅事業を提案されたときも、そんなものは必要ないと無視した。
貴族だけでなく庶民にも教育の場を作って、国全体の知的成長と教養向上を促進すべきだと言われた時も。国民など、馬鹿でいいのだと一蹴した。王家のいうことを従わせるなら、無駄に知識などつけさせない方がいいと、真剣に思っていた。
でも、あれもこれも間違っていたんだろう……今はそう思う。
この騎士隊でも字を書けるのは、上官である貴族出身の者だけだ。
他の者は愛する家族に手紙を送りたくても書けないでいる。何度か頼まれて代筆したが、結局は家族に字の読める者がいないから意味がないという者がほとんどだった。
俺はエレシアから送られた手紙を見る。
いや、手紙とも言えない、ただの書類上の紙。
まだ二ヶ月半しか経っていないのに、やたら懐かしく感じた。
「エレシア……」
その紙を見ながら名前を呼んだ瞬間、なぜか書類が薄ぼんやりと光ってすぐに消える。
……なんだ? なにか聖女の力か?
もう一度書類に目を落とすと、さっきまでなかった文字が浮かび上がっていた。そこには──
メディオクラテス様、死なないで
と──。
俺はその文字を見た瞬間、男泣きに泣いてしまった。
どうしてエレシアはこんな言葉を書いて送ってくれたのだろう。
わからないが、俺はただ無性に嬉しかった。
グレゴリーが、「恋人からか!」と笑いながら背中を叩いてくれていた。
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