空還し

夜光水

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凸凹コンビ結成

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多幸感に浸っていた僕は、悲痛な雄叫びに我に返って、叫び主である男へと視線を向ける。
20歳前後の青年が涙目で頭を抱えており、痛々しい姿に周りにも注意を払うが、彼を害した者の姿や気配は何も感じない。
(な、何があった?)
立ちくらみや貧血などの可能性も考えてみたが、顔を見ても血行は良さそうで、本当に何が彼をこんな風にしてしまっているのか、原因が全く分からない。

「大丈夫か?」
「あんまりだ。なんでこんな変態がチートで、俺は貧弱なんだよ」
「えーと」

声を掛けても無反応で、落ち着くまでそっとしておいた方が良さそうな気がしてきた。
人間は時々意味もなく叫んだり、泣いたりすることもある複雑な心を持っているから力こそが全てという単純明快な妖怪僕らの世界では摩訶不思議生物なのを思い出す。

「はぁ・・・いきなり叫んじまって悪かったな」
「いや、そういう日もあるだろう」

この返しで良いのかと思いながら答えると、目を瞬かせて僕を見下ろしてくる。

「案外普通だな。木に抱き着いて興奮してから変な奴だと思ってたぜ」
「そっ、それはだな・・・・立ちくらみがして木に寄りかかっていただけだ」

とんでもない失態を見られてしまっていた事に、全身が羞恥で熱くなるのを感じながら誤魔化す。
これで変な噂でも立ったら、これからの目的である勇者探しが困難になってしまう。
(勇者を助ける筈の僕が、勇者に警戒などされたら本末転倒も良い所だ)
怪訝な顔になっている青年の誤解が少しでも解けた事を祈りながら、小さく咳払いをする。

「それで、君こそ、いきなり叫んでどうしたんだ?」
「そう。それだよ!!」
「うわっ!?」

いきなり距離を詰められ、後ろに下がろうとしたが木に背を向けていた所為で逃げ損ねる。
僕の顔の横に手を置き、こちらを屈みながら視線を合わせてくる青年に何がしたいのか分からなくて困惑する。

「お前も異世界から転生してきたんだろ? いや、お前が神様の言ってた奴なのか?」

青年の問いかけに、今度こそ本当に羞恥で頭の中が覆い尽くされる。
(よ、よりにもよって勇者の前であんな醜態を演じたのか。僕は・・・?)
耳まで熱くなり、恥ずかしい姿を見られた自分の姿が脳内で何度も投影され、こんな気持ち悪い奴に助けてもらいたくないとか思われたら、そう思うだけで心臓が張り裂けそうになる。

「なんで、聞いただけで顔を真っ赤にするんだよ!?」
「いや・・・その・・・さ、さっきのは本当に忘れてくれると嬉しい。忘れてください…」

何故か、いきなり飛びのいた勇者に僕は懇願する。
見上げると、勇者は頬を人差し指で掻きながら視線を逸らして頷いてくれる。
その事に安堵しながら、こちらの世界では主に戦闘面の補助をする事や死んだ後は魂が彷徨わないように僕が神の元へと送り届ける事などを簡潔に説明した。

「ようはサポートキャラって事だろ? よろしくな」
「さぽぅと? 言葉の意味はよく分からないが、一緒にいてくれるのだな」
「そりゃ、仲間は多い方が良いし、せっかくのチートな仲間だしな」
「ちーと?」

聞き慣れない横文字に勇者は苦笑しながら、僕の頭を優しく何度か叩いてくる。
屈託のない笑みは幼く見え、まるで少年のような笑い方をする。

「俺の名前は佐藤豪人。ゴートでいいぜ?」
「僕はヌラだ。今後ともよろしく」
「おう、よろしくな」

こうして、一時はどうなるかと思ったが、勇者を探すという当初の目的はあっさりと成就した。
ただ、握手を交わした途端、不躾にこちらに向けられた視線に首を傾げる。
(やはり先程の奇行を気にしているのだろうか?)
不安に思いながら見つめ返すと、僕に視線を合わせるようにゴートはしゃがみ込む。

「なあ、お前って実は顔が男の子っぽいだけで女の子とか言うオチはないよな」
「女人に見られた記憶はないな」
「だよなー・・・・いや、でも・・・先に謝っとく、わりぃ!!」
「?」

いきなり股下に手を突っ込まれ、何がしたいのかを聞く前に、ゴートは突っ込んだ手を引き抜き、その手首をもう片方の手で握りながら仰け反る。

「ぐああぁぁ!!触っちまったあぁぁ!!」
「・・・・何がしたいんだ。君は?」

やはり人間というのは行動が読めない摩訶不思議生物だと思いながら、こんなのが勇者で本当に人々を救えるのかと不安を覚えるが、悪い人間でない事だけは分かって笑った。
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