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復讐
隣人
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豪雨の中ホテルに乗り付けたタクシーから苛立ったように降り立ち、リノアはこれまた怒りが静まらないと言った様子で深い溜息を吐いていた。そんな様子を苦笑しながらアランは見つめ、上司のイリスは涼しい表情でホテルのエントランスへと歩いて行った。優雅に歩くイリスの背中を睨み、リノアもアランを引き連れてエントランスへと向かう。
彼らに割り当てられたホテルは都心に立てられた高級感漂うホテルだった。ビジネスホテル程簡素でもない。それこそ会社の重鎮が泊まるようなしっかりとしたホテルだ。日本警察から充てがわれたこのホテルで三人は当分の寝泊まりを行うことになる。
エントランスホールに設置された柔らかそうなソファには様々な人種の人間が休憩をしたり仕事の打ち合わせ等を行なっている。イリスが凛とした足取りでエントランスの受付へと向かう。受付ふでは丁度一人の男性がチェックインの手続きを行なっているところだった。英国紳士と思しき若い男性だ。髪はオールバックにまとめ、緑色の瞳が印象的な美男子である。その姿はビジネススーツでビシッと決められており、いかにも出来るビジネスマンと言った様子だった。男性がチェックインの手続きを終え、受付から離れていく。それと入れ替わるようにイリスがチェックインの手続きを行い始めた。電話の電子音が聞こえ、リノアが音の方へと振り向くと先ほどのビジネスマンが仕事の内容なのか電話をしながらエレベーターへと歩いて行くのが見えた。
「?」
なんとなく、見覚えがあるような気がする背中だった。リノアは首を傾げる。その背中が見えなくなるまで見送ると、リノアの頭がバシッと叩かれた。
「!?」
「こら。いい男が居たからってじっと見つめてるんじゃないの。男に飢えてるのが丸分かりよ」
「な、何を言い出すんだイリス! 私には既に、」
「興味ないわ。ほら、貴方の部屋の鍵よ」
そう言いつつ、イリスがリノアに鍵を差し出した。リノアは不服そうにその鍵を受け取った。部屋番号は1307号室。どうやら13階のようだ。
「私は15階だから何かあったら電話しなさい。ただし、直接部屋に来たら殺すわ」
「緊急の時にイリスが電話に出なかったらどうするんだ?」
「自分で判断なさい。私を頼らないで」
完全に上司の吐く台詞ではない。リノアは肩を落とす。イリスは基本的に団体行動よりも個人行動を好む。課の課長としては致命的だとリノアは常々思うのだが、イリスに退陣する様子はなかった。基本的に上からチームに命令を出しているだけなので今のところそこまでの支障は出ていないが、真面目なリノアからすれば不思議でならない。イリスはそんなリノアを置いてさっさと一人でエレベーターに乗り込んでしまった。
「俺の部屋は12階の3号室だ。なんかあったら来いよ」
アランに頭を軽く叩かれ、アランもさっさとエレベーターへと歩いて行ってしまった。一人取り残されたリノアは渋々一人でエレベーターに乗り込み、リノアは13階のボタンを押した。特に大きな振動を感じさせることも無く、エレベーターはスムーズに13階へと直行した。一人しか乗っていないことも幸いした。途中で誰かが乗り込んでくるという事も無かった。リノアはまっすぐに前を見据え、エレベーターの扉が開くのを待った。滑らかな動作で扉が開き、小奇麗な廊下がまっすぐに伸びている。リノアは廊下へ足を踏み出すと7号室を探し始める。
「ここが3号室だから……もっと向こうか」
そう言って部屋番を確認した後前方を見ると、先ほどのビジネスマンが扉の前で丁度通話を終わらせたらしく耳から携帯電話を離したところだった。
部屋番号を確認する。7号室の隣の部屋の前でビジネスマンは鍵を取り出しているところだった。リノアはその男性に思わず声を掛けていた。
「あの、」
「?」
男性が不思議そうな瞳でリノアを見た。
初対面の男性だ。顔に覚えはない。だが、リノアはこの男性の目になんとなく覚えがあった。
「どこかで、お会いしませんでしたか?」
「……さぁ。申し訳ありません。私には覚えが無いですね」
「そうですか。申し訳ありません、変なことを言ってしまいまして」
短い会話を交わした後、リノアも持っていた鍵で7号室の戸を開けた。隣の男性も自室の戸を開けてさっさと部屋の中へと姿を消す。リノアもそれに習って短期間だが自室として使われる部屋へと入っていった。
「……あぶねー……」
ビジネスマンははぁーっと深い溜息と共にベッドに身を投げた。そして、リノアが居るであろう隣の部屋と隣接する壁に視線を寄越した。
「……意外とあの嬢ちゃん鋭いな。めんどくせ」
深い溜息をもう一度吐き出し、ビジネスマンは忌々しげにネクタイを引き抜いた。
彼らに割り当てられたホテルは都心に立てられた高級感漂うホテルだった。ビジネスホテル程簡素でもない。それこそ会社の重鎮が泊まるようなしっかりとしたホテルだ。日本警察から充てがわれたこのホテルで三人は当分の寝泊まりを行うことになる。
エントランスホールに設置された柔らかそうなソファには様々な人種の人間が休憩をしたり仕事の打ち合わせ等を行なっている。イリスが凛とした足取りでエントランスの受付へと向かう。受付ふでは丁度一人の男性がチェックインの手続きを行なっているところだった。英国紳士と思しき若い男性だ。髪はオールバックにまとめ、緑色の瞳が印象的な美男子である。その姿はビジネススーツでビシッと決められており、いかにも出来るビジネスマンと言った様子だった。男性がチェックインの手続きを終え、受付から離れていく。それと入れ替わるようにイリスがチェックインの手続きを行い始めた。電話の電子音が聞こえ、リノアが音の方へと振り向くと先ほどのビジネスマンが仕事の内容なのか電話をしながらエレベーターへと歩いて行くのが見えた。
「?」
なんとなく、見覚えがあるような気がする背中だった。リノアは首を傾げる。その背中が見えなくなるまで見送ると、リノアの頭がバシッと叩かれた。
「!?」
「こら。いい男が居たからってじっと見つめてるんじゃないの。男に飢えてるのが丸分かりよ」
「な、何を言い出すんだイリス! 私には既に、」
「興味ないわ。ほら、貴方の部屋の鍵よ」
そう言いつつ、イリスがリノアに鍵を差し出した。リノアは不服そうにその鍵を受け取った。部屋番号は1307号室。どうやら13階のようだ。
「私は15階だから何かあったら電話しなさい。ただし、直接部屋に来たら殺すわ」
「緊急の時にイリスが電話に出なかったらどうするんだ?」
「自分で判断なさい。私を頼らないで」
完全に上司の吐く台詞ではない。リノアは肩を落とす。イリスは基本的に団体行動よりも個人行動を好む。課の課長としては致命的だとリノアは常々思うのだが、イリスに退陣する様子はなかった。基本的に上からチームに命令を出しているだけなので今のところそこまでの支障は出ていないが、真面目なリノアからすれば不思議でならない。イリスはそんなリノアを置いてさっさと一人でエレベーターに乗り込んでしまった。
「俺の部屋は12階の3号室だ。なんかあったら来いよ」
アランに頭を軽く叩かれ、アランもさっさとエレベーターへと歩いて行ってしまった。一人取り残されたリノアは渋々一人でエレベーターに乗り込み、リノアは13階のボタンを押した。特に大きな振動を感じさせることも無く、エレベーターはスムーズに13階へと直行した。一人しか乗っていないことも幸いした。途中で誰かが乗り込んでくるという事も無かった。リノアはまっすぐに前を見据え、エレベーターの扉が開くのを待った。滑らかな動作で扉が開き、小奇麗な廊下がまっすぐに伸びている。リノアは廊下へ足を踏み出すと7号室を探し始める。
「ここが3号室だから……もっと向こうか」
そう言って部屋番を確認した後前方を見ると、先ほどのビジネスマンが扉の前で丁度通話を終わらせたらしく耳から携帯電話を離したところだった。
部屋番号を確認する。7号室の隣の部屋の前でビジネスマンは鍵を取り出しているところだった。リノアはその男性に思わず声を掛けていた。
「あの、」
「?」
男性が不思議そうな瞳でリノアを見た。
初対面の男性だ。顔に覚えはない。だが、リノアはこの男性の目になんとなく覚えがあった。
「どこかで、お会いしませんでしたか?」
「……さぁ。申し訳ありません。私には覚えが無いですね」
「そうですか。申し訳ありません、変なことを言ってしまいまして」
短い会話を交わした後、リノアも持っていた鍵で7号室の戸を開けた。隣の男性も自室の戸を開けてさっさと部屋の中へと姿を消す。リノアもそれに習って短期間だが自室として使われる部屋へと入っていった。
「……あぶねー……」
ビジネスマンははぁーっと深い溜息と共にベッドに身を投げた。そして、リノアが居るであろう隣の部屋と隣接する壁に視線を寄越した。
「……意外とあの嬢ちゃん鋭いな。めんどくせ」
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