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14.九日目。プレゼントを選ぶ私
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というわけで、九日目の本日はベッドマットを買いに町までやってきた。
子どもたちは広場を駆け、大人たちは店先で買い物をしたり歓談したりしている。
大きな町ではないものの、活気があるのは良いものです。
イライジャ様も、その様子を笑顔で見ていらっしゃった。
首も治ったようでなによりですね。あの首痛めポーズを見られないのは少し残念ですが。
「晴れて良かったな、クラリス」
「はい、本当に」
雨が降っていたら、マットを荷台に載せられませんからね。幌もありませんし。
「目的のマットを買う前に、なにか欲しいものはないか?」
「欲しいもの、ですか?」
急に欲しいものと言われても、ぱっと出てこない。
もちろん、あの小屋は足りないものだらけではあるけれども。
ただ、残りたったの十二日でこの生活は終わってしまうのだから、色々買い足しても無駄になる可能性が高いのだ。
マットはもう限界だから必要だけど、それ以外では物を増やすべきではないと思う。
「いえ、私は特に……イライジャ様はなにか欲しいものでもあるのですか?」
「俺の欲しいものは、そなたの笑顔だけだ」
何を言ってらっしゃるのか、この王子様は!!
私の笑顔など見て、どうなるというのです!
「物で釣ろうなどと、浅ましい考えであったな」
どうして寂しげに笑っているというのか……そんな顔に弱い私は、きっと殿下に甘いのだろう。
「わかりました」
「わかったとは?」
「私は、イライジャ様が選んでくれたものならば、なんでも喜びます」
パッと明るくなるイライジャ様のお顔。まったく、イライジャ様も単純なんですから。
「クラリス!」
「ですが!」
私は人差し指をピッと上げる。
「最初のうちのイライジャ様はろくにご飯も食べず、ジョージ様と同じ暮らしを望まれていたはず。つまり、プレゼントにかけられるお金は、ゼロということです」
「つまり盗んでこいと!?」
「誰がそんなことを申しましたか!」
「冗談だ」
王子の冗談は笑えませんが!?
イライジャ様は顎に手を当て、うーんと唸っている。
「お金をかけずにプレゼントなど……道端の花くらいしか思い浮かばないが、それではさすがに喜んではもらえぬだろう」
ふふ、王子はおばかさんですね。
私はたとえそれが石ころだって嬉しいというのに。
でも町に来て、お金を掛けずにプレゼントというのは、イライジャ様には難しいかもしれない。
小屋に戻れば買い物はできないし、王都に戻っても庶民のお店で買い物など楽しむことはないに違いない。
せっかくなので、少額の買い物を体験してもらいたい気持ちが膨れ上がった。
「では……五百ジェイアまでで選んでいただけますか?」
「一般庶民はそんな少額でプレゼントを選ぶのか?」
「相手によってさまざまでございますが、ちょっとしたプレゼント交換であれば妥当な額かと」
「プレゼント交換か、いいな、それは!」
「え?」
イライジャ様の意気揚々としたお顔! これは、もしや……
「クラリスも五百ジェイアで俺にプレゼントしてくれ!」
やっぱりでございますか!!
「で、ですが王子、私などがイライジャ様になにをプレゼントすればよいものか……」
「そなたの贈り物であれば、俺はなんだって嬉しい!」
そんな、キラキラした顔をなされても!
「では、一時間後にここで落ち合おう!」
「お一人で行動なさるおつもりでございますか?! 危のうございます!」
「大丈夫だ、誰も俺が王子などとは思わないだろう。俺は王都で病気療養中のはずだからな」
「そうでございますが……あ、イライジャ様!」
私がお止めする前に、イライジャ様は揚々と去ってしまわれた。
まったく、私の気も知らないで……!
ああ、まさか私までプレゼントを選ぶ羽目になってしまうとは……
欲しいものはなんでも手に入れられる王子に、一体なにを選べばいいというのか!
しかもたった五百ジェイア。この金額設定をした自分が恨めしい。
せめて、千ジェイアと言っておけばよかった。
私は色々と後悔しながら、町のお店を覗いていった。
お土産物屋に入ると、わけのわからない木彫りの置物なんかがあって、一度手に取るもすぐに元に戻した。
誰かが一生懸命作った物であることはわかっているけれど、王子の部屋には合わなさすぎる。
書店に入ってもピンとくるものはないし、雑貨店のものは王子とイメージが違う。
困った、どうすれば……。
そうだ、手頃なところでハンカチなんかいいかもしれない。ちょうど“別れ”という意味もあることだし。
建国祭が終われば、もう一緒にはいられないのだから。
ハンカチを探そうと一度外に出るも、ふと思いとどまる。
後に残らない物の方がいいかもしれない。
イライジャ様が私を偲ぶことなどないとわかっているけれども、物が残っていては罪悪感を抱いてしまいかねない。お優しい方だから。
となると……
私はイライジャ様への贈り物が決まり、次の店へと向かった。
子どもたちは広場を駆け、大人たちは店先で買い物をしたり歓談したりしている。
大きな町ではないものの、活気があるのは良いものです。
イライジャ様も、その様子を笑顔で見ていらっしゃった。
首も治ったようでなによりですね。あの首痛めポーズを見られないのは少し残念ですが。
「晴れて良かったな、クラリス」
「はい、本当に」
雨が降っていたら、マットを荷台に載せられませんからね。幌もありませんし。
「目的のマットを買う前に、なにか欲しいものはないか?」
「欲しいもの、ですか?」
急に欲しいものと言われても、ぱっと出てこない。
もちろん、あの小屋は足りないものだらけではあるけれども。
ただ、残りたったの十二日でこの生活は終わってしまうのだから、色々買い足しても無駄になる可能性が高いのだ。
マットはもう限界だから必要だけど、それ以外では物を増やすべきではないと思う。
「いえ、私は特に……イライジャ様はなにか欲しいものでもあるのですか?」
「俺の欲しいものは、そなたの笑顔だけだ」
何を言ってらっしゃるのか、この王子様は!!
私の笑顔など見て、どうなるというのです!
「物で釣ろうなどと、浅ましい考えであったな」
どうして寂しげに笑っているというのか……そんな顔に弱い私は、きっと殿下に甘いのだろう。
「わかりました」
「わかったとは?」
「私は、イライジャ様が選んでくれたものならば、なんでも喜びます」
パッと明るくなるイライジャ様のお顔。まったく、イライジャ様も単純なんですから。
「クラリス!」
「ですが!」
私は人差し指をピッと上げる。
「最初のうちのイライジャ様はろくにご飯も食べず、ジョージ様と同じ暮らしを望まれていたはず。つまり、プレゼントにかけられるお金は、ゼロということです」
「つまり盗んでこいと!?」
「誰がそんなことを申しましたか!」
「冗談だ」
王子の冗談は笑えませんが!?
イライジャ様は顎に手を当て、うーんと唸っている。
「お金をかけずにプレゼントなど……道端の花くらいしか思い浮かばないが、それではさすがに喜んではもらえぬだろう」
ふふ、王子はおばかさんですね。
私はたとえそれが石ころだって嬉しいというのに。
でも町に来て、お金を掛けずにプレゼントというのは、イライジャ様には難しいかもしれない。
小屋に戻れば買い物はできないし、王都に戻っても庶民のお店で買い物など楽しむことはないに違いない。
せっかくなので、少額の買い物を体験してもらいたい気持ちが膨れ上がった。
「では……五百ジェイアまでで選んでいただけますか?」
「一般庶民はそんな少額でプレゼントを選ぶのか?」
「相手によってさまざまでございますが、ちょっとしたプレゼント交換であれば妥当な額かと」
「プレゼント交換か、いいな、それは!」
「え?」
イライジャ様の意気揚々としたお顔! これは、もしや……
「クラリスも五百ジェイアで俺にプレゼントしてくれ!」
やっぱりでございますか!!
「で、ですが王子、私などがイライジャ様になにをプレゼントすればよいものか……」
「そなたの贈り物であれば、俺はなんだって嬉しい!」
そんな、キラキラした顔をなされても!
「では、一時間後にここで落ち合おう!」
「お一人で行動なさるおつもりでございますか?! 危のうございます!」
「大丈夫だ、誰も俺が王子などとは思わないだろう。俺は王都で病気療養中のはずだからな」
「そうでございますが……あ、イライジャ様!」
私がお止めする前に、イライジャ様は揚々と去ってしまわれた。
まったく、私の気も知らないで……!
ああ、まさか私までプレゼントを選ぶ羽目になってしまうとは……
欲しいものはなんでも手に入れられる王子に、一体なにを選べばいいというのか!
しかもたった五百ジェイア。この金額設定をした自分が恨めしい。
せめて、千ジェイアと言っておけばよかった。
私は色々と後悔しながら、町のお店を覗いていった。
お土産物屋に入ると、わけのわからない木彫りの置物なんかがあって、一度手に取るもすぐに元に戻した。
誰かが一生懸命作った物であることはわかっているけれど、王子の部屋には合わなさすぎる。
書店に入ってもピンとくるものはないし、雑貨店のものは王子とイメージが違う。
困った、どうすれば……。
そうだ、手頃なところでハンカチなんかいいかもしれない。ちょうど“別れ”という意味もあることだし。
建国祭が終われば、もう一緒にはいられないのだから。
ハンカチを探そうと一度外に出るも、ふと思いとどまる。
後に残らない物の方がいいかもしれない。
イライジャ様が私を偲ぶことなどないとわかっているけれども、物が残っていては罪悪感を抱いてしまいかねない。お優しい方だから。
となると……
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