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雨漏そら

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せいぎのみかた

海を越えて

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「だからわいは最初から言うとんのや。人間に近づいてもロクな事なりゃぁせんって!」
「………………」
「聞いとんのかあんちゃん!」
「……せやな」
 九光太は至極面倒くさそうにその偽物臭い関西弁に対し、これまた日本の関西人に叱られそうな関西弁で返した。光太は真顔でその話を聞いている。至極取り留めのない、これ以上無いほど無駄な会話だと光太は断言出来る。
 光太は今、相も変わらず水中を漂っていた。やはりその体には薄い膜が張られているが、現在は球体ではなく寝そべった光太の体に沿って楕円形の形に歪んでいた。光太の話し相手になっているのは、膜の外に居る。
「あんちゃんイケメンや。人間の餌になる必要は無いで! そんだけでかければどっかの海の主になれる! わいが断言したってもええ!」
「既に失くなった川の主なんだけどね……まぁいいや。大丈夫だよ。人間の餌になるつもりも、見世物になるつもりも、飼いならされるつもりもないからね。それよりおじさん聞きたいんだけどさぁ」
「でんがなまんがな」
 やはり不思議な関西弁である。既に使い方を間違えているのではないだろうか。正直光太も聞いていて辛いのでさっさと話を終わらせるに限る。そう思い、光太はその偽物臭い関西弁を話す――――何の変哲もない一匹の海蛇に話し掛けた。
「この辺で、人間が多く集まってる島とか無い? 出来れば飛行機が来てる場所で」
「ひこーきってのがよく分からんき」
「空をぶーんって飛んでる超うるさくてでかい人間の乗り物。時々海に落ちる」
「あぁあの食えもしねぇ塊か!」
「そうそう」
 特に興味もないが話には食いついてきた。とりあえず何か情報を聞き出そう。
「せやなぁ。ふねとか言う海の上を滑る乗り物に乗った人間が集まってる場所なら知ってるぜぃ」
「人間がその場所の事何て言ってたか覚えてる?」
「なんつったかなー……」
 渋い声で唸る海蛇。ちなみに、何故この海蛇がこんな偽物臭い関西弁を喋るのかというと大体は光太のせいである。光太、いやヤマタノオロチと呼ばれる大蛇の妖怪は元々川に住む所謂沢蛇の一種だ。その為、蛇であれば大体意思疎通が可能である。ただ、蛇の中でも住んでいる環境が変わると理解できる言語が変わってくるらしい。海蛇の言語が関西弁として理解しているのはそれが原因だった。何故こんなに偽物臭いのかは、光太自身の関西弁に対する理解度の低さである。もしも光太が海蛇の一種であればこの海蛇の言語は立派な標準語として理解できたに違いない。水蛇の中でもこんな差が発生するのだ。きっと陸上に住む蛇と意思疎通を測れば日本語と英語で喋る様な状況になるのだろう。ただ、彼は概念として蛇であるだけなのでこういった適用が効くのは蛇だけである。人間社会においては、幻想や幻想遣いはその元となった神話を知っている国の人間が居るだけで言語が理解できる。それ故に、幻想遣いは外国に行っても言語には困らないのだとか。日本神話のヤマタノオロチを知る日本国外の人間がどれだけ居るかは不明だが、今のところ英語を聞いても特に困らなかったのでなんとかなると光太は踏んでいる。
「あ、おめーだした!」
「思い出した。はい」
「確か、『あろは』とか言ってた気がすんぞ!」
 その発言に、光太はハッとした様子で海蛇を見る。その顔はみるみる内に笑顔になっていった。
「なるほど! ありがとうおじさん! ちなみに、船はどっちに向かって行ったとか覚えてる?」
「東?」
 そんなことは分かっていると怒鳴りたくなったが光太は言葉を飲み込んで海流に漂うだけだった自らの体を浮上させていった。水面に顔だけ出してみても、ただ広い太平洋が広がるだけで何かが見える訳でもない。特に期待もしていなかったのか、すぐに海中へと潜っていく。
 海の底を這う様に進む先ほどの海蛇が光太を見上げているのが見えた。軽く手を振って挨拶をし、先ほど軽く確認した太陽の位置から東に検討を付けて海中を滑るように移動していった。
「あろはってアロハだよね。ハワイかぁ……ハネムーンにはいい場所じゃない。ま、ちょっと行ってみましょうか」
 至極嬉しそうに、光太は笑っていた。
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