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20.十一日目。怒れる王子様
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桶に入れた水を持って帰る途中、疲れて休憩を入れるたびにキスをされてしまった。なぜ。
イライジャ様いわく、「することがないからだ」と。
することがなければキスをして良いとでも!? どういう認識でございますか!
それでも、夜はなんとか逃げ切った。「同意なくするものではないな」とイライジャ様も納得してくださって。
だというのになぜか、キスされながら眠りましたが!?
キスも同意がなくてはダメだと思うのですが!!
そして夜が明けて、本日は小屋生活十一日目。
朝のうちに畑仕事を終わらせてしまうと、たっぷりと時間が空いてしまった。
「町に行った時、トランプのひとつでも買ってくれば良かったですね。イライジャ様、お暇でございましょう」
「いや、いい。のんびりなにもしない時間もいいものだ」
熱い日差しを避け、小屋の中で私たちは目を合わせた。
しかしやることがないというのは、なんだかもぞもぞとする。
普段が忙しなく働いているせいか、のんびりするというのが落ち着かないのだけれど。
イライジャ様はそんなことはないのだろうか。
「どうした、クラリス」
「いえ、することがないというのは落ち着かなくて」
「そなたは働き者だからな。次から次に仕事を見つける天才だった」
「貧乏性なのです。なにかしていないと、時間がもったいなく思えまして」
「俺と二人っきりでこうしている時間は、もったいないか?」
うっすらと微笑まれて、私はそっと首を横に振る。
いえ、もう、それはもう、もったいのうございますよ。
私などがイライジャ様とのんびり二人で過ごす時間をいただけるだなんて。
けれど、それは時間が惜しいという意味ではなく。身に余ってもったいないという意味なのです。
「では、話し相手になってくれ。夕飯の準備までにはまだまだ時間がある」
促された私は、ベッドへと腰掛けた。私の隣にイライジャ様も腰を掛けられ、その姿を見上げると視線が重なる。
……変な気を起こすのではないかと、ヒヤヒヤなのですが。
「少し真面目な話をするが、良いか?」
「え? あ、はい、もちろんでございます」
変な気なんて微塵もなかったようです! なにを考えているのか、私は。王子を信用もせず、情けない!
ふと見ると、イライジャ様はいつもの太陽のようなお顔ではなく、陰を差していらした。一体なにを言われるのだろうかと不安になる。
「知っているとは思うが、俺はクソ父王が嫌いだ」
最初にイライジャ様の口から飛び出したのは、そんな言葉だった。
ええ、まぁ、存じてはおりましたが……
「古い因習に囚われ、“闇の子を宿した”として、母上が病気になってもなにもしようとしなかった……っ」
強く握られる、イライジャ様の拳。
王妃様は、イライジャ様が十歳の時に病気で亡くなっている。私が王宮に入る前のことなので、どんな方かは詳しく存じ上げない。
けれどイライジャ様から何度もお話は聞いているため、とてもお優しい方だったのだろうという想像はできていた。
「母上は亡くなり、ジョージは悲惨な目に遭わされている。そしてそれが当然という態度を取っている父王に吐き気がする」
さらに強く握られる拳の上に、私は手をのせた。
そんなにきつく握られては、爪で傷つけて血が出てしまいそうだったから。
「クラリス……」
私の名を呼び、手がほんの少し弛められる。解きほぐすようにそっと指を隙間に入れると、イライジャ様の御手を開いてあげた。
その程度では、イライジャ様の暗い顔が晴れたりはしなかったけれど。
「そもそも母上が病気になったのは、あの男のせいなのだ。ことあるごとに母上を詰り、まともな食事を与えようとはしなかった。母上は……あいつに、殺されたのだ!」
とうとう陛下を“あいつ”扱いし始めたイライジャ様。
いつもはここまであからさまに言葉を荒げたりはしない。
ずっと心に溜めていたものが、王宮から離れることによって吹き出してしまったのだろう。
実の母親が、実の父親に殺されたと思っている。
いや、実際イライジャ様の言う通り、殺されたようなものなのだ。
どれだけの苦しみだろうか。王妃様が亡くなられてから十三年が経った今でも、イライジャ様の心の中には憎しみと悲しみが渦巻いている。
「あんな奴が玉座にいると思うだけで吐き気がする……宮廷官僚のジジイどもも同じだ……っ」
いつまでも因習を引きずっているのは、陛下だけではなく、ジジイ……もとい老年官僚のせいでもある。
しかし彼らは陛下のお気に入りだから、入れ替わることなどそうはないだろう。
「俺はいずれ……いや、なるべく早く玉座に就き、この国の常識を変える。意味なく苦しむ者など、生み出したりはしない」
「ご立派でございます、王子」
見上げて微笑むと、イライジャ様のエメラルドに光る瞳が私を見据えていた。
「俺にできると信じてくれるか」
「当然でございます」
「ならば」
なにを言おうとしているのか。
イライジャ様は、真剣なお顔で──
「その時そなたには、俺の隣にいてほしい」
ちょっと今、とんでもない言葉が聞こえてきたのですが!?
イライジャ様いわく、「することがないからだ」と。
することがなければキスをして良いとでも!? どういう認識でございますか!
それでも、夜はなんとか逃げ切った。「同意なくするものではないな」とイライジャ様も納得してくださって。
だというのになぜか、キスされながら眠りましたが!?
キスも同意がなくてはダメだと思うのですが!!
そして夜が明けて、本日は小屋生活十一日目。
朝のうちに畑仕事を終わらせてしまうと、たっぷりと時間が空いてしまった。
「町に行った時、トランプのひとつでも買ってくれば良かったですね。イライジャ様、お暇でございましょう」
「いや、いい。のんびりなにもしない時間もいいものだ」
熱い日差しを避け、小屋の中で私たちは目を合わせた。
しかしやることがないというのは、なんだかもぞもぞとする。
普段が忙しなく働いているせいか、のんびりするというのが落ち着かないのだけれど。
イライジャ様はそんなことはないのだろうか。
「どうした、クラリス」
「いえ、することがないというのは落ち着かなくて」
「そなたは働き者だからな。次から次に仕事を見つける天才だった」
「貧乏性なのです。なにかしていないと、時間がもったいなく思えまして」
「俺と二人っきりでこうしている時間は、もったいないか?」
うっすらと微笑まれて、私はそっと首を横に振る。
いえ、もう、それはもう、もったいのうございますよ。
私などがイライジャ様とのんびり二人で過ごす時間をいただけるだなんて。
けれど、それは時間が惜しいという意味ではなく。身に余ってもったいないという意味なのです。
「では、話し相手になってくれ。夕飯の準備までにはまだまだ時間がある」
促された私は、ベッドへと腰掛けた。私の隣にイライジャ様も腰を掛けられ、その姿を見上げると視線が重なる。
……変な気を起こすのではないかと、ヒヤヒヤなのですが。
「少し真面目な話をするが、良いか?」
「え? あ、はい、もちろんでございます」
変な気なんて微塵もなかったようです! なにを考えているのか、私は。王子を信用もせず、情けない!
ふと見ると、イライジャ様はいつもの太陽のようなお顔ではなく、陰を差していらした。一体なにを言われるのだろうかと不安になる。
「知っているとは思うが、俺はクソ父王が嫌いだ」
最初にイライジャ様の口から飛び出したのは、そんな言葉だった。
ええ、まぁ、存じてはおりましたが……
「古い因習に囚われ、“闇の子を宿した”として、母上が病気になってもなにもしようとしなかった……っ」
強く握られる、イライジャ様の拳。
王妃様は、イライジャ様が十歳の時に病気で亡くなっている。私が王宮に入る前のことなので、どんな方かは詳しく存じ上げない。
けれどイライジャ様から何度もお話は聞いているため、とてもお優しい方だったのだろうという想像はできていた。
「母上は亡くなり、ジョージは悲惨な目に遭わされている。そしてそれが当然という態度を取っている父王に吐き気がする」
さらに強く握られる拳の上に、私は手をのせた。
そんなにきつく握られては、爪で傷つけて血が出てしまいそうだったから。
「クラリス……」
私の名を呼び、手がほんの少し弛められる。解きほぐすようにそっと指を隙間に入れると、イライジャ様の御手を開いてあげた。
その程度では、イライジャ様の暗い顔が晴れたりはしなかったけれど。
「そもそも母上が病気になったのは、あの男のせいなのだ。ことあるごとに母上を詰り、まともな食事を与えようとはしなかった。母上は……あいつに、殺されたのだ!」
とうとう陛下を“あいつ”扱いし始めたイライジャ様。
いつもはここまであからさまに言葉を荒げたりはしない。
ずっと心に溜めていたものが、王宮から離れることによって吹き出してしまったのだろう。
実の母親が、実の父親に殺されたと思っている。
いや、実際イライジャ様の言う通り、殺されたようなものなのだ。
どれだけの苦しみだろうか。王妃様が亡くなられてから十三年が経った今でも、イライジャ様の心の中には憎しみと悲しみが渦巻いている。
「あんな奴が玉座にいると思うだけで吐き気がする……宮廷官僚のジジイどもも同じだ……っ」
いつまでも因習を引きずっているのは、陛下だけではなく、ジジイ……もとい老年官僚のせいでもある。
しかし彼らは陛下のお気に入りだから、入れ替わることなどそうはないだろう。
「俺はいずれ……いや、なるべく早く玉座に就き、この国の常識を変える。意味なく苦しむ者など、生み出したりはしない」
「ご立派でございます、王子」
見上げて微笑むと、イライジャ様のエメラルドに光る瞳が私を見据えていた。
「俺にできると信じてくれるか」
「当然でございます」
「ならば」
なにを言おうとしているのか。
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「その時そなたには、俺の隣にいてほしい」
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