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せいぎのみかた
不細工に笑う
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「おい、リノア」
「放って置いてくれ」
「そういう訳にもいかねぇんだよ。どこ行くんだ?」
「どこでも良いだろう」
「はぁー……」
早足で歩くリノアの後を追いながらホーエンハイムは疲れた様に大きなため息を吐き出した。リノアはどこか焦った様な表情で石畳を歩いている。ホーエンハイムはその後ろを着いて行く事しか出来ていない。どこへ行くのかもわからないまま住宅街に入った。細かい路地が無数に存在しており街の死角と言っても良いほど昼間の人通りが少ない様に見える。ホーエンハイムは唐突に足を止めた。昼間だからと言ってこの区画はこんなにも人通りが少なかっただろうか。
「おい……おい待てリノア」
「なんだ」
「お前、ここに何があるのか知ってるのか!? 人避けの魔術が掛かってるぞ!?」
「……、」
リノアの肩をホーエンハイムは掴んだ。足を止めたリノアは青ざめた表情でホーエンハイムを見上げ、言葉を失っている。
「それは……本当か?」
「あぁ。しかも同時に悪魔除けまで掛かってる。何から隠そうとしてんだ?」
「………………」
リノアは無言で進行方向を見つめ、肩を落とした。ホーエンハイムは怪訝そうな表情でリノアを見る。
「何だ? お前は知ってるのか? そもそもなんだってここはこんな、」
「……教会だよ」
「教会?」
「あぁ。私の婚約者が司祭をしている教会だ」
「………………教会が、なんでこんな魔術なんて……おい、まさか」
ホーエンハイムの表情が強張った。リノアは俯いて石畳に視線を落としている。ここ最近のリノアの言動を思い起こし、ホーエンハイムは頬を引き攣らせた。
「……嘘だろ? お前、ここ最近例の殺人事件ばっかり追ってたじゃねぇか」
「現状、刑事課もまともな情報が入っていないらしい。惨殺された若い女の死体だけが発見されて。いつも路地裏で起きている。犯行時刻に防犯カメラに映る人物なんて居ない。画面に映るのは姿を捕らえられない程早く動く黒い風のみだと。刑事課でさえ暗礁に乗り上げている。手がかりが無さ過ぎる」
「あ、あぁ……手がかりが無さ過ぎて刑事課もお手上げ状態ってのは聞いてる。だが幻想遣いってのはそんな事をする為に幻想と契約する訳じゃねぇ。いや、中にはそういう危篤な奴も居る……のか? いやでも、高確率で契約する英雄や神がそれを容認するとはとても思えない。確かに魔術は普通の人間は素養が無くとも幻想遣いになれば魔術を操れるだけの魔力を得る。魔術なんてここ最近はネットを調べればまじない程度ならすぐ身につくけどそれにしたって……」
「それなら、なんと説明する? 私は幻想遣いの詳しい事なんて知らない。魔術も知らない。教会の事だって全く知らない。それが正統な事なのかどうなのかも、私には分からない」
「リノア。まさかとは思うが、そんな酷い殺人事件を起こしている人物が教会に居る、なんて言わないよな?」
信じられないと言いたげなホーエンハイムの顔をリノアは見上げた。悲しそうに笑った彼女は苦しそうに声を絞り出す。
「全部、全部調べた。刑事課が気にしていなかった様な防犯カメラだって全部見た。それで全部に映ってたんだよ。それに、翌日会うと血の匂いがした。妙に上機嫌で、そのニュースを見る度に小さく笑ってる」
「………………」
リノアの両目からぼろぼろと涙が溢れ始めた。ホーエンハイムは言葉を失っていた。
「信じたく無い、信じたく無いって思ってても、私の全てがそうだと言う! 断言してしまう……どう考えても、彼が犯人だと。最初の直感があった時に信じたくなくて全部調べた! 恐らく刑事課の捜査線にすら名前も挙がってないだろうがいずれ彼に辿り着く。これ以上……これ以上アロイスに罪を重ねさせる訳には、いかないんだ……!」
泣きながらそう言った。
リノアの感は嫌な程冴える事がある。それは知っていた。だからこそ、リノアも嫌だったのだろう。リノアの犯人への直感は外れた事が無いのだ。それこそ、初めて会った相手と数分話しただけで予感を的中させる程度には。勿論、彼女も警察官だ。直感だけは信じない。入念に調べて調べて、やはり犯人はこの人物だったとなる事が多い。その感の良さに魔術的なものでも関わっているのかもしれないと幻想課に招集された様な人物である。だが、調べても調べても彼女に魔術や幻想が関わっているという事実は出てこなかった。
アロイスとはリノアの婚約者の名前だった筈だ。恐らく、その彼が今回の連続殺人事件の犯人だと言いたいのだろう。
「それならなおさら、お前一人で行かせる訳にはいかんな」
「……すまない、ありがとう」
鼻を啜りながらリノアは不器用に不細工に笑ってくれた。
「放って置いてくれ」
「そういう訳にもいかねぇんだよ。どこ行くんだ?」
「どこでも良いだろう」
「はぁー……」
早足で歩くリノアの後を追いながらホーエンハイムは疲れた様に大きなため息を吐き出した。リノアはどこか焦った様な表情で石畳を歩いている。ホーエンハイムはその後ろを着いて行く事しか出来ていない。どこへ行くのかもわからないまま住宅街に入った。細かい路地が無数に存在しており街の死角と言っても良いほど昼間の人通りが少ない様に見える。ホーエンハイムは唐突に足を止めた。昼間だからと言ってこの区画はこんなにも人通りが少なかっただろうか。
「おい……おい待てリノア」
「なんだ」
「お前、ここに何があるのか知ってるのか!? 人避けの魔術が掛かってるぞ!?」
「……、」
リノアの肩をホーエンハイムは掴んだ。足を止めたリノアは青ざめた表情でホーエンハイムを見上げ、言葉を失っている。
「それは……本当か?」
「あぁ。しかも同時に悪魔除けまで掛かってる。何から隠そうとしてんだ?」
「………………」
リノアは無言で進行方向を見つめ、肩を落とした。ホーエンハイムは怪訝そうな表情でリノアを見る。
「何だ? お前は知ってるのか? そもそもなんだってここはこんな、」
「……教会だよ」
「教会?」
「あぁ。私の婚約者が司祭をしている教会だ」
「………………教会が、なんでこんな魔術なんて……おい、まさか」
ホーエンハイムの表情が強張った。リノアは俯いて石畳に視線を落としている。ここ最近のリノアの言動を思い起こし、ホーエンハイムは頬を引き攣らせた。
「……嘘だろ? お前、ここ最近例の殺人事件ばっかり追ってたじゃねぇか」
「現状、刑事課もまともな情報が入っていないらしい。惨殺された若い女の死体だけが発見されて。いつも路地裏で起きている。犯行時刻に防犯カメラに映る人物なんて居ない。画面に映るのは姿を捕らえられない程早く動く黒い風のみだと。刑事課でさえ暗礁に乗り上げている。手がかりが無さ過ぎる」
「あ、あぁ……手がかりが無さ過ぎて刑事課もお手上げ状態ってのは聞いてる。だが幻想遣いってのはそんな事をする為に幻想と契約する訳じゃねぇ。いや、中にはそういう危篤な奴も居る……のか? いやでも、高確率で契約する英雄や神がそれを容認するとはとても思えない。確かに魔術は普通の人間は素養が無くとも幻想遣いになれば魔術を操れるだけの魔力を得る。魔術なんてここ最近はネットを調べればまじない程度ならすぐ身につくけどそれにしたって……」
「それなら、なんと説明する? 私は幻想遣いの詳しい事なんて知らない。魔術も知らない。教会の事だって全く知らない。それが正統な事なのかどうなのかも、私には分からない」
「リノア。まさかとは思うが、そんな酷い殺人事件を起こしている人物が教会に居る、なんて言わないよな?」
信じられないと言いたげなホーエンハイムの顔をリノアは見上げた。悲しそうに笑った彼女は苦しそうに声を絞り出す。
「全部、全部調べた。刑事課が気にしていなかった様な防犯カメラだって全部見た。それで全部に映ってたんだよ。それに、翌日会うと血の匂いがした。妙に上機嫌で、そのニュースを見る度に小さく笑ってる」
「………………」
リノアの両目からぼろぼろと涙が溢れ始めた。ホーエンハイムは言葉を失っていた。
「信じたく無い、信じたく無いって思ってても、私の全てがそうだと言う! 断言してしまう……どう考えても、彼が犯人だと。最初の直感があった時に信じたくなくて全部調べた! 恐らく刑事課の捜査線にすら名前も挙がってないだろうがいずれ彼に辿り着く。これ以上……これ以上アロイスに罪を重ねさせる訳には、いかないんだ……!」
泣きながらそう言った。
リノアの感は嫌な程冴える事がある。それは知っていた。だからこそ、リノアも嫌だったのだろう。リノアの犯人への直感は外れた事が無いのだ。それこそ、初めて会った相手と数分話しただけで予感を的中させる程度には。勿論、彼女も警察官だ。直感だけは信じない。入念に調べて調べて、やはり犯人はこの人物だったとなる事が多い。その感の良さに魔術的なものでも関わっているのかもしれないと幻想課に招集された様な人物である。だが、調べても調べても彼女に魔術や幻想が関わっているという事実は出てこなかった。
アロイスとはリノアの婚約者の名前だった筈だ。恐らく、その彼が今回の連続殺人事件の犯人だと言いたいのだろう。
「それならなおさら、お前一人で行かせる訳にはいかんな」
「……すまない、ありがとう」
鼻を啜りながらリノアは不器用に不細工に笑ってくれた。
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