どうも、邪神です

満月丸

文字の大きさ
上 下
36 / 120
冒険者編

次の依頼に行きましょうか

しおりを挟む

 さて、唐突だが私がやって来たのは、大通りに面した場所にある、大きな建物である。

ここは商人組合の建物だ。とはいっても、発足してからあまり歴史が無いせいか、組合というよりは商人の寄り合い所のような場所なのだが。
入って早々、ひっろーい食堂みたいな場所では大勢の帝都の商人が、テーブルに座って食事や歓談をしている。テーブルの位置的に話題の傾向があるっぽい?
内容に聞き耳を立ててみると、

「ガゼリスでは今年の稲が不作らしい。今後は価格が高騰していくだろうから、今のうちに調整しておいたほうが無難だろうな」
「ギグ・シュトールの名水が枯渇しかかってるって本当か?もし本当ならシュトールの米酒関連はとんでもない価値に化けるだろうな。とはいっても、うちでは扱ってないんだが」
「誰かー、ここ最近のパルラ木材の価格推移を知ってる奴いるかー?100で買うけどー」
「パルラ木材っていやぁ、また帝国が大量に購入したって噂だったな。こりゃぁ、久しぶりに一合戦やるつもりかね」
「戦争に材木は必須だからなぁ。しかし、武器の受注も増えそうだな…ヴェンガードから鉱石や武具を買い付けて来るべきか」
「けれども、ヴェシレアとは融和するかもって噂だったじゃない。それはどうなったのよ?」
「件の勇者姫さまが、無理な結婚に辟易してまた出奔しちまったって話じゃねえか。豚野郎と婚姻なんざお可哀そうに」
「でも皇族なら文句言える立場じゃねえけどな。じゃなきゃ、俺達はなんで税金払ってんだって話だしよ。贅沢してんだから、それくらいは我慢して欲しいぜ」
「まあ姫様の気持ちもわかるけどな。だって豚だぜ?俺でもさぁ《かの麗しき天人様》と結婚しろって言われても尻込みするぜ。いくら金持ってても苦労のほうが透けて見えるし」
「気持ちはすげぇわかる、気持ちは」
「えー、ザーレドの今年の価格推移の情報を買うやつは居ないかー?今なら最近のヴァーレン諸国の輸出物価格表も付けるけどー」
「買った!」
「こっちも買いだ!」

こんな感じでやかましいことこの上ない。なんかね、商人同士の情報交換とか売買とか雑談とか、そんな感じでごった返している。情報過多じゃな。

そんな寄り合い所を通り過ぎて奥に向かえば、奥まった場所にも個人スペースみたいな場所があった。窓も無く薄暗いが、密談には最適な場所か。
と、テーブルに付いていた一人の男性が立ち上がって、こちらを笑顔で招いてくれた。

「おお、ようこそ。冒険者どの」

初老のシルバーな毛髪の男性だ。キッチリした衣服を身に纏う姿は、商人というよりは貴族に近い。事実、この人物は爵位持ちである。
私はニヤリ笑顔で、立ち上がったその人物と握手を交わした。

「始めてお目見えする。私はカロンという、しがない冒険者だ」
「ははは、ご謙遜を!かのネセレに一矢報いられた、我ら商人にとっても英雄ではありませんか!…おっと、失礼しました。私は商人組合の組合長でもあるキュレスタ・オグラークで御座います。どうぞよしなに」

ネセレの件については、表向きは私が撃退して宝玉を取り返し、ネセレは取り逃がしたって人々には思われてるみたいね。まあ、私は何も言わなかっただけだしぃ?嘘じゃないよぉ?

さて、今回ここに呼ばれたのは、シェロス氏からの依頼だからだ。
私を連れてきたシェロス氏は、ほくほく恵比寿顔で礼を述べている。

「いやぁ、助かりますよカロンさん!どうにも今回は長期の内容ですから、受けてくれる冒険者の数が少なくって。ま、一番の理由は受けるに値する護衛者が居なかったってだけなんですけども!」

現在、帝都に居る冒険者の質は、あんまり良くはないようだ。いや、比較対象があの仲良しトリオな時点でちょっと間違ってるかも知れんが。冒険者なんざ、ごろつきの集まりだもの。

「此度の依頼はですね、私個人のプライベートな内容なのです」

そう前置きし、キュレスタ氏は話し始めた。

 キュレスタ氏には吟遊詩人の友人が居て、彼が最近になってスランプに陥っている事を心配しているらしい。近々、北のメーシュカという都市で吟遊詩人を対象にした吟遊大会を開くらしいんだけど、それに参加しようにも歌が作れずに行き詰まっている、と。
そこで、そのご友人の気晴らしになるような、ついでにスランプを脱するインスピレーションを手に入れられるような、風光明媚な場所まで旅をして来てもらいたい、ということらしい。
で、風光明媚な場所って言っても、要は森林の奥深くの遺構だとか、山岳の天辺だとか、そんな場所なのでどうしても護衛が必要になる。
そして、我らにその護衛となってもらいたい、ということだ。
話を聞いてから、私は頷いた。

「なるほど、話はわかった。ならば受けようか」
「おお、即決ですか!流石はカロンさん!思い切りが良い!!」
「さして難しい内容には思えぬからな。しかし、いくつか質問があるのだが」
「ええ、どうぞ」

とりあえず、確認したところ。
依頼期間は名所巡りを終えるまでなので、例外が発生しない限りは3ヶ月くらいで無期限延長。延長するごとに1日につき延滞料は支払う。つまり長期間の拘束となるわけだ。逆に早めに旅を終えても残りの日数分の支払いはしてくれるとのこと。当然、旅費や税金、食費はあちら持ち。
報酬は、スムーズに事が終えられれば金貨22枚22万銀貨50枚5千デニー。なお、これは5人分の計算なので、1日あたり一人分銀貨5枚相当になる。以前のエルフ商人の護衛より高いので、イロをつけてくれているようだ。その分、何が何でも守ってくれよ、という強い思いを感じる。なお、魔物が出れば魔核を持ってくる事で追加報酬が出る。つまり部位が手に入らなかったら報酬は出ない。
名所巡りは、この北大陸側の4箇所。ガゼリスの風車郷を通り、旧ドワーフ首都の跡地であるディグリ山脈を超え、ギグ・シュトールの名山をめぐり、最後にネーンパルラの闇の神殿に向かう、と。どれも上から見たことはあるけども、足で赴いたことはないので、なんだか楽しみではある。

「それでは、どうかくれぐれもよろしくお願いいたします。彼は私にとって、唯一無二の友なので御座いますから」
「安心されよ。我が真名に懸けて、貴方の友は必ず守り通そう」

真名に懸けて、という部分を聞いて、キュレスタ氏は目を細めてから再び頭を下げた。
魔法士の真名には力が宿る。それを懸けるってことは、その誓いを破れば弱体化するということだ。ほら、ファンタジーではお馴染みでしょう?そして私は確実に彼を守り通す自信があるので、真名を懸けることに抵抗はない。というか、無効化も出来るのであってないようなもんだ。でもパフォーマンスは大事なので、しっかりと宣誓しておく。
この世界、何事も見た目の誠実さが大切なのだよ。


※※※


…老婆は一人、森の中を駆けている。

人も獣も居ないそこで、何かから逃れるようにただ走る。
時折、負傷した腕から流れる血が地面に落ちるも、それに歯を食いしばりながら、彼女はただ逃げ続ける。

(…おのれ、外法士め…我が森を侵犯するだけでなく、神殿まで壊す気か…!)

やけにお喋りだった導士の言葉通りなら、敵の狙いは自分と、孫娘だ。
ならば、と老婆は覚悟を決める。
…残された闇エルフの血筋、その最後の一人である孫娘だけは、何としてでも逃さねばならない。
森の奥に住まう別部族のエルフならば、多少の軋轢はあるだろうが何とかしてくれるだろう。かつては共に神殿の守り人であったのだから、尚の事。

…不意に、背後より響く詠唱。

「…っ!!」

息を止め、老女は振り向きざまに叫ぶ。

『我が闇の同胞よ!邪を払う盾となれ!』

同時に、眼前に迫るのは火炎球。
老婆の魔法の盾に遮られたそれは、爆煙を振り撒きながら周囲に満ちる。
衝撃に煽られつつも、老婆は追いつかれたことを察して、相対する。

「…ヒョッヒョ!これはこれは、遂に観念したであるかぁ?」

意地の悪い声色、それに宿るのは明確な悪意。
姿を現した白い老人へ、老婆は敵意の籠もる緑の瞳で睨めつける。

「観念?バカを言うでない。ここで貴様を殺さねば、後腐れがあるからな」
「…ヒッヒ!我輩を殺せると本気で思っておるのか?たかがエルフ風情が」
「舐めるな、人間風情が!」

『我が闇の同胞よ!彼奴を蹴散らす刃と成れ!』

影より飛び出た十にも及ぶ刃が、クルクルと回りながら凄まじい速度で飛来する。
しかし、それに相手はニヤリと笑みを深め、

「ラダ・バドレ=ビン・セレシス」

―――バチンッ

たった一言で、迫る刃は全て塵となって消え去ったのだ。

「クッ…!?」
「甘い甘い、この程度の原始魔法で我輩を止められると思っているのであるか?…さて、お主を殺すのも仕事の内。それにあま~い特大のデザートも残っておるのでなぁ?良き糧となるであるぞ」
「…貴様!ダーナに何をするつもりじゃ!?」
「無論…」

老人は笑みを深めてから、パチン、と指を鳴らした。

…刹那、老女の胸を貫く刃。

ガフッ!と血を吐き、膝をつく。
それを睥睨しながら、老人は世間話のように続けた。

「絶望は良きスパイスとなる。それは実に美味で…最高であろうなぁ?」

クツクツと笑みを深めるそれには、一欠片の人情も見られない。
ただ、虫を処理するのと大差ないかのような風情で、老女を殺めようとしていた。

…悠然と歩を進める老人。
それを見上げ、されど為す術のない老女。
遂に辿り着いた老人は、掌を老女へ掲げ、こう言った。

「…それでは、さらば。未来なき闇のエルフの末裔よ」

ぐしゃり、と、耳に聞こえる嫌な音。

それと同時に、響き渡るのは甲高い少女の悲鳴。

思わず視線を向けた老人は、しかし次に目を見開く。

「…お主は…!」

「………ぁぁぁぁあああああああああああっっっっ!!!」


少女の慟哭。
同時に広がる、ドス黒い元素の渦。

その指向性の持たない力は竜巻の如き渦となり、一瞬で周囲を吸い込み、

まるで爆発したような黒き閃光となって、周囲四方を消し飛ばしたのだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

処理中です...