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22.十二日目。匂いが気になる私
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昨夜はなんとか鉄の意志を貫くことができた。
……キスは、され続けてしまったけれども。
もう、イライジャ様は普通にキスをしていいと思っていますね!?
朝の挨拶だと言ってキスするのもおやめくださいまし!!
朝食を食べ終えると、今日も今日とて畑仕事です。
しかし意気揚々と外に出た私たちに待ち受けていたのは……
「う、わ!?」
イライジャ様の驚いた声が上がって、私は何事かと目を見開いた。
「こ、これは──」
作物の葉が穴だらけになっている。
先日から虫食いが気になってはいたけれど、虫くらい来るものだと思って放っておいたのが悪かったのだろうか。
葉が変色しているのもあるし、病気かもしれない。
ともかく、これではまともに作物が育つとは思えない。
大きく育ってきて肥料もやって、楽しみになってきたところだったというのに。
「植えたからと、ちゃんとできるとは限らないのだな……」
しょんぼりと肩を落とすイライジャ様。
なにか薬のようなもので虫がつかないようにする方法もあったのかもしれないが、後の祭りだ。
「難しいものだな、農業というのは……」
「そうでございますね……」
「ジョージたちは……俺たちよりも、さらに絶望を味わったのであろうな」
彼らにとっての食糧は、基本的にこの畑で採れるものだったはずだ。
それが全滅してしまえば、生死に関わってくる。
思えば、今年は虫が大量発生しているとジョージ様は言っていた気がする。
そのせいで食糧が不足して倒れ、生命が危うい状況になってしまっていたのだ。
改めて、ジョージ様たちの生活が大変を通り越して酷いものだったのだと、理解できた。
「片付けますか?」
「そうだな……このまま置いていても虫がわいて餌になるだけであろうし……抜いて、燃やして、片付けてしまおう」
私たちは仕方なく、畑の整理をし始めた。
育てるためではなく、処分するためだけの労働というのは気持ちも沈むし、まったく楽しくない。
いつもは活き活きとしてらっしゃるイライジャ様も、さすがに表情乏しく作業をされていた。
虫の駆除も兼ねて枯れ木とともに燃やしてしまうと、抜いたばかりで水分の含まれた草からは、もうもうと大きな煙が上がっていた。
「ごほっ、うまく焼けないものだな」
「二、三日乾かしてから、もう一度焼きましょう。今日はもう……」
「そうだな、疲れた」
あまり疲れたと言わないイライジャ様がぐったりとしている。
夕飯を食べると少しは元気が出たようではあったけれども、やはり頑張って育てていた野菜が全滅となると、さすがに落ち込んでしまわれたようだ。
それにしても私、臭い気がする。
服はさすがに着替えているけれど、煙が体に染み付いてしまっているのか、それとも髪にか……。
洗いたい。頭がかゆい!
「さて、そろそろ眠るか」
当然のように手を広げているイライジャ様。
キスですね!? それはおやすみのキスを求めているのですね!!?
「クラリ……」
「ダメでございます!!」
私が強く拒むと、ショックを受けた顔をしてしまった。
あああ、違うのです!! キスを拒んだわけでは!
いえ、違わないのですが違うのです!!
「匂いなら気にするな。俺も煙臭い」
ズバリ言い当てられました!
しかし気にするなと言われましても……気になるものなのです。
なにせ、ここに来てから十二日目が終わろうとしていて、その間は水浴びをしたりタオルで体を拭くくらいしかできていません。
さらに今日は煙臭さが上乗せされているのですから!! 王子に近寄るなんて大それたこと、できようはずがないではないですか!!
「だからクラリス」
「嫌です」
「クラリス!」
「嫌でございますーっ!!」
全力で拒否する私に、さすがのイライジャ様も諦めてため息をついた。
「では、月下の踊り子をつけるといい」
「お断りいたします!!」
「では俺がつけるか」
「おやめくださいまし!!」
全力でお止めすると、イライジャ様はフムと息を吐かれた。
「では明日は、温泉のある町にでも行くか。ここからだと少し遠いが」
「温泉……で、ございますか?」
「嫌か?」
王子の提案に、私はぶんぶんと首を横に振った。
ジョージ様と同じ暮らしを望んでいたイライジャが、まさか温泉を望まれるとは!
いえ、これは私のためなのでしょうけども!
「クラリスとキスができぬのはつらいからな」
ご自分のためでした!!
「匂いが無くなれば、キスもしてくれるのだろう?」
「はい……え?」
「はははっ、言質をとったぞ!」
いえそんな、子どもみたいに喜ばれましても!!
「では寝よう!」
「ひゃっ」
ぐいっと抱き抱えられてマットに沈められる。
そのままイライジャ様のお顔が降りてきて……
「ンン!?」
「おやすみ、クラリス」
まだ匂いは無くなってないのですが!? まったくイライジャ様、あなたという方はーー!!
……キスは、され続けてしまったけれども。
もう、イライジャ様は普通にキスをしていいと思っていますね!?
朝の挨拶だと言ってキスするのもおやめくださいまし!!
朝食を食べ終えると、今日も今日とて畑仕事です。
しかし意気揚々と外に出た私たちに待ち受けていたのは……
「う、わ!?」
イライジャ様の驚いた声が上がって、私は何事かと目を見開いた。
「こ、これは──」
作物の葉が穴だらけになっている。
先日から虫食いが気になってはいたけれど、虫くらい来るものだと思って放っておいたのが悪かったのだろうか。
葉が変色しているのもあるし、病気かもしれない。
ともかく、これではまともに作物が育つとは思えない。
大きく育ってきて肥料もやって、楽しみになってきたところだったというのに。
「植えたからと、ちゃんとできるとは限らないのだな……」
しょんぼりと肩を落とすイライジャ様。
なにか薬のようなもので虫がつかないようにする方法もあったのかもしれないが、後の祭りだ。
「難しいものだな、農業というのは……」
「そうでございますね……」
「ジョージたちは……俺たちよりも、さらに絶望を味わったのであろうな」
彼らにとっての食糧は、基本的にこの畑で採れるものだったはずだ。
それが全滅してしまえば、生死に関わってくる。
思えば、今年は虫が大量発生しているとジョージ様は言っていた気がする。
そのせいで食糧が不足して倒れ、生命が危うい状況になってしまっていたのだ。
改めて、ジョージ様たちの生活が大変を通り越して酷いものだったのだと、理解できた。
「片付けますか?」
「そうだな……このまま置いていても虫がわいて餌になるだけであろうし……抜いて、燃やして、片付けてしまおう」
私たちは仕方なく、畑の整理をし始めた。
育てるためではなく、処分するためだけの労働というのは気持ちも沈むし、まったく楽しくない。
いつもは活き活きとしてらっしゃるイライジャ様も、さすがに表情乏しく作業をされていた。
虫の駆除も兼ねて枯れ木とともに燃やしてしまうと、抜いたばかりで水分の含まれた草からは、もうもうと大きな煙が上がっていた。
「ごほっ、うまく焼けないものだな」
「二、三日乾かしてから、もう一度焼きましょう。今日はもう……」
「そうだな、疲れた」
あまり疲れたと言わないイライジャ様がぐったりとしている。
夕飯を食べると少しは元気が出たようではあったけれども、やはり頑張って育てていた野菜が全滅となると、さすがに落ち込んでしまわれたようだ。
それにしても私、臭い気がする。
服はさすがに着替えているけれど、煙が体に染み付いてしまっているのか、それとも髪にか……。
洗いたい。頭がかゆい!
「さて、そろそろ眠るか」
当然のように手を広げているイライジャ様。
キスですね!? それはおやすみのキスを求めているのですね!!?
「クラリ……」
「ダメでございます!!」
私が強く拒むと、ショックを受けた顔をしてしまった。
あああ、違うのです!! キスを拒んだわけでは!
いえ、違わないのですが違うのです!!
「匂いなら気にするな。俺も煙臭い」
ズバリ言い当てられました!
しかし気にするなと言われましても……気になるものなのです。
なにせ、ここに来てから十二日目が終わろうとしていて、その間は水浴びをしたりタオルで体を拭くくらいしかできていません。
さらに今日は煙臭さが上乗せされているのですから!! 王子に近寄るなんて大それたこと、できようはずがないではないですか!!
「だからクラリス」
「嫌です」
「クラリス!」
「嫌でございますーっ!!」
全力で拒否する私に、さすがのイライジャ様も諦めてため息をついた。
「では、月下の踊り子をつけるといい」
「お断りいたします!!」
「では俺がつけるか」
「おやめくださいまし!!」
全力でお止めすると、イライジャ様はフムと息を吐かれた。
「では明日は、温泉のある町にでも行くか。ここからだと少し遠いが」
「温泉……で、ございますか?」
「嫌か?」
王子の提案に、私はぶんぶんと首を横に振った。
ジョージ様と同じ暮らしを望んでいたイライジャが、まさか温泉を望まれるとは!
いえ、これは私のためなのでしょうけども!
「クラリスとキスができぬのはつらいからな」
ご自分のためでした!!
「匂いが無くなれば、キスもしてくれるのだろう?」
「はい……え?」
「はははっ、言質をとったぞ!」
いえそんな、子どもみたいに喜ばれましても!!
「では寝よう!」
「ひゃっ」
ぐいっと抱き抱えられてマットに沈められる。
そのままイライジャ様のお顔が降りてきて……
「ンン!?」
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まだ匂いは無くなってないのですが!? まったくイライジャ様、あなたという方はーー!!
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