2 / 39
02.崖から落ちたい王子様
しおりを挟む
イライジャとは〝主なる神〟という意味で、ジョージとは〝大地で働く者〟……という意味があるらしい。
双子だというだけで、どうしてこれほどまでに差をつけられるのかと、私も思ってはいる。思ってはいるけれども。
「ちょ、どうして崖から落ちて行方不明なのですか! もう、冗談など言っていないで王都に帰りますよ!!」
馬車を出すと、イライジャ様が私の隣に座っている。
そっとお顔を確認すると、さっきの顔とは一転、胃を痛めたようにつらそうな表情となっていた。
「イライジャ様……」
「ジョージはもう、長くない……このままでは」
真実を突いたその言葉に、私の身は硬化するかと思った。
ジョージ様を助けたい。彼が亡くなったら、イライジャ様はどれほど悲しまれることか。
けれど、私にできることなんて……
「だから俺は、崖から落ちようと思う!」
「話が飛躍しすぎです、王子!!」
キッとイライジャ様を見るも、大真面目な時のそれだった。
ああ、頭が痛い。
「クラリス、俺が死ねばどうなると思う?」
「そんな嫌なことはおっしゃらないでくださいまし!」
「いいから、答えるんだ」
真剣な口調で言われて、私は渋々と言葉にした。
「そうですね……イライジャ様にもしものことがあれば……王家はジョージ様を、招聘なさるかと……」
私の答えに満足したのか、イライジャ様はこっくりと大きく頷いた。
「俺には他に兄弟がいない。俺が死ねば、王家を絶やさないためにジョージを呼び寄せる必要が出てくる」
確かにその可能性は高い。イライジャ様の死が確定すればの話だけれど。
もしそうなれば、王家は必死になってジョージ様を治療してくれるだろう。
「ジョージを助けるには、これしかない。このまま放っておいたら、ジョージは……!」
「しかし崖から落ちて行方不明などと!」
「本当に落ちるわけじゃない! うまくやる!」
「イライジャ様……」
「今すぐ崖に向かってくれ!! クラリス!!」
「お黙りなさいませぇぇぇええええええ!!」
「うあぁあ!?」
グンッと手綱を引いて馬車を急停車させる。
こんな状態のイライジャ様は誰にも止められない。ええ、私にはわかっていますとも!
「ク、クラリス……?」
私はその場にすっくと立ち上がると、同じように立ち上がったイライジャ様を見上げた。
「イライジャ様、お気持ちはわかりますが、少々熱くなりすぎでございます! しっかりと下準備をせねば、計画は破綻するというもの!」
「だがクラリスも見ただろう! ジョージには時間がない! 今すぐにでも医者に診せなければ危ない状態だ!」
イライジャ様の焦る気持ちは痛いほどわかる。人一人の……それも血を分けた大事な双子の弟の命が掛かっているのだから。
けれども、だからこそ冷静にならなければいけないのです。
私はイライジャ様のエメラルド色の瞳をしっかりと見つめながら言葉にする。
「だからと言って、崖に落ちて行方不明などあり得ません。第一偽装などどうするのですか! 馬まで落とすおつもりですか?!」
「それは」
「冷静におなりくださいませ。ジョージ様をお救いしたい気持ちは、私も同じでございます」
荷台を崖から落としたところで、遺体がなければ必ず捜索される。馬がなければ、なおのことおかしく思われる。
「やはり一度戻りましょう。遠回りなようで、それが一番かと私は思います」
「俺にあの堅物父王を説得する自信はないぞ!」
「わかっております。言いくるめるのは陛下ではありません。侍女長と騎士団長でございます」
「え?」
「そしてイライジャ様には、私と駆け落ちしていただきます!!」
それだけいうと、イライジャ様はすべて理解してくれたようだ。
ハッとしたあと、その凛々しい顔を私に向けて。
「わかった。俺と駆け落ちしてくれ」
真っ直ぐな瞳で、頷いてくれた。
双子だというだけで、どうしてこれほどまでに差をつけられるのかと、私も思ってはいる。思ってはいるけれども。
「ちょ、どうして崖から落ちて行方不明なのですか! もう、冗談など言っていないで王都に帰りますよ!!」
馬車を出すと、イライジャ様が私の隣に座っている。
そっとお顔を確認すると、さっきの顔とは一転、胃を痛めたようにつらそうな表情となっていた。
「イライジャ様……」
「ジョージはもう、長くない……このままでは」
真実を突いたその言葉に、私の身は硬化するかと思った。
ジョージ様を助けたい。彼が亡くなったら、イライジャ様はどれほど悲しまれることか。
けれど、私にできることなんて……
「だから俺は、崖から落ちようと思う!」
「話が飛躍しすぎです、王子!!」
キッとイライジャ様を見るも、大真面目な時のそれだった。
ああ、頭が痛い。
「クラリス、俺が死ねばどうなると思う?」
「そんな嫌なことはおっしゃらないでくださいまし!」
「いいから、答えるんだ」
真剣な口調で言われて、私は渋々と言葉にした。
「そうですね……イライジャ様にもしものことがあれば……王家はジョージ様を、招聘なさるかと……」
私の答えに満足したのか、イライジャ様はこっくりと大きく頷いた。
「俺には他に兄弟がいない。俺が死ねば、王家を絶やさないためにジョージを呼び寄せる必要が出てくる」
確かにその可能性は高い。イライジャ様の死が確定すればの話だけれど。
もしそうなれば、王家は必死になってジョージ様を治療してくれるだろう。
「ジョージを助けるには、これしかない。このまま放っておいたら、ジョージは……!」
「しかし崖から落ちて行方不明などと!」
「本当に落ちるわけじゃない! うまくやる!」
「イライジャ様……」
「今すぐ崖に向かってくれ!! クラリス!!」
「お黙りなさいませぇぇぇええええええ!!」
「うあぁあ!?」
グンッと手綱を引いて馬車を急停車させる。
こんな状態のイライジャ様は誰にも止められない。ええ、私にはわかっていますとも!
「ク、クラリス……?」
私はその場にすっくと立ち上がると、同じように立ち上がったイライジャ様を見上げた。
「イライジャ様、お気持ちはわかりますが、少々熱くなりすぎでございます! しっかりと下準備をせねば、計画は破綻するというもの!」
「だがクラリスも見ただろう! ジョージには時間がない! 今すぐにでも医者に診せなければ危ない状態だ!」
イライジャ様の焦る気持ちは痛いほどわかる。人一人の……それも血を分けた大事な双子の弟の命が掛かっているのだから。
けれども、だからこそ冷静にならなければいけないのです。
私はイライジャ様のエメラルド色の瞳をしっかりと見つめながら言葉にする。
「だからと言って、崖に落ちて行方不明などあり得ません。第一偽装などどうするのですか! 馬まで落とすおつもりですか?!」
「それは」
「冷静におなりくださいませ。ジョージ様をお救いしたい気持ちは、私も同じでございます」
荷台を崖から落としたところで、遺体がなければ必ず捜索される。馬がなければ、なおのことおかしく思われる。
「やはり一度戻りましょう。遠回りなようで、それが一番かと私は思います」
「俺にあの堅物父王を説得する自信はないぞ!」
「わかっております。言いくるめるのは陛下ではありません。侍女長と騎士団長でございます」
「え?」
「そしてイライジャ様には、私と駆け落ちしていただきます!!」
それだけいうと、イライジャ様はすべて理解してくれたようだ。
ハッとしたあと、その凛々しい顔を私に向けて。
「わかった。俺と駆け落ちしてくれ」
真っ直ぐな瞳で、頷いてくれた。
6
お気に入りに追加
244
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる