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21.十一日目。鉄の意志を持つ私
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イライジャ様の真剣なお顔。
この国の常識を変えていきたいというお気持ちは、痛いほどよくわかった。
けれどもイライジャ様が王となり、国を変えようとしている時に、私はそばにはいられない。
── 俺の隣にいてほしい──
その言葉は、涙が溢れそうなほど、嬉しくはあるのですけれども……。
建国祭でイライジャ様が姿を現し、ジョージ様と双子であったことを明かすのが目的。
そこでこの国の闇を露呈させ、因習を断ち切り、ジョージ様を認めさせなければならないのだから。
どちらにしろ、私はイライジャ様を拐かした身であり、もう共には歩めない。
ずっとお側で仕えていたかったのは山々だけれど。建国祭を境に、私とイライジャ様は今生の別れとなるだろう。
「クラリス?」
返事ができずにいると、イライジャ様は不思議そうな顔をして私を覗き込んだ。
いけない、このままでは不審に思われてしまう。
イライジャ様は、建国祭で私が消えるつもりでいるなどとは露ほどにも思っておられないようだ。
無事に建国祭を迎えられるよう、やり過ごさなければと私は微笑みを作る。
「そうでございますね。どうか、王となりこの国を変えていくイライジャ様を、見せてくださいまし」
実際にこの目でイライジャ様を見ることはなくなっても。
変わっていく国を見ることはできるはず。
私の言葉に、イライジャ様は目を細めて嬉しそうに笑った。
「ああ。そなたがいれば百人力だ。必ずいい国にしてみせる」
胸にちくりと走る罪悪感。
けれどイライジャ様は、私などがおらずとも、立派な王となるに違いない。
そしてどなたかと結婚し、お子を生して、幸せに暮らしていかれるのだ。
涙が出そうになるのは、嬉しいからに違いない。
願わくば、そんなイライジャ様を近くでお見守りしていたかった。
「嬉し泣きか?」
「……はい」
肯定してみせると、イライジャ様のエメラルド色の瞳は嬉しそうに光った。
どうしてこんなに胸が苦しいというのか。
イライジャ様と離れる覚悟は、とうにできているはずなのに。
「クラリス……」
温かい手が、私の頬に触れた。
なにをされるかは、もうわかっている。
私がそっと目を閉じると、ふわりと空気が動いた。
ゆっくりと味わうようにくちびるを吸われて、それだけで私の体は溶けていきそうになる。
「今晩こそは、良いか?」
「ダメでございます」
「……」
拒否すると、ちょっとイライジャ様の頬が膨れてしまった。お可愛らしい。
「いつになったら良いのだ」
「まだしばらくは、お許しくださいませ」
「まぁ、そなたの心が決まるまでは待つが……待てなくなることも、ある」
射抜かれそうな視線を浴びて、私の心はばくんと大きく揺れ動く。
こんなにまで求めてくださっていることに喜びを感じている私は、なんだというのか。
喜びの心のまま、体を委ねたらどんなことになるのだろう。
いや、耳年増だから知識だけはあるのだけれども。
これはきっと、興味本位というやつだ。そんな興味だけで、イライジャ様のお体を私などで穢させるわけにはいかない。
たとえ、どれだけ求められても。
私は! 鉄の意志で! 断らなければならない!!
「愛している、クラリス……早くそなたとひとつになりたい……」
そんな甘い顔をして言わないでくださいまし!
「この手に抱いて、一晩中そなたを鳴かせ続けたい」
なにをなさるおつもりですか!!
「そなたの上げる声は、どんなに愛らしいだろうと毎夜想像してしまうのだ」
勝手に私の声を想像しないでくださいませー!?
「ははっ、そんなに嫌そうな顔をするな、クラリス! なにもしはしない」
っく! 私で遊んでいらしたのですね!!? まったく、この王子は──
「今はまだ、な」
するつもりですかーー!!
もう、私の情緒が振り切れてしまいそうなのですが!!
「本当にかわいいな、そなたは」
「からかわないでくださいませ。こんな年増を捕まえて」
「たったの四歳差だ。すぐに追いつく」
「ふふっ、イライジャ様が二十七歳になった時、私は三十一歳でございますよ?」
「それもすぐに追いつく」
年齢が追いつくことなど一生ないというのに、イライジャ様は当然のようにそう言って笑った。
だけれど、私は現実に引き戻される。
イライジャ様が二十七歳になれば、私はもう三十一歳なのだと。
埋められない年齢差と身分差。
愛していると言ってくれるのは単純に嬉しい。
けれど、だからこそ、イライジャ様の気持ちを受け入れるわけにはいかないのだ。
私は鉄の意志をさらに固めて、くちびるを噛み締めた。
「そなたの不安がわからない俺だと思うか?」
「え……?」
手を頭に回されたかと思うと、そのままくちびるをほぐされていく。
あああ、私の鉄の意志はどこへ……!
「んん、イライ、ジャ、様……っ」
「なにも案ずることはない。俺にすべてを任せてくれれば、それで良い」
それは一体、なんの話をしてらっしゃるのですか?!
「俺にすべてを任せると言ってくれ、クラリス……」
「んんん~~っ!」
言 い ま せ ん か ら っ !!
この国の常識を変えていきたいというお気持ちは、痛いほどよくわかった。
けれどもイライジャ様が王となり、国を変えようとしている時に、私はそばにはいられない。
── 俺の隣にいてほしい──
その言葉は、涙が溢れそうなほど、嬉しくはあるのですけれども……。
建国祭でイライジャ様が姿を現し、ジョージ様と双子であったことを明かすのが目的。
そこでこの国の闇を露呈させ、因習を断ち切り、ジョージ様を認めさせなければならないのだから。
どちらにしろ、私はイライジャ様を拐かした身であり、もう共には歩めない。
ずっとお側で仕えていたかったのは山々だけれど。建国祭を境に、私とイライジャ様は今生の別れとなるだろう。
「クラリス?」
返事ができずにいると、イライジャ様は不思議そうな顔をして私を覗き込んだ。
いけない、このままでは不審に思われてしまう。
イライジャ様は、建国祭で私が消えるつもりでいるなどとは露ほどにも思っておられないようだ。
無事に建国祭を迎えられるよう、やり過ごさなければと私は微笑みを作る。
「そうでございますね。どうか、王となりこの国を変えていくイライジャ様を、見せてくださいまし」
実際にこの目でイライジャ様を見ることはなくなっても。
変わっていく国を見ることはできるはず。
私の言葉に、イライジャ様は目を細めて嬉しそうに笑った。
「ああ。そなたがいれば百人力だ。必ずいい国にしてみせる」
胸にちくりと走る罪悪感。
けれどイライジャ様は、私などがおらずとも、立派な王となるに違いない。
そしてどなたかと結婚し、お子を生して、幸せに暮らしていかれるのだ。
涙が出そうになるのは、嬉しいからに違いない。
願わくば、そんなイライジャ様を近くでお見守りしていたかった。
「嬉し泣きか?」
「……はい」
肯定してみせると、イライジャ様のエメラルド色の瞳は嬉しそうに光った。
どうしてこんなに胸が苦しいというのか。
イライジャ様と離れる覚悟は、とうにできているはずなのに。
「クラリス……」
温かい手が、私の頬に触れた。
なにをされるかは、もうわかっている。
私がそっと目を閉じると、ふわりと空気が動いた。
ゆっくりと味わうようにくちびるを吸われて、それだけで私の体は溶けていきそうになる。
「今晩こそは、良いか?」
「ダメでございます」
「……」
拒否すると、ちょっとイライジャ様の頬が膨れてしまった。お可愛らしい。
「いつになったら良いのだ」
「まだしばらくは、お許しくださいませ」
「まぁ、そなたの心が決まるまでは待つが……待てなくなることも、ある」
射抜かれそうな視線を浴びて、私の心はばくんと大きく揺れ動く。
こんなにまで求めてくださっていることに喜びを感じている私は、なんだというのか。
喜びの心のまま、体を委ねたらどんなことになるのだろう。
いや、耳年増だから知識だけはあるのだけれども。
これはきっと、興味本位というやつだ。そんな興味だけで、イライジャ様のお体を私などで穢させるわけにはいかない。
たとえ、どれだけ求められても。
私は! 鉄の意志で! 断らなければならない!!
「愛している、クラリス……早くそなたとひとつになりたい……」
そんな甘い顔をして言わないでくださいまし!
「この手に抱いて、一晩中そなたを鳴かせ続けたい」
なにをなさるおつもりですか!!
「そなたの上げる声は、どんなに愛らしいだろうと毎夜想像してしまうのだ」
勝手に私の声を想像しないでくださいませー!?
「ははっ、そんなに嫌そうな顔をするな、クラリス! なにもしはしない」
っく! 私で遊んでいらしたのですね!!? まったく、この王子は──
「今はまだ、な」
するつもりですかーー!!
もう、私の情緒が振り切れてしまいそうなのですが!!
「本当にかわいいな、そなたは」
「からかわないでくださいませ。こんな年増を捕まえて」
「たったの四歳差だ。すぐに追いつく」
「ふふっ、イライジャ様が二十七歳になった時、私は三十一歳でございますよ?」
「それもすぐに追いつく」
年齢が追いつくことなど一生ないというのに、イライジャ様は当然のようにそう言って笑った。
だけれど、私は現実に引き戻される。
イライジャ様が二十七歳になれば、私はもう三十一歳なのだと。
埋められない年齢差と身分差。
愛していると言ってくれるのは単純に嬉しい。
けれど、だからこそ、イライジャ様の気持ちを受け入れるわけにはいかないのだ。
私は鉄の意志をさらに固めて、くちびるを噛み締めた。
「そなたの不安がわからない俺だと思うか?」
「え……?」
手を頭に回されたかと思うと、そのままくちびるをほぐされていく。
あああ、私の鉄の意志はどこへ……!
「んん、イライ、ジャ、様……っ」
「なにも案ずることはない。俺にすべてを任せてくれれば、それで良い」
それは一体、なんの話をしてらっしゃるのですか?!
「俺にすべてを任せると言ってくれ、クラリス……」
「んんん~~っ!」
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