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せいぎのみかた
希望的観測
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翌日。
聖女の同行が流石に囚人服ではまずい、という事で光太には漆黒のスーツが支給された。
既に目標であるレギンレイヴもゲルもハワイ島を飛び出したとの報告が上がった。全くの無駄骨だったにも関わらずレティシアもイリスも何らかの収穫をしたとばかりに堂々と帰路に着いていた。イリスに至っては完全な私情。レティシアは守ると約束した手前放り投げるわけにはいかないと光太を傍に置くことを決めていた。光太は黒いスーツに身を包むものの慣れないスーツに顔を顰めていた。そんな光太にレティシアは苦笑する。
「フランスに戻ったら、貴方好みの服を支給しましょう」
「フランス……? そう言えば、どうしてフランスへ? 聖女様の母国はイギリスとお聞きしましたが」
首を傾げて光太はレティシアに質問した。レティシアは苦笑して頬を指で掻いた。
「少し、野暮用が。申し訳ありませんが、フランスでの用事にお付き合い願えますか?」
「僕は構いませんよ」
「それなら良かった」
ほのぼのと二人は会話しながら二人は飛行機まで歩いていた。
レティシアという聖女を護送するために用意された自家用ジェットである。大切な大切な聖女様を守るため、教会が用意したものとの事だ。一体この少女にどれだけ金を注ぎ込んでいるのか。光太には想像もしたくなかった。聖女に相応しい白亜の機体は晴天の南国の日差しで少し眩しい。ハッチを開けて今か今かと聖女の来訪を待っている。聖女と並んで歩く光太に強い視線が突き刺さっていた。それは嫉妬か羨望か。とにかくあまり良い感情ではないのは想像に難くない。とはいえ光太からしてみればどうでもいい話だ。そもそも選んだのはレティシアであって光太は悪くない。まさしく友人の距離感で朗らかにレティシアと会話を楽しみつつ光太はそんな事を思った。 背後から一緒に付いて来るアーノルドだけは気に食わないが。
「直接イギリスに行くといささか問題があるのですよ。聖女様が見知らぬ男を連れている等イギリス国民にあまり知られたくはないですからね」
「余計なお世話です」
「貴方の人気は絶大ですから。幻想を知らぬ者でも貴方は引き寄せている。最早主ではなく貴方を信仰する者まで現れる始末。そんな状態で貴方が『男』だなんて劇物を持ち込んだらどうなるか。想像に難くありません。大方、フランスでその『劇物』を降ろして本人は一時帰宅。また迎えに来ると言うところでしょうか」
アーノルドの言葉にレティシアは思わず黙り込む。そんなに人気なのか、と光太は呆けたようにレティシアを見る。
確かに、美しい少女なのだ。キラキラと煌めくような美しくて長い金髪。宝石の様に澄んだ美しい青い瞳。アイドルとして祭り上げるにはいささか堅物過ぎるが彼女の役目はアイドルではなく聖女だ。偶像としては十分過ぎる。そして聖女としての清廉潔白さで言えば恐らくこの位が丁度良いのだろう。美しく、そして清廉潔白で生真面目な少女は祭り上げるのに最適だ。
「ボ、ボクだってこんなことになると思ってませんでしたから……」
「ですが、貴方の人気はフランスでもそれなりです。まぁ、吾輩達がおりますので問題にはならないでしょうが。気がつく者は居るでしょうな」
「イギリスよりはマシです。それに、何も悪いことはしていません。ボクは彼を保護した。彼はただの保護対象。何も問題はありません」
「そうだと良いのですがね」
下卑たアーノルドの笑いは無視してレティシアは光太を伴って飛行機に乗り込むために階段を登った。
「でも、どうして聖女様はそこまでして僕を保護してくれるんですか?」
「当然です。ボクは貴方を救うと約束した。聖女であるこのボクが約束を違えるわけにはいきません」
生真面目だ。どこまでも生真面目な少女。光太は思わずそうですか、としか返せなかった。レティシアはそう言って階段を登る。聖女として、それとも騎士の様にだろうか。格好を付けたかったのだろうレティシアは勇み足で階段を登るも、手すり部分に腰から提げた長剣がぶつかった。その拍子に少女の細い体が後方によろめく。光太は思わず手を差し伸べ背後から腕を腰に回し、まるで抱きしめるかのようによろめいた彼女を抱きとめた。レティシアは呆然としたように目をぱちくりとさせている。
「大丈夫ですか?」
レティシアの身長的に光太の口元はレティシアの耳元だった。途端、レティシアの顔が真っ赤に染まる。
「な、な、」
「足元気をつけてください」
するりと光太は滑らかな動作でレティシアの前へ移動すると手を差し出した。頬を赤く染めるレティシアは恐る恐るその手を取る。
背後から見ていたアーノルドは本当に、本当に楽しそうに嗤った。
「あぁそうですねぇ。悪いこと等、起こらないと良いのですがねぇ」
聖女の同行が流石に囚人服ではまずい、という事で光太には漆黒のスーツが支給された。
既に目標であるレギンレイヴもゲルもハワイ島を飛び出したとの報告が上がった。全くの無駄骨だったにも関わらずレティシアもイリスも何らかの収穫をしたとばかりに堂々と帰路に着いていた。イリスに至っては完全な私情。レティシアは守ると約束した手前放り投げるわけにはいかないと光太を傍に置くことを決めていた。光太は黒いスーツに身を包むものの慣れないスーツに顔を顰めていた。そんな光太にレティシアは苦笑する。
「フランスに戻ったら、貴方好みの服を支給しましょう」
「フランス……? そう言えば、どうしてフランスへ? 聖女様の母国はイギリスとお聞きしましたが」
首を傾げて光太はレティシアに質問した。レティシアは苦笑して頬を指で掻いた。
「少し、野暮用が。申し訳ありませんが、フランスでの用事にお付き合い願えますか?」
「僕は構いませんよ」
「それなら良かった」
ほのぼのと二人は会話しながら二人は飛行機まで歩いていた。
レティシアという聖女を護送するために用意された自家用ジェットである。大切な大切な聖女様を守るため、教会が用意したものとの事だ。一体この少女にどれだけ金を注ぎ込んでいるのか。光太には想像もしたくなかった。聖女に相応しい白亜の機体は晴天の南国の日差しで少し眩しい。ハッチを開けて今か今かと聖女の来訪を待っている。聖女と並んで歩く光太に強い視線が突き刺さっていた。それは嫉妬か羨望か。とにかくあまり良い感情ではないのは想像に難くない。とはいえ光太からしてみればどうでもいい話だ。そもそも選んだのはレティシアであって光太は悪くない。まさしく友人の距離感で朗らかにレティシアと会話を楽しみつつ光太はそんな事を思った。 背後から一緒に付いて来るアーノルドだけは気に食わないが。
「直接イギリスに行くといささか問題があるのですよ。聖女様が見知らぬ男を連れている等イギリス国民にあまり知られたくはないですからね」
「余計なお世話です」
「貴方の人気は絶大ですから。幻想を知らぬ者でも貴方は引き寄せている。最早主ではなく貴方を信仰する者まで現れる始末。そんな状態で貴方が『男』だなんて劇物を持ち込んだらどうなるか。想像に難くありません。大方、フランスでその『劇物』を降ろして本人は一時帰宅。また迎えに来ると言うところでしょうか」
アーノルドの言葉にレティシアは思わず黙り込む。そんなに人気なのか、と光太は呆けたようにレティシアを見る。
確かに、美しい少女なのだ。キラキラと煌めくような美しくて長い金髪。宝石の様に澄んだ美しい青い瞳。アイドルとして祭り上げるにはいささか堅物過ぎるが彼女の役目はアイドルではなく聖女だ。偶像としては十分過ぎる。そして聖女としての清廉潔白さで言えば恐らくこの位が丁度良いのだろう。美しく、そして清廉潔白で生真面目な少女は祭り上げるのに最適だ。
「ボ、ボクだってこんなことになると思ってませんでしたから……」
「ですが、貴方の人気はフランスでもそれなりです。まぁ、吾輩達がおりますので問題にはならないでしょうが。気がつく者は居るでしょうな」
「イギリスよりはマシです。それに、何も悪いことはしていません。ボクは彼を保護した。彼はただの保護対象。何も問題はありません」
「そうだと良いのですがね」
下卑たアーノルドの笑いは無視してレティシアは光太を伴って飛行機に乗り込むために階段を登った。
「でも、どうして聖女様はそこまでして僕を保護してくれるんですか?」
「当然です。ボクは貴方を救うと約束した。聖女であるこのボクが約束を違えるわけにはいきません」
生真面目だ。どこまでも生真面目な少女。光太は思わずそうですか、としか返せなかった。レティシアはそう言って階段を登る。聖女として、それとも騎士の様にだろうか。格好を付けたかったのだろうレティシアは勇み足で階段を登るも、手すり部分に腰から提げた長剣がぶつかった。その拍子に少女の細い体が後方によろめく。光太は思わず手を差し伸べ背後から腕を腰に回し、まるで抱きしめるかのようによろめいた彼女を抱きとめた。レティシアは呆然としたように目をぱちくりとさせている。
「大丈夫ですか?」
レティシアの身長的に光太の口元はレティシアの耳元だった。途端、レティシアの顔が真っ赤に染まる。
「な、な、」
「足元気をつけてください」
するりと光太は滑らかな動作でレティシアの前へ移動すると手を差し出した。頬を赤く染めるレティシアは恐る恐るその手を取る。
背後から見ていたアーノルドは本当に、本当に楽しそうに嗤った。
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