どうも、邪神です

満月丸

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冒険者編

そして始まるレッツ肉パ!

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「さて、それでは者共!焼き肉パーティを開催するぞぉ!!」

出迎える大歓声、ジョッキを掲げて野郎どもが叫び、通りの人々が何事かと顔を覗かせる。
ゲッシュの宿の中庭で、荒くれ冒険者を交えた、奇妙なパーティが幕を切ったのだ。
主催者のカロンは、大量の、文字通り山のような新鮮な肉類の前でご満悦な様子だ。

「ふっふっふ!世界中のあらゆる美味・珍味の肉を用意したぞ!これだけあれば食い切ることも難しかろう!」
「マジで食い切れねぇんじゃねーのか?しっかし、よくもまあ集めたもんだな!」

その隣で佇むのは、獅子頭の筋骨隆々な大男。
赤いたてがみを靡かせ、獣種の男はニヤッと笑う。

「でもま、俺も誘ってくれて嬉しいぜ!最近のカロンは何かとこっちにばかり来てるからなぁ。ちょっと寂しいんだぜ?」
「気色の悪いことを言うな。男に寂しいと言われて嬉しがる奴がいるか」
「はっはっは!」

朗らかに笑えば、金の髪の翼種の女性が、ほんわり笑顔で両手を合わせる。

「でもでも~、こうしてあたし達が一緒になってなんかやるのって、久しぶりだよね~。前はほら、わやわやな感じになっちゃったし」
「ああ、まあ、な」

100年前の事を言われれば、カロンとしては何とも言えない顔になる。が、それを獅子男がバンバンと背中を叩く。

「まあまあ!もう終わったことだし気にすんなって!今は飯食うことに集中しようぜ!!」
「げほっ…!まったく、脳筋の気楽さが羨ましいぞ」

そんな感じで和気あいあいとしていれば、離れた場所で見守る二人は遠い目をしている。

「…なにやら現実味がありませんわね。ここにあの三柱が集結しているなんて」
「まったくです。何があってこんな場所にトラブルの種が一同に集っているのやら」
「おいそこの、聞こえてるぞ」

乾いた笑いを漏らしていれば、付き人の一人、ヴァルスがこちらへ頭を下げる。

「すまないな、父上が無理を言ったようで。君たちにはつくづく迷惑をかける」
「い、いえ!貴方様はお気にする必要はありませんわ!全てはそこのアホンダラ…失礼、アウトローなおじい様の問題ですもの!」
「ははは!そのとおりだから、そう気負う必要はないよ」
「でも、ティ…主上もなんだか楽しそうで良かったですよぉ。最近はずっと気を張り詰めているみたいで心配でしたから」

同じく翼種で美しい女性、サレンの言葉に、最後の付き人である赤い髪の色香を漂わす無表情な美女が頷く。

「同意見。我が主上も同じく、何かを気にされている様子」

片言のように口数の少ない女性に、他の付き人二人も神妙に頷く。

「どうにも、何かを察知されているようだね。近々、虚無の動きが活発になると予想しておられるようだ。…こちらの領域も守りを強固にしたし、死者…来訪者の待合場も拡充した。戦争とは違う、世界をかけた運命の戦いなのだろう」
「…我らの領域でも、下界の情勢に注視している。虚無教の弾圧と同時に、ゲンニ大陸での活動が活発化したとのこと。それが前哨戦であるというのならば、我々にとっても無関係の話とは思えない」
「お仕事が増えて困っちゃいますねぇ、カロンさまみたいにお休みがほしいんですけどねぇ」
「現状は不可能。懸念事項を解決するまでは繁忙期が続くだろう」
「う~ん、残念ですぅ!」

…そんな会話を横聞きにしながら、ケルトとメルは遠い目で肉を頬張る。

「…あまり首を突っ込みたくない内容なんですけど、突っ込まざるを得ないんでしょうね」
「そうですわね、きっとそうなんでしょうね。…あまり信じたくはない内容ですけど、突っ込まねばならないのでしょうね」

うふふふ~あははは~と笑い合うが、表情は死んでいる。
直に起こるであろう厄災を祝いの場で聞いて、喜べるメンタルの人間はいない。

「…おお、こりゃ珍しい!いつものターブ肉じゃなくて特上ヴィン肉と最高級タラル肉じゃねぇか!おいフェス!こんな高価なもん今しか食えねぇぞ!!」
「…私は味付け肉は好まないのだがな」
「いいから食えって!食えばわかるっての!」
「たまには人の話を………む、なかなか、焼いただけとはいえ舌触りが良い。というか、人化の影響、か?」
「ほれ!塩と胡椒かけりゃもっと美味くなるって!今日は爺の奢りなんだ!たらふく食うぞ!」
「お前は人の金で腹を膨らますのに躊躇しないのだな。…ん、これもなかなか…悪くはないな」

『おいハディ!我にも食べさせろ!そこの肉はもう十分に焼けているではないか!』
「ちゃんと焼かなきゃ美味くないっての…あれ、この肉ってなんか妙に青色だな。なんでこんな不味そうな色合いをしてるんだ?」
「おひょーっほっほっほ!それはザーレド大陸のとある地方に住むシュケーサーランという魚の肉ざます!青い血が特徴で肉も青いけれど、食感は油が乗っていてまさに珍味!グルメも欲しがる素晴らしい逸品ざまーす!」
「へ、へぇ…それじゃ、こっちの黒いつぶつぶはなんなの?卵みたいだけど…」
「そちらはギリリル魚の卵ざます、塩気があってぷりぷりとした食感が評判の珍味ざます!まあ魚介類が苦手な者には不評ざますけど」
「ふぇ~…ぼ、ボクお魚は苦手なので止めときまぁす」
「そんじゃ、俺とダーナはもらうよ。ほら、ダーナ」
「あ、その…あ、ありがと…」

「う~ん、甘酸っぱい青春の香り。おねーさん妬けちゃうわぁ~」
「うむ。ミライア、これはどうだ?」
「あら、ありがと。…ふぅん、こういうのもたまには悪くないわね。ねぇライド」
「うむ、あいつの分まで、たらふく食べてやろう」
「ええ、もちろんよぉ。今頃天国で悔しがってそうだわねぇ」

「ほっほっほ!これはこれは、組合長の私もご相伴に預かりましたが、なかなか選り取り見取りですねぇ…おや、シェロス殿のその肉料理、なかなか美味しそうですな」
「ええ!こちらは南の岩の群島付近で採れる人魚の肉!…というのはジョークですが、かつてその人魚に間違われたという足の付いた大魚だそうですよ。こちらのソースに絡めると素晴らしい味になります。ああ、是非とも我が商会で扱いたいものです!」
「なるほど、その入手ルートを考えてみるのも良さそうですねぇ。舌鼓を打ちながら次の商談を考える、商人にとっても実に良い会食ですなぁ」
「宴も酣みたいだし、ここからは僕の曲で盛り上げていこうか!まずは手始めに一曲!」

喧々囂々、和気あいあいと集う冒険者達とスポンサーは、各々が好き勝手に各所の鉄板を囲んで肉を食べている。一般人は普段、豚の一種であるターブ肉しか食べられないケースが多いので、それ以外の珍味も食べられて皆が皆、楽しそうだ。一部を除いて。
肉を頬張っていたハディは、ふと周囲を見回してから、何やら音楽を口ずさみながらマンガ肉を焼いている笑顔のカロンへ尋ねた。

「…あれ、そういえば爺さん。セイラとヴェイユはいないのか?」
「んあ?…ああ、あいつらなら街に散策に出かけて」
「なんかいつも出かけてないか?」
「懐かしいんだろうな、人混みが………はい、上手に焼けました~」

元とはいえ人だったのだ。ならば、人の営みを懐かしく思うのも無理はないだろう。
と、カロンが言えば、事情を知らぬ者は首をかしげるも、事情を知っている者はやはり乾いた笑いをする。

「…邪神が闊歩する状況って、不味いんじゃないですかね」
「不味いと思いますわよ。けれども、誰がそれを止められると思いますの?」
「すまないな、彼らは…その、私でも制御が利かなくて。父上の言うことしか耳を貸さないんだ」
「基本、グリムちゃんってカロンのこと大好きだけど~、それ以外のことってぜんぜん気にしないんだよね~」
「う~ん、やっぱ連れ戻したほうがいいじゃないのか?カロン。ほら、お前って一応はあいつらの保護者だし」
「なんだね、人に押し付けおって。そもそも、あいつらも何かしでかすほど子供じゃなかろうて」

と言いつつも、一応カロンは三人の様子を千里眼で見てみた。

…そして、その瞳に映った情景は。


・・・・・・


「…それでは、決を取る!」

帝都の皇城、広い議会場にて。

長机の上にはグルグル巻きのままロープで逆さに吊り下げられ、今まさに煮えたぎる鍋に頭から突っ込みかけている皇帝の姿があった。
皇帝はそんな状況にも関わらず、妙にシリアスな顔で決を取っていた。

「本日よりこの帝国の全ての位階を逆転させる!すなわち!最も偉い私が奴隷同然となり、最も愚かな者がこの国のトップとなる!!異論は!?」
「ありませんぞ皇帝陛下!ところで鍋の温度はいかがでしょうか?」
「温度が低い!もっと火をかけろ!!」
「この国でもっとも愚かといえば、いったいなんですかのぅ」
「ドギー(犬の一種)では?あいつらは道端で糞を垂れ流す俗物ですぞ。見ていると苛ついて撫でたくなるほどです」
「ああ~わかりますわかります。あのぺたんっとした耳が憎たらしいのですなぁ~」
「否!ここはやはりネモ(猫の一種)こそが一番の害悪!ゴロゴロと喉を鳴らす仕草はまさに殺人兵器というにふさわしい!」
「そもそも、ネモやらドギーやらを玉座に据えることが出来るのでしょうか?あやつら、すぐに逃げ出してしまいそうですぞ」
「骨を与えておけ!しばらくは問題ない!!」
「おお流石は皇帝陛下!ところで鍋の野菜が煮立ってきましたけど、そろそろいい頃合いでは?」
「まだだ!まだ足りぬ!」
「海はいいですねぇ、朗らかで…ああ、どうして海は波立っているのでしょうかねぇ。一般では海の果てでティニマ神が身じろぎをしているからだと言われておりますがぁ」
「いやいや、実はティニマ神が四股を踏んでおるのだろう。こう、大地を踏み固めるためにどすこーいっと」
「四股ってなんじゃらほい?」
「知らぬ。なんか変な声が聞こえた」
「なんて青々しい空なのだ!どうせなら緑色にでも塗り替えてしまえればよいのに…!目に毒だぞ!!誰か染め物師を呼んでこい!!今日から空の色は緑色だ!!」
「パンこそは至高。素晴らしき玉座はパンで作るべきであるぞ。パン職人にパン型の玉座を作ってもらわねば」
「座り心地悪そう」

元老院議員は裸になって机の上で踊り狂い、書記官は羽ペンを鳥に見立てて遊び、宰相は鼻に椅子を詰めようと頑張っている。

その最中、一人だけ椅子についていたラングディール皇子は、真顔で口を開いた。

「否!玉座にもっとも相応しいのは、たった一人。そう、それは」

優雅に手で指し示せば、一斉に人々の視線は流れる。

玉座の上には、ぽつんと佇む、黒いナマコ。

「彼こそが玉座にもっとも相応しい!!」

歓声が上がる中、ナマコは佇んでいる。

「おお!!たしかにそうだ!!」
「なんという素晴らしいフォルム!これぞまさに神が与え給うたサレンの如き成功物に違いない!!」

褒められてナマコは照れた。

「しかも彼は数百年を生きるという特別な存在!きっと我が帝国を繁栄に導いてくれるに違いない!!」

重い期待にナマコの心は沈んだようだ。

「あいや待たれよ!この御方を頂きに据えるのならば、この御方が寂しくないようにお仲間を配せねば!」
「問題ない。そうだと思って既に用意している」
「さすがラングディール殿下!準備の良いことですぞ!」

仲間に囲まれてナマコは嬉しそうだ。

やんややんやと喝采の響く只中、シャンデリアの上でゆらゆらと揺れる道化姿の邪神と、鍔広帽子の半獣。眼下の阿鼻叫喚な騒ぎを視界にも入れず、めっちゃぶらぶら揺れている。

「いやぁ、実に見事で痛快愉快!彼らの玉座は砂上の如く、されど彼なら崩れることもなし!」
「…波に攫われて崩れるほうが先だろうがね」

あっはっはっはっ!と道化師はブランコのように揺れている。とても楽しそうだった。


・・・・・・・・


…以上の光景を目にし、おもむろに千里眼を切ったカロンは、とても、とても清らかな笑顔で、天を仰いだ。

「よし、忘れよう!」

とりあえず、肉を優先することにした。

人、それを現実逃避という。


※※※


「うおおぉぉぉーー!なんてうまいんだぁぁぁーー!!俺、肉がこんなにも美味いなんて思ったこともなかったぜ…!!」
「う~ん!あたしもお肉ってあんまり食べないから、なんか変な感じ~。でもおいしーねぇ。ね、サレちゃん」
「はい主上。でも私は菜食主義なんで、お肉はちょっとでいいですぅ」

感涙して肉をバクバク喰らうヴァの付く人、付き人の美女が無言で肉を焼き、主神の皿に盛り付けていた。その手際はとても良い。
ティニマは野菜多めで食しており、同じくサレンも菜食ばかり食べている。それを見たカロンが「おいおいもっと肉を食べろよ~!」と酔っぱらいのように絡み、「女性にお肉ばっかりオススメするのって失礼だよ~」と窘められている。しかしダイエットという概念が無いこの時代、ティニマの言葉に頷く女性は居なかったが。

「ねぇ~、エルフのダーナちゃんもそう思うよね~?」
「え、ええ…まあ、アタシも野菜多めだけど…」
「やっぱエルフは菜食主義だよな!RPGじゃ定番だし!」

うんうんと頷くヴァーベルだが、当のエルフは理解できずに首を傾げている。
そんな光景を見て、ハディはレビと串焼きを頬張っている。吸精で食事が必要なくともある程度の空腹は感じるので、今は率先して肉を食べていた。

「…なんかさ、あの二人って爺さんと似た感じの雰囲気だよな」
『…まあ、そうだな。同類と言うか、竹馬の友と言うか』
「仲良さそうだよな。しっかし、意外だよなぁ。爺さんの友達っていうから、もっと変な感じの爺さん婆さんだと思ってたのに。それに友達がいるってのもなんだか意外だ」
『当人に聞かれぬようにな、下手したら我まで消される』

バクバクと串焼きを食べるレビは、宿主より肉を食べているかもしれない。食への追求はおそらくハディよりも大きい。

「そういえば、なんか皆がやけに爺さんの友達の人らを見てる気がするけど…やっぱ、強そうだって、みんなわかってるのかなぁ」

ここでいう皆とは、主に在籍する冒険者連中のことである。いかつい男どもが、真剣な顔でダーナと戯れるティニマを凝視しているのだ。

『いや違う、あれはおそらくきっと…』

レビは、ごっくんと肉を飲み込みながら呟く。

『眼福、という奴ではないか?』
「眼福?」
『人間は美しい者、特に女性を見て癒やされるという。あの者たちは基本的に美しい造形をしているようだ。だから、それを目に焼き付けようとしているのだろう』
「ああ、なるほど」

見てみれば、血走った目は一心にティニマとサレンらを凝視していた。中には感動のあまり涙を流す者まで居た。

「綺麗だもんなぁ、あの人ら。あと、あの赤髪の女の人も」
『だからか、一部の連中があの獅子男へ嫉妬の眼差しを向けているな』

血涙でも出そうな感じで拳握って「ぐぬぬ!」と悔しがっている男連中。そんなのを差し置いて、獅子男は大笑いしながら、トゥーセルカの伴奏で付き人とダンスしている。野郎どもの嫉妬メーターはマックスまで振り切れそうだった。

『とは言うがな、ダーナも例外ではないぞ?』
「え?」
『あの娘、あの通りにツンケンしておるが、容貌もあって男どもには人気なようだ。見て見ろ、今も男連中がアプローチをかけている』

正確には、肉を持っていく連中が多い。ダーナは「あ、あんまり食べられないのよ!」と言いながらも、ちゃんと肉を貰ってもそもそと食べていた。横ではシーナがポリポリと人参らしき野菜を齧っており、その光景も癒やしとして男どもの注目の的だ。
顔に傷ある強面のごろつき共が、微笑みながら子供を見守るのはなんだか異様な光景である。

「…人気なんだ、ダーナって」
『で、貴様は行かないのか?』
「え?」
『え?とはなんだ、え?とは。貴様はダーナが気にかからんのか?』
「気にかかるって言えば気にかけてるけど…」
『ならば行って来い。時間は有限なのだぞ?』

レビの妙な押しに押され、ハディは首をひねりながらも飲み物を持ってダーナの元へ行く。

「よ、ダーナ」
「あら、ハディ」
「あ、ハディさぁん」

ハディがダーナに声をかければ、ダーナはとても可愛らしく微笑みを浮かべる。その様子を見て、野郎どもは「ぐぬぬ!」しながらほんわりしているのである。アンビバレンツな純情な感情に翻弄される人間どもを見て、レビは影の中でこっそり呟く。

『…人間も奇怪なものだな。自身の感情に無自覚とは』

ハディはダーナを好いてるようだ、というのがレビの結論である。どうにも、試練でダーナを特別な存在と認識したらしく、それ以降からハディのダーナへの感情はプラス方面へ大きく傾いていた。
一方、ダーナもハディへ異性として興味を持っているようで、その感情はおそらく好意と呼ぶべきものだろう。
いい塩梅で仲良くなっていく両者から発される感情をつまみに、レビは肉を食べている。

『うむ、これが幸せという感情なのだろうか?なかなか、悪くはない代物だな』

悪意も悲哀も食べてきたが、レビの口としてはプラスの方が合っているようだ。
一緒に踊り始めた二人を横目に、レビは影の中でひっそりと笑った。


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