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復讐
崩壊
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「笑っている? 僕が?」
「あぁ。拳銃突きつけられているのにお前は至極楽しそうだ。いいことでもあったのか?」
レギンレイヴは疲れた様に青年にそう言った。確か、調べている時に名前も掴んでいた。そう、確か名前は九光太。名字が日本人にしては珍しいと聞いた覚えもある。
「さぁ。いいことなんて無かったと思うんですけど。寧ろ運が無いなぁって悩んでたところなんですけどね」
「運が無いところで今まで上手に生きてきたんだろ。存在を隠しながらかは知らんが」
「酷い言いぐさですね。何で僕が存在を隠す必要があるんですか」
光太は頬を膨らませていた。明らかにレギンレイヴをバカにしている態度だ。本人に自覚は無かったようだが、光太は楽しそうに笑っていた。常軌を逸しているとしか思えない精神構造だろう。今まで拳銃を突きつけてきた存在はたいていにおいて泣いて詫びて命乞いをしたりしていた。拳銃を前にしてこのように、本当に楽しそうな笑いを浮かべられるのは初めてだった。
「お前は一体何なんだ」
思わずレギンレイヴの口をついてきたのはそんな言葉だった。光太はきょとんとした表情でレギンレイヴを見るも首を傾げているだけだ。
「何なんだと聞かれても僕はただの一般人ですし。それではダメなんですか?」
「一般人が銃向けられて余裕なのか。すごい世の中になったな。それともニホンが異常なのか?」
「さぁ。それはわからないですね。でも、」
ニコリ、と光太は笑っていた。レギンレイヴの背筋がぞくりとする。
「少なくとも僕は普通ですよ」
この青年は一体何を基準に普通だとのたまっているのだろうか。レギンレイヴには皆目検討も付かない。
まるで、化け物が自分に化け物ではないと言い聞かせているようだ。「………………お前は、普通なんかじゃないよ」
「貴方も強情ですね」
「だってお前は、」
あぁ、きっと。この言葉を放ってしまったらこの青年の人間としての人生は終わりを迎えるんだろう。直感的に、レギンレイヴはそう思っていた。
「やまたのおろちなんだろう?」
「……は?」
一瞬何を言われたのか分からず、光太は目を見開いていた。
レギンレイヴは真剣な表情で光太を見つめ返しているだけ。光太はその名前に聞き覚えがあった為に記憶から引っ張りだす。
「”やまたのおろち”って……うちに封印されてるっていう化物の名前ですよね?」
「あぁ」
「そんなお伽話信じたんですか? 僕が化物に乗っ取られているとでも?」
「いいや。お前は化物そのものだよ」
断固とした口調でレギンレイヴはそう言い放った。光太は馬鹿馬鹿しいとでも言いたげな表情だ。レギンレイヴは小さくため息を吐き、もう一度光太を見返す。
「そうでなければ説明が出来ない」
「説明? 何のですか」
訝しむ光太にレギンレイヴは真っ直ぐな瞳で光太を見る。
「……そうでなければお前が死んで居ない理由が説明出来ないだろう?」
「今生きている、という事実だけではダメなんですか?」
「じゃぁ、なんでお前を撃った時あんなことが起こったんだ」
レギンレイヴの言葉に首を傾げるしか出来ない光太。訳が分からないと言った様子でレギンレイヴを見返している。
「わからないか?」
「えぇ。さっぱりです」
断言する光太に、レギンレイヴは疲れたようにため息を吐いた。そして、彼の手に握られていた赤い拳銃が姿を消す。その手品のような現象に光太は興味津々と言った様子だが、次の瞬間無数の赤い光球が光太を取り囲んでいた。
「え?」
「タスラム」
小さなレギンレイヴの合図と共に、赤い光球から赤い光がまっすぐに光太へと注がれる。貫くかのように斉射されたそれに、光太は弾かれるように赤い光球の範囲から脱出していた。足をもつれさせ、地面に這い蹲った光太は恐怖に染まった瞳でレギンレイヴを見上げている。
「な、ぁ、」
「仕損じたか。まぁいいや」
第二波が来る。そう直感した光太は一目散に逃げ出した。その後ろを、レギンレイヴは追いつめるように歩きながら追いかけていった。
赤い光球は光太を追いつめるように浅い傷を光太に残しながら背後から斉射され続けていた。直撃の機会などいくらでもあっただろう。だが、光太になかなか止めは刺されない。
「わっぷ、!」
足がもつれ、光太の体がアスファルトに投げ出された。背後からゆっくりと迫る死に光太は身動きが取れなくなっているようだ。
どうしたらいいのか分からなかった。どうやったら逃げきれるのか。それとも諦めた方が良いのだろうか。光太の脳内で様々な考えが駆け巡るも、結局は全てあの光球からは逃げられないという結論に達してしまっていた。
「なんで……なん、」
どうして自分が殺されなければならないのか。疑問が脳内で巡っている。そんなときである。
死ぬのだろうか。『また』、死ぬのだろうか。また、また、また、
この首を、切り落とすと言うのか?
「やめてぇぇぇぇ!!」
「、!」
絶叫を上げながら一人の少女が光太とレギンレイヴの間に立ちはだかった。予想外の行動に、レギンレイヴの光球は止まらない。
それが愛しいあの少女だと分かった瞬間、
光太の中で何かが崩れた。
「あぁ。拳銃突きつけられているのにお前は至極楽しそうだ。いいことでもあったのか?」
レギンレイヴは疲れた様に青年にそう言った。確か、調べている時に名前も掴んでいた。そう、確か名前は九光太。名字が日本人にしては珍しいと聞いた覚えもある。
「さぁ。いいことなんて無かったと思うんですけど。寧ろ運が無いなぁって悩んでたところなんですけどね」
「運が無いところで今まで上手に生きてきたんだろ。存在を隠しながらかは知らんが」
「酷い言いぐさですね。何で僕が存在を隠す必要があるんですか」
光太は頬を膨らませていた。明らかにレギンレイヴをバカにしている態度だ。本人に自覚は無かったようだが、光太は楽しそうに笑っていた。常軌を逸しているとしか思えない精神構造だろう。今まで拳銃を突きつけてきた存在はたいていにおいて泣いて詫びて命乞いをしたりしていた。拳銃を前にしてこのように、本当に楽しそうな笑いを浮かべられるのは初めてだった。
「お前は一体何なんだ」
思わずレギンレイヴの口をついてきたのはそんな言葉だった。光太はきょとんとした表情でレギンレイヴを見るも首を傾げているだけだ。
「何なんだと聞かれても僕はただの一般人ですし。それではダメなんですか?」
「一般人が銃向けられて余裕なのか。すごい世の中になったな。それともニホンが異常なのか?」
「さぁ。それはわからないですね。でも、」
ニコリ、と光太は笑っていた。レギンレイヴの背筋がぞくりとする。
「少なくとも僕は普通ですよ」
この青年は一体何を基準に普通だとのたまっているのだろうか。レギンレイヴには皆目検討も付かない。
まるで、化け物が自分に化け物ではないと言い聞かせているようだ。「………………お前は、普通なんかじゃないよ」
「貴方も強情ですね」
「だってお前は、」
あぁ、きっと。この言葉を放ってしまったらこの青年の人間としての人生は終わりを迎えるんだろう。直感的に、レギンレイヴはそう思っていた。
「やまたのおろちなんだろう?」
「……は?」
一瞬何を言われたのか分からず、光太は目を見開いていた。
レギンレイヴは真剣な表情で光太を見つめ返しているだけ。光太はその名前に聞き覚えがあった為に記憶から引っ張りだす。
「”やまたのおろち”って……うちに封印されてるっていう化物の名前ですよね?」
「あぁ」
「そんなお伽話信じたんですか? 僕が化物に乗っ取られているとでも?」
「いいや。お前は化物そのものだよ」
断固とした口調でレギンレイヴはそう言い放った。光太は馬鹿馬鹿しいとでも言いたげな表情だ。レギンレイヴは小さくため息を吐き、もう一度光太を見返す。
「そうでなければ説明が出来ない」
「説明? 何のですか」
訝しむ光太にレギンレイヴは真っ直ぐな瞳で光太を見る。
「……そうでなければお前が死んで居ない理由が説明出来ないだろう?」
「今生きている、という事実だけではダメなんですか?」
「じゃぁ、なんでお前を撃った時あんなことが起こったんだ」
レギンレイヴの言葉に首を傾げるしか出来ない光太。訳が分からないと言った様子でレギンレイヴを見返している。
「わからないか?」
「えぇ。さっぱりです」
断言する光太に、レギンレイヴは疲れたようにため息を吐いた。そして、彼の手に握られていた赤い拳銃が姿を消す。その手品のような現象に光太は興味津々と言った様子だが、次の瞬間無数の赤い光球が光太を取り囲んでいた。
「え?」
「タスラム」
小さなレギンレイヴの合図と共に、赤い光球から赤い光がまっすぐに光太へと注がれる。貫くかのように斉射されたそれに、光太は弾かれるように赤い光球の範囲から脱出していた。足をもつれさせ、地面に這い蹲った光太は恐怖に染まった瞳でレギンレイヴを見上げている。
「な、ぁ、」
「仕損じたか。まぁいいや」
第二波が来る。そう直感した光太は一目散に逃げ出した。その後ろを、レギンレイヴは追いつめるように歩きながら追いかけていった。
赤い光球は光太を追いつめるように浅い傷を光太に残しながら背後から斉射され続けていた。直撃の機会などいくらでもあっただろう。だが、光太になかなか止めは刺されない。
「わっぷ、!」
足がもつれ、光太の体がアスファルトに投げ出された。背後からゆっくりと迫る死に光太は身動きが取れなくなっているようだ。
どうしたらいいのか分からなかった。どうやったら逃げきれるのか。それとも諦めた方が良いのだろうか。光太の脳内で様々な考えが駆け巡るも、結局は全てあの光球からは逃げられないという結論に達してしまっていた。
「なんで……なん、」
どうして自分が殺されなければならないのか。疑問が脳内で巡っている。そんなときである。
死ぬのだろうか。『また』、死ぬのだろうか。また、また、また、
この首を、切り落とすと言うのか?
「やめてぇぇぇぇ!!」
「、!」
絶叫を上げながら一人の少女が光太とレギンレイヴの間に立ちはだかった。予想外の行動に、レギンレイヴの光球は止まらない。
それが愛しいあの少女だと分かった瞬間、
光太の中で何かが崩れた。
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