ARK

雨漏そら

文字の大きさ
上 下
38 / 54
せいぎのみかた

休息

しおりを挟む
「ちょっとエルルーン!」
「なぁに」
 無遠慮にアジトにやってきて勝手に世話を焼いた修道女はせっせと料理をしながらエルルーンに声を掛ける。
 レギンレイヴとエルルーン、並びにゲルのアジトはとあるアパートの地下にあった。魔法によって入り口から秘匿され、一般人ではまず見つけられない。適当に使わなくなった廃屋や空き部屋などを転々とするのが彼らの生活だ。何せ指名手配犯二人を要している。公に部屋が借りられるはずもない。かといって、身分を偽ろうとも幻惑系の魔術はエルルーンの仕事と自然となってしまう為負担が大きすぎるという理由でレギンレイヴもゲルも頷きはしない。整形でもしろとエルルーンから進言された際はそんな金は無いとか自分の顔は大事にしているとか意外にもナルシストな事を主張してくる有様だ。ゲルはともかくレギンレイヴまで同じ主張をしてくるとはエルルーンも思わなかった。
 手狭なアジトに部屋は一つだけ。適当に三人が眠る場所に毛布が置いてある程度。あとは戦利品や生活品が置いてあり、簡素なテーブルに一人掛けのソファが三つ置いてある。
 アジトには最低限のコンロとシンク、風呂や電気等が存在していた。ゲルが適当に廃材を掻っ攫い、エルルーンの魔法で全て電力や水等を供給している。エルルーンが召喚した魔神たちの力のお陰である。
 そんなアジトにやってきた不良シスターは腰に手を当てて仁王立ちしていた。
 エルルーンは不機嫌そうに修道女に目を向けため息を吐いた。レギンレイヴやゲルが心配してくれるのはありがたい。だがこの女だけはどうも気に入らない。この、スルーズという女は。
「テーブルの上片付けないとご飯食べられないわよ、ほら立って。これ捨てていいの?」
 母親さながらに鍋を火に掛けながらエルルーンが物を出しっぱなしにして散らかったテーブルを片付け始める。テーブルの上に散らばっているのは主にお菓子の袋である。魔術の行使はカロリーを多く消費するとはエルルーンの言葉で彼女の最近の主食はもっぱらお菓子になっていた。
 エルルーンは携帯端末から視線を上げること無く適当に相槌を打っていた。今日は珍しくジャージ姿だ。それもピンクのジャージ。スルーズからもどうしたのかと聞かれたが答える気はさらさら無かった。
「こら! いつまでも遊んでないの!」
「遊んでない。レギンに頼まれた事やってるだけ」
「レギン!? ちょ、ちょっと! レギンと連絡取ってるの? 今どこにいるの!?」
 スルーズのちょっと嬉しそうな声にエルルーンは少しむっとした様子だった。レギンレイヴの名前を聞くとすぐに態度を一変させるこの女がどうも気に入らないらしい。
「教えない」
「なぁんでよぉ! あたしだってレギンと喋りたいー!」
 駄々っ子の様に拗ねるスルーズに、エルルーンは肩を落とした。うるさいのも嫌いだ。きっと少しでも情報が掴めなければ彼女はもっとうるさくなるのだろう。とりあえず黙らせるために携帯端末で得た情報を仕方なく小出しする。
「……今ゲルと一緒に帰ってる途中だって」
「ほんと!? やったー!」
 ガッツポーズをして喜ぶスルーズにエルルーンは小さくため息を吐きながら端末に映ったそれを眺めていた。
「ねぇどの位で帰ってくる予定なの!?」
「さぁ……ちょっと時間掛かりそうって」
「もう! 焦らすんだからぁ!」
 ウキウキとした様子でキッチンに戻っていくスルーズ。エルルーンはスルーズに見えないように小さく、小さく唇を噛み締めピンク色のジャージの胸部分を握りしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...